アルキメデスの原理

Archimedes' principle

風呂から裸で飛び出し、「見つけた」と叫んだという。

液体に沈めた物は、押しのけた液体の重さと同じ大きさの浮く力を受ける。船も気球も氷山も、この 1 行で浮き沈みが決まる。

年代
紀元前3世紀
人物
アルキメデス、ヒエロン2世、ウィトルウィウス、ガリレオ・ガリレイ、シモン・ステヴィン
神話・言い伝え

エウレカ

シラクサの王ヒエロン 2 世は、事業がうまくいった礼に、神殿へ金の冠を納めることにした。職人に量った金を渡し、冠を作らせた。できた冠は見事で、重さも渡した金と同じだった。ところが、職人が金の一部を抜き取り、同じ重さの銀を混ぜたという告げ口があった。

王は、冠を壊さずに確かめる方法を考えるよう、アルキメデスに頼んだ。アルキメデスはその問題を抱えたまま、ある日、浴場へ行った。湯船に入ると、体が沈むほど湯があふれ出る。それを見て答えが分かった。喜びのあまり湯船から飛び出し、裸のまま家へ走りながら、ギリシア語で「見つけた、見つけた(エウレカ、エウレカ)」と何度も叫んだ。

話には続きがある。アルキメデスは冠と同じ重さの金の塊と銀の塊を用意し、口まで水を満たした器に順に沈めた。銀は金より多くの水をあふれさせた。冠を沈めると、金の塊よりも多くの水があふれた。こうして銀が混ぜられたことと、職人の盗みが明らかになった。

この話を書き残したのは、ローマの建築家ウィトルウィウスである。『建築について』(紀元前 1 世紀の終わりごろ)第 9 巻の序文に出てくる。アルキメデスが死んでから、およそ 200 年後の記録である。アルキメデス自身の著作には、冠の話も風呂の話も出てこない。

1586 年、22 歳のガリレオ・ガリレイは、小さな論文『小さな天秤』でこの話に疑問を書いた。器からあふれる水の量の差はわずかで、ウィトルウィウスの方法では「おおざっぱ」すぎる。アルキメデスなら、自分の見つけた浮力の原理と天秤を使ったはずだ、とガリレオは考え、水の中で天秤を使って量る方法を示した。風呂の場面が史実かどうかは分からない。ただ「エウレカ」は、発見の喜びを表す言葉として、いまも世界中で使われている。

起源

浮力の原理を、仮定から証明する形で最初に書いたのはアルキメデスである。著作『浮体について』第 1 巻は、液体についての仮定から始まる。液体はどの部分も、上にある部分に押されている。そこから命題を積み重ねていく。

命題 5 は、液体より軽い物を入れると、物の重さと、沈んだ部分が押しのけた液体の重さが等しくなるところまで沈む、と述べる。命題 7 は、液体より重い物は底まで沈み、液体の中で量ると、押しのけた液体の重さの分だけ軽くなる、と述べる。いま「アルキメデスの原理」と呼ぶものは、この 2 つの命題にあたる。第 2 巻では、放物線を回した形の物が液体に浮くとき、傾いても元に戻るかどうかを調べている。船の安定性の理論の、最も古い例である。

『浮体について』のギリシア語の原文は、長いあいだ失われていた。13 世紀にムールベケのギヨームが作ったラテン語訳だけが伝わっていた。1906 年、デンマークの研究者ハイベアが、コンスタンティノープルの祈祷書の下に、消されたアルキメデスの著作が書かれているのを見つけた。10 世紀に書き写された写本の羊皮紙を、13 世紀に削って祈祷書に作り直したものだった。この「アルキメデス・パリンプセスト」は 1998 年に競売にかけられ、その後の画像の解析で、『浮体について』のギリシア語の本文がほぼ読めるようになった。

浮力がなぜ生まれるのかを、圧力で説明したのは、オランダのシモン・ステヴィンである。1586 年の『水の重さの原理』で、水の中のある形の部分を、同じ形の固体に置き換える考え方を示した。周りの水は中身が何かを知らないので、置き換えた固体にも、元の水を支えていたのと同じ力がかかる。この考え方は、いまも教科書の説明の土台になっている。

証明

密度 の液体の中の物にかかる力を、圧力から求める。液面での圧力を 、重力の加速度を とする。

  1. 深さ での圧力は、面積 の上に乗っている液体の柱の重さ を面積で割ったものだけ、液面より大きい。

  2. 上の面が深さ 、高さ 、上下の面の面積が の直方体を沈める。上の面は下向きに、下の面は上向きに押される。

  3. 横の面にかかる力は、向かい合う面どうしで同じ深さに同じ圧力がかかるので打ち消し合う。残るのは上下の差で、上向きに

  4. どんな形の物でも同じになる。物があった場所を、同じ形の液体で置き換えて考える(ステヴィンの考え方)。その液体は止まっているので、周りから受ける力の合計は、自分の重さとちょうど釣り合う上向きの力である。

  5. 周りの液体は、中が液体か物かを区別しない。だから物も同じ力を受ける。これがアルキメデスの原理である。物の重さを とすると、液体の中で量った見かけの重さは

  6. 浮いている物は、沈んだ部分の体積 の分の浮力で自分の重さを支える。 から、沈む割合は密度の比で決まる。

王冠の話に当てはめる。金の密度は 19.3 g/cm³、銀は 10.5 g/cm³ である。1000 g の純金の体積は 51.8 cm³。金 700 g と銀 300 g を混ぜた 1000 g の冠は 64.8 cm³ になる。差は 13.0 cm³ である。口の直径が 20 cm の器なら、水面の高さの差は 0.41 mm にすぎない。ガリレオが「おおざっぱ」と書いたのはこのことである。一方、天秤の両側に冠と 1000 g の金を吊るして水に沈めると、見かけの重さは 935.2 g と 948.2 g になり、13 g の差で天秤ははっきりと金の側へ傾く。

応用

氷山の一角。 氷の密度は約 917 kg/m³、海水は約 1025 kg/m³ である。沈む割合は で、氷山の約 9 割は海面の下にある。

船。 鉄は水の約 8 倍重いが、鉄の船は浮く。中が空洞で、船全体の平均の密度が水より小さいからである。船の大きさを表す「排水量」は、浮いている船が押しのけた水の重さ、つまり船の重さそのものである。排水量 10 万 t の船は、約 97,600 m³ の海水を押しのけている。

熱気球。 20 ℃ の空気の密度は約 1.20 kg/m³ で、100 ℃ に温めると約 0.95 kg/m³ になる。差は 1 m³ あたり約 0.26 kg である。体積 2800 m³ の気球なら、球皮とかごと人を合わせて約 720 kg まで持ち上げられる。空気も液体と同じ流体なので、原理はそのまま使える。

体の密度。 人の体を水に沈めて量る「水中体重法」では、空気中で 70 kg、水中で 3 kg の人の体積は 67 L、密度は約 1.045 kg/L と分かる。脂肪は筋肉や骨より密度が小さいので、体の密度から体脂肪の割合を見積もる。

潜水艦。 潜水艦は、艦の中のタンクに海水を入れたり、圧縮した空気で押し出したりして、平均の密度を海水より少し大きくしたり小さくしたりする。これで潜ったり浮かんだりする。

図示

水に沈めた直方体には、深いほど大きな圧力がかかる。下の面を押し上げる力は、上の面を押し下げる力より大きい。その差が浮力で、押しのけた水の重さに等しい。
ガリレオが考えた量り方。冠と、同じ重さの金を天秤に吊るして水に沈める。銀が混ざった冠は体積が大きく浮力も大きいので、天秤は金の側へ傾く。

シミュレーション

「浮かべる」では、四角い物をドラッグして水に沈め、手を放すと、上下に揺れながら釣り合う深さで止まる。密度のつまみを動かすと、沈む割合が密度の比どおりに変わる。液体を水銀に変えると、鉄も浮く。「王冠」では、銀の割合を変えて、水に沈めたときの天秤の傾きと、器からあふれる水の差を比べられる。

広がる学問

  • 物理学 浮力は、液体の中の圧力が深さとともに増えることから生まれる。流体力学の最初の定理であり、圧力の釣り合いを考える静水力学の出発点になった。アルキメデスは、重心とてこの原理の考え方を使って、浮かぶ物の傾きの問題も解いている。
  • 工学 船の設計では、排水量と重心・浮心の位置から、傾いたときに戻る力を計算する。潜水艦、浮き桟橋、海に浮かべる風力発電の土台も、この計算で設計される。
  • 地球科学 大陸や山脈は、重いマントルの上に浮かぶように釣り合っている(アイソスタシー)。高い山の下には、深く沈んだ軽い岩の「根」がある。氷河が溶けて重さが減った土地が、何千年もかけて持ち上がる現象も、この考え方で説明される。
  • 医学 水中体重法で体の密度を測り、体脂肪の割合を見積もる。水中でのリハビリテーションでは、浮力が体重を支えるので、関節への負担を減らして体を動かせる。
  • 化学 液体の密度を測る浮き秤(比重計)は、浮く深さの目盛りで密度を読む。酒の度数、尿の濃さ、電池の液の状態の検査に使われてきた。

参考文献

  1. ウィトルウィウス『建築について』第 9 巻 序文 9-12(森田慶一 訳『ウィトルーウィウス建築書』東海大学出版会)
  2. アルキメデス『浮体について』第 1 巻 命題 5・7(T. L. Heath, The Works of Archimedes, Cambridge University Press, 1897)
  3. G. Galilei, La Bilancetta (1586).(A. Favaro 編 Le Opere di Galileo Galilei, Edizione Nazionale, Vol. 1)
  4. S. Stevin, De Beghinselen des Waterwichts, Leiden, 1586.
  5. R. Netz, W. Noel, The Archimedes Codex, Weidenfeld & Nicolson, 2007.
  6. C. Rorres, "The Golden Crown", Archimedes Home Page, Drexel University.

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