鉛筆の先1本で支える
厚紙を三角形に切り抜き、鉛筆の先に乗せてみる。落ちずに止まる点は1か所しかない。3本の中線が交わる点で、頂点からその点までの長さは、中線全体のちょうど3分の2になる。
この点の場所を証明の形で残したのが、紀元前3世紀のアルキメデスだ。T. L. ヒースの英訳によると、著作『平面の釣り合いについて』第1巻の命題13は、三角形の重心が、頂点と向かいの辺の中点を結ぶ直線の上にあるという内容だ。続く命題14で、重心はそうした直線の交点だと結論する。2通りある証明の最初で、アルキメデスは三角形を細い平行四辺形に分け、どの平行四辺形の重心もその直線に乗ることを使った。同じ第1巻には、てこの原理の証明も入っている。
2 : 1はどこから来るか
この証明の道すじ。 中点どうしを結ぶ線が辺の半分になることを確かめる(手順1〜4)。その半分の比を、2本の中線が作る相似な三角形へ移すと2 : 1が出る(手順5〜9)。3本目の中線も同じ点を通ることを示し(手順10〜12)、面積だけでも同じ比が出ることを確かめる(手順13〜20)。
三角形の頂点と、向かい合う辺の中点を結ぶ線分を中線という。1つの三角形に中線は3本あり、その交点Gを重心と呼ぶ。
公式の文字は、頂点と中点を組にして読む。AとM、BとN、CとLが、それぞれ1本の中線の両端だ。AG : GM = 2 : 1は、AGの長さがGMの2倍という意味で、中線全体を3等分すると頂点の側に2つ分、中点の側に1つ分が来る。
頂点Aを動かして細長い形にしても、3本の中線は1点で交わり続ける。右の棒は3本の中線の長さで、斜線がGより頂点の側、斜線のない部分が中点の側を表す。棒の長さは変わるが、2対1の分かれ方は変わらない。
中点を結ぶと半分になる
使う道具は、中学3年で習う中点連結定理である。三角形の2辺の中点を結ぶ線分は、残りの辺に平行で、長さはその半分になる。式の∽は「相似」と読み、形が同じで大きさの違う図形を指す。
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LとNは中点なので、2辺の比が等しい
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角Aも共通なので、2組の辺の比とその間の角から相似になる
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相似の比は1 : 2なので、LNはBCの半分になる
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対応する角∠ALNと∠ABCは同位角で等しいので、2本は平行になる
砂時計の形で比を移す
では、この「半分」を中線の上へ移そう。中線BNとCLの交点をGとする。LNとBCが平行なので、Gをはさんで上下に2つの三角形ができ、砂時計のような形になる。
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平行線LN、BCに直線LCが交わるので、錯角が等しい
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平行線LN、BCに直線NBが交わるので、錯角が等しい
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2組の角が等しいので相似になる
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相似の比は、手順3からLN : CB = 1 : 2である
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比の前後を入れ替える
手順8で組になるのは、LとC、NとB、GとGである。組を取り違えないように、△の頂点は対応する順に書いてある。
3本目も同じ点を通る
残るのは中線AMだ。2本の交点がGだとしても、3本目が同じ点を通るとは、まだ言えていない。そこで、AMとBNの交点をいったんG′と呼ぶ。
手順1〜9は、どの2本の中線で書いても同じ筋で進む。LをMに、CをAに置き換えると、中点を結ぶ線はMNで、△G′MNと△G′ABが相似になる。
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手順9と同じ比が、中線BNの上の点G′でも成り立つ
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BNをBの側から2 : 1に分ける点は1つしかない
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AMもGを通り、手順10と同じ相似から同じ比に分かれる
面積でも2 : 1が出る
相似を使わなくても、同じ比にたどり着ける。使うのは、底辺と高さが等しい三角形は面積も等しいという、小学校以来の事実だけだ。式の△ABMは、三角形ABMの面積を表す。中線AMとBNの交点をGとして、次のように進む。
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BM = MCで高さが共通なので、面積が等しい
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Gを頂点とする2つの三角形も、底辺と高さが同じ
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手順13の両辺から手順14の面積を引く
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中線BNでも、CN = NAから同じ2組の等しい面積ができる
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手順16の上の式から下の式を引く
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Gのまわりの3つの三角形は等しいので、どれも全体の3分の1
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△GBMは手順14から△GBCの半分で、全体の6分の1
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△ABGと△GBMはBからの高さが共通なので、面積の比が底辺の比になる(比の両方を6倍する)
重心という名前のわけ
なぜこの点が「重さの中心」なのか。厚紙の三角形を、辺BCに平行な細い短冊に切ると考える。短冊の1本とBCは、Aから見ると縮図の関係にある。BCはMで2等分されるので、どの短冊も中線AMで2等分され、真ん中の点がAMの上に乗る。
だからAMに沿って定規のふちで支えると、三角形は左右に傾かない。BNでもCLでも同じことが言えるので、3本すべてに乗る点Gの1か所で支えられる。
ただし、短冊を線とみなすこの説明は物理の直観で、まだ証明ではない。アルキメデスは命題13の最初の証明で平行四辺形に分けたあと、外に残る小さな三角形の分まで見積もり、重心が中線から外れると矛盾することを示した。
2 : 1の比は、てこの原理でも見える。3つの頂点に同じ重さのおもりを1ずつ置くと、BとCのおもりは真ん中のMに置いた2と同じ働きをする。あとはAの1とMの2を、棒の両端に下げたてこと考えればよい。
両辺をGMで割るとAG ÷ GM = 2、つまりAG : GM = 2 : 1になる。頂点のおもり3つの重心も3本の中線すべてに乗るので、厚紙の板の重心と同じ点に落ち着く。
てこの見方は、座標の式にもつながる。3つの頂点の座標を、、とする。Mの座標はBとCの真ん中で、Gの座標は、Aに1、Mに2の重さがあるときの平均になる。位置に重さを掛けて足し、重さの合計で割る平均で、重いMのほうへ寄る。
を入れると、2が約分で消える。座標でも同じ計算になるので、重心の座標は3つの頂点の座標の平均だ。
形がいびつな板でも、重心は糸で探せる。板の1点に糸を結んでつるすと、重心は糸を延ばした線の上に来る。別の点でつるし直して線をもう1本引けば、交点が重心である。高校の物理でも物体の重心に触れる。
比と面積をたどる
例題 1基本中線の長さから
△ABCの重心をGとする。中線AMの長さが12、線分BGの長さが10のとき、AG、GM、中線BNの長さを求めよ(MはBCの、NはCAの中点)。
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AMはGで2 : 1に分かれるので、全体を3等分した2つ分がAG、1つ分がGMである。
BG : GN = 2 : 1なので、GNはBGの半分の5である。
例題 2基本頂点の座標から
、、を頂点とする三角形の重心Gの座標を求めよ。さらに、BCの中点Mを求め、GがAMを2 : 1に分けることを確かめよ。
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3つの頂点の座標の平均を求める。
である。Mは、BとCの座標の平均で、座標は、座標はになる。
AからMへ、は、は変わる。その3分の2はが1、が−3なので、Aから進むととなり、Gに一致する。
例題 3入試重心を通る平行線
△ABCの重心Gを通り辺BCに平行な直線が、辺AB、ACと交わる点をP、Qとする。BC = 9のとき、PQの長さと、△APQと△ABCの面積の比を求めよ。
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BCの中点をMとすると、AG : GM = 2 : 1なので、AG : AM = 2 : 3である。PQとBCは平行なので、△APQと△ABCは相似で、その比はAG : AM = 2 : 3になる。
相似な図形の面積の比は、相似の比の2乗になる。
例題 4入試中点を結んだ三角形の面積
△ABCの面積が36で、重心をG、辺AB、ACの中点をL、Nとする。△GBCと△GLNの面積を求めよ。
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手順18から、△GBCは全体の3分の1である。
手順7から△GLNと△GCBは相似で、比は1 : 2である。面積の比はその2乗の1 : 4になる。
共通テストに出た重心
- 2026年 大学入学共通テスト 本試験 数学I・数学A第3問:二等辺三角形ABCの内心IとB、Cで作る△IBCの重心Gの真上に点Pをとり、三角錐PABCの体積を考える。高さのPGを出すには、中線IDをGが2 : 1に分けることからAGの長さが要る。出典は大学入試センター「令和8年度 本試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 数学I・数学A第3問:重心と外心がどの直線の上にあるかを選ぶ問いから始まり、円に内接する△ABCの重心Gについて、中線をCG : GD = 2 : 1に分けることからCGの長さを求める。その先で、同じ円に内接し重心がGと一致する三角形の個数を考える。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「数学A」3(1)図形の性質、90ページ(「重心,内心,外心などの性質など」)。第1節「数学Ⅰ」40ページは重心の性質を数学Aで扱うと書き、「数学C」118ページは3つの中線が1点で交わることの証明の対比に触れる
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編』(2017)、第3章 第3節 第3学年 B 図形、145ページ(中点連結定理)
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018、2021年一部改訂)、第1部 第2章 第3節「物理」65ページ(「物体の重心にも触れること」)
- A. K. T. Assis, Archimedes, the Center of Gravity, and the First Law of Mechanics, 2nd ed., Apeiron(2010)、54〜55ページと215〜216ページ(ヒースの英訳から命題13と14を引用。2通りの証明がどちらも背理法であること)
- T. L. Heath, The Works of Archimedes, Cambridge University Press(1897)、On the Equilibrium of Planes, Book I, Propositions 13, 14, 198〜201ページ。平行四辺形に分ける証明の筋は、個人のブログにある写し「Archimedes, On the Equilibrium of Planes, Book I, Proposition 13」で読める
- 大学入試センター「令和8年度 大学入学共通テスト 本試験、追・再試験 数学I・数学A」問題と正解