てこの原理

Law of the lever

立つ場所さえあれば、地球を動かしてみせよう。

支点の両側で、重さと支点からの距離の積が等しければ、てこは釣り合う。小さな力で大きな重さを動かす道具すべての原理。

年代
紀元前3世紀
人物
アルキメデス、ヒエロン2世、パッポス、プルタルコス、エルンスト・マッハ
神話・言い伝え

地球を動かす

「我に立つ場所を与えよ。さらば地球を動かさん」。アルキメデスの言葉として、2000 年以上語り継がれてきた一言である。

この形の言葉を書き残したのは、アルキメデスより 500 年ほど後、4 世紀のアレクサンドリアの数学者パッポスである。『数学集成』第 8 巻で、与えられた力で与えられた重さを動かす方法を論じた箇所に、アルキメデスの言葉として引かれている。

もっと詳しい場面を書いたのは、1 世紀から 2 世紀のギリシアの伝記作家プルタルコスである。『対比列伝』のマルケルス伝 14 章によれば、アルキメデスはシラクサの王ヒエロン 2 世に宛てて、与えられた力でどんな重さでも動かせると書き、もう 1 つ地球があってそこへ行けるなら、この地球を動かしてみせるとまで言った。驚いた王が、実際に大きな重さを小さな力で動かして見せよと求めた。アルキメデスは、大勢の人手で浜に引き上げたばかりの王家の 3 本マストの商船に、たくさんの人と荷を積ませた。そして離れたところに座り、滑車を組み合わせた仕掛けを手で静かに動かして、船をまるで海を進むようにすべらせて引き寄せたという。

道具は、伝える人によって違う。プルタルコスは組み合わせ滑車と書き、2 世紀から 3 世紀の著述家アテナイオスは、ヒエロンの巨大な船シュラコシア号をアルキメデスがねじの仕掛けで海へ下ろしたと書いている。どの話も、アルキメデスの死から数百年後に書かれた。本人が本当にそう言ったのか、船の実験が本当にあったのかは分からない。

もう 1 つの話は、記録がずっと確かである。紀元前 214 年から 212 年にかけてローマ軍がシラクサを包囲したとき、アルキメデスが作った機械が城壁を守った。歴史家ポリュビオスは『歴史』第 8 巻に、その様子を書いている。城壁から突き出た腕の先に、鎖で鉄の爪が下がっている。爪が船首をつかむと、城壁の内側で腕の反対の端を押し下げ、船を艫(とも)で立たせるまで持ち上げる。そこで爪と鎖を急に放すと、船は横倒しになったり、ひっくり返ったり、水をかぶって沈んだりした。巨大なてこである。シラクサは結局落ち、アルキメデスはローマ兵に殺された。

起源

てこそのものは、文字より古い。はね釣瓶(長い棒の一端に桶、もう一端に重りを付けて水をくむ道具)や天秤ばかりは、古代のメソポタミアやエジプトの絵に描かれている。重さが釣り合う位置で物の重さを量ることは、交易の基本だった。

釣り合いを理屈で説明しようとした最古の文章の 1 つは、アリストテレスの学派の『機械学の問題』(紀元前 4 世紀から 3 世紀ごろ)である。てこの長い腕の先は、同じ角度だけ回るあいだに大きな円を描く。だから小さな力で大きな重さを動かせる、という説明だった。動かされる重さと動かす重さの比は、支点からの長さの逆の比になる、とも書かれている。ただし、それを定義と仮定から証明してはいない。

釣り合いの条件を、定義と仮定から証明する形で書いたのがアルキメデスである。著作『平面の釣り合いについて』第 1 巻は、いくつかの仮定から始まる。等しい重さは等しい距離で釣り合う。等しい重さが等しくない距離にあれば、遠いほうへ傾く。そこから重心の性質を積み重ね、命題 6 で「通約できる 2 つの重さは、重さに反比例する距離で釣り合う」、命題 7 で通約できない重さについても同じことを示した。

アルキメデスはこの法則を、物理の道具にとどめなかった。のちに見つかった手紙『方法』では、図形を細く切っててこの両側に吊るし、釣り合いから面積や体積を求めている。球の体積が、外接する円柱の であることも、まずこの方法で見つけたと書いている。

時代が下って 16 世紀から 17 世紀、ステヴィンやガリレオは、てこが釣り合うとき、片側の重さとそれが動く高さの積が、もう片側の積と等しいことに目を向けた。重さ 動いた高さ、つまり仕事が、てこを通しても増えも減りもしない。この見方は、のちの仮想仕事の原理とエネルギーの考え方につながっていく。

証明

アルキメデスの考え方で、通約できる場合を示す。左に重さ 、右に重さ ( は単位の重さの個数)を、支点 から距離 , に吊るす。 のとき釣り合うことを示す。

  1. なので、ある長さ を使って次のように書ける。

  2. 左の重さ を、1 個の幅が の単位の重さ 個に分け、左の吊り点を中心に並べる。並びの全体の幅は で、並びの重心は元の吊り点にある(左右対称だから)。

  3. 右の重さ も同じく 個に分け、右の吊り点を中心に並べる。全体の幅は

  4. 左の並びは から まで、右の並びは から まで。左の右端と右の左端は同じ点 で、すき間なくつながる。

  5. つながった並びは、 個の同じ重さが等しい間隔で支点の両側に対称に並んだものになる。仮定「等しい重さは等しい距離で釣り合う」から、これは支点で釣り合う。

  6. 各並びは、元の重さを重心の位置を変えずに分けたものだから、元の 2 つの重さも支点で釣り合う。

いまの物理では、仕事から同じ式を導ける。てこを小さな角度 だけ傾けると、左の重さは 下がり、右の重さは 上がる。釣り合っていれば、一方が失う位置エネルギーと他方が得る位置エネルギーが等しいので、、つまり になる。力 支点からの距離を「力のモーメント」と呼ぶ。

1883 年、物理学者エルンスト・マッハは『力学の発達』で、アルキメデスの証明を批判した。重さを分けて並べ直しても釣り合いが変わらない、と考えた時点で、証明したいことをすでに使っている、という指摘である。証明が何を仮定しているかを問い直したこの議論は、物理学の基礎についての考え方に影響を与えた。

応用

シーソー。 体重 60 kg の大人が支点から 1 m に座れば、20 kg の子どもは 3 m の位置で釣り合う。 である。

バールと栓抜き。 支点から力をかける点までが 1.2 m、支点から持ち上げる物までが 6 cm のバールは、力を 倍にする。30 kg 分の力で押せば、600 kg 分の重さを持ち上げられる。その代わり、手は持ち上げる高さの 20 倍の距離を動かさなければならない。力は得をしても、仕事は得をしない。

人の腕。 ひじを支点とすると、力こぶの筋肉(上腕二頭筋)は、ひじから約 4 cm の骨に付いている。手のひらはひじから約 35 cm にある。手に 5 kg の荷物を持って腕を水平に保つには、筋肉は kg 分、約 430 N の力を出さなければならない。体のてこは力では損をするが、手を筋肉の約 9 倍の速さで動かせる。

さおばかり。 支点から 5 cm の鉤に荷物を吊るし、反対側で 1 kg のおもりをすべらせる。おもりが 30 cm の位置で釣り合えば、荷物は kg である。

地球を動かすてこ。 地球の質量は約 kg である。仮に地上と同じ重力のもとで、60 kg 分の力で持ち上げるとすれば、腕の長さの比は になる。短い腕を 1 m とすれば、長い腕は m、光が約 1000 万年かかって進む距離である。地球を 1 cm 持ち上げるには、手の端を約 10 万光年動かさなければならない。

図示

上は、3 つの重さを支点から 2、2 つの重さを 3 の距離に置いたてこ。下は、アルキメデスの証明のように、それぞれの重さを吊り点を中心に幅 2 ずつ並べ直したもの。5 つの重さが左右対称に並ぶので、支点で釣り合う。

シミュレーション

棒の上のおもりを左右にドラッグすると、支点からの距離が変わる。つまみでおもりの重さを変えられる。棒の下の 2 つの長方形は、横が距離、縦が重さで、面積が を表す。面積が等しいとき、棒は傾きを止めて水平に戻る。片方が大きいと、そちらへ傾く。差が大きいほど深く傾き、12° で止まる。

広がる学問

  • 物理学 てこの法則は、力のモーメント(トルク)の釣り合いとして、回転するすべての物の力学に広がった。モーメントの和が 0 であることは、物が回り出さない条件として、橋から人工衛星の姿勢の制御まで使われる。
  • 工学 はさみ、ペンチ、くぎ抜き、クレーン、自転車のブレーキのレバーは、すべててこである。歯車や滑車も、支点からの距離の比で力と速さを交換する仕掛けと見ることができる。
  • 医学 骨と関節と筋肉は、てことして働く。体の動きを力学で調べる分野(生体力学)では、関節にかかる力を、筋肉が付く位置と荷物の位置の比から見積もり、腰痛の予防や義足の設計に使う。
  • 建築 片持ち梁(一端だけを壁で支えた梁)の根元には、先にかかる重さと長さの積のモーメントがかかる。張り出したベランダや屋根を支える梁の太さは、この計算で決まる。
  • 数学 重心の考え方は、アルキメデスが法則を証明するために作り上げたものである。彼は図形を細く切っててこに吊るす方法で、放物線と直線で囲まれた部分の面積や球の体積を見つけた。積分の考え方の先がけとして知られる。

参考文献

  1. アルキメデス『平面の釣り合いについて』第 1 巻 命題 6・7(T. L. Heath, The Works of Archimedes, Cambridge University Press, 1897)
  2. パッポス『数学集成』第 8 巻(Pappus of Alexandria, Collection, Book VIII)
  3. プルタルコス『対比列伝』マルケルス伝 14 章(河野与一 訳『プルターク英雄伝』岩波文庫)
  4. ポリュビオス『歴史』第 8 巻(城江良和 訳、京都大学学術出版会)
  5. E. Mach, Die Mechanik in ihrer Entwickelung historisch-kritisch dargestellt, Leipzig, 1883.
  6. M. Clagett, "Archimedes", Dictionary of Scientific Biography Vol. 1, Scribner, 1970.

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