超伝導の磁場侵入長とコヒーレンス長を計算だけで、横浜国大など
ニオブで磁場がしみ込む深さは計算で34〜40 nm、電子の対がそろう長さは34 nm。横浜国大などは実験値を使わずに2つの長さを出す方法を作った。比が1/√2を超えるかで決まる超伝導体の種類も、調べた8物質で実験と合った。
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超伝導になった金属ニオブでは、表面から34 nm入るだけで外の磁場が37%まで弱まる。電子の対が足並みをそろえる長さも34 nmほどだ。どちらも、実験の値を1つも入れない計算で出た数である。超伝導体の性能を左右するこの2つの長さを計算する方法を、横浜国立大学や東京大学などの研究グループが2026年11月6日に発表した。
論文の著者は、横浜国立大学の河村光晶准教授、東京都立大学の野本拓也准教授、ヴュルツブルク大学のニクラス・ヴィット博士、東京大学の有田亮太郎教授(理化学研究所創発物性科学研究センターのチームディレクター)の4人。11月3日付(米国東部時間)のPhysical Review Lettersに載り、編集者が薦める注目論文(Editors' Suggestions)に選ばれた。
しみ込む深さは見積もり方によって34〜40 nmと出た。ニオブの実験値は、対の長さが38〜40 nm、しみ込む深さが27〜39 nmである。超伝導になる温度(転移温度)と2つの長さを1つの理論から同時に求めた計算は世界で初めてだと、発表は説明する。
なぜ長さが大事なのか。物質がどこまで強い磁場に耐えるかは対の長さで決まり、原理的に流せる電流の上限は2つの長さで決まる。ところがこれまでの計算は、主に「何度で超伝導になるか」を予測してきた。2つの長さには実験値や経験的な数を入れる必要があり、実験の難しい高圧の物質では、信頼できる値を得る手段がなかった。
磁場は表面から指数関数で弱まる
超伝導体は、冷やすと電気抵抗が0になるだけでなく、中から磁場を押し出す。マイスナー効果と呼ばれる性質だ。ただ、押し出しは表面でぴたりと止まるわけではない。外の磁場は薄い層までしみ込み、奥へ行くほど弱まる。その深さの目安が磁場侵入長(ラムダ)で、F・ロンドンとH・ロンドンが1935年に導いた式で書ける。
は電子の質量、は電子1個がもつ電気の量(電気素量)である。は超伝導を担う電子が1 m³あたり何個あるかを表し、は磁場の単位をそろえる定数(真空の透磁率)だ。は分母にある。だから、超伝導の電子が多いほど、磁場は浅い所で止まる。
数を入れてみる。仮に個/m³とすると、次のようになる。
1行目で4つの数を入れ、2行目で根号の中の割り算をし、3行目で平方根をとった。約17 nmである。を4倍にすると根号の中が4分の1になり、深さは半分の8.4 nmになる。
しみ込み方は指数関数になる。表面からの深さを、外の磁場をとすると、ロンドンの式とマクスウェル方程式のアンペールの法則を組み合わせて、次の形が出る。
このは電気素量ではなく、ネイピア数である。の深さではで、外の37%まで弱まる。そこからさらに進むと、その37%に減る。ニオブで計算した34 nmを使うと、100 nmの深さではで、5%しか残らない。
対がそろう長さはギャップで決まる
もう1つの長さは、電子の対の側にある。超伝導体の中では電子が2個ずつ結び付き、クーパー対と呼ばれる対を作る。この対が薄い絶縁膜を通り抜ける部品はジョセフソン接合と呼ばれ、超伝導の量子ビットの出発点になったことは回路の量子トンネルで読める。結び付きの強さを表すのが超伝導ギャップ(デルタ)で、エネルギーの単位で測る。超伝導を1か所で乱したとき、元に戻るまでに要る距離がコヒーレンス長(グザイ)だ。超伝導の仕組みを説明したBCS理論からは次の式が出て、論文はこれをピパードのコヒーレンス長と呼ぶ。
はフェルミ速度で、電流を運ぶ電子の速さにあたる。(エイチバー)はプランク定数をで割った数で、約 J·sである。式をと分けて読むと、「速さ×時間」の形になる。の単位J·sをエネルギーの単位Jで割ると、秒が残るからだ。
仮の数で、 m/s、 meV( J)としてみる。
1行目で時間を出し、2行目でその時間に速さを掛けた。210 nmになる。ギャップを2倍にすれば半分の105 nmで、結び付きの強い対ほど、そろう範囲は短い。
実は、論文はこの古い式でも答え合わせをした。ニオブについて、計算した電子の速さとギャップを平均して入れると、79.6 nmになる。電子は結晶格子の振動と結び付くぶん実質的に遅くなり、その結合の強さ1.34を使ってで割ると34 nm。新しい方法の34 nmとそろう。
対をゆっくり波打たせる
では、新しい方法は何をしたのか。ふつうの計算では、超伝導の状態は結晶全体で一様だと置く。研究グループが使ったのは超伝導密度汎関数理論で、物質中の電子状態を計算する密度汎関数理論を、超伝導に広げたものだ。そこに、運動量を持つクーパー対を入れた。対の状態を空間でゆるやかに波打たせ、波の細かさを運動量として指定したのである。が大きいほど波は細かい。
波打たせると、対は弱まる。転移温度に近い所では、ギャップは次の形で小さくなる。ギンツブルグ・ランダウ理論の式で、は波のないときのギャップだ。
論文は、ギャップが倍(約0.71倍)まで下がるをとし、そこからコヒーレンス長を決めた。式に入れて、1行ずつ解く。
1行目はをで割った値をと置いた式だ。2行目で両辺を2乗した。3行目は、1から引いてが残るなら、引いた数もだという読み替えである。4行目で両辺の平方根をとり、5行目で両辺をで割った。ニオブで出た34 nmなら nm⁻¹になる。は長さの中に入る波の数なので、波1つの長さは、約300 nmにあたる。この式は本来、転移温度の近くでしか成り立たないが、低い温度でもよい見積もりになると論文はみている。
もう1つの手がかりは電流だ。波打った対は電流を運び、電流はが小さいうちはに比例して増え、頂上を越えると減る。立ち上がりの傾きからは磁場侵入長が出て、ニオブでは34 nmになった。頂上の電流は、欠陥のない理想の結晶で対が壊れずに流せる上限(対破壊電流)にあたる。これをコヒーレンス長と組み合わせた別の見積もりでは、40 nmになった。
ギンツブルグ・ランダウ理論の式どおりなら、電流はに比例する。が0.5なら0.375、0.58なら0.385、0.7なら0.357で、頂上は0.58のあたりに来る。
ニオブでは、対破壊電流が1 cm²あたり19×10⁷ Aと出た。測られている臨界電流0.75×10⁷ A/cm²の約25倍だ。実物の線材では、欠陥や結晶の境目が流せる電流を下げる。
難しかったのは桁の違いだ。2つの長さは、原子が並ぶ間隔(格子定数)の100〜1000倍も長く、扱う運動量は逆格子ベクトルの0.1%に満たない。逆格子ベクトルは、結晶で原子が並ぶ周期から決まる波数の単位だ。この小さな運動量を数値で安定に扱う計算手法を、新たに開発したという。
比が1/√2を超えると第二種
2つの長さがそろえば、超伝導体の種類まで決まる。2つの比(カッパ)は、ギンツブルグ・ランダウ・パラメーターと呼ばれる。
がより小さければ第一種、大きければ第二種である。第一種は磁場を中に入れないが、ある強さを超えると超伝導が消える。一方、第二種は磁場を部分的に中へ取り込むことで、強い磁場に耐える。超伝導磁石に使うのはこちらだ。
| 物質 | 計算の | 計算の | 計算の | 実験の |
|---|---|---|---|---|
| アルミニウム | 636 nm | 21〜26 nm | 0.033〜0.041 | 0.0098〜0.1 |
| ニオブ | 34 nm | 34〜40 nm | 1.0〜1.2 | 0.68〜2.24 |
| 硫化水素(高圧) | 3.0 nm | 19〜22 nm | 6.3〜7.3 | 10〜19 |
アルミニウムでは対の長さが磁場のしみ込みの24〜30倍もあり、は0.04ほどの第一種になる。1ニオブは1.0〜1.2で、境目の0.71を少し越えた第二種。インジウム、スズ、タンタル、鉛、化合物のV₃Siも含めて、調べた8物質のすべてで、第一種か第二種かの判定が実験と一致した。
対の長さは、第二種超伝導体が耐えられる磁場の上限(上部臨界磁場)にもつながる。論文は次の関係を使う。は磁束量子と呼ばれる磁場の束の最小単位で、プランク定数を電気素量の2倍で割った約 Wb(ウェーバー)だ。キログラムの定義に使うジョセフソン効果にも、同じが出てくる。
あとの硫化水素の話に使う nmを入れてみる。
2行目で分母を掛け算し、3行目で割った。約82 T(テスラ)である。長さが半分なら耐えられる磁場は4倍で、の2乗に反比例する。
100万気圧の硫化水素でも
硫化水素H₃Sは、約100万気圧を超える圧力でしか超伝導にならない。強い磁場での測定から、上部臨界磁場は低温の極限で70〜90 Tと見積もられている。上の式に戻すと、は約2 nmにあたる。計算は3.0 nmで、論文は両者がよく合うとみる。2
転移温度は計算で181 K(約−92 ℃)、実験で184 Kだった。磁場侵入長は19〜22 nm。超高圧の試料を磁気で測った2つの研究は約20 nmと約37 nmを報告しており、計算の約20 nmはその範囲に入ると論文はみる。対破壊電流は697×10⁷ A/cm²と、ニオブの約37倍になった。ただし、今のところ実験では確かめようのない、計算による予測である。
研究グループは植村プロットも、初めて計算だけで描いた。多くの超伝導体の転移温度を、電子の運動エネルギーの目安であるフェルミ温度と並べた図だ。V₃SiやH₃Sのように転移温度が高い物質では、もも短い。対を作る力が強く、ロンドンの式でいえば質量に比べて超伝導の電子が多い、という組み合わせである。
もっとも、計算には近似もある。対を波打たせても、電子どうしを結び付ける力の式はによらないと置いた。運動量を持つ対の計算でよく使う近似で、論文は補足資料で、その一部がによらないことを2つの極端な模型で確かめている。H₃Sの計算は約200万気圧にあたる200 GPaの構造で行い、原子を引き戻す力がずれの大きさに比例しなくなる効果(非調和性)を入れていない。実験の値も測り方でばらつきが大きく、とくに第一種では1つに決めにくい。
発表は、超伝導線材や超伝導磁石の設計、MRIや核融合炉、量子コンピューターに合う材料の絞り込みに役立つと期待する。室温超伝導を目指す高圧下の水素化物を探す研究でも、物質設計の指針になるという。冒頭の34 nmは、原子の種類と並び方だけから出てきた数である。
注
出典
- 横浜国立大学・東京都立大学・東京大学・理化学研究所・科学技術振興機構「超伝導を特徴づける2つの長さを計算可能に」(2026年11月6日)
- 理化学研究所「超伝導を特徴づける2つの長さを計算可能に」(2026年11月6日)
- M. Kawamura, T. Nomoto, N. Witt, R. Arita「First-Principles Calculation of Coherence Length and Penetration Depth Based on Density Functional Theory for Superconductors」Physical Review Letters 137, 196001(2026年11月3日)
- 同じ研究の公開版 arXiv:2603.05123(第2版・2026年8月6日)
- F. London, H. London「The electromagnetic equations of the supraconductor」Proceedings of the Royal Society of London A 149, 71(1935年)
この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。