長さをテンソルと呼んだころ
上キーと右キーを同時に押すと、ゲームのキャラクターが速くなることがある。1回の更新で横に1、縦に1動かすと、進んだ長さは1ではなく、およそ1.41倍になるからだ。ベクトルの大きさは、成分を2乗して足し、平方根をとれば出る。
ベクトルという名前を付けたのは、ダブリンのウィリアム・ローワン・ハミルトンである。1846年7月の『フィロソフィカル・マガジン』に載った四元数の連載で、長さと向きの決まった線分、つまり動径(radius vector)で表せる部分をvectorと呼んだ。同じ回で、長さのほうにも別の名が付く。tensorである。もとは四元数全体の大きさの名で、それまでmodulusと呼んでいた量を置き換えた。ベクトルなら、tensorは線分の長さを表す数になる。そのtensorでベクトルを割った、向きだけを示す単位がversorだ。今の物理学でいうテンソルとは別の意味である。
矢印を直角三角形に置き直す
ベクトルは向きと大きさをもつ量で、平行移動して重なる矢印は同じものとみる。そこで始点を原点へ移す。終点の座標がそのまま成分になり、と書く。
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始点を原点に移し、終点をAとする
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Aから軸に垂線を下ろし足をHとする
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直角をはさむ2辺の長さを絶対値で書く
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直角三角形OHAで三平方の定理を使う
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実数の2乗では絶対値が外れる
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OAは0以上なので平方根をとる
手順3の絶対値は、成分が負のときに効く。なら直角をはさむ2辺は3と4で、大きさは5だ。
かが0だと三角形はつぶれるが、式はそのまま使える。ならとなる。両方が0のベクトルが零ベクトルで、大きさは0、向きは考えない。逆に大きさが0ならから2つの成分はどちらも0になるので、大きさが0のベクトルは零ベクトルしかない。
では、原点から出ていない矢印はどうか。始点をAに、終点をBに置くと、差の形で同じ式に戻る。
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終点の座標から始点の座標を引く
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手順6の式に入れる
数学IIの2点間の距離の公式と同じ式になった。つまり、ベクトルの大きさは距離を成分で書き直したものだ。
ベクトルを倍すると、大きさはどう変わるのか。
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各成分を倍する
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手順6の式に入れてでくくる
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を使う
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ならとする
手順11でをと書くと、が負のときに大きさが負になってしまう。なら、大きさは2倍で向きが逆だ。手順12で長さが1になったベクトルを単位ベクトルという。ハミルトンのversorは、これにあたる。
空間のベクトルでは、三平方の定理を2回使う。数学Cでは、座標とベクトルの考えが平面から空間へ広がることを学ぶ。
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Hをとり、平面で三平方の定理を使う
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直角三角形OHAでもう一度使う
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手順13を代入して平方根をとる
では、成分がもっと増えたらどうなるのか。形は変わらない。個の成分をもつベクトルの長さも、2乗の和の平方根で定める。
斜めに速い動きを長さ1に直す
冒頭のゲームの速さは、手順12で直せる。ゲームエンジンGodotの入門の手引きは、右と下を同時に押すと速度がになり、横に進むより斜めのほうが速くなると注意し、速度の長さを1にしてから望みの速さを掛けるよう書いている。ならで割って約。
速度の合成も同じ計算だ。東へ3 m/sと北へ4 m/sを合わせた速度の大きさは5 m/sで、7 m/sではない。成分は向きごとに足せるが、大きさはそのまま足せない。、ならだが、と少し短くなる。つまり、2辺の和は残る1辺より長い。三角形の成立条件をベクトルで表した形で、成分からの導き方は例題4で確かめられる。
もっとも、長さを比べるだけなら平方根は要らない。大きさは0以上なので、2乗のまま比べても大小は変わらないからだ。たとえば点が半径の円の内側にあるかどうかは、とを比べれば分かる。
手順4で借りた定理の証明は、三平方の定理の記事で読める。
成分で計算し、長さに戻す
例題 1基本和と実数倍の大きさ
、のとき、との成分と大きさを求めよ。
解説を見る
成分ごとに計算してから、大きさの式に入れる。
例題 2基本向きを保って大きさを変える
(1)と同じ向きの単位ベクトルを求めよ。(2)と同じ向きで、大きさが6のベクトルを求めよ。
解説を見る
(1)なので、を10で割る。
(2)である。大きさを6にするには2倍すればよい。
例題 3入試長さから三角形の形を読む
3点A、B、Cについて、(1)△ABCはどんな三角形か。(2)四角形ABDCが正方形になる点Dの座標を求めよ。
解説を見る
(1)3辺をベクトルの大きさで求める。
なので、三平方の定理の逆から∠Aが直角で、AB = ACである。△ABCは∠A = 90°の直角二等辺三角形だ。
(2)正方形ABDCではとなる。
Aの座標に足して、Dを得る。
例題 4入試大きさの和は和の大きさより小さくない
、について、を成分を使って示せ。
解説を見る
両辺は0以上なので、2乗の差を調べる。
そこでを示す。を2乗して差をとると、次の式になる。
なのでが成り立ち、はじめの差は0以上になる。
等号が成り立つのはかつのときで、一方が零ベクトルか、2つのベクトルが同じ向きのときにあたる。三角形がつぶれて一直線に並ぶ場合である。
座標空間で問われた長さ
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 数学II・数学B・数学C第6問(1):原点を中心とする半径1の球面の上に点Cをとり、の値を、Cの座標を使った式に書き換える。出典は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 数学II・数学B第5問:空間の直線上を動く点Pについて、が最小になる位置を2通りの考え方で求める。1つはを媒介変数の2次式に直す道である。出典は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第6節「数学C」3(1)ベクトル、117-119ページ
- W. R. Hamilton, "On Quaternions; or on a New System of Imaginaries in Algebra", Philosophical Magazine, vol. 29 (1846), arts. 18-19, pp. 26-31, ed. D. R. Wilkins, https://www.maths.tcd.ie/pub/HistMath/People/Hamilton/OnQuat/
- Godot Engine documentation, "Coding the player"
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 数学II,数学B,数学C」「令和6年度 大学入学共通テスト 本試験 数学II・数学B」