理想気体の状態方程式

Ideal gas law

J の字の管に水銀を注ぎ足し、空気の「ばね」を測った。

気体の圧力・体積・温度・物質量の関係を 1 本にまとめた式。タイヤの空気圧や気球から、化学の計算、天気、エンジンの設計まで。

年代
1834年
人物
ロバート・ボイル、リチャード・タウンリー、ジャック・シャルル、ジョゼフ・ルイ・ゲイ=リュサック、アメデオ・アボガドロ、エミール・クラペイロン、ルドルフ・クラウジウス
逸話

空気のばね

1660 年、ロバート・ボイルは『空気のばねとその効果についての物理・力学的な新実験』を出した。助手のロバート・フックと作った空気ポンプで、ガラスの器から空気を抜いていくと何が起きるかを、43 の実験として書いた本である。ボイルは、空気には押し縮めると押し返す「ばね」の性質があると考えた。

この本に、イエズス会の学者フランシスクス・リヌスが反論した。管の中の水銀を支えているのは空気の重さや押す力ではなく、目に見えない糸のようなものが水銀を上から引いている、という説である。

ボイルは 1662 年、本の第 2 版に付けた「空気のばねと重さについての説の弁護」で、実験によって答えた。使ったのは、J の字の形に曲げたガラス管である。短い方の端を閉じ、長い方の口から水銀を注ぐ。曲がった所に水銀がたまると、短い方に空気が閉じ込められる。水銀を注ぎ足していくと、閉じ込めた空気は押し縮められる。

ボイルは、空気の柱の長さと、空気を押している水銀の高さ(大気の圧力の分を足したもの)を、1 行ずつ表にした。表の最初の行は、空気の長さ 48 目盛りに対して水銀 29 2/16 インチ。最後の行は、長さ 12 目盛りに対して 117 9/16 インチ。長さが 1/4 になると、押す力はほぼ 4 倍になった。長さと高さを掛けると、どの行もおよそ 1400 になる。

この反比例の関係を、ボイルは自分の発見とはしていない。本の中で、イングランド北部のリチャード・タウンリーの考えとして紹介している。タウンリーは、友人の医師ヘンリー・パワーとの実験から、この関係を考えついていた。フランスではエドム・マリオットが 1670 年代に同じ法則を独立に発表し、フランス語の世界では「マリオットの法則」とも呼ばれる。

起源

温度との関係は、空を飛ぶ実験とともに調べられた。

1783 年 12 月 1 日、フランスの物理学者ジャック・シャルルは、ニコラ=ルイ・ロベールとともに、水素を詰めた気球でパリのチュイルリー庭園から飛び立った。約 2 時間で 36 km ほどを飛び、そのあとシャルルは 1 人で約 3000 m まで上がった。

シャルルは 1787 年ごろ、いくつかの種類の気体で、同じ温度だけ温めると同じ割合だけふくらむことを確かめた。ただし、結果を発表しなかった。1802 年、ジョゼフ・ルイ・ゲイ=リュサックが同じ関係を詳しく測って発表し、シャルルの未発表の実験を先に行われたものとして紹介した。0 °C から 100 °C まで温めると、どの気体もほぼ同じ割合で体積が増える。この関係を逆にたどると、体積が 0 になる温度は約 −273 °C になる(ゲイ=リュサック自身の測定からは約 −267 °C)。のちのケルビンの絶対温度の考えにつながった。

1811 年、アメデオ・アボガドロは、同じ温度・同じ圧力・同じ体積の気体には、種類によらず同じ数の分子が含まれる、という仮説を立てた。

1834 年、フランスの技術者エミール・クラペイロンは、ボイルの法則とシャルル(ゲイ=リュサック)の法則を 1 つの式にまとめた。熱機関の効率を論じたカルノーの考えを数式で書き直した論文の中である。これが状態方程式の始まりで、のちに物質量 と気体定数 を使ういまの形 に整えられた。

なぜこの式が成り立つのかは、気体を飛び回る無数の分子と考える気体分子運動論が説明した。1738 年のダニエル・ベルヌーイの『流体力学』に原型があり、1856 年のクレーニッヒ、1857 年のクラウジウスが、圧力を分子の衝突から導いた。

証明

1 辺 の立方体の箱に、質量 の分子が 個入っているとする。分子どうしはぶつからず、壁とは弾性衝突するとする。

  1. 方向の速さ の分子が、 に垂直な壁にぶつかってはね返ると、運動量は から に変わる。壁が受け取る運動量は

  2. この分子は、箱を往復する時間 ごとに同じ壁にぶつかる。壁が受ける平均の力は

  3. 個の分子について足し、面積 で割ると、圧力は( は平均)

  4. 分子はどの向きにも同じように飛ぶので、。したがって

  5. 温度 の気体の分子 1 個の運動エネルギーの平均は、ボルツマン定数 を使って

  6. 5 を 4 に入れると 。分子の数を物質量 で ( はアボガドロ定数)と書き、 とおくと

5 は、分子の速さの分布(マクスウェル・ボルツマン分布)から導かれる。歴史の順で見れば、ボイルとシャルルの実験に合うように温度の意味を決めた関係とも読める。

「理想」と付くのは、分子の大きさと、分子どうしが引き合う力を無視しているからである。圧力が高いときや温度が低いときは、この式からずれる。1873 年、ファン・デル・ワールスは、この 2 つを補った式を出した。

応用

1 mol の気体の体積。 J/(mol·K) を使うと、0 °C(273.15 K)・1 気圧(101325 Pa)で 1 mol の気体の体積は

で、22.4 L になる。気体の種類によらない。

タイヤの空気圧。 20 °C でタイヤの空気圧計が 230 kPa を指していたとする。空気圧計は大気圧との差を示すので、中の圧力は約 331 kPa である。走って中の空気が 50 °C になると、体積がほぼ変わらないので、圧力は絶対温度に比例して kPa、空気圧計では約 264 kPa に上がる。空気圧を測るのは、走る前の冷えた状態がよい。

空気の密度と熱気球。 空気 1 mol の質量を 0.029 kg とすると、密度は から、20 °C・1 気圧で約 1.20 kg/m³ になる。熱気球の中の空気を 100 °C にすると、密度は 倍に下がり、1 m³ あたり約 0.26 kg 軽くなる。体積 2800 m³ の気球なら、およそ 720 kg を持ち上げられる。

潜水。 水深 10 m では、水の重さの分だけ圧力が 2 気圧になる。温度が同じなら、肺の中の空気の体積は水面の半分になる。逆に、深い所で吸った空気は、息を止めたまま浮上するとふくらんで肺を傷つける。ダイビングで「息を止めて浮上しない」と教えるのはこのためである。

図示

ボイルの J 字管。水銀を注ぎ足すと、閉じた側の空気は押し縮められる。左右の水銀の高さの差 h と大気の圧力の和が、空気の圧力になる。
同じ温度での圧力と体積の関係(等温線)。どの点でも長方形の面積 PV は等しい。温度が高いほど、曲線は外側に移る。

シミュレーション

箱の中を飛ぶ点が気体の分子である。上のふたは自動でゆっくり止まり、すっと押し縮める。ふたをドラッグして動かすこともできる。分子が当たってふたが受ける力から測った圧力は、体積を半分にすると約 2 倍になり、グラフで等温線の上に乗る。押している間は、分子がふたにはね返されて速くなり、圧力は等温線より少し高くなる。熱が逃げると等温線に戻る。「温度を一定に保つ」を外すと熱が逃げず、押すと温度が上がり、広げると下がる。行き来をくり返すと、押すときに上がる分のほうが少し大きく、温度は少しずつ上がっていく。画面の箱は 2 次元なので、圧力は単位の長さあたりの力で表している。分子どうしの衝突は計算していない。代わりに、ときどき速さを保ったまま進む向きだけを変えて、縦と横の動きを混ぜている。

広がる学問

  • 物理学 気体分子運動論は、目に見えない分子の動きから、圧力や温度という目に見える量を導いた最初の成功で、統計力学の出発点になった。ボルツマンのエントロピーの考えも、ここから育った。
  • 化学 反応で出る気体の体積から物質量を求めたり、気体の密度から分子量を求めたりする計算は、この式を使う。現実の気体とのずれを補うファン・デル・ワールスの式は、液体と気体の変わり目の説明につながった。
  • 地球科学 上空ほど空気の圧力と密度が下がる様子や、空気が上昇して膨らむと冷え、雲ができる仕組みは、この式と熱力学で計算する。
  • 工学 エンジンの中で燃えた気体が膨らんでピストンを押す仕事や、エアコンや冷蔵庫の冷媒の圧縮と膨張の設計に使う。
  • 医学 人工呼吸器の設定や、高気圧酸素治療、潜水の減圧の計画は、気体の圧力と体積の関係をもとにしている。

参考文献

  1. Robert Boyle, New Experiments Physico-Mechanicall, Touching the Spring of the Air, and its Effects (Oxford, 1660; 2nd ed. 1662, with "A Defence of the Doctrine Touching the Spring and Weight of the Air").
  2. J. L. Gay-Lussac, "Recherches sur la dilatation des gaz et des vapeurs", Annales de chimie 43 (1802), 137-175.
  3. É. Clapeyron, "Mémoire sur la puissance motrice de la chaleur", Journal de l'École polytechnique 14 (1834), 153-190.
  4. R. Clausius, "Ueber die Art der Bewegung, welche wir Wärme nennen", Annalen der Physik 100 (1857), 353-380.
  5. Stephen G. Brush, The Kind of Motion We Call Heat (North-Holland, 1976).

姉妹サイト

株式会社Game が運営するメディアです。