不等号は極限で等号を許す
どのでもが成り立つ。それなのに、の極限は1で、1より小さくはならない。不等号のは、極限をとるとまでしか残らないのだ。だから、ある数列を上と下からはさんでも、ふつうは行き先のおよその範囲しか分からない。範囲が1点に縮むのは、上と下の数列が同じ値に近づくときだけである。それを言い切るのが、はさみうちの原理だ。
両側から追い込んで値を決めるやり方は、紀元前3世紀のアルキメデスが円周率で使っている。MacTutorの伝記によると、アルキメデスは『円の計測』で、円に内接する正多角形と外接する正多角形を正96角形まで計算し、円周率がとのあいだにあることを示した。小数にすれば3.1408と3.1429で、幅は0.002ほどしかない。2つの多角形の周を今の記号で書くと、下の手順5の不等式がそのまま現れる。円の面積を同じはさみ方で示す筋道は、円の面積と円周率で読める。
差をとって0に追い込む
この計算の道すじ。 引き算1回で「0に近づくかどうか」の話に直し、原理を示す(手順1〜4)。揺れる数列で使い方を確かめ、等号の扱いと使えない場合を押さえる。最後に、三角形と扇形の面積からを導く(手順5〜9)。
記号の読み方
、、は、数を順に並べた数列の番目の数で、並んだ1つ1つの数を項と呼ぶ。右下の小さいが番号で、は1番目、は5番目にあたる。
は「左は右以下」という印だ。は、どの番号でもが以上で以下、つまりが2つの数列にはさまれていることを表す。
は「リミット」と読み、数列の行き先を聞く記号である。は番号をどこまでも大きくするという意味で、(無限大)は数ではなくその様子を表す印だ。
は「番号を大きくすると、はいくらでもに近づく」と読む。はアルファと読む文字で、この行き先の値を極限という。は「左が成り立つなら右も成り立つ」の印である。
公式全体は「どの番号でもがはさまれていて、両側の行き先が同じなら、間の行き先もである」と言っている。
数を入れて確かめる。、なら、が0に近づくので、両側の行き先はどちらも1である。間のは、1からだけ下と上へ交互にずれた数とする。
ではで、上と下の幅は0.02しかない。幅が0へ縮むので、間のに逃げ場はない。
つまみで番号を増やすと、上下の幅が縮み、点が1の線に寄っていく。行き先の差を0より大きくすると、幅はその差より縮まず、間の点は揺れ続ける。
引き算で0の話にする
はさみうちの原理は、引き算1回で「0に近づくかどうか」の話に直せる。すべてのでが成り立ち、とがどちらもに収束するとする。収束とは、行き先が1つの値に決まることをいう。
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各辺からを引く
同じ数を引くと、数直線の上で3つの点が同じだけ左へ動くので、並ぶ順番は変わらない。なら、から0.8を引いてになる。
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右端は収束する数列の差なので極限は0
ももに近づくので、その差はからを引いた0に近づく。
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0以上で、0に近づく量以下なので0に近づく
手順3は、0からの離れ方が、0に縮んでいく数より小さいと言っているにすぎない。枠が0へ縮めば、枠の中にある斜線の棒も0へ縮むしかない。
は、に差のを足し戻した数である。ならだ。
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をと差の和に戻す
足す前のはに近づき、足す差は手順3で0に近づく。だから和のは、つまりに近づく。
もっとも、不等式はすべてのでなくても、ある番号から先で成り立てば足りる。極限は、はじめの有限個の項に左右されないからだ。
大学の証明では、手順3を「どんなに小さな誤差を注文されても、ある番号から先はその中に入る」と言い直す。その問答の形はlimと∞の読み方で読める。
揺れる数列の例
たとえばは、符号を変えながら揺れる。では、行き先はどう決まるのか。
のは角の大きさで、度ではなく弧の長さで測る。半径1の円で、角に向かい合う弧の長さをそのまま角の大きさとする測り方を、弧度法という。半周の弧の長さは(約3.14)なので、が180°にあたる。
は、半径1の円周上にある点の高さを表す。点Aから左回りに弧の長さだけ進んだ点の高さが、である。
円の一番上の高さは1、一番下はなので、はそのあいだから出られない。
は正の数なので、各辺をで割っても不等号の向きは変わらない。
ならで、20で割ると約0.046になり、と0.05のあいだに収まる。は「ほぼ等しい」の印である。
次に両端の行き先を調べる。を大きくするとは0.1、0.01、0.001と0に近づき、も負の側から0に近づく。
両側の行き先がどちらも0なので、はさみうちの原理から、間の行き先も0に決まる。
自体は揺れ続けるが、分母のが揺れの幅ごと押しつぶす。
等号は要らない
公式のは等号を含む印である。では、等号が成り立つ番号はいくつ要るのか。答えは、1つも要らないし、いくつあってもよい。
は「小さいか、等しいか」のどちらかを言うだけだ。どの番号でもなら、も正しい。だからでつないだ不等式にも、原理はそのまま使える。
、、とすると、どの番号でも等号なしで次の不等式が成り立つ。
それでもの行き先は1で、右端と同じ値になる。どの項も1より小さいのに、極限は1に等しい。
反対に、がと進むなら、どの番号でもかのどちらかにぴったり重なる。両側の行き先は0なので、の行き先も0である。
行き先が違うと使えない
一方、だけではの行き先は何も決まらない。はさむ側の極限がとに分かれていて、範囲が1点に縮まないからだ。
同じと1のあいだには、行き先の違う数列がいくつもある。は1へ、は0へ近づき、はどこにも近づかない。
はさむ2つの行き先が同じときだけ、間の行き先が決まる。行き先が違えば、原理は何も言わない。
面積でsinθ/θをはさむ
では、数学IIIで習うはどうか。はシータと読む角の文字で、は角を0に近づけるという意味だ。
を入れるとになり、0で割る計算はできない。式をどう変形しても約分もできない。
ここで、はさみうちの原理が効く。を0.1、0.01、0.001と小さくしていくと、角の値の並びは番号のついた数列そのものである。どんな並べ方で0に近づけても同じ不等式が成り立つなら、番号のかわりに角を動かしても、原理は同じ形で使える。
とし、角は弧度法で測る。は90°にあたる。
半径1の円の中心をO、点A、中心角の円周上の点をP、Aでの接線と直線OPの交点をTとする。接線は、円に1点だけで触れる直線である。
Pの高さが、Pの横の位置がである。直線OPは横に進むと上がるので、横に1進むと上がる。これがATの長さで、と書く。
3つの図形の面積を、1つずつ求める。三角形OAPは、底辺OAが1、高さがPの高さである。
扇形OAPは、面積の円を切り分けた一部である。角を弧度法で測っているので弧の長さはで、全周のにあたる。面積も同じ割合になり、は約分で消える。
三角形OATは、底辺OAが1、高さATがである。
三角形OAPは扇形OAPにすっぽり入り、扇形OAPは三角形OATにすっぽり入る。入る側の面積のほうが小さい。(約40°)ならだ。
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三角形OAP、扇形OAP、三角形OATの面積を比べる
次に、真ん中をとの分数にそろえる。まず各辺を2倍してを消す。
ではは正の数なので、各辺をで割っても不等号の向きは変わらない。左端は1になり、右端はになる。
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各辺を正ので割る
逆数は、1をその数で割った数である。分数なら分母と分子を入れ替えればよく、の逆数はだ。正の数どうしでは逆数をとると大小が入れ替わり、の逆数はとなる。
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逆数をとると不等号の向きが変わる
逆数をとった直後はの順に並ぶ。これを小さいほうから左に書き直したものが手順7である。
は、を正の側から0に近づけるという意味である。を小さくすると点Pは点Aに寄るので、Pの横の位置はAの横の位置1に近づく。
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で左端のは1に近づく
つまみで角を小さくしても、面積の順は入れ替わらない。右の目盛りでは、とがそろって1に寄っていく。
手順8では、右端は1のまま動かず、左端だけが1に近づく。両端の行き先がそろうので、間のも1に決まる。片側が一定の数でも、原理はそのまま使える。
なら、で、たしかに2つのあいだに収まっている。
手順5から7は等号のないだが、等号は要らないのでのかわりに使える。
負の角も同じ
が負の側から0に近づくときは、とおく。は正の数で、は点Aから右回りにだけ進んだ角である。右回りの点は左回りの点の真下に来るので、高さは符号だけが変わり、となる。
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ならとおくと手順8に戻る
分子も分母も符号が変わるので、割り算で打ち消し合う。ならで、正の角の0.7と同じ値になる。
が0に近づけば、右辺は手順8で1に近づく。だからがどちらの側から0に近づいても、は1に近づく。
円周率を内と外から
手順5の不等式でとおき、全体を倍すると、アルキメデスの正多角形が戻ってくる。は、半周の角を等分した角で、が3以上なら手順5の範囲に入る。まず手順5に代入する。
各辺を倍すると、真ん中はとなり、が消える。
左辺は半径1の円に内接する正角形の周の半分、右辺は外接する正角形の周の半分である。内接は頂点が円周に乗って円の内側に入る形、外接は辺が円に触れて円の外側を囲む形をいう。
正角形を、中心と辺の真ん中や頂点を結ぶ線で切り分ける。1周の角が個に分かれるので、切れ端の中心角はである。
この切れ端を2つ合わせると、多角形の1辺ができる。内接なら1辺は、外接ならで、辺の周の半分がそれぞれ左辺と右辺になる。ならは30°で、である。
正6角形から辺を倍にしていくと、2つの値は次のように近づく。
| 内接(下) | 外接(上) | 幅 | |
|---|---|---|---|
| 6 | 3.00000 | 3.46410 | 0.46410 |
| 12 | 3.10583 | 3.21539 | 0.10956 |
| 24 | 3.13263 | 3.15966 | 0.02703 |
| 48 | 3.13935 | 3.14609 | 0.00674 |
| 96 | 3.14103 | 3.14271 | 0.00168 |
辺の数を倍にするたびに、幅はほぼ4分の1になる。幅はおよそで、を2倍すると分母が4倍になるからだ。では0.00168しかない。
ただ、アルキメデスのとは、表の96角形の値より少し外側にある。マイアミ大学のローゼンバーグの解説によると、外接多角形の計算ではのかわりに少し小さいを使っている。
根号を分数に置き換えるとき、範囲が狭まりすぎない向きに丸めれば不等式は崩れない。その分だけ、得られた範囲は外へ広がった。
は、角が小さいときをで置き換えてよい、という近似の裏づけでもある。振り子の周期の式は、この置き換えで導かれる。置き換えの誤差は、(約5.7°)で0.17%にすぎない。
数学IIIの微分法での導関数(グラフの傾きを表す関数)がになることを示すときも、最後に効くのはこの極限である。
片側だけで押し出す形もある。は「左は右以上」の印で、でならとなる。がどこまでも大きくなれば、それ以上のもどこまでも大きくなるからだ。
無限等比数列の極限で、からがどこまでも大きくなること(発散)を示した手順が、この形にあたる。、なら、で、である。
揺れる数列を閉じ込める
例題 1基本振動を幅で押しつぶす
次の極限を求めよ。(1)(2)
解説を見る
(1)も円周上の点の高さなので、である。ならは正の数なので、で割っても不等号の向きは変わらない。
を大きくすると両端は0に近づくので、はさみうちの原理から極限は0である。で値は約、で約0.00022と、幅の中で縮んでいく。
(2)は円周上の点の横の位置なので、は以上1以下である。符号を取った大きさを絶対値といい、と書ける。この式に、で正の数になるを掛ける。
を0に近づけると右端のは0に近づくから、絶対値も0に近づく。符号を取った大きさが0へ縮むので、極限は0である。だけならで揺れ続けて極限をもたないが、を掛けると揺れの幅ごと押しつぶされる。
例題 2基本三角関数の極限に持ち込む
次の極限を求めよ。(1)(2)
解説を見る
(1)とおくと、のときとなる。分母をにそろえるため、分母に3を掛け、同じ3を前にも掛ける。はそのものなので1に近づく。
(2)分母と分子にを掛ける。分子は和と差の積なので、になる。はの2乗である。
半径1の円に入る直角三角形に三平方の定理を使うと、となる。
分子を置き換え、の2乗が見える形に分ける。
でとなり、なのでとなる。
で計算すると0.499996になる。が小さいときとみなせる理由が、この極限である。
例題 3入試小数第n位で切り捨てる
実数について、小数第位より下を切り捨てた数をとする。はを超えない最大の整数を表す。(1)を使って、を示せ。(2)のとき、、を求めよ。また、(1)の不等式だけからと言い切れるの範囲を答えよ。
解説を見る
(1)問題の不等式の各辺をで割る。は正の数なので、不等号の向きは変わらない。左端は、真ん中は、右端はになる。
は0.1、0.01、0.001と0に近づくので、左端はに近づき、右端はのままだ。はさみうちの原理からとなる。
(2)なので、は1.4、は1.41、は1.414である。
(1)の右の不等式からが出る。左の不等式からが出る。
となるで差はより小さい。電卓が表示の桁で数を切り捨てても、桁を増やせば元の数に近づくことの裏づけになっている。
例題 4入試二項定理でn乗根をはさむ
とし、()とおく。(1)二項定理を使ってを示せ。(2)を求めよ。
解説を見る
は、乗するとになる正の数である。ならで、だ。
(1)の両辺を乗すると、になる。これを二項定理で展開する。二項定理は、個のかっこの積をばらす公式である。
ならで、の前の6がである。なのでどの項も正で、の項だけを残すと右辺は小さくなる。
両辺を正の数で割る。左辺はになる。
なので、両辺の正の平方根をとるとが出る。
(2)(1)の結果とを並べると、がはさめる。
を大きくするとは0に近づき、その平方根も0に近づく。はさみうちの原理からとなる。なので、である。
ではで、上からの押さえよりかなり小さい。押さえは粗くても、0に近づきさえすれば極限は決まる。下から押さえる同じ手口は、無限等比数列の極限の例題4にも出てくる。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第3節「数学III」3(1)極限、72-75ページ
- J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Archimedes of Syracuse", MacTutor History of Mathematics, セント・アンドルーズ大学
- B. Rosenberg, "Archimedes and Pi", University of Miami (2003)