群を抜けて消える波
静かな水面へ波の一群が進んでいくと、群は、群を作る1つ1つの波より遅く進む。波は群の中を後ろから前へ抜けていき、前の端に近づくと消えてしまう。1877年11月8日、ロンドン数学会で読まれた論文「進行波について」の冒頭で、レイリーは、この現象はよく知られていると書いた。
レイリーの考えでは、最初に説明したのはストークスである。ストークスは、波長がわずかに違う2つの波の列を重ねて群を作った。レイリー自身は2年ほど前にフルードからこの現象を教えられ、同じ説明に別にたどり着いたという。同じ論文は、深い水の波の群が、1つ1つの波の半分の速さで進むことを表の1行にまとめている。
山の速さと、束の速さ
図で納得する
山1つが進む速さと、山の集まり(束)が進む速さは、波長によって波の速さが変わると食い違う。束は、波長がわずかに違う波を重ねたとき、強め合う場所として現れる。束の速さは、2つの波の角振動数の差を波数の差で割った値で、その差を小さくした行き着く先がになる。
波の形をと書く。は場所、は時刻、は振れ幅だ。は角度に応じて1と−1のあいだを行き来し、山と谷のくり返しを作る。
角振動数は、減衰振動や強制振動と共振と同じく、1往復を円の1周(360°、つまりラジアン)に見立てて1秒に進む角度を表す。周期とはの関係にある。
波数は、1波長を円の1周に見立てたとき、1 mあたりに進む角度を表し、単位はrad/m。波長とはの関係にある。ばね定数のとは別物で、波の式ではこの意味で使う。
では、束はどうやってできるのか。波長がわずかに違う2つの波を足すと、山どうしがそろう所では強め合い、山と谷が重なる所では打ち消し合う。強め合った所が、波の束だ。
つまみで「束の速さ ÷ 山の速さ」を変えると、束の中心(三角)と山1つ(塗りつぶした点)が別々の速さで進む。レイリーが書いた深い水の波の群にあたる0.5では、山が束の後ろから現れ、束を追い越して前の端で消えていく。1では山と束がそろって進み、1を超えると山は束の前の端で現れて後ろへ抜ける。足した波は束が切れ目なく並んだ形で、振れ幅が0になる束と束のさかい目も、束と同じ速さで画面を横切る。
束が、どちらの波とも違う速さで進むのはなぜか。2つの波がそれぞれの速さで進むと、山のそろう場所は、山どうしのずれが変わる速さに合わせて大きく動く。目盛りの間隔が少し違う2本の物差しを重ねて片方を少し動かすと、目盛りのそろう所が、物差しの動きよりずっと大きく移るのと同じしくみだ。
横軸に、縦軸にをとり、波長ごとの角振動数をグラフに描いてみる。山の速さは、原点からグラフの点まで引いた線の傾き。束の速さは、その点でグラフに接する線(接線)の傾きだ。
グラフがまっすぐなら2つの傾きは等しく、束は形を保ったまま山と一緒に進むが、曲がっていると2つの傾きはずれる。
式で確かめる
微分は、をほんの少し変えたときがどれだけの割合で変わるかを表し、グラフでは接線の傾きにあたる。まず山の速さを出す。は角度が0のとき最大の1になるので、角度が0の所に山が1つある。
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山はの所にあるとして、位置を出す
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位置を時刻で割り、山の速さを出す
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とを入れる
手順3は、高校で習う「波の速さ = 波長 ÷ 周期」と同じ式だ。次は束の速さで、2つのの和を積に直す公式を使う。この公式は、加法定理から出るで、、とおいたものだ。
数を入れると、、なら左辺は、右辺はで一致する。2つの波の差を、、平均を、と書く。
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波数と角振動数が少し違う2つの波を足す
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和を積に直す公式を使う
公式のに2つ目の波の、に1つ目の波のを入れると、が、がになる。後ろのは、平均の波数と角振動数で細かく揺れる波を表す。前のはゆっくり変わる振れ幅で、図の破線の包絡線にあたる。
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包絡線の山をの所として位置を出す
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位置を時刻で割り、束の速さを出す
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2つの波の差を0に近づける
手順7のは、グラフの上の2点を結ぶ線(割線)の傾きだ。2点を近づければ割線は接線に重なり、傾きはになる。
数を入れてみよう。深い水の波はに従う( m/s²は重力加速度)。 rad/m、 rad/mとすると、次の表になる。
| 量 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 9.8995 rad/s | ||
| 10.1440 rad/s | ||
| 山の速さ | 約0.978 m/s | |
| 束の速さ | 約0.489 m/s |
つまり束の速さは、山の速さのほぼ半分だ。レイリーの表で「深い水の波」の行にある比と同じである。
深い海のうねりと、物質の波
深い水の波で束が半分の速さになるわけは、を微分すると見えてくる。この式は、水深の水の波についてレイリーが書いた速さの式から出る。水深が波長より十分深いと、その式はになり、を入れると、つまりだ。
は、はのことで、をで微分するとになる。
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根号を乗で書く
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で微分する
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山の速さを出す
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2つを比べる
たとえば周期10秒のうねりなら、 rad/s。の両辺をで割ったから rad/mで、波長は約156 m、山の速さは約15.6 m/s、束の速さは約7.8 m/sになる。
レイリーはレイノルズの説明を引き、波が運ぶエネルギーは束の速さで伝わることを示した。だから、遠くの嵐で生まれたうねりが海岸に届く時刻は、山の速さでなく束の速さで決まる。
粒子に伴う波(ド・ブロイ波長)では、束の速さが粒子の速さに等しい。ド・ブロイは1929年のノーベル賞講演で、レイリーの群速度の式を使うと、波の群速度が粒子の速さになると述べた。一方、山の速さは、光の速さを超えるになる。
ただ、山の速さが光を超えても、光より速く伝わるものは何もない。山1つは物ではなく、重なった波が作る形の目印にすぎない。エネルギーや信号を運ぶのは束のほうで、束の速さ、つまり粒子の速さは光より遅い。
弦を伝わる波は、速さが張力と線密度だけで決まり、波長によらない(弦の振動と音の高さ)。そのためはに比例してグラフがまっすぐになり、2つの速さは一致する。レイリーの表も、空気中の音では束の速さと波の速さを同じとしている。
2つの波だけでは束が切れ目なく並ぶが、波長の違う波をたくさん重ねると、1つだけ離れた束も作れる(フーリエ級数)。
3つの波で束の速さを比べる
例題 1大学曲げの波
細い板を曲げて伝わる波で、(は正の定数)が成り立つとする。山の速さと束の速さを求め、束の速さが山の速さの何倍かを答えよ。
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山の速さはをで割る。
束の速さはをで微分する。の微分はである。
束の速さは山の速さの2倍で、山は束の前の端で生まれ、後ろへ抜けていく。レイリーの表の「曲げの波」の行と合う。
例題 2大学表面張力で伝わる波
波長の短い水面の波では、表面張力と水の密度を使ってが成り立つ。束の速さが山の速さの何倍かを求めよ。また、波長2.0 mmのとき、2つの速さを有効数字2桁で求めよ。 N/m、 kg/m³とする。
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両辺の平方根をとると。
束の速さは山の速さの倍で、レイリーの表の「表面張力の波」の行と合う。波長2.0 mmでは rad/mなので、次のとおり。
例題 3大学遠くの嵐から届くうねり
2,000 km離れた嵐で、周期12秒と8.0秒のうねりが同時に生まれた。深い水の波とみて、それぞれが届くまでの時間を求めよ。 m/s²とする。
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とから、山の速さは。束の速さはその半分のである。
2,000 kmを束の速さで割る。
時間に直すと、周期12秒は約59時間、8.0秒は約89時間かかる。 周期の長いうねりほど、先に届く。
参考文献
- Lord Rayleigh, "On Progressive Waves", Proceedings of the London Mathematical Society s1-9 (1877), 21-26。Zenodo
- L. de Broglie, "The wave nature of the electron", Nobel Lecture, December 12, 1929
- 京都大学 全学共通科目「振動・波動論」シラバス(2026年度 前期、配当学年は主として2回生。授業計画に「波の干渉、位相速度と群速度」)