慣性の法則

Law of inertia

水平な面の上なら運動は永久に続く、とガリレオは書いた。

合力が0の物体は、静止していれば静止し続け、動いていれば等速直線運動を続ける。合力0は止まる条件ではなく速度が変わらない条件で、等速の場面からは力を逆算できる。

年代
1687年(ニュートン『プリンキピア』)
習う
中3・理科・運動とエネルギー
レベル
基本(例題 4 問)
人物
ガリレオ・ガリレイ、ピエール・ガッサンディ、ルネ・デカルト、アイザック・ニュートン
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
起源

目盛りが変わらないエレベーター

一定の速さで上っているエレベーターの中で、体重計の目盛りは増えるのだろうか。増えない。止まっているときと同じ値を指し、一定の速さで下っているときも変わらない。床が体を押し上げる力と重力がつり合い、合力が0だからだ。合力が0の物体は止まるのではなく、速度を変えずに動き続ける。

もっとも、この見方は一度にできたわけではなく、17世紀の50年ほどをかけて形になった。ガリレオ・ガリレイは1638年の『新科学対話』第3日に、一度与えた速さは、速めたり遅くしたりする原因を取り除けばそのまま保たれ、その条件がそろうのは水平な面の上だけだと書いた。同じ原理は1641年にピエール・ガッサンディの本で活字になり、1644年にはルネ・デカルトが『哲学原理』で、物はできる限り同じ状態にとどまること、運動はそれ自体としてはまっすぐ進むことを、2つの自然法則として掲げた。

1687年、アイザック・ニュートンは『自然哲学の数学的諸原理』(プリンキピア)の第1法則で、これを1文にした。アンドリュー・モットの英訳によれば「すべての物体は、加えられた力によって状態を変えるよう強いられない限り、静止の状態、または直線上の一様な運動の状態を続ける」。慣性の法則という呼び名は、このあとニュートンにならって広まった。アリストテレスの考えからガリレオの斜面の測定までは、運動方程式でたどれる。

途中の計算

0になるのは加速度

中学3年の理科では、滑らかな水平面で台車を走らせ、力がはたらかない物体は静止し続けるか等速直線運動を続けることを、慣性の法則として学ぶ。合力を成分ごとに0とおいて運動方程式から速度一定を導く計算や、動摩擦係数と力の分解を使う計算は、高校の物理基礎で扱う。

は物体にはたらく力、はその合力、は質量、は加速度、は速度を表す。速度が一定とは、速さも向きも変わらないことをいう。

  1. 合力を成分ごとに0とおく

  2. 運動方程式の右辺に入れる

  3. 両辺を質量で割る

  4. 加速度を速度の変わる割合で書く

  5. 速度は初めの値のまま変わらない

  6. 位置は時間に比例して進む

合力が0の物体の速度と時間のグラフ。初めの速度が0なら線は横軸に重なり(静止)、0でなければ横軸に平行になる(等速直線運動)。どちらも傾き、つまり加速度は0である。

手順5が、この法則でいちばん取り違えやすい一歩である。合力0から出てくるのはではなく、だ。つまり、止まり続けるか動き続けるかは、初めの速度で決まる。静止は、等速直線運動の速さがたまたま0の場合にすぎない。

では、運動方程式から出てくる性質を、なぜ第1法則として別に立てるのか。手順2の運動方程式は、どこから見ても成り立つわけではないからだ。慣性の法則がそのまま成り立つ見方を、大学の力学では慣性系とよぶ。運動方程式は慣性系の中で使う。慣性の法則は運動方程式の特別な場合であると同時に、その式を使ってよい見方を決める目印にもなる。

この関係は逆向きにも読める。速度が一定だと分かれば、加速度は0で、合力も0である。目に見えない力を求めるときは、むしろこの向きのほうが役に立つ。質量60 kgの人が、一定の速さで上るエレベーターに乗っているとする。

  1. 上向きを正として合力を0とおく

  2. 床が押す力(垂直抗力)を求める

止まっているとき、一定の速さで上るとき、一定の速さで下るときのエレベーターの中の人にはたらく力。どれも垂直抗力Nと重力mgが同じ長さでつり合う。

速さの値は、式のどこにも入っていない。秒速2 mでも秒速5 mでも588 Nのままで、目盛りが動くのは、動き出しと止まる前の速さが変わっている間だけである。

応用

電車の床のボール、押し続ける箱

合力0が隠れている場面は、乗り物の中と床の上に多い。

たとえば、まっすぐ一定の速さで走る電車では、つり革は真下に垂れ、床に置いたボールも転がらない。窓の外を見なければ、走っているのか止まっているのか分からない。ニュートンも運動の法則の系5に、一様に直線上を進む空間の中では、物体どうしの運動が止まった空間の中と同じになると書き、船の上の実験がその証拠だと添えている。

ところが、ブレーキがかかると、なめらかな床のボールは前へ転がり出す。地面から見れば、ボールは慣性の法則のとおり元の速さで進み、遅くなったのは電車のほうだ。ボールに前向きの力ははたらいていないが、電車の中から見ると速度が変わって見える。だから、減速している電車は慣性系ではない。高校の物理では、加速度運動をする観測者から見たこの見かけの力に、慣性力として触れる。

床の箱を押すのをやめると止まるのも、慣性の法則には反しない。動摩擦力が、速さを減らす向きにはたらき続けているだけである。質量30 kgの箱と床の動摩擦係数を0.30とすると、動摩擦力は Nになる。一定の速さで押し続けるのに要る力は、動摩擦力と同じ88 Nで、それより大きい力ではない。逆に、押す力が摩擦を上回れば、箱は速くなり続ける。

「動いている物には、進む向きに力がはたらいている」という考えは根強い。高等学校学習指導要領解説にも、生徒が経験からもちやすい誤った考えとして、この見方が挙がっている。等速の場面で力を描いたら、進む向きの矢印を余分に1本足していないかを見直すと、この誤りを防げる。

例題と解説

等速の場面から力を逆算する

重力加速度の大きさは9.8 m/s²とする。

例題 1基本一定の速さで押す箱

質量20 kgの箱を水平な床の上で押し、一定の速さで動かした。箱と床の動摩擦係数は0.25である。(1)床が箱を押す垂直抗力の大きさ(2)押す力の大きさを求めよ。(3)押す力を60 Nにすると、箱の速さはどうなるか。

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(1)上下の力がつり合うので、垂直抗力は重力に等しい。

(2)速さが一定なので、水平方向の合力も0である。押す力は動摩擦力に等しい。

(3)合力は前向きに Nとなり、0ではない。箱は速くなり続ける。

例題 2基本上りと下りの体重計

質量50 kgの人がエレベーターの床の体重計に乗っている。(1)一定の速さ3.0 m/sで上っているとき(2)一定の速さ2.0 m/sで下っているときの、床が人を押す力の大きさを求めよ。

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どちらも速度が一定なので合力は0で、垂直抗力は重力とつり合う。

(1)(2)とも490 Nである。速さも向きも答えに入らず、体重計は止まっているときと同じ50 kgを表示する。

例題 3入試斜めのひもで引くそり

質量10 kgのそりに付けたひもを水平から30°上向きに引き、水平な雪面の上を一定の速さで進ませた。そりと雪面の動摩擦係数は0.20である。ひもの張力の大きさと、雪面がそりを押す垂直抗力の大きさを、有効数字2桁で求めよ。

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速度が一定なので、水平方向と鉛直方向の合力はどちらも0である。

2本目からとなる。1本目に入れてについて解く。

垂直抗力は Nである。ひもの張力が上向きの成分をもつぶん、垂直抗力が重力より小さくなり、摩擦も小さくなる。

例題 4入試ブレーキをかけた電車の床

秒速20 mでまっすぐ走る電車の、なめらかな床に小球が置かれている。電車が一定の加速度の大きさ1.0 m/s²で2.0秒間減速した。(1)2.0秒後に地面から見た小球の速さ(2)同じときの電車の速さ(3)電車の中から見て、小球が2.0秒間に動いた向きと距離を求めよ。小球は電車の壁にぶつからないものとする。

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(1)床がなめらかなので、小球に水平な力ははたらかない。地面から見ると速度は変わらない。

(2)電車は2.0秒で2.0 m/s遅くなる。

(3)地面から見た2つの移動距離の差が、電車の中から見た移動になる。

小球は前向きに2.0 m動く。電車の中から見ると、力を受けていない小球が加速して見える。減速する電車が慣性系でないことが、ここに表れている。

入試・大会での出題

「一定の速度」が手がかりになる出題

参考文献

  1. 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』(2017)、第2章 第2節 第1分野2(5)ア(イ)㋑ 力と運動、54-56ページ
  2. 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第2節「物理基礎」3(1)ア(イ)㋒、50-51ページ。第3節「物理」3(1)ア(ウ)㋐、67ページ
  3. Galileo Galilei, Dialogues Concerning Two New Sciences, trans. H. Crew, A. de Salvio, The Third Day, Dover (1954)
  4. E. Slowik, "Descartes' Physics", Stanford Encyclopedia of Philosophy(2025年10月改訂)。『哲学原理』第2部37節と39節の英訳を引く
  5. G. Smith, "Newton's Philosophiae Naturalis Principia Mathematica", Stanford Encyclopedia of Philosophy。第1法則とガッサンディ(1641)、デカルトとの関係
  6. I. Newton, The Mathematical Principles of Natural Philosophy, trans. A. Motte (1846), "Axioms, or Laws of Motion"(第1法則と系5)
  7. 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 物理」。物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2022」「物理チャレンジ2026」

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この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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