割り算で止まる平行の判定
とが平行なのは、成分の比がそろうので分かる。ではとはどうだろうか。どちらも真上を向いているのに、成分の比はになって計算が止まる。
比を分数にせず、成分を交差に掛けて引けば、この行き止まりは消える。を計算すると、もも0になる。でない2つのベクトルが平行なのは、この差が0のときに限る。
同じ形の差は、ウィリアム・ローワン・ハミルトンの四元数の連載に出てくる。1846年7月の『フィロソフィカル・マガジン』に載った第21節で、ハミルトンは2つのベクトルの積をスカラー部とベクトル部に分けた。ベクトル部の成分は、、で、その長さは2本の線が作る平行四辺形の面積に等しいという。同じ節の終わり近くでは、同じ向きか逆向きの2本の線を「平行の方程式」で表し、ベクトル部を0とおいている。高校で習うは、この3つのうち平面に残る1つである。
実数倍のをスカラーと呼ぶのも、同じ回の第18節からだ。数が負の無限大から正の無限大まで1本の目盛り(scale)に並ぶことから、ハミルトンが付けた。
実数倍と交差の差は同じ条件
2つのベクトルが平行であるとは、向きが同じか逆であることをいう。、はどちらもでないとする。は向きを考えないので、平行かどうかを問わない。
まず、平行なら交差の差が0になることを追う。
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向きが同じなら、長さの比を掛けて重ねる
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向きが逆なら、符号を変えて掛ける
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どちらも実数倍なのででまとめる
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成分に分ける
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交差の差に代入する
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かっこを外すと打ち消し合う
を除くのは、がになってしまうからだ。
では逆に、差が0なら必ず平行と言えるのか。
で割りたいところだが、は0かもしれない。から分かるのは、との少なくとも一方が0でないことだけなので、2つに分ける。
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のとき、の比でを決める
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差が0の式をについて解く
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のとき、差の式は1項だけ残る
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このときなのでが0と決まる
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の比でを決める
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なので成分もそろう
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どちらの場合も実数倍になる
なのでで、2つのベクトルは平行である。手順9からの場合分けを飛ばすと、冒頭のとが抜け落ちる。交差の差は、この場合分けを1本の式の中に含んでいる。
ただし、を許すと話が変わる。なら、がどんな向きでも差は0になるので、とも条件を満たしてしまう。「どちらもでない」という断りは、同値を守るために要る。
では、差そのものは何を表すのか。なす角をとすると、2つのベクトルが作る平行四辺形の面積はである。
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面積を2乗してを使う
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内積を使ってを消す
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成分で書く
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展開して打ち消し合う項を消す
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2乗の形にまとめる
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なので平方根をとる
平行になると平行四辺形はつぶれて線になる。つまり、平行の条件は面積が0という条件でもある。手順16で使った大きさの式は、ベクトルの成分と大きさで導き方を追える。
3点の並びと左右を見分ける
3点が一直線上にあるかどうかは、2つのベクトルの平行に言い換えられる。A、B、Cなら、で、となる。始点Aが共通なので、平行なら3点は同じ直線に乗る。
差の符号にも意味がある。が正ならはから見て左側、負なら右側を向く。、なら差は1で、は左へ90°回った向きだ。コンピューターで図形を扱う計算幾何では、点が線の左にあるか、右にあるか、線の上にあるかを、この符号で判定する。
ただし、コンピューターの小数で「0かどうか」を聞くのは危ない。ジョナサン・シューチャックは、真の値が0に近いと丸め誤差で判定を誤ることがあると指摘し、正しく判定する計算法を公開した。とは平行なのに、Pythonでを計算すると0にならず、約が残る。
連立方程式にも同じ差が現れる。2直線、では、とがそれぞれの直線に垂直な向きを表す。この2つが平行なら2直線も平行か一致で、差は0になり、解は1組に決まらない。
もっとも、空間では差が1つでは足りない。とはを満たすが、残る2組の差が2となので平行ではない。ハミルトンの3つの成分がすべて0になるか、実数倍の形に戻せるかで判定する。
平行の式から文字を決める
例題 1基本平行になる成分
、が平行になるの値と、のを求めよ。
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交差の差を0とおく。
このときで、成分を比べるとである。向きはと逆になる。
例題 2基本同じ向きか逆向きか
、が平行になるの値をすべて求め、それぞれ同じ向きか逆向きかを答えよ。
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交差の差を0とおく。
どちらのでもとはでない。
のとき、で、の同じ向きである。
のとき、で、の逆向きである。
例題 3入試和と差で作ったベクトル
、とする。とが平行になるの値を求めよ。
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それぞれを成分で書く。
交差の差を0とおく。
このときとなり、確かに平行である。
とは平行でないので、との係数の比からも同じ答えが出る。
例題 4入試面積が0になる点
3点A、B、Cについて、(1)△ABCの面積をで表せ。(2)3点が一直線上に並ぶの値と、そのときのCの座標を求めよ。
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(1)、である。三角形の面積は平行四辺形の半分なので、次の式になる。
(2)面積が0になるときなので、からである。Cの座標はとなる。
確かめると、で、Cは直線ABの上にある。
直線を実数倍で書く出題
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 数学II・数学B・数学C第6問:点Mを通り直線OBに平行な直線の上の点Qをと書き、点Pのと合わせて、直線OAとが交わるかどうかを成分で調べる。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 数学II・数学B第5問:直線の上を動く点Pをと書いて、が最小になる位置を求める。出典は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第6節「数学C」3(1)ベクトル、117-118ページ
- W. R. Hamilton, "On Quaternions; or on a New System of Imaginaries in Algebra", Philosophical Magazine, vol. 29 (1846), arts. 18-21, pp. 26-31, ed. D. R. Wilkins(第21節のkの成分は第5節の式による), https://www.maths.tcd.ie/pub/HistMath/People/Hamilton/OnQuat/
- J. R. Shewchuk, "Adaptive Precision Floating-Point Arithmetic and Fast Robust Predicates for Computational Geometry"、論文はDiscrete & Computational Geometry 18 (1997), 305-363
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 数学II,数学B,数学C」「令和6年度 大学入学共通テスト 本試験 数学II・数学B」