ロバでも知っている定理
3本の棒で三角形ができるかどうかは、いちばん長い棒と残り2本の和を比べる足し算1回で決まる。もとになる「2辺の和は残る1辺より長い」は、エウクレイデスが『原論』第1巻の命題20で証明した定理である。
古代のエピクロス派は、ロバでも知っていることに証明は要らないと、この定理をあざ笑った。三角形のある頂点に飼い葉を置き、別の頂点にロバを立たせると、ロバは残りの頂点を回らず、まっすぐ飼い葉へ向かうからだ。しかし、『原論』第1巻の注釈にこの話を書き残した5世紀のプロクロスは、正しいと感じることと、証明して理由を知ることは別だと答えた。
3本の不等式を1本に縮める
△ABCで、、とおき、まず『原論』の証明でを出す。使うのは、二等辺三角形の底角が等しいことと、三角形では大きい角の向かいの辺が長いことの2つだ。
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辺BAをAの先へ延ばし、となる点Dをとる
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△ACDは二等辺三角形なので底角が等しい
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∠BCDは∠ACDを内側に含むので大きい
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△BCDで大きい角の向かいの辺は長い
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手順1のとを代入する
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辺の名前を入れ替えて同じ証明をくり返す
三角形があれば、この3本はどれも成り立つ。では、3本とも調べる必要はあるのだろうか。残り2本をの側へ寄せると、1本にまとまる。
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手順6の2本をについて解く
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右辺の大きいほうがなので1本にする
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手順5とつなげる
手順7と8はどちらも逆にたどれるので、この1本は手順5と6の3本の言い換えにすぎない。どの辺をに選んでも、同じ形に書ける。さらにを最大の辺に選ぶと、左側の不等号まで調べなくてよくなる。
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を最大の辺とする
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なのではより小さい
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なのでもより小さい
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2本を絶対値で1本にする
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左側はいつも成り立ち、右側だけが残る
この見方は古い。プロクロスの注釈が伝えるヘロンとポルピュリオスの別証明には、辺を長さの順に並べ、最大の辺を含む2本の不等式は明らかだとして、残る1本だけを示すものがある。
逆に、不等式を満たす3つの数があれば、三角形は本当にできるのか。エウクレイデスは命題22で、2つの円が交わる点を頂点にとって三角形を作図した。ただ、円が交わる理由は述べていない。余弦定理を使うと、この穴が埋まる。長さ, の2辺を頂点Aでつなぎ、はさむ角を動かしてみよう。
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余弦定理で向かいの辺を表す
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のときである
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のときである
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三角形ではなので余弦の範囲が決まる
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を掛けると大小が逆になるので並べ直す
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各辺にを足し、手順15を使う
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両端を平方の形にする
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なので平方根をとる
手順18から22は下から上へもたどれる。この不等式を満たす正の数があれば、はとのあいだに入り、それを余弦とする角がにただ1つ決まる。この角をはさんで長さ, の2辺をとると、残る辺は手順15からだ。
だから三角形は確かにでき、3辺が同じなら合同なので、形も1通り。辺BCを底に置けば、この頂点Aが命題22で2つの円の交わる点にあたる。
不等号の端では、三角形がつぶれる。は手順17の場合でAが辺BCの上に乗り、は手順16の場合で短いほうの辺が長いほうに重なる。どちらも面積が0だから、成立条件に等号は入らない。
足し算1回の判定と寄り道の損得
3本の長さを渡されたら、並べ替えてとし、だけを調べればよい。プログラムに書いても判定はこの1行で済む。たとえば3, 4, 8はで届かず、3, 4, 7は和が7ちょうどでつぶれ、3, 4, 6はで三角形になる。3本目の長さが1違うだけで、結果が3つに分かれるのは面白い。
周の長さが決まっているなら、の両辺にを足してとなる。つまり最大の辺は周の半分より短い。例題4の数え上げは、この形から始まる。
距離で読むと、同じ不等式は寄り道の損得の話になる。3点A, B, Cについてが成り立ち、Bに寄れば遠回りになるか、よくて同じだ。三角形と違って等号が入るのは、Bが線分ACの上にあってもよいからである。差の形も役に立つ。ABが5 km、BCが3 kmなら、ACを測らなくても2 km以上8 km以下に絞れる。
差と和ではさむこの範囲は、共通テストの問題文にも顔を出す。2026年の追試験 数学I・数学A第1問〔2〕(1)では、、、の△ABCで、を5以上13以下の自然数として面積や外接円の半径を調べる。成立条件を問う設問はない。それでも5から13は、を満たす自然数のすべてである。
ゲームの道探しに使うA*探索で、直線距離を見込みにすると調べ終えた点を調べ直さずに済むのも、この不等式があるからだ。複素数の絶対値でも同じ形が成り立ち、マンデルブロ集合では半径2の円の外に出た点が戻らないことの証明に使う。
次に読むなら三平方の定理。最大の辺を足し算で比べると三角形ができるかが分かり、2乗で比べると直角かどうかが分かる。
棒の長さから周の長さまで
例題 1基本棒が3本で三角形はできるか
次の長さの組のうち、三角形ができるものをすべて選べ。(1)4, 5, 10(2)5, 7, 11(3)6, 9, 15(4)7, 7, 13
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最大の辺と、残り2辺の和を比べる。(1)はで2辺が届かず、(2)はでできる。(3)はで最大の辺に等しく、3点が一直線に並ぶのでできない。(4)はでできる。
よって、できるのは(2)と(4)である。
例題 2基本残りの辺の範囲
3辺の長さが5, 8, である三角形がある。の値の範囲を求めよ。また、が整数のとき、は何個あるか。
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が最大の辺かどうかは分からないが、絶対値の形なら場合分けは要らない。
整数は4から12までで、個ある。
例題 3入試鈍角三角形になる範囲
3辺の長さが, , である三角形について、(1)の値の範囲を求めよ。(2)この三角形が鈍角三角形になるの値の範囲を求めよ。
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(1)なので、最大の辺はである。この辺だけを調べる。
(2)鈍角があるなら、最大の辺の向かいの角である。余弦定理から、この角の余弦が負になる条件は次の式になる。
展開して整理し、左辺を因数分解する。
これを解くとで、(1)のと合わせて
となる。両端を入れると、は3, 6, 9でつぶれた三角形、は9, 12, 15で辺の比が3 : 4 : 5の直角三角形になる。
例題 4入試周の長さが24の三角形を数える
3辺の長さがすべて整数で、周の長さが24である三角形は何通りあるか。合同な三角形は同じものとして数える。
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3辺をとする。調べるのはだけで、を入れると次の式になる。
は3辺の中で最大なので、からである。
あとはごとに、とを満たす組を数える。
- のとき、の1通り
- のとき、, の2通り
- のとき、, , , の4通り
- のとき、, , , , の5通り
合わせて通りである。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「数学A」3(1)図形の性質、p. 90
- T. L. Heath, The Thirteen Books of Euclid's Elements, 2nd ed., Vol. 1 (Dover, 1956), Book I, Propositions 20 and 22 with notes, pp. 286-288, 292-294
- Clay Mathematics Institute, "Euclid's Elements, Book 1, Proposition 20"(ギリシャ語の本文と英訳)
- D. E. Joyce, "Euclid's Elements, Book I, Proposition 22", Clark University
- J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Proclus Diadochus", MacTutor History of Mathematics Archive, University of St Andrews
- 大学入試センター「令和8年度 大学入学共通テスト 追・再試験 数学I,数学A」