回路の量子トンネル(手で持てる大きさの量子力学)

Macroscopic quantum tunnelling in an electric circuit

指でつまめる回路の状態が、越えられない壁を通り抜けた。

超伝導の回路の状態が1つの粒子のように壁を通り抜け、決まった段のエネルギーだけを取る。今の超伝導量子ビットの出発点になった式。

年代
1985年
習う
大3以上・量子力学・調和振動子とトンネル効果
レベル
大学(例題 5 問)
人物
ジョン・クラーク、ミシェル・デヴォレ、ジョン・マルティニス、アンソニー・レゲット、アミール・カルデイラ、ブライアン・ジョセフソン、中村泰信、蔡兆申
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
逸話

電圧が出る電流は毎回違う

電流を少しずつ増やしていく。電圧は0のまま動かない。ある瞬間、急に電圧が現れる。

回路も操作も同じなのに、電圧が現れる電流は1回ごとに少しずれる。1980年代の半ば、カリフォルニア大学バークレー校のジョン・クラークの研究室は、18 mK(絶対零度から0.018度上)まで冷やした回路で、この測定を10万回の単位で重ねた。ずれの正体は、回路全体が1つの粒子のように、越えられないはずの壁を通り抜ける確率だった。その「粒子」は、決まった高さの段のエネルギーしか取らなかった。

壁にボールを投げれば跳ね返り、向こう側に現れることはない。量子力学がこの常識を破るのは、ふつう電子や原子のような小さなものに限られる。ところが実験の舞台は約1 cmのチップで、数十億個の電子の対がそろって振る舞った。ノーベル賞の発表文は「手で持てるほど大きな系」と呼ぶ。委員会の解説が引く1988年の論文で、クラークらは「汚れた指で触れるほど大きい」と書いた。

2025年10月7日、スウェーデン王立科学アカデミーは、クラーク、ミシェル・デヴォレ、ジョン・マルティニスにノーベル物理学賞を贈ると発表した。授賞の理由は「電気回路での巨視的な量子トンネル効果とエネルギー量子化の発見」である。

では、回路の何が壁を抜け、段に乗っていたのか。

起源

はんだの玉とレゲットの問い

話は1960年代のケンブリッジ大学にさかのぼる。1962年、大学院生のブライアン・ジョセフソンは、2枚の超伝導体を薄い絶縁膜で隔てると、電子の対が膜を通り抜け、電圧なしで電流が流れると予言した。翌1963年にはベル研究所の実験が確かめ、ジョセフソンは1973年のノーベル物理学賞を受けた。

1964年にモンド研究所へ入ったクラークは、2年上のジョセフソンからこの話を聞いた。クラークの研究には1兆分の1 V以下の電圧を測る計器が要ったが、当時の計器は10億分の1 Vどまりだった。指導教員のブライアン・ピパードは、接合を使えばはるかに細かく測れる電圧計を作れると持ちかけた。

ところが、研究室には薄い膜を作る装置が無い。数週間失敗を重ねたあと、お茶の時間に仲間の大学院生が助言した。ニオブの表面には酸化膜があり、鉛とスズのはんだは超伝導体になる。ならばニオブ線にはんだの玉を付ければいい、というのである。

古い木の実験台の上に、短い金属の線と、そこに付いた鈍く光るはんだの玉があり、細い銅線がつながっている。人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
1964年12月、ケンブリッジのモンド研究所。ニオブ線に、はんだの玉が付いた(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ

クラークの講演のスライドには「夕食前」「4.2 K」の添え書きがある。その日のうちに液体ヘリウムの温度で試したのだろう。翌日、ピパードは「なめくじが夜のうちに窓から入り込み、きみの机で息絶えたようだ」と評した。この電圧計の名はSLUG(なめくじ)になった。

ジョン・クラーク1942–超伝導の回路で、巨視的な量子トンネルとエネルギーの段を確かめた

では、手で触れるほど大きな系の変数も、量子力学に従うのか。問いを立てたのは理論家のアンソニー・レゲットである。ノーベル委員会の解説によると、レゲットは1978年、シュレーディンガーの猫を小さくした実験を超伝導回路でできないかと論じた。1981年には学生のアミール・カルデイラとともに、周囲との摩擦がトンネルの率をどう変えるかを計算している。

アンソニー・レゲット1938–2026巨視的な変数は量子力学に従うのか、という問いを立てた理論家

1980年代の初め、いくつかのグループが接合を測り始めた。温度を下げると、電圧の出る電流の分布が変わらなくなる。トンネルの証拠に見えたが、冷凍機の温かい部分から漏れ込むマイクロ波の雑音でも、同じ平らさが出る。決め手に欠けていた。

バークレーには1980年にマルティニスが大学院生として、1982年にデヴォレが博士研究員として加わった。クラークはノーベル講演で「銅の覆いを足すことに多くの時間をつぎ込んだ」と振り返っている。3人は1984年にマイクロ波で接合の性質を測り、1985年10月に2本の論文を出した。段を示した1本と、トンネルを示した1本である。

薄暗い実験室で、金属の筒状の冷凍機の下の部分が開かれ、銅の覆いと細い配線の束が見える。人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
1980年代半ばのバークレー。冷凍機の先のチップを、銅の覆いとフィルターで守った(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ
ミシェル・デヴォレ1953–博士研究員としてバークレーの実験を支え、超伝導の量子回路を広げた
ジョン・マルティニス1958–電気回路の量子効果を示し、Googleの量子計算機のハードウェアを率いた

受賞の日の電話取材で、当時の手応えを聞かれたクラークは答えている。学会に呼ばれて評価は感じたが、その後40年に及ぶ意味については「まったく想像もしていなかった」。

証明

位相を粒子に見立てる

この証明の道すじ。 接合の波のずれを1つの変数に取り、回路の式をボールと坂の式に写す(手順1〜5)。谷の底をばねとみて揺れの速さを出し、波が谷に収まる条件から段を出す(手順6〜11)。手順12〜18は大学の式での確認で、飛ばしても話はつながる。最後に、実験が熱と雑音をどう退けたかをたどる。

式の文字を読む

は番号の段のエネルギーで、は下から0、1、2と数える。(エイチバー)はプランク定数をで割った数だ。(オメガ・ピー)はプラズマ角振動数といい、回路が自然に揺れる速さを1秒あたりの角度で表す。

谷の中に4本の段があり、間隔はエイチバーとオメガ・ピーの積で、いちばん下の段は谷の底からその半分だけ上にある。表はエイチバーが1.055×10⁻³⁴ J·s、オメガ・ピーが例で1.45×10¹⁰ rad/s。

角度の1周は(約6.28)なので、1秒に回揺れるならである。するととなり、プランクの関係式と同じ形が段の間隔に現れる。

ばねや振り子なら、揺れ幅を変えてエネルギーをいくらでも細かく変えられる。この式は違う。高さはの倍、倍、倍と飛び、途中の高さを取れない。

薄い壁と1つの変数

ジョセフソン接合は、2枚の超伝導体を厚さ約2 nmの絶縁膜で隔てた部品である。超伝導体は、冷やすと電気抵抗が0になる物質だ。その中で電子は2個ずつ対を作り、クーパー対と呼ばれる。対はみな同じ1つの波で表せる。

約1 cmのチップの上で2本の細い帯が交わり、重なりは80 µm × 10 µmなど。断面では2つの超伝導体の間に約2 nmの絶縁膜があり、丸で囲んだ電子の対が膜を抜けて電流Iになる。

波には山の位置がある。膜の左右で山がどれだけずれているかを位相差(デルタ)といい、波1周ぶんのずれをと数える。

絶縁膜の左右に同じ波長の波があり、右の波の山は左の波を延ばした線より4分の1周ずれている。このずれが位相差δで、1周ぶんが2π。

何が「大きい」のだろうか。チップが壁を抜けるわけでも、電子が束になって飛ぶわけでもない。数十億個の対に共通のが、たった1つの変数として振る舞う。壁を抜けるのはこのの値で、物ではない。

結晶の原子が何個あっても重心は1つ、という話と似ている。マルティニスのノーベル講演のスライドも、結晶の重心と超伝導体の位相を並べて示した。「巨視的」は、チップの寸法より、1つの変数が膨大な数の対をまとめて表すことを指す。

上は結晶で、原子が多数あっても重心の位置は1つ。下は超伝導体で、電子の対が多数あってもどの対の矢印も同じ向きで、波の位相は1つである。

ジョセフソンの2つの式が、と電気の量を結ぶ。sin(サイン)は半径1の円を角度だけ回った点の高さで、から1の間を往復する。

  1. 接合を流れる電流はで決まる。最大の値を臨界電流という

  2. 電圧があるとは動く。が1秒に増える量をと書く(は電子の電気量の大きさ)

左の円で角度δ = 30°の点の高さがsin δ = 2分の1。右のグラフでは電流Iがδとともに波打ち、δ = 30°で臨界電流の半分になる。

が止まっていればで、電圧は0だ。つまり、電流が流れているのに電圧が無い。この状態をゼロ電圧状態という。

傾いた洗濯板

接合はコンデンサーでもあり、電圧が変わると別の電流が流れる。その大きさは、静電容量と、電圧が1秒に増える量の積である。が1秒に増える量を(の加速度)と書く。

  1. 電圧が1秒に増える量は手順2からである。これにを掛けた電流を手順1に足す

  2. を左辺へ移して左右を入れ替え、両辺にを掛ける。の前の係数を質量とみれば「質量×加速度=力」の形である

  3. 力は坂の傾きから生まれる。と置くと、この力を生む坂の高さは次の形になる(の傾きがになることを使う)

cos(コサイン)は円の点の横の位置で、波打つ。波に直線の坂を足すと、波板を斜めにした形、傾いた洗濯板ができる。なら、で、(約3.14)でである。が進むのに高さが上がるので、ここに壁がある。

上から波のマイナスcos δ、直線のマイナス0.5 δ、その和。和は下っていく坂に谷と壁がくり返す形で、塗りつぶした丸が谷にいる。

電流のつまみが坂の傾きを決める。がに近づくと谷は浅くなり、超えると消える。ボールが谷にいればは動かず電圧は0で、坂を走りだせばが増え続けて電圧が出る。

ボールの位置が、速さが電圧、重さが静電容量、坂の傾きが電流に当たる。ただし、ボールは本物の粒ではない。という1つの変数が従う式が、坂を転がるボールの式と同じ形になるだけである。

谷の底はばね

谷の底の近くだけを見ると、坂はばねの放物線に重なる。底の位置では力が0なので、手順4からとなる。

エネルギーをで割ると振動数になる(の)。段や壁の高さをこの単位GHz(1秒に10億回)で言えば、マイクロ波の振動数とじかに比べられる。

電流30.40 µAの谷の実線に、破線の放物線を重ねた図。底の近くでは2本が重なり、上へ行くと実線は壁の高さ12.1 GHzで頭打ちになる。
  1. 底からのずれをとする。の傾きはなので、が小さければ手順4の力はになる。これはばねの力の形で、ばね定数はである

  2. 三平方の定理で、を電流で書く

  3. ばねの揺れの速さはである。手順4のと手順7を入れる

右上のは「平方根をもう一度取る」という意味だ。電流をに近づけると、かっこの中が0に近づき、揺れはゆっくりになる。だから、電流のつまみで段の間隔を変えられる。

図で納得する

ただ、はボールのように1点には定まらない。谷の中に広がる波で表され、波はシュレーディンガー方程式に従う。超伝導体の波とは別の波で、がどの値を取りやすいかを表す。弦の振動と同じで、谷にぴったり収まる形しか残らない。

放物線の谷の中に3つの波があり、番号0の波は節なし、番号1は節1つ、番号2は節2つ。節は中が空いた丸で示した。

節(波が0になる所)の数が段の番号になる。節が1つ増えるごとに、エネルギーがずつ増える。

  1. 放物線の谷で許されるエネルギーは、等間隔の段になる

なぜが残るのか。谷に閉じ込めた波は幅を持ち、幅を持つ波は動きも持つ。不確定性原理のとおり、位置と動きを同時に0にはできない。

左は粒と考えた場合で、谷の底に止まりエネルギーは0。右は波で、幅を持ち止まれず、エネルギーは底から段の間隔の半分だけ上に残る。

この最低のエネルギーを零点エネルギーといい、絶対零度まで冷やしても消えない。

式の「≈」は、谷が本当は放物線でないことを指す。壁に近づくほど谷は放物線より開くので、上の段ほど詰まる。方程式を数値で解くと、 µAで段0のずれは約1%、段3では約6%である。

式の段は0.5、1.5、2.5、3.5で等間隔。数値で解いた段は0.495、1.466、2.404、3.302で、上の段ほど式より低い(単位は段の間隔)。

壁の中でも波は0にならない。谷から離れるほど急に小さくなるが、壁の向こうへ少しだけ出る。これがトンネル効果で、エネルギーが足りなくても壁の外に現れる確率が残る。

谷の中で揺れる波が、斜線の壁の中で急に小さくなり、壁の外で小さな波として続く。縮尺は大げさにしてある。
  1. 壁に1回ぶつかって抜ける確率は指数の形になる。は壁の高さと厚みで決まる正の数で、は約2.718(手順2の電気量とは別)である

  2. 波は1秒に約回ぶつかるので、1秒あたりの抜ける回数(ガンマ)は次の形になる

たとえばなら約2万2,000回に1回、なら約5億回に1回である。指数なので、のわずかな差が桁の差になる。

上の段ほど壁は低く薄いので、がぐんと小さくなる。 µAで摩擦と熱を入れない計算では、は段0、1、2で22.6、15.4、9.1となり、平均の待ち時間は3.3秒、2.5 ms、5.2 µsと縮む。壁の厚みを見比べるには、「電流を上げて壁を薄くする」のシミュレーションで段を選べばよい。

待ち時間は1回ごとにばらつく。電圧がまだ出ていない割合は、放射性崩壊の法則と同じ形ので減り、平均の待ち時間はである。アルファ崩壊もトンネル効果で起き、ノーベル委員会の解説もこの測定を半減期の測定になぞらえている。

式で確かめる

手順12〜18は微分と積分を使う。読み飛ばして「熱か、通り抜けか」へ進んでも、話はつながる。

手順9のは、波の形を入れれば確かめられる。(プサイ)を波の高さ、をで2回微分した量(波の曲がり具合)とする。

  1. 放物線の谷のシュレーディンガー方程式を書く

  2. 節のない形を入れる。2回微分するとなので、両辺をで割る

  3. どのでも成り立つにはの係数が消えるので、である。残りからが決まる

節が1つの形を同じように入れるとになる。一般のは量子力学の教科書で、演算子を使って導かれる。

指数は、WKB近似(波の減り方を少しずつ足す近似)の式で求める。がに近いとき、谷と壁は3次式で書ける。

放物線に3次の項を足した谷と壁の曲線。底をq = 0とすると、壁の頂上はq = 3分の2 wで高さはΔU、出口はq = w。
  1. は谷の底から壁の出口までの長さである。壁の高さはの高さになる

  2. の定義を書く。波の高さは壁の中で指数の形に減り、確率は高さの2乗なので前に2が付く。は細かく分けて足す記号で、を底の高さ0と置く

  3. である。積分の値を使う

  4. 手順15からを入れる

次の節の式に出る7.2は、この数だ。実際には段0の高さから測るのでは少し下がる。 µAなら、がになり、抜ける回数は倍に増える。次の節の係数(この電流で約101)は、この増え方を受け持つ。

熱か、通り抜けか

電圧が出る道は2つある。熱で壁を越える道と、波が通り抜ける道である。はボルツマン定数で、は温度での熱の大きさを表す。

谷の段から出る破線の弧は壁を越える熱の道で、壁の高さと熱の大きさの比で決まる。まっすぐな矢印は通り抜ける道で、壁の高さと段の間隔の比で決まる。

クラークの講演では、2つの率が次の形で並ぶ。は1以下、は100前後の係数で、は摩擦の小ささを表す数である。カルデイラとレゲットが計算したとおり、摩擦は通り抜けを少し減らす。

はと同じである。見るところは1つ、指数の中の温度だ。にはがあって冷やすと急に減るが、にはが入っていない。だから冷やしていくと、ある温度で主役が交代する。が十分大きければ、その温度は次の式で決まる。

温度を18 mKにすると、熱だけなら待ち時間は約0.6秒まで伸びるが、通り抜けがあると約9 µsで止まる。50 mKより上では2本がほぼ重なる。数は講演の式に、1985年の接合に近い値(振動数4 GHz、壁の高さは段の間隔2個ぶん、。弱めた接合は2 GHz、3個ぶん)を入れた模型で、測定値ではない。

ここで「雑音が漏れた接合」(60 mK相当の雑音と置いた例)を選ぶと、やはり平らになる。ただ、平らな高さが通り抜けの予言からずれる。平らさだけでは証拠にならず、高さまで合わせる必要があった。

バークレーの3人は、まず、あとから調整できる数を無くした。臨界電流も静電容量も摩擦も、熱の道が主役の高い温度で別に測り、その数だけで予言を作ったのである。次に、同じチップを温度計に使った。磁場で臨界電流を9.489 µAから約1.383 µAへ下げると、が小さくなる。ノーベル委員会の解説の図で読むと、交代の温度は約30 mKから約15 mKへ下がる。

ふつうの接合は約30 mK、磁場で弱めた接合は約15 mKで、熱の道と通り抜けが交代する。実験の最低温度18 mKの破線は、2つの交代の温度の間にある。

弱めた接合は18 mKでも熱の道に従った。つまり、チップは本当に18 mKまで冷えていて、余分な雑音も届いていない。磁場をかけないと、待ち時間の伸びは50 mKの下で鈍り始め、25 mKの下で温度によらなくなった。平らな高さは、測った数だけで作った予言と合っていた。

マイクロ波で段を測る

段そのものは、どう見えたのか。マイクロ波を当てると、光子1個のエネルギーが段の間隔に合うときだけ、接合は上の段へ上がる。上の段は壁が薄いので、待ち時間が急に縮む。

電流で間隔を変えながら2.0 GHzを当て、28 mKで測ると、抜ける率に3本の山が出た。この温度では熱で上の段にも少し居るので、0→1だけでなく1→2と2→3の山も見える。

この接合のシュレーディンガー方程式を数値で解くと、2.0 GHzに合う電流は0→1が約30.45 µA、1→2が約30.43 µA、2→3が約30.41 µAになる。論文も同じ計算で位置を予言し、山は実験の誤差の範囲でそこに現れた。等間隔の段なら山は1本にまとまるはずで、3本に分かれたこと自体が段の詰まり方を示している。

途中の計算

2.30 GHzの段を手で出す

この計算の道すじ。 論文の接合の値で段の間隔を振動数とエネルギーと温度に直す(手順1〜7)。壁の高さと待ち時間を出し(手順8〜10)、段が見える温度を調べる(手順11)。

マルティニスらの論文の接合は µA、 pFである。例として µAを流す。

  1. 電流の比を出す

  2. 証明の手順8の根号の中を計算する。 C、 J·sを使う

  3. 平方根を取り、で割って1秒あたりの回数にする

  4. 証明の手順8の後ろのかっこ(電流の因子)を計算する。の平方根を2回取る

  5. 掛けて段の間隔の振動数を出す

  6. プランク定数を掛ける。少し細かい値 GHzを使う

  7. ボルツマン定数で割り、温度の物差しに直す

流す電流を横軸に、段の間隔の振動数を描いた曲線。電流が小さいうちはほぼ7.08 GHzで、臨界電流の近くで急に落ち、30.40 µAで2.30 GHzになる。

の段は、、 Jになる。1 Jの分の1ほどの、ごく小さなエネルギーである。

壁の高さも論文の式で出せる。

  1. Jと、を入れる

  2. 手順6の間隔で割る。谷に段が約5個入る高さである

  3. の式で段0の待ち時間を見積もる。指数は、係数はで、摩擦は省く

待ち時間はで、およそ1日になる。ところが電流を0.2%だけ上げて30.46 µAにすると、同じ計算で約0.02秒に縮む。電圧が出る電流がほぼ決まった値に集まり、それでも少しだけばらつくのは、このためだ。

  1. 28 mKの熱と段の間隔を比べ、段1にいる割合の目安を出す

温度を上げると、熱が段の間隔を超えて、段が見分けられなくなる。液体ヘリウムの4.2 Kは段38個ぶん、室温は段2,700個ぶんの熱にあたる。この回路で量子の段を見るには、ミリケルビンの世界まで冷やすほかない。

応用

段の2つを0と1に使う

いちばん下の段と次の段を0と1に見立てれば、量子ビットになる。0か1のどちらかではなく、両方を重ね合わせた状態を持てる、量子計算機の基本の部品である。1985年の論文は、段0と段1のあいだで波のそろい(コヒーレンス)が40 nsほど続いたと見積もった。

波のそろいを保ったまま段のあいだを行き来させる実験は、日本で始まった。1999年、NECの中村泰信、ユーリ・パシュキン、蔡兆申は、クーパー対1個の出入りで2つの段を作る回路で、この振動を示した。ノーベル委員会の解説はこれを最初の実験と呼び、そろいが続いた時間は3 nsだったと記す。蔡は理研の取材で、1と0を重ね合わせて振動させ、その生成と読み出しに成功したと語っている。記事の題は「気付いたら量子ビットができていた」である。

使う変数は1985年と少し違う。中村らの回路は、位相差と対になる電荷、つまり膜の片側にある対の数で段を作る。2002年にはマルティニスらが、1985年と同じ位相差の回路、電流を流した接合そのものの段で同じ振動を示した。その読み出しには1985年と同じ通り抜けを使っている。上の段ほど速く抜けるので、電圧が出たかどうかで段が分かる。

なぜ量子ビットに「≈」が欠かせないのか。段が完全に等間隔なら、0→1に合わせたマイクロ波で1→2にも上がってしまう。間隔が少し違うから、2つの段だけを選べる。

0→1は5.0 GHz、1→2は4.8 GHzで間隔が違うので、5.0 GHzのマイクロ波では0と1の間だけを行き来する。数は例である。

広く使われるトランズモンという回路では、この間隔の差は100〜400 MHzほどである。段の間隔を例として5.0 GHzとすると、温度に直して約0.24 Kである(例題1で計算できる)。冷凍機を約20 mK(理研と富士通の256量子ビット機の発表文にある値)とすると、段の間隔は熱の約12倍ある。もっとも、量子計算機を作る方式は超伝導回路のほかにもあり、ノーベル委員会もそう断っている。

例題と解説

指数と段の間隔を計算する

例題 1基本段の間隔を温度に直す

段の間隔が GHzの回路がある。 J·s、 J/Kとして、段の間隔をJとmKで求めよ。また、20 mKの何倍か。

解説を見る

Jである。

で割ると K、つまり240 mKになる。20 mKの約12倍である。

例題 2基本段の高さの比

で、を求めよ。またはの何倍か。

解説を見る

、、なので、比はである。

で、1倍である。

例題 3入試磁場で弱めた接合

とする。を変えずにを9.489 µAから1.383 µAへ下げると、は何倍になるか。

解説を見る

はに比例する。

約0.38倍になる。 pFならは約10.7 GHzから約4.1 GHzへ下がる。

例題 4入試指数の差

係数を同じとして、が3から2に下がると、通り抜ける回数は何倍になるか。を使ってよい。

解説を見る

指数はからへ下がる。

約1,340倍である。壁の高さが段1個ぶん下がるだけで、率は3桁上がる。

例題 5大学脱出温度

測った率を、熱の道だけで説明するときの温度を脱出温度といい、で定める。クラークの講演ではである(はを何回掛けるかを表す)。 GHz、のときを求めよ。は1 GHzあたり48 mKとする。

解説を見る

定義の両辺のを取ると、である。

実験の温度は18 mKなので、のほうが高い。熱では説明できない速さで抜けていることになる。

図示

銅の粉で雑音を止める

希釈冷凍機の模式図。電流の線は銅粉のフィルターを何段も通って底の18 mKのチップに届き、マイクロ波は別のフィルターつきの線から弱くつなぐ。

ノーベル委員会の解説によると、バークレーの配線は新しく作った銅粉のフィルターを連ね、0.1〜12 GHzの雑音を200 dB以上弱めた。200 dBは強さが分の1になることを指す。温度の高いフィルター自身も熱の雑音を出すので、冷凍機の各段に熱をつないで冷やした。接合に届く雑音を段の間隔より小さくして、初めて通り抜けの測定が意味を持った。

シミュレーション

電流を上げて壁を薄くする

電流のつまみで洗濯板の傾きが変わり、壁が低くなる。段を選んで「電圧が出るまで待つ」を押すと、計算した率から待ち時間を1つ引くので、同じ条件でも毎回違う値が出る。棒は1秒あたりの抜ける回数を10倍ずつの目盛りで描いた長さだ。段と待ち時間は1985年の接合の値で計算した模型で、摩擦と熱は入れていない。

広がる学問

位相の段が届く学問

  • 物理学 大きな物に量子力学がどこまで通じるかを調べるとき、1つの変数だけを取り出す実験の手本になる。レゲットはこの回路をシュレーディンガーの猫に近いものと論じたが、ノーベル委員会は、子猫よりは何桁も小さいと断っている。
  • 工学 超伝導の量子回路を設計するとき、とからを見積もって振動数を決める。段の間隔の差も、接合と容量の値で作り込む。
  • 情報科学 量子計算機の基本の部品を作るとき、2つの段を0と1にする。計算の正しさの測り方は量子超越とXEBで追える。
いまの研究と事業

冷やした回路の、いまの実験

  • 2023年 アンドレアス・ヴァルラフら(ETHチューリヒ): 30 m離した2つの超伝導回路を極低温の配管でつなぎ、抜け穴のないベル不等式の破れを示した。を30 mにわたって保つ実験である(Nature 617, 265)。
  • 2024年Google Quantum AIと共同研究者: 101量子ビットの表面符号で、1サイクルあたり0.143%の論理誤りを報告した。2つの段を0と1にする量子ビットを多数つなぎ、誤りを訂正する(arXiv:2408.13687)。
  • 2024年AWS Center for Quantum Computing: 超伝導の共振器に作った猫量子ビットで、誤り訂正の符号を動かした。共振器の段はに近い等間隔で、多くの段にまたがる波を情報に使う(arXiv:2409.13025)。
  • 2025年 理化学研究所と富士通: 256量子ビットの超伝導量子計算機を発表した。約20 mKの冷凍機に64量子ビット機の4倍の密度で実装し、の条件を保つ(発表文)。

参考文献

  1. The Royal Swedish Academy of Sciences, "Press release: The Nobel Prize in Physics 2025"; "Popular information"; "Scientific Background to the Nobel Prize in Physics 2025" (2025).
  2. J. M. Martinis, M. H. Devoret, J. Clarke, "Energy-Level Quantization in the Zero-Voltage State of a Current-Biased Josephson Junction", Physical Review Letters 55 (1985), 1543-1546.
  3. M. H. Devoret, J. M. Martinis, J. Clarke, "Measurements of Macroscopic Quantum Tunneling out of the Zero-Voltage State of a Current-Biased Josephson Junction", Physical Review Letters 55 (1985), 1908-1911.
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この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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