9を4と5に分けて729を出す
、。どちらの答えにも1、3、3、1が並ぶ。和の3乗を展開すると、係数がこの順に出るからだ。
12世紀インドの数学者バースカラ2世は、算術書『リーラーヴァティー』にこの展開を文章で書いている。コールブルックの英訳(1817年)で読むと、上の桁を、下の桁をとして、、にの3倍を掛けた数、にを掛けて3倍した数、を順に書き、位をそろえて足せ、とある。この4項は、英訳本に併せて収められたブラーマグプタの『ブラーマスプタシッダーンタ』(628年)にも同じ順で並ぶので、記録はさらに500年ほどさかのぼる。
『リーラーヴァティー』の同じ箇所には、別の手順も載っている。数を2つの部分に分け、もとの数に2つの部分を掛けて3倍し、2つの部分の立方の和を足すやり方だ。英訳の例題は「親愛なる女性よ、9の立方を教えてほしい」と切り出し、解答では9を4と5に分け、にを足して729を出す。
掛けて展開し、くくって因数分解へ
この公式を習うのは数学IIの「いろいろな式」である。文部科学省の解説は数学Iの箇所で、三次の乗法公式をそちらで扱うと断っている。ただ、計算に新しい道具は要らない。中学校の乗法公式で2乗を展開し、分配法則でをもう一度掛ける。
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3乗を、2乗と1乗の積に分ける
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2乗を乗法公式で展開する
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右のかっこを分配する
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を掛ける分を展開する
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を掛ける分を展開する
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手順4と5の結果を足す
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同類項をまとめる
係数の3は、立方体の3つの向きから来る。のブロックはの板で、厚さの向きが縦、横、高さの3通りある。の棒も、長さの向きが同じく3通りだ。式に戻せば、3つのかっこのどれからを選ぶかの3通りにあたり、これを乗へ広げると二項定理になる。とを入れ替えても立方体は変わらないので、係数は左右対称に並ぶ。
では、の3乗はどうなるのか。公式のをに置き換えれば足りる。、なので、の次数が奇数の項だけ符号が変わり、符号は交互に並ぶ。
3乗の和を因数分解する式も、手順7から続けて出せる。真ん中の2項に共通するをくくるのが入り口である。
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真ん中の2項をでくくる
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だけを左辺に残す
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右辺の共通因数をくくり出す
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波かっこの中の2乗を展開する
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同類項をまとめる
ここでもをに置き換えると、が出る。解説が数学IIの公式として並べるのは、和と差の3乗に、この2つの因数分解を加えた4本だ。
をと書きたくなるが、手順8を見れば、それは板3枚を丸ごと落とした式だと分かる。9を4と5に分けた『リーラーヴァティー』の計算は、この手順8の式そのものだ。例題に出た540も、の板3枚の体積である。
1.03³の増分を3つに分ける
が小さいと、展開した項の大きさは桁違いに開く。たとえば文部科学省の解説は数学IIIの微分の題材に、1辺1.00 cmの立方体の各辺を0.03 cmずつ伸ばす計算を挙げ、体積を約1.09 cm³としている。公式で、とすれば、その内訳が見える。
0.09は3つの面に貼りつく板、0.0027は3本の棒、0.000027は角の小さな立方体にあたる。つまり、増えた0.092727 cm³の約97%を板が占める。解説が示す近似は、この板の分だけを残した式である。
1辺を、増分をとすれば、になる。で割ってを0に近づけると、の導関数だけが残る。
物理で等方的な固体の体膨張率を線膨張率のおよそ3倍とみるのも、同じ計算である。線膨張率を、温度の上昇をとすると、体積は倍で、が1よりずっと小さいので倍とみてよい。
手順8の形は、三次方程式を解く入り口でもある。未知数をとおくととなり、とを決める問題に書き換わる。この先はカルダノの公式で読める。4乗から先へ進むなら、二項定理の途中の計算が、この公式を1行目に置いて始まる。
符号を読み、板を引く4問
例題 1基本和の3乗と差の3乗を展開する
(1)(2)を展開せよ。
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(1)、とみて公式に当てはめる。
(2)、とみて差の形に当てはめる。
例題 2基本3乗の形と和の形を見分ける
(1)(2)を因数分解せよ。
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(1)両端がとなので、の形を疑う。真ん中の項を確かめると、、で符号も合う。
(2)、なので、3乗の和の形である。
例題 3入試和と積から3乗の和を出す
実数がを満たすとき、との値を求めよ。
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、とおくと、、である。手順9の式から
5乗には2乗の和も要る。から
2乗の和と3乗の和を掛けると、5乗の和とが現れる。
左辺はなので
例題 4入試3乗根の和を1つの数にする
の値を求めよ。ただし、3乗根は実数のものをとる。
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、とおく。根号を外すと和はになる。積はで、は実数なのでと決まる。手順8の式に入れると
すべて左辺へ移すと、が解なのでを因数にもつ。
は正なので、実数の値は1つに決まる。
実際に、を3乗すると、になり、和は確かに1である。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第2節「数学II」3(1)いろいろな式、54-55ページ。第1節「数学I」3(1)数と式、37ページ。第3節「数学III」3(2)微分法、78ページ
- H. T. Colebrooke (trans.), Algebra, with Arithmetic and Mensuration, from the Sanscrit of Brahmegupta and Bháscara (John Murray, 1817), Lílávatí, Chapter II, Section II, art. 23-26, pp. 10-11; Brahmegupta, Chapter XII, Section I, art. 6, p. 279, https://zenodo.org/records/7882650
- D. Pingree, "Bhāskara II", Complete Dictionary of Scientific Biography, https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/DSB/Bhaskara_II.pdf