水で決めた1キログラム
水の密度が1 g/cm³に近いのは、偶然ではない。質量の単位のほうを水に合わせて決めたからだ。キログラムの最初の定義は、氷が融ける温度の蒸留水1リットルの質量で、その後、基準は水の密度が最大になる約4 °Cへ移った。
この結びつきは20世紀まで残る。1901年の第3回国際度量衡総会は、1リットルを、最大密度の純水1 kgが標準大気圧で占める体積と宣言した。この定義を廃止したのは1964年で、今の1リットルは1 dm³の別名である。cm³で測り直すと、4 °Cの水の密度は0.99997 g/cm³で、1をわずかに下回る。
式の向きも、初めから今と同じだったわけではない。ニュートンは1687年の『プリンキピア』の定義1で、物質の量を密度と体積の積として定めた。密度が2倍の空気が2倍の空間にあれば、量は4倍になるという。エルンスト・マッハは力学史の著書で、密度はそもそも単位体積あたりの質量なのだから、これでは質量の説明にならないと批判した。今は逆に、質量と体積を測り、割り算で密度を出す。
割り算と単位の読み替え
小学校の理科で学ぶ「体積が同じでも重さは違うことがある」を1つの数にしたのが、密度である。文部科学省の解説では、中学校第1学年の「身の回りの物質」の学習例に、物質の体積や質量に着目して密度を測り、物質を区別する実験が挙がっている。密度の記号はギリシャ文字で、ローと読む。
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金属片の質量と体積を測る
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同じ物質なら質量は体積に比例する
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両辺をで割る
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測った値を代入する
米国立標準技術研究所(NIST)の表ではアルミニウムが2.699 g/cm³なので、この金属片はアルミニウムとみてよい。1 cm³あたりにそろえたので、大きさの違う物でも比べられる。同じ物質で温度と圧力が同じなら、大きな塊でも小さな粒でもは同じだ。
単位はg/cm³に限らない。物理ではkg/m³をよく使う。換算でつまずくのは体積のほうである。
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質量の単位を直す
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長さの換算を3乗して体積を直す
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手順5の式を手順6の式で割る
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指数を計算する
1 mは100 cmだが、1 m³は100 cm³ではない。縦、横、高さのそれぞれで100倍になるので、100万cm³である。つまり水はおよそ1,000 kg/m³で、1 kg/Lと言っても同じことだ。
では、2つの物を合わせた全体の密度はどうなるか。
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全体の質量は足し算になる
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体積も足し算になるとみて、手順3を使う
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全体の質量を全体の体積で割る
金700 gと銀300 gの冠で計算してみる。アルキメデスの原理の記事と同じく金を19.3 g/cm³、銀を10.5 g/cm³とすると、体積は64.8 cm³で、全体の密度は15.4 g/cm³になる。2つの密度の平均14.9 g/cm³は出てこない。
シラクサの王冠の話も、銀を混ぜると同じ質量でも体積が増えることを使う。ただし、これを書き残したのはウィトルウィウスで、アルキメデスの死からおよそ200年後の記録である。本人の著作に冠の話は出てこない。
0.5%のずれから見つかった元素
同じ物質でも、密度は温度で変わる。NISTのデータで1気圧の水を見ると、0 °C付近で0.99984 g/cm³、4 °C付近で0.99997 g/cm³、20 °C付近で0.9982 g/cm³となり、4 °C付近が山である。4 °Cの水1 kgを20 °Cまで温めると、体積は約0.18%増える。0.917 g/cm³ほどの氷になると0 °Cの水より体積が約9%増えるので、氷は水に浮く。
小さな差を見逃さなかったおかげで、新しい元素が見つかったこともある。レイリーは気体の密度を測り直すうちに、空気から取り出した窒素と、アンモニアを使って作った窒素の密度が1,000分の1だけ違うことに気づいた。誤差では説明できない差である。しかし、1892年に結果を公表して助言を求めても、原因は分からなかった。ノーベル賞の講演でレイリーは、食い違いが現れたら、消そうとする本能に従うより、まず拡大してみるのがよいと語っている。
そこで窒素をすべてアンモニアから取るやり方に変えると、差は200分の1まで広がった。空気の中に、窒素より重い未知の気体が混じっていたのだ。1894年、レイリーはウィリアム・ラムゼーとともにこの気体を取り出した。アルゴンである。空気の1%ほどを占める気体が、それまで見過ごされていた。
液体に入れた物が浮くか沈むかも、物と液体の密度の比で決まる。その話はアルキメデスの原理に続く。
銅を見分け、冠の銀を量る
例題 1基本金属を見分ける
質量44.8 g、体積5.00 cm³の金属片がある。アルミニウム2.70 g/cm³、鉄7.87 g/cm³、銅8.96 g/cm³、銀10.5 g/cm³のうち、どの金属と考えられるか。
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質量を体積で割る。
銅と考えられる。
例題 2基本教室の空気の質量
空気の密度を1.2 kg/m³とする。(1)この密度をg/cm³で表せ。(2)縦9.0 m、横8.0 m、高さ3.0 mの教室にある空気の質量を求めよ。
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(1)手順8の逆で、kg/m³の数値を1,000で割る。
(2)をについて解く。
約260 kgで、軽いと思っている空気も、教室1つ分なら大人4人分ほどの質量になる。
例題 3入試冠に混ぜた銀の量
金と銀だけでできた質量1,000 g、体積60.0 cm³の冠がある。金の密度を19.3 g/cm³、銀の密度を10.5 g/cm³とし、体積は足し算になるとして、銀の質量を有効数字2桁で求めよ。
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銀の質量を gとすると、金は gである。体積の和を式にする。
について整理する。
右辺は約8.19、左辺の係数は約0.0434である。
銀は約190 gとなる。純金なら体積は51.8 cm³のはずで、8.2 cm³の差から銀の量を逆算したことになる。
例題 4入試濃塩酸のモル濃度
質量パーセント濃度36%、密度1.18 g/cm³の濃塩酸について、(1)モル濃度を有効数字2桁で求めよ。(2)1.0 mol/Lの塩酸を500 mL作るのに必要な濃塩酸の体積を、有効数字2桁で求めよ。HClのモル質量は36.5 g/molとする。
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(1)体積の話を質量に直すところで密度を使う。溶液1 L、つまり1,000 cm³で考える。
溶けているHClは、その36%である。
物質量に直す。
1 Lあたりなので、モル濃度は約12 mol/Lである。
(2)必要なHClは molである。
約43 mLとなる。
ドライアイスと氷の体積を問う
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第1問 問5:密度1.60 g/cm³のドライアイス1.10 cm³がすべて気体になったときの体積を選ぶ。密度から質量を出し、物質量へ進む。出典は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」。
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第2問 問3 b:空気から得た気体の密度が純粋な窒素より0.50%大きいというレイリーの結果から、その気体に含まれるアルゴンの体積百分率を求める。出典は上と同じ。
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第1問 問4 b:1.01×10⁵ Paでの氷と水の密度の温度変化を表すグラフを読み、体積の大小や冷やした水の動きについて、正しい記述を選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎 第1問 問6:単体の密度と原子量から、1.0 cm³に含まれる原子の数を求める。出典は大学入試センター「令和6年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』(2017)、第2章 第2節 第1分野2(2)身の回りの物質、36-37ページ
- Bureau International des Poids et Mesures, The International System of Units (SI), 9th ed. (2019), Appendix 1: 3rd CGPM (1901), pp. 153-154; 12th CGPM (1964), Resolution 6, p. 163, https://www.bipm.org/documents/20126/41483022/SI-Brochure-9-EN.pdf
- Standards and Calibration Laboratory, Innovation and Technology Commission (Hong Kong), "Mass (the kilogram, kg)"
- K. Fujii, "A new density standard replaced from water", Synthesiology (English edition), Vol. 1, No. 3 (2008), https://www.aist.go.jp/pdf/aist_e/synthesiology_e/vol1_no3/vol01_03_p33_p44.pdf
- I. Newton, The Mathematical Principles of Natural Philosophy, trans. A. Motte (1846), Definitions, Definition I
- M. Hubert, "Quantity of Matter or Intrinsic Property: Why Mass Cannot Be Both", arXiv:1512.03295(2015)(マッハの批判の引用)
- National Institute of Standards and Technology, "X-Ray Mass Attenuation Coefficients, Table 1"(元素の密度)、NIST Chemistry WebBook, "Isobaric Properties for Water"(水の密度)
- Lord Rayleigh, "The Density of Gases in the Air and the Discovery of Argon", Nobel Lecture (1904)
- Lord Rayleigh, "Density of Nitrogen", Nature, Vol. 46 (1892), pp. 512-513
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎」「令和6年度 大学入学共通テスト 本試験 化学」「令和6年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学基礎」