エネルギーの定数だったH
座標と運動量の役を入れ替えると、2本の式は右辺にマイナスの符号があるかないかしか違わない。1本目は座標の変化を運動量での偏微分で、2本目は運動量の変化を座標での偏微分で書き、どちらも同じ1つの関数を使う。
文字の出どころは、ウィリアム・ローワン・ハミルトンの論文「力学の一般的方法について」で、1834年4月にロンドンの王立協会で読まれた。ハミルトンはこの論文で活力の法則をと書き、時間がたっても変わらない定数としてを置いている。は運動エネルギー、は偏微分すると力になる力関数。の符号は今の位置エネルギーと逆だが、の中身は今の言葉でいう力学的エネルギーだ。
翌1835年1月15日に読まれた第2論文で、ハミルトンは同じを、運動量と座標の関数として書き直した。運動エネルギーを運動量で表した関数をとし、とおく。すると個の質点の運動方程式は、とを組にした、本の1階の連立微分方程式になる。は位置を決める量、は運動量にあたる量で、は偏微分の記号である。当時ハミルトンは、ダブリン大学の天文学教授で、アイルランド王室天文官でもあった。
速度を運動量に取り替える
1つの座標で位置が決まる系を考える。ラグランジアンは、ラグランジュの運動方程式と同じくとする。
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運動量をの速度での偏微分で決める
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速度のかわりに運動量を変数にする関数を作る
なら、手順1はで、ふつうの運動量になる。手順2の取り替え方をルジャンドル変換という。
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の全微分をとる
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手順1からの2項が打ち消し合う
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の係数を読み取る
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ラグランジュの運動方程式を入れる
急所は手順4だ。はととの関数のはずなのに、手順3ではが残って見える。ところがをと決めておいたので、その2項がちょうど消え、は本当に速度によらない関数になる。2本目にだけ付くマイナスは、どこから来たのか。手順2でを引いた、その引き算にほかならない。座標がいくつあっても、を足し合わせて同じ計算をすれば、座標ごとに2本ずつの式が出る。
ばね定数のばねにつないだ質量の物体で確かめよう。
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ラグランジアンから運動量を出す
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を手順2に入れる
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正準方程式に入れる
は運動エネルギーと位置エネルギーの和になった。は運動エネルギーの2倍なので、となるのだ。ハミルトンのも、と読めば同じ値である。
横軸に、縦軸にをとった平面を相空間という。の値が変わらなければ、点はの楕円の上を動く。ならで右へ、ならで下へ進むので、回る向きは時計回りだ。
では、はなぜ変わらないのか。
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を時間で微分する
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正準方程式を入れる
最初の2項は、マイナスの符号のおかげで打ち消し合う。だからが時間をあらわに含まなければ、では保存される。ただし、保存されるがいつもとは限らない。座標と直交座標の関係に時刻が入る系では、がにならないからで、例題3の回る輪がその例になる。
ニュートンの式にも、波動関数にも
位置エネルギーがのとき、を正準方程式に入れると、とが出る。1本目を時間で微分して2本目に入れればで、ニュートンの運動方程式に戻る。2階の式1本が、1階の式2本に分かれた形だ。
相空間の楕円は、面積にも意味がある。手順9のばねで kg、 N/m、 Jとすると、角振動数は rad/s。楕円の半径は、の向きに m、の向きに kg·m/sである。
一般に面積はで、エネルギーと周期の積に等しい。この例なら、1.0 Jと sの積だ。
1階の形は、計算機で時間を少しずつ進めるのにも向く。ただし、進め方で結果がまるで変わる。同じばねを m、から動かし、刻みを sとする。とを古い値から同時に更新すると、1歩ごとにが倍になり、1周期にあたる63歩で約1.87倍に膨らむ。ところが、先にを更新し、その新しいでを進めると、10周期たってもはおよそ0.95 Jから1.05 Jのあいだにとどまる。後の進め方では、1歩ごとの写像が相空間の面積を変えないからだ。正準方程式の形を崩さない解き方が、長い計算ほど効いてくる。
量子力学へは、を演算子に置き換えて進む。運動量をに替えると、はになり、シュレーディンガー方程式はと書ける。時間の進み方をが決める、という役割は量子力学にもそのまま引き継がれた。ばねのを入れれば、量子力学の調和振動子になる。
第2論文でハミルトン自身が強調したのは、摂動の問題にこの方法が使えることだった。冒頭では、1つの質量が飛び抜けて大きい3体以上の系の運動を、この方法で新しく扱うと予告している。
Hを作り、相空間で読む
例題 1基本投げ上げを相空間で見る
質量0.50 kgの小球を、速さ9.8 m/sで真上に投げる。高さを、運動量をとし、 m/s²とする。(1)と正準方程式を書け。(2)とを求め、最高点に着く時刻と高さを求めよ。(3)相空間での軌跡の式を求めよ。
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(1)なので、次の2本になる。
(2)2本目から kg·m/s。1本目に入れて積分する。
となる sで最高点に着き、高さは4.9 mである。 (3)は時間を含まないので、はじめの値 Jのまま変わらない。
軌跡はの放物線で、の線について対称になる。
例題 2大学単振り子の止まる点
長さの糸に質量のおもりをつけた単振り子を、振れの角で書く。(1)に共役な運動量とを求めよ。(2)正準方程式を書き、相空間で点が止まったままになる位置をすべて求めよ。(3) m、 m/s²のとき、小さな振れの周期を求めよ。
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(1)から、次のようになる。
(2)正準方程式は次の2本である。
両方が0になるのは、かつのとき。は真下で静止した状態、は真上で逆立ちした状態だ。のまわりではの等高線が小さな楕円になり、点は回り続ける。一方、では等高線が交わり、少しずれた点は離れていく。 (3)とすると、手順9のばねでをに、をに置き換えた形になる。
例題 3大学保存されてもエネルギーではないH
半径の円い輪を、鉛直な直径のまわりに一定の角速度で回す。輪に通した質量のビーズは摩擦なしに動き、最下点から測った角をとすると、ラグランジアンは次のとおりである。
(1)とを求めよ。(2)が保存されることを示し、運動エネルギーと位置エネルギーの和との差を求めよ。
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(1)。の項は速度を含まないので、となる。
(2)は時間をあらわに含まないので、手順11から保存される。一方、、なので、次の差がある。
ビーズが輪を上り下りするとが変わり、も変わる。輪を一定の角速度で回し続けるには外から仕事を加える必要があり、その分だけ力学的エネルギーが出入りする。保存されるのはのほうだ。
例題 4大学光の速さに届かない理由
相対論の自由粒子のラグランジアンから、とを求めよ。また、正準方程式の1本目から、速さがに届かないことを示せ。
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とおく。
なので、で書き直すと次の形になる。
1本目の正準方程式で速度を出す。
分母はより大きいので、。がいくら大きくなっても、速さはに近づくだけで届かない。がより十分小さければとなり、ばねの例と同じ運動エネルギーの形が現れる。
参考文献
- W. R. Hamilton, "On a General Method in Dynamics", Philosophical Transactions of the Royal Society of London, part II for 1834, pp. 247-308(第2節の式(6.)、活力の法則)。D. R. Wilkinsによる翻刻(Trinity College Dublin)「On a General Method in Dynamics」
- W. R. Hamilton, "Second Essay on a General Method in Dynamics", Philosophical Transactions of the Royal Society of London, part I for 1835, pp. 95-144(冒頭のIntroductory Remarksと、第3節の式(A.))。翻刻は1と同じページ
- 東京大学 理学部「解析力学」授業カタログ(§12ハミルトンの正準方程式、§13ルジャンドル変換)
- 九州大学 物理学科「履修に関して」基本シラバス(力学・解析力学、2年前期・必修、Hamilton形式の力学と正準変換)