利息の問題
1683 年、スイスのバーゼルの数学者ヤコブ・ベルヌーイは、お金の貸し借りの問題を考えていた。年利 100% で 1 年貸すと、元金は 2 倍になる。半年ごとに利息を元金に組み入れれば 倍、毎月なら 倍になる。では、瞬間ごとに利息を組み入れたら、1 年後にはいくらになるのか。分ける回数を増やすほど増えるのだから、限りなく大きくなるのではないか。
ベルヌーイは、そうはならないことを示した。増え方はしだいに鈍り、ある数を超えない。その数が 2 と 3 の間にあることを、二項定理を使って確かめている。結果は 1690 年、ライプツィヒの学術誌『アクタ・エルディトルム』に載った。これが、のちに と呼ばれる数の、記録に残る最初の姿とされる。
同じころライプニッツは、ホイヘンスへの手紙の中でこの数に という記号を使っていた。今の という文字を使い始めたのはオイラーである。1727 年か 1728 年に書いた大砲の発射実験についての原稿(出版は 1862 年)に初めて現れ、1731 年のゴールドバッハへの手紙、1736 年の『力学』で使った。なぜ を選んだのかは、オイラー自身は書き残していない。オイラー(Euler)の頭文字だから、指数(exponential)の頭文字だから、という説明がよく語られるが、どれも推測である。
この数は、思わぬところにも顔を出す。2004 年、検索の会社グーグルは株式の新規公開で調達する額を 2,718,281,828 ドルと届け出た。 の 10 億倍を、1 ドル単位で四捨五入した額である。同じ年、シリコンバレーの道路脇などに、「 の連続する数字の中で最初に現れる 10 桁の素数.com」とだけ書いた広告看板が立った。答えのアドレスにたどり着いた人には、さらに次の問題が待っていた。社員の採用のための謎かけだった。
起源
は、名前が付く前から、いくつもの計算の中に隠れていた。
1614 年のネイピアの対数表は、今の記号で にあたる値を並べたもので、その奥には に近い数が潜んでいた。1618 年に出た英訳の第 2 版には、今の自然対数にあたる値の小さな表が付録として付いている。この付録は、計算尺を考えたウィリアム・オートレッドが書いたとみられている。それでも、この数そのものに目を向けた人はいなかった。「ネイピア数」という呼び名は、こうした由来から後に付けられたもので、日本ではこの名が定着している。英語ではオイラーの名を取って Euler's number と呼ぶことが多い。
1647 年、グレゴワール・ド・サン=ヴァンサンは、双曲線 の下の面積が対数と同じ性質を持つことを示した。面積がちょうど 1 になる右端の位置が である。
ベルヌーイの利息の問題(1683)で、 は初めて 1 つの数として問われた。オイラーは 1748 年の『無限解析序説』で、 を の極限としても、 の和としても表し、小数点以下 23 桁 まで計算した。指数関数 と自然対数 を互いに逆の関数として整理したのも、この本である。
オイラーは を連分数で表すと、 のように 2, 4, 6, 8 が 2 つおきに現れる規則正しいパターンが無限に続くことを見つけ、 が分数で書けない無理数であることを示した(1737 年に発表、1744 年に出版)。1873 年にはフランスのシャルル・エルミートが、 はどんな整数係数の代数方程式の解にもならない超越数であることを証明した。この性質を、それを示すために作った数ではない数について証明したのは、これが初めてだった。
証明
極限があり、級数に等しいこと。 とする。
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二項定理で展開し、各項を整理する。
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括弧の中はどれも 1 以下である。また で なので、等比数列の和で上から押さえられる。
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を増やすと、各括弧の値は大きくなり、項の数も増える。したがって数列は増え続ける。
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増え続けて上限のある数列は収束する。その極限を とおく。
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番号 を固定し、 で最初の 項だけを残して とすると、各括弧は 1 に近づく。
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手順 2 と合わせ、 として
級数の方は収束が速く、最初の 12 項の和で と小数第 8 位まで合う。
無理数であること。 1815 年に出版された、フーリエによるとされる短い証明を示す。
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(, は正の整数)と仮定し、次の数 を考える。
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も、()も整数なので、 は整数である。
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一方、 は残りの項の和で、等比級数で上から押さえられる。
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を満たす整数は無いので、仮定は誤りである。
応用
連続複利。 100 万円を年利 5% で 10 年預ける。1 年ごとの複利では 倍の約 162 万 8900 円、毎月の複利では約 164 万 7000 円、瞬間ごとの複利(連続複利)では 倍の約 164 万 8700 円になる。分け方を細かくしても、増え方には で決まる上限がある。金融工学の価格の式は、計算の扱いやすさから連続複利で書かれることが多い。お金が 2 倍になる年数は で、年利が小さいときは に近い。よくある年利の範囲で合いやすく割り算もしやすい 72 を使い、「72 を年利の % で割る」という目安(72 の法則)がある。年利 6% なら 12 年で、正しい値は 11.9 年である。
ガチャの確率。 当たりの確率が のくじを 100 回引いて、1 回も当たらない確率は である。 の確率のくじを 回引くと、 が大きいとき外れ続ける確率は に近づく。「100 回引けば当たる」と思っていても、3 人に 1 人以上は当たらない。
プレゼント交換。 10 人が持ち寄ったプレゼントをでたらめに配り直すと、誰も自分のものを受け取らない確率は で、 とほぼ等しい。人数が増えてもこの確率はほとんど変わらない。
放射性炭素年代測定。 炭素 14 の量は で減る。半減期 5730 年から で、1 万年後には 、つまり約 30% が残る。
いつ決めるか。 人の候補者に 1 人ずつ会い、その場で採るか見送るかを決める。見送った人は戻らない。最善の人を選ぶ確率をいちばん高くする方法は、最初の約 人(約 37%)は見るだけで見送り、その後で、それまでの誰よりも良い人が来たらすぐ採ることである。このとき最善の人を選べる確率も、 が大きいと に近づく。「秘書問題」と呼ばれ、止めどきを決める最適停止の理論の代表例である。
図示
シミュレーション
「複利」では、1 年を 回に分けて利息を組み入れる階段が、時間とともに伸びていく。 を増やしても、1 年後の値は破線の に近づくだけで、超えない。「接線」では、曲線 の点をドラッグすると、その点の接線が引かれる。傾きと高さの比は で、底 を に合わせたときだけ、傾きと高さがぴったり等しくなる。
広がる学問
- 数学 は微分しても変わらないただ 1 つの指数関数で、微分方程式の解の基本の形になる。オイラーの公式で三角関数とつながり、正規分布の式にも として現れる。
- 経済学 連続複利・割引・成長率の計算は を底にして書く。一定の成長率 のとき、量が 2 倍になる年数は で、年率 7% ならほぼ 10 年である。
- 物理学 放射性崩壊・コンデンサーの放電・音の減衰など、量に比例して減るものは で減る。統計力学のボルツマン因子 は、温度 でエネルギー の状態が現れる割合を決める。
- 生物学 栄養が十分な細菌は、数に比例した速さで増え、 の形で増える。現実には資源の限りで増え方が鈍り、ロジスティック方程式になる。
参考文献
- Jacob Bernoulli, "Quæstiones nonnullæ de usuris, cum solutione problematis de sorte alearum", Acta Eruditorum (1690), 219-223.
- Leonhard Euler, Introductio in analysin infinitorum, Tomus 1 (Lausanne, 1748), Caput VII.
- Charles Hermite, "Sur la fonction exponentielle", Comptes rendus de l'Académie des sciences 77 (1873).
- Eli Maor, e: The Story of a Number (Princeton University Press, 1994).
- Google Inc., Form S-1 Registration Statement, U.S. Securities and Exchange Commission (2004).