ブリストル大、音で浮かせた粒の衝突帯電がコンデンサーの式どおり飽和
ブリストル大学のチームが、音波で浮かせたポリスチレンの 2 粒を何十回もぶつけて電荷を測った。1 回ごとの量はばらつくが、たまる電荷は Q=CV に基づくコンデンサーモデルどおり指数関数で飽和した。e の極限と正規分布で読める。
ニュース
イギリスのブリストル大学の博士課程の学生トム・オハラ氏と、指導教員のカレン・アプリン氏らのチームが、音波で空中に浮かせたポリスチレンの粒 2 つを何十回もぶつけ、そのたびに移る電荷を測った。1 回ごとに移る量はばらつくが、たまっていく電荷は、粒の組をコンデンサーとみなす「コンデンサーモデル」の式どおりに、一定の値へ指数関数で近づいた。論文は 2026 年 10 月 23 日にアメリカ物理学会の論文誌 Physical Review E に載り、同じ日に学会の解説誌 Physics が紹介した。
背景
2 つの物がふれて離れると、電荷が移る。摩擦帯電(接触帯電)と呼ばれる。論文によれば、火山の噴煙や火星の塵旋風を帯電させ、工場では粉の静電気が引火の原因になる。金属どうしなら、金属から電子を取り出すのに要る最小のエネルギー(仕事関数)の差で説明がつく。同じ材料の絶縁体どうしで何が起きているかは、まだ決着していない。
2020 年、シカゴ大学のハインリッヒ・イェーガー氏らは、音で浮かせたポリスチレンの 2 粒を繰り返しぶつけ、電荷が衝突の回数とともに直線的に増えることを報告した。Physics の記事によると、オハラ氏は、そのデータのばらつきに直線から外れる傾向が隠れているのではないかと考えた。
実験の中身
粒は、40 kHz の超音波を出す振動子を並べた 2 組の列の間で、音の圧力の節に浮かぶ。振動子の位相をそろえると節が中央に 1 つでき、2 粒はぶつかる。位相をずらすと節が 2 つに分かれ、粒は 20 mm 離れる。離れた先には、太さ 0.2 mm の針金が 1.5 mm 間隔で並ぶ金網の籠(ファラデーケージ)があり、粒が入ると回路に電流が流れる。網の目は音の波長 8.65 mm の半分より細かく、開いた部分の割合は約 75% で、音をほとんど乱さない。
接触が 15 回(約 1 分)までは、電荷は回数とともに直線的に増え、2020 年の結果と合った。直線の傾きは、1 回あたり片方の粒が +0.074 pC、もう片方が −0.052 pC である(1 pC は C)。大きさがそろわないのは、籠が近く、2 つの電流計の拾い方に偏りがあったためと論文は見ている。45 回を超えると増え方が鈍った。4 分あまりで 55 回ぶつけた組では、2 つの粒の電荷が次の式によく合った(決定係数 は 0.996 と 0.993)。
飽和したときの電荷 は 8.75 pC と 6.52 pC(符号は逆)、時定数 は 154 秒と 183 秒である。8.75 pC は電子約 5500 万個分にあたる。論文はこの組を代表例とし、調べた組の多くで帯電の向きがそろい、絶縁体の組では飽和が見られたとする。電荷の大きさと増える速さは組ごとに違った。表面に黒鉛を吹き付けて電気を通すようにした粒どうしでは、たまる電荷は絶縁体どうしよりずっと小さく、多くの衝突では雑音と見分けがつかなかった。
どの公式とつながるか
コンデンサーの式から、飽和の形が出る。 コンデンサーにたまる電荷 は、極板の電位差 に比例する。比例の定数 が電気容量である。
コンデンサーモデルでは、ふれ合う 2 つの面を極板とみなし、面の間の電位差が電荷を送る。粒にたまった電荷は逆向きの電位をつくり、次の移動を妨げる。論文は導き方を示していないので、ここでは当サイトで簡単にした形で導く。電荷を送る電位差を 、粒の電気容量を 、接触面の電気容量を として、両方に を当てはめる。 回ぶつけた後の電荷を とすると、次の接触で移る電荷は次のようになる。
飽和までの残り は、1 回ごとに 倍になる。初めの電荷を 0 とすると、1 回に移る電荷は、初項 、公比 の等比数列である。 はその 項の和なので、等比級数の記事の和の公式 から次の式が出る。
で、 が大きいと は に近づく。ネイピア数 eの記事のくじの計算と同じ極限である。ぶつける間隔 が一定なら で、時定数を とした論文の式になる。 から時間が たつと電荷は飽和の値の に、 で 95% に届く。抵抗を通してコンデンサーを充電するときと同じ形である。ただしグロスハンス氏らの 2026 年の論文によると、このモデルは 50 年以上前に導体の静電気学から作られ、異なる材料の接触電位差が電荷を送るとする式である。今回の論文も、式が合うことは仕組みを決めないと書いている。
電荷はガウスの法則で数える。 籠のはたらきは、マクスウェル方程式の 1 本目、ガウスの法則で説明できる。積分の形で書くと、閉じた面を貫く電場の総量は、中の電荷で決まる。
籠の導体の中に閉じた面をとると、そこでは電場が 0 なので、面の中の電荷の合計は 0 である。だから粒が入ると、籠の内側に が引き寄せられる。その分の電荷が回路を流れるので、電流を時間で積分すると粒の電荷になる。同じ法則から、半径 の球の表面の電位は で、 と比べると電気容量は である。当サイトで、粒の直径を、論文が対照の実験に使った粒と同じ約 2 mm として計算すると、 は約 0.11 pF で、8.75 pC のときの電位は約 80 V になる(電荷が表面に一様に広がり、まわりに何もないとした目安)。
1 回ごとのばらつきは正規分布に近い。 1 回ごとに移った電荷はマイナスからプラスまで広がり、論文はアッツァリーニの歪正規分布で表した。
は標準正規分布の確率密度関数、 はその累積分布関数である。歪みの度合い が 0 なら で、 となり、平均 、標準偏差 の正規分布に戻る。当てはめた は 0 と区別できず、論文も正規分布で表せるとしている。中心 は 0.148 pC と −0.213 pC で、符号が逆で大きさは誤差の範囲で等しく、電荷の保存と矛盾しない。幅 はどちらも約 0.17 pC である。一方、較正で 1 つの粒を籠に何度も入れて測ったときのばらつき(標準偏差)は 0.11 pC だった。この幅のうちどこまでが測定の誤差かは、論文では分けられていない。
これから
論文は、飽和は仕組みを 1 つに決めないとして、電荷を運ぶものが尽きる、局所的な絶縁破壊が起きる、などの可能性を挙げる。粒がほとんど回らず、毎回ほぼ同じ面がふれていたことも飽和に関わると見ている。ふれる面がそのたびに替わった 2018 年の別の実験では、数百回ぶつけても飽和しなかった。今の装置で浮かせられるのはポリスチレンのような軽い材料に限られ、籠が近いと隣の粒の電荷も混ざる。チームは、出力の大きい振動子と形を変えた装置で重い材料に広げたいとしている。バルセロナ大学のガリアン・グロジャン氏は Physics の記事で、帯電の速さが短い間に落ちることに驚いたと述べ、帯電の微視的な仕組みを知る手がかりになりうると評価した。
出典
- T. F. O'Hara ほか「It takes two to tribo: Stochastic charge evolution in repeated binary collisions of acoustically levitated particles」Physical Review E 114, 045409(2026年10月23日・オープンアクセス)
- アメリカ物理学会 Physics の解説(Focus)M. Buchanan「Tiny Particles Charge Like Capacitors」(2026年10月23日)
- H. Grosshans ほか「Unifying Same- and Different-Material Particle Charging through Stochastic Scaling」Physical Review X 16, 011023(2026年2月11日・コンデンサーモデルの一般形)