運動方程式

Newton's second law of motion

重い球と軽い球を、塔の上から同時に落としたという。

物の加速度は、かかる力に比例し、質量に反比例する。投げた球の道すじから人工衛星の軌道まで、動きを計算するときの出発点。

年代
1687年
人物
アイザック・ニュートン、ガリレオ・ガリレイ、シモン・ステヴィン、レオンハルト・オイラー、ジョージ・アトウッド
逸話

塔から落とす

重い物ほど速く落ちる。古代ギリシアのアリストテレス以来、2000 年近く、多くの人がそう考えていた。

これを確かめた話として最も有名なのは、ガリレオ・ガリレイとピサの斜塔である。ガリレオがピサ大学で教えていたころ、ほかの教授や学生たちの前で、塔の上から重さの違う物を何度も落とし、同じ速さで落ちることを見せた、という。書き残したのは、晩年のガリレオの助手ヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニが 1654 年に書いた伝記である。ガリレオ自身の著作や手紙には、斜塔から物を落としたという記述は無い。実際に行われたのかどうか、歴史家の意見は分かれている。

ガリレオ自身が書いたのは、1638 年の『新科学対話』の一節である。登場人物のサグレドが、私は試したことがある、と言う。100 ポンドか 200 ポンドの砲丸と半ポンドの小銃の弾を 200 ブラッチャ(100 m あまり)の高さから同時に落としても、砲丸が先に着く差は手のひらの幅ほどもない。

記録がはっきり残っているのは、ガリレオより前の実験である。1586 年、オランダのシモン・ステヴィンは、友人のヤン・コルネッツ・デ・フロートとともに、デルフトの新教会の塔に登った。一方がもう一方の 10 倍重い 2 つの鉛の球を、約 30 フィート(約 9 m)下の板に向けて同時に落とした。板を打つ音は 1 つに聞こえた。ステヴィンはこれを同じ年に出した静力学の本『計量術の原理』の付録に書き、アリストテレスの説は誤りだと述べた。

空気の無い場所での決定的な実験は、1971 年 8 月 2 日に月面で行われた。アポロ 15 号のデイヴィッド・スコット船長は、テレビカメラの前で、右手にハンマー、左手にハヤブサの羽根を持ち、同時に手を放した。2 つは並んで落ち、同時に月の土に着いた。スコットは、ガリレオさんの見つけたことは正しかった、と言った。

なぜ重さによらないのか。答えは運動方程式 にある。重い物ほど重力は大きいが、そのぶん動かしにくい。2 つの効果がちょうど打ち消し合う。

起源

アリストテレスは、物が動き続けるには押し続ける力が要ると考えた。投げた石が手を離れても飛び続けるのは、周りの空気が押すからだと説明した。

この見方を変えたのはガリレオである。ガリレオは、ゆるやかな斜面に球を転がして時間を測り、等しい時間ごとに進む距離が と奇数の比で増えることを確かめた。進んだ距離の合計は時間の 2 乗に比例する。さらに、摩擦の無い水平な面なら、球はいつまでも同じ速さで転がり続けると考えた。力は動きを保つためでなく、動きを変えるために要る。

1687 年、アイザック・ニュートンは『自然哲学の数学的諸原理』(プリンキピア)の冒頭に、3 つの運動の法則を置いた。第 2 法則はラテン語で次のように書かれている。「運動の変化は、加えられた力に比例し、その力が加えられた直線の向きに起こる」。ここでの「運動」は、いまの言葉では運動量(質量 速度)にあたる。ニュートンはこの法則と万有引力を組み合わせて、惑星の軌道、月の動き、潮の満ち引き、地球の形までを説明した。

ただし、プリンキピアには という式は出てこない。ニュートンは幾何学の図で議論した。力を 3 つの向きに分け、それぞれについて「質量 加速度 力」という微分方程式の形で書いたのは、スイスの数学者レオンハルト・オイラーで、1750 年の論文「力学の新しい原理の発見」においてである。これで、どんな力がかかる物の動きも、微分方程式を解く問題として扱えるようになった。

力の単位ニュートン(N)は、1 kg の物に 1 m/s² の加速度を生む力として決められている。1948 年の国際度量衡総会で、この名前が正式に採用された。

証明

運動の法則は、ほかの何かから導かれる定理ではなく、力学の出発点に置かれる法則である。ここでは、法則から何が導かれ、それが実験とどう合うかを示す。

  1. 質量 、速度 の物の運動量を とする。ニュートンの第 2 法則は、運動量の変わる速さが力に等しいことを言う。

  2. 質量が変わらなければ、 を微分の外に出せる。加速度を と書けば

  3. 力が一定なら加速度も一定である。初めの速さを として、1 回積分すると

  4. もう 1 回積分すると、位置は時間の 2 乗で増える。 なら、等しい時間ごとに進む距離は になり、ガリレオの斜面の測定と一致する。

  5. 地表の重力は質量に比例し、 と書ける。これを第 2 法則に入れると、質量が消える。重い物も軽い物も、空気の抵抗が無ければ同じ加速度で落ちる。

  6. 1784 年、ジョージ・アトウッドは、滑車にかけた糸の両端に少しだけ違う質量 を吊るす装置を発表した。それぞれの物について第 2 法則を立て、糸の張力 を消すと、

  7. 質量の差を小さくすれば、落ちる加速度をいくらでも小さくでき、時計で十分に測れる速さになる。 kg、 kg なら m/s² で、2 秒で 0.48 m しか進まない。測った値はこの式と合い、第 2 法則の検証になった。

光の速さに近い速度では、運動量は になり、 はそのままでは成り立たない。それでも の形は残る。原子の大きさでは、運動方程式は量子力学に置き換わる。ふだんの速さと大きさの世界では、運動方程式はいまも十分な精度で成り立つ。

応用

車の加速。 質量 1500 kg の車が、10 秒で時速 0 km から 100 km(秒速 27.8 m)まで加速するとき、平均の加速度は 2.78 m/s² である。必要な力は N になる。

シートベルトとエアバッグ。 時速 50 km(秒速 13.9 m)で走る車が衝突し、体重 60 kg の人が 0.1 秒で止まるとする。加速度は 139 m/s²、重力の加速度の約 14 倍で、体にかかる力は約 8300 N である。止まるまでの時間を 2 倍に延ばせば、力は半分になる。シートベルトが少し伸び、エアバッグがふくらむのは、止まる時間を延ばすためである。

エレベーターの体重計。 体重 60 kg の人が、上向きに 1 m/s² で加速するエレベーターの中で体重計に乗る。床が人を押す力は N で、目盛りは約 66 kg を指す。下向きに加速すれば軽く、自由に落ちれば 0 を指す。宇宙ステーションの中で体が浮くのは、ステーションごと地球の周りを落ち続けているからである。

計算機の中の物理。 ゲームや映画の映像で物が自然に跳ね、崩れ、飛ぶのは、計算機が 1 コマごとに力を足し合わせ、 で速度と位置を少しずつ進めているからである。天気予報も、大気を小さな箱に分け、それぞれの空気の動きを運動方程式で進めて計算する。

図示

ガリレオの斜面のように、ゆるい坂を転がる球の、等しい時間ごとの位置。1 区間目に 1 進むと、2 区間目に 3、3 区間目に 5、4 区間目に 7 進む。合計の距離は時間の 2 乗に比例する。
アトウッドの装置。滑車にかけた糸の両端に、少しだけ違う質量を吊るす。重いほうはゆっくり加速しながら下がる。その加速度は、重力の加速度 g の (m₁ − m₂)/(m₁ + m₂) 倍になる。

シミュレーション

同じ力で、質量の違う 2 台の台車を押す。下の線の点は 0.25 秒ごとの位置で、押している間は間隔が広がり続け、手を放すと等しい間隔になる。グラフは速さと時間で、傾きが加速度 を表す。質量を 2 倍にすると傾きは半分になる。

広がる学問

  • 物理学 力がどう決まるかさえ分かれば、運動方程式を解いて動きを予言できる。惑星、振り子、ばね、電場の中の電子まで、古典力学のすべての計算がここから始まる(万有引力の法則、振り子の周期)。
  • 工学 車・飛行機・ロケットの設計、建物が地震の揺れで受ける力の計算、ロボットの腕の動かし方は、どれも運動方程式を使う。衝突の安全の設計では、止まる時間を延ばして力を小さくする。
  • 情報科学 ゲームの物理エンジンや、映画のコンピュータグラフィックスは、運動方程式を細かい時間の刻みで数値的に解いている。刻み方によって誤差がたまり、エネルギーが増えたり減ったりするので、解き方そのものが研究の対象になる。
  • 地球科学 天気予報や気候の計算は、空気と海水の運動方程式(流体の運動方程式)を、地球の自転の効果を入れて解く。地震の揺れが地中を伝わる様子も、岩の運動方程式で計算される。
  • 数学 運動方程式は 2 階の微分方程式である。オイラーが力学を微分方程式の言葉で書いたことは、微分積分学そのものの発展を押し進めた(微分積分学の基本定理)。

参考文献

  1. I. Newton, Philosophiae Naturalis Principia Mathematica, London, 1687.(中野猿人 訳・注『プリンシピア 自然哲学の数学的原理』講談社ブルーバックス)
  2. G. Galilei, Discorsi e dimostrazioni matematiche intorno a due nuove scienze, Leiden, 1638.(今野武雄・日田節次 訳『新科学対話』岩波文庫)
  3. L. Euler, "Découverte d'un nouveau principe de mécanique", Mémoires de l'Académie royale des sciences et belles-lettres de Berlin 6 (1750, 印刷 1752), 185-217.(Eneström 番号 E177)
  4. S. Stevin, De Beghinselen der Weeghconst, Leiden, 1586 の付録.(E. J. Dijksterhuis 編 The Principal Works of Simon Stevin, Vol. 1, 1955, 503-529)
  5. G. Atwood, A Treatise on the Rectilinear Motion and Rotation of Bodies, Cambridge, 1784.
  6. NASA, "The Apollo 15 Hammer-Feather Drop", NASA Space Science Data Coordinated Archive.

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