万有引力の法則

Newton's law of universal gravitation

リンゴはなぜ、いつもまっすぐ下に落ちるのか。

2 つの物は、質量の積に比例し、距離の 2 乗に反比例する力で引き合う。リンゴの落下と月の公転を、同じ 1 本の式で説明した。

年代
1687年
人物
アイザック・ニュートン、エドモンド・ハレー、ロバート・フック、ウィリアム・ストゥークリ、ヘンリー・キャヴェンディッシュ
逸話

リンゴの木の下で

1726 年 4 月 15 日、ロンドンの西のケンジントン。83 歳のアイザック・ニュートンの家で、友人の医師で古物研究家のウィリアム・ストゥークリが夕食をともにした。暖かい日だった。2 人は庭に出て、リンゴの木の陰でお茶を飲んだ。

ストゥークリの回想録によれば、ニュートンはそこで、重力の考えが頭に浮かんだのは、ちょうど今と同じような場面だったと話した。物思いにふけって座っていたとき、リンゴが落ちた。なぜリンゴは、いつも地面に向かってまっすぐ落ちるのか。横にも上にも行かず、必ず地球の中心へ向かうのはなぜか。物には引き合う力があるに違いない。地球がリンゴを引くように、リンゴも地球を引いている。

ストゥークリがこの回想録を書いたのは 1752 年で、本として全文が出たのは 1936 年である。手書きの原稿はロンドンの王立協会に保管され、2010 年からはインターネットで誰でも見られる。

リンゴの話はほかにも残っている。ニュートンの姪キャサリンの夫ジョン・コンデュイットは、1666 年、ニュートンが故郷ウールズソープの庭で考えにふけっていたとき、リンゴを木から地面へ落とす重力の力は、地面の近くだけでなく、はるか遠く、月の高さまで届いているのではないかと思いついた、と書いた。フランスの思想家ヴォルテールも、キャサリンから聞いた話として、1727 年と 1733 年の著作に書いている。

リンゴが頭に当たった、という形の話は、これらの記録には無い。ニュートン本人が、自分の発見を印象的な一場面にまとめて語った可能性もある。本当にリンゴが落ちるのを見たのか、確かめる方法は無い。

ウールズソープの家の庭には、いまもリンゴの古木が立っている。その枝の接ぎ木は世界中に送られた。日本には 1964 年、日本学士院長の柴田雄次の求めで、イギリスの国立物理学研究所に植えられていた木から苗木が 1 本届いた。苗木はウイルスに感染していたため、東京大学の小石川植物園で隔離して育て、ウイルスの無い木を作り直した。庭に植えて公開されたのは 1981 年である。

起源

1665 年から 1666 年にかけて、ペストの流行でケンブリッジ大学が閉じられ、20 代前半のニュートンは故郷で過ごした。ニュートンが晩年に書いた覚え書きによれば、この時期に、月を軌道に留めておくのに必要な力と、地表の重力とを比べ、「かなりよく合う」ことを確かめたという。

太陽からの引力が距離の 2 乗に反比例するという考えは、ニュートンだけのものではなかった。ロバート・フックは 1679 年から 1680 年にかけてニュートンに手紙を書き、引力は中心からの距離の 2 乗に反比例するのではないかと述べた。クリストファー・レン、エドモンド・ハレーも同じことを考えていた。足りなかったのは、その力で惑星がどんな道を描くかを計算する方法だった。

1684 年 8 月、ハレーはケンブリッジにニュートンを訪ね、距離の 2 乗に反比例する力で引かれる惑星はどんな曲線を描くか、と尋ねた。ニュートンは即座に「楕円」と答え、計算はしてあると言った。その場で紙は見つからなかったが、11 月には短い論文『回転する物体の運動について』を送ってきた。ハレーは本にまとめるよう勧めた。

こうして 1687 年に出たのが『自然哲学の数学的諸原理』(プリンキピア)である。王立協会は前の年に出した魚類の図鑑が売れず、印刷の費用を出せなかった。費用はハレーが自分で負担した。第 3 巻でニュートンは、惑星・月・彗星・潮の満ち引きまでを、1 つの引力の法則で説明した。原稿が協会に届くと、フックは自分が先に考えたと主張した。ニュートンは怒り、第 3 巻からフックの名前に触れた部分を削ろうとしたと伝えられる。

式の中の定数 を測るのは難しかった。1798 年、ヘンリー・キャヴェンディッシュは、ジョン・ミッチェルが考えたねじれ秤で、鉛の球どうしのわずかな引力を測り、地球の平均の密度を水の 5.48 倍と求めた。この値から N·m²/kg² が出てくる。いまの値は である。

証明

ニュートンがたどった筋道にならい、円に近い軌道を仮定して、ケプラーの第三法則から逆 2 乗の形を導き、月で確かめる。

  1. 半径 の円を周期 で回る物は、中心に向かう加速度を持つ。速さは なので

  2. ケプラーの第三法則によれば、太陽を回る惑星では が に比例する。比例定数を として

  3. 手順 1 に代入すると、加速度は距離の 2 乗に反比例する。

  4. この力が地球のリンゴにも月にも同じように働くなら、地球の中心から地表まで(地球の半径 )と月まで()の加速度の比は になるはずである。月の予想される加速度は

  5. 一方、月の距離 m と公転周期 日 s から、手順 1 で実際の加速度を計算すると

  6. 2 つは一致する。リンゴを落とす力と、月を回らせる力は同じものである。力は引かれる物の質量に比例し(だから加速度が質量によらない)、作用・反作用の法則から引く側の質量にも比例する。比例定数を と書いて

手順 4 では、地球の引力が地球の中心から出ているとして距離を測った。大きさのある球が、外の物を全質量が中心に集まったのと同じ力で引くことは、ニュートンがプリンキピア第 1 巻 命題 71 で証明した。厳密な楕円の軌道については、ケプラーの第三法則の記事で扱う。

応用

地表の重力。 地球の質量 kg と半径 6371 km を式に入れると、 m/s² になる。キャヴェンディッシュの密度 5.48 から逆に を出すと で、いまの値と 0.5% しか違わない。

宇宙ステーションの重力。 高さ 400 km を回る国際宇宙ステーションでは、重力は地表の約 89% もある。中の人が浮くのは重力が無いからではない。ステーションごと、地球に向かって落ち続けながら横へ進み、地面に届かずに回っているからである。

人と人の引力。 体重 70 kg の 2 人が 1 m 離れて立つと、引き合う力は約 N である。0.03 mg の物の重さにすぎない。地球と月の間では、約 N の力が働いている。

地球を離れる速さ。 地表から打ち上げた物が、地球の引力を振り切って戻ってこないために必要な速さは km/s である。高さ 400 km で円を描いて回るには、秒速約 7.7 km で横へ進めばよい。

見えない惑星。 1846 年、フランスのユルバン・ルヴェリエは、天王星の動きが計算とわずかにずれることから、外側にもう 1 つの惑星があると予言し、位置を計算した。ベルリン天文台のガレは、9 月 23 日の夜、その予言の位置から 1 度も離れていない場所に海王星を見つけた。

図示

ニュートンの大砲。高い山の上から水平に撃つ。遅ければ近くに落ち、速くするほど遠くに落ちる。ある速さを越えると、落ち続けながら地球を回り続ける。

シミュレーション

山の上の大砲が、つまみの速さで弾を水平に撃つ。弾は地球の中心に向かって、距離の 2 乗に反比例する力で引かれる。山の高さは 400 km にしてある。秒速 7.55 km ほどより遅ければ地面に落ち、7.67 km でちょうど円を描く。それより速ければ楕円になり、10.85 km を越えると戻ってこない。「自動」にすると、速さを少しずつ上げながら撃ち続ける。弾は地球の近くですっと速く、遠くではゆっくり進む。

広がる学問

  • 天文学 惑星・衛星・彗星の位置の予報は、太陽と惑星どうしの引力を足し合わせて計算する。銀河の回転の速さが、見えている星やガスの量から計算した値と合わないことから、見えない物質(ダークマター)の存在が考えられている。
  • 地球科学 潮の満ち引きは、月と太陽の引力が地球の場所によってわずかに違うことで起こる。重力を精密に測る人工衛星は、氷床の減り方や地下水の増減を、重力の変化として見つけている。
  • 工学 人工衛星や探査機の軌道は、万有引力の法則と運動方程式を数値で解いて設計される。惑星の引力を借りて加速するスイングバイも、この計算で狙いを決める。
  • 物理学 は、最も精度よく測るのが難しい基本定数の 1 つで、いまも測定の方法が研究されている。強い重力や光の曲がりを扱うときは、アインシュタインの一般相対性理論が必要になるが、ふだんの宇宙の計算はほとんどこの式で足りる。

参考文献

  1. I. Newton, Philosophiae Naturalis Principia Mathematica, London, 1687, Book III.(中野猿人 訳・注『プリンシピア 自然哲学の数学的原理』講談社ブルーバックス)
  2. W. Stukeley, Memoirs of Sir Isaac Newton's Life (1752), Royal Society MS/142.(A. Hastings White 編、Taylor and Francis、1936)
  3. H. Cavendish, "Experiments to Determine the Density of the Earth", Philosophical Transactions of the Royal Society of London 88 (1798), 469-526.
  4. R. S. Westfall, Never at Rest: A Biography of Isaac Newton, Cambridge University Press, 1980.(田中一郎・大谷隆昶 訳『アイザック・ニュートン』平凡社)
  5. I. Newton, A Treatise of the System of the World, London, 1728.(ニュートンの大砲の図)
  6. E. Tiesinga ほか, "CODATA recommended values of the fundamental physical constants: 2018", Reviews of Modern Physics 93 (2021), 025010.

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