ケプラーの第三法則

Kepler's third law of planetary motion

天球の歌を探した人が、5 月 15 日にこの比を見つけた。

惑星が太陽を 1 周する時間の 2 乗は、軌道の大きさの 3 乗に比例する。回る速さと大きさから、中心にある物の重さが分かる。

年代
1619年
人物
ヨハネス・ケプラー、ティコ・ブラーエ、ピタゴラス、アイザック・ニュートン
神話・言い伝え

天球の音楽

夜空の星は、回りながら音楽を奏でている。古代ギリシアのピタゴラス学派はそう考えたと伝えられる。

アリストテレスは『天体論』第 2 巻で、この説を紹介している。あれほど大きな星々があれほど速く動けば、音が出ないはずがない。速さの比は音楽の協和音の比になっていて、星々は調和した音を奏でている。私たちに聞こえないのは、生まれたときからその音の中にいて、静けさと比べる機会が無いからだ。アリストテレス自身は、この説を退けている。

プラトンの『国家』の最後に置かれた「エルの物語」では、宇宙を貫く軸の周りに 8 つの輪が回り、それぞれの輪にセイレーンが乗って 1 つの音を歌い、8 つの音が 1 つの調和をつくる、と語られる。

音楽と数の結びつきについては、もう 1 つの伝説がある。1 世紀から 2 世紀の数学者ニコマコスの『和声学提要』によれば、ピタゴラスは鍛冶屋の前を通りかかり、槌の音が協和して聞こえることに気づいた。槌の重さを量ると、比が 2 : 1、3 : 2、4 : 3 になっていた、という。弦の長さの比として、オクターブ・5 度・4 度が単純な整数の比になるのは事実である。しかし槌の音の高さは重さに比例しないので、この話のとおりにはならない。伝説の形で残った、数と音の発見の記憶である。

2000 年後、この古い夢を本気で追った天文学者がいた。ヨハネス・ケプラーである。1619 年の『世界の調和』第 5 巻で、ケプラーは惑星が太陽に最も近いときと最も遠いときの、角度で測った速さの比を調べ、それを音の高さに置き換えて、惑星ごとの旋律を譜面に書いた。地球の旋律は「ミ・ファ・ミ」で、この音の名前からも、私たちの住む地上を悲惨(ミゼリア)と飢え(ファメス)が支配していると分かる、とケプラーは書いている。

その同じ本の中に、いま第三法則と呼ばれる比が書かれている。

起源

ケプラーは若いころから、惑星の並びには神の設計による理由があると信じていた。1596 年の『宇宙の神秘』では、6 つの惑星の軌道の間に 5 つの正多面体がはまっているという考えを発表している。

考えを確かめるには、正確な観測が要った。デンマークの天文学者ティコ・ブラーエは、望遠鏡の無い時代に、角度の 1 分(1 度の 60 分の 1)に近い精度で惑星の位置を何十年も記録していた。1600 年、ケプラーはプラハでティコの助手になり、翌年ティコが亡くなると、その観測の記録を引き継いだ。

ケプラーは火星の記録と何年も格闘し、1609 年の『新天文学』で、2 つの法則を発表した。惑星は太陽を 1 つの焦点とする楕円を描く(第一法則)。太陽と惑星を結ぶ線が同じ時間に描く面積は等しい(第二法則)。

残る問いは、惑星どうしの関係だった。太陽から遠い惑星ほどゆっくり回る。その遅くなり方に法則は無いか。ケプラーは『世界の調和』第 5 巻 第 3 章に、見つけた日付まで書き残している。1618 年 3 月 8 日、それは頭に浮かんだ。しかし計算を誤り、間違いとして捨てた。5 月 15 日、それは再びやって来て、心の闇を打ち破った。ティコの観測に費やした 17 年の仕事と、いまの考察とが見事にかみ合ったので、初めは夢を見ているのか、結論を前提に紛れ込ませたのかと思ったほどだ、と。

ケプラーの言葉では、2 つの惑星の周期の比は、平均の距離の比の「1 倍半」(3/2 乗)に正確に等しい。2 乗にすれば、周期の 2 乗は距離の 3 乗に比例する。

ケプラーは、なぜそうなるのかは説明できなかった。説明したのはニュートンである。1687 年の『プリンキピア』第 1 巻 命題 15 で、距離の 2 乗に反比例する引力のもとでは、楕円の周期が長軸の 3/2 乗に比例することを証明した。さらに、木星や土星の衛星もこの法則に従うことを、万有引力の証拠の 1 つとして挙げた。

証明

万有引力の法則から、楕円の軌道について導く。太陽の質量を 、楕円の長半径を 、短半径を とする。

  1. 引力は太陽の方向を向くので、太陽の周りの角運動量は変わらない。1 kg あたりの角運動量を とすると、線が描く面積の速さは一定である(第二法則)。

  2. 逆 2 乗の引力のもとでの軌道の方程式を解くと、太陽を焦点とする円錐曲線になる。楕円なら、焦点を通り長軸に垂直な弦の長さの半分 (半直弦)は

  3. 楕円の性質から、半直弦は長半径と短半径で と書ける。手順 2 と合わせて

  4. 1 周の時間は、楕円の面積 を、面積の速さ で割ったものである。

  5. 2 乗して手順 3 を代入すると、 が消える。周期は長半径だけで決まる。

  6. 惑星の質量 も太陽を引くので、2 つは共通の重心の周りを回る。2 つの間の距離で考えると、 を に置き換えればよい。

  7. 太陽系の惑星では は の 1000 分の 1 以下なので、比例定数はどの惑星もほぼ同じになる。周期を年、長半径を地球の軌道の長半径(天文単位、au)で測れば、

ケプラーが見つけた比例が、すべての惑星で同じだった理由は、比例定数に太陽の質量だけが入っているからである。逆に、周期と長半径を測れば、中心にある物の質量が分かる。

応用

8 つの惑星。 水星は au、 年で、 になる。木星は 5.203 au と 11.86 年で 0.999、海王星は 30.07 au と 164.8 年で 0.999 である。ケプラーの時代に知られていなかった天王星と海王星も、同じ式に乗る。

ハレー彗星。 周期は約 75.3 年なので、長半径は au と分かる。太陽に最も近いときは金星の軌道の内側まで来て、遠いときは海王星の軌道の外まで行く、細長い楕円である。

静止衛星の高さ。 地球の自転と同じ 23 時間 56 分 4 秒で回る衛星は、赤道の上で止まって見える。地球について を解くと、 km、地表からの高さは約 35,800 km になる。放送や気象の衛星はこの高さを回っている。

木星の重さを量る。 木星の衛星イオは、半径約 42 万 2 千 km の軌道を 1.769 日で回る。式を について解くと、木星の質量は約 kg、地球の約 318 倍と出る。惑星や恒星の質量は、ほとんどこの方法で求められている。

銀河の中心。 天の川銀河の中心を回る星 S2 は、長半径約 1000 au の楕円を約 16 年で回る。(太陽の質量を単位として)から、中心には太陽の約 400 万倍の質量が、S2 が最も近づくときの距離(約 120 au)より内側に詰まっていることが分かった。この観測を続けたゲンツェルとゲズは、2020 年にノーベル物理学賞を受けた。

図示

横軸に軌道の長半径、縦軸に周期を、どちらも対数の目盛りでとる。8 つの惑星は傾き 3/2 の 1 本の直線に並ぶ。
太陽を焦点とする楕円の軌道。長半径 a だけで周期が決まり、離心率が違っても a が同じなら周期は同じである。網をかけた 2 つの扇形は、同じ時間に描く面積で、等しい。

シミュレーション

左では、太陽系の惑星のうち画面に入るものと、つまみで決める二重丸の惑星が太陽を回る。二重丸の惑星の長半径 と離心率 を変えると、右の図の塗りつぶした点が動き、 を変えたときだけ直線の上をすべる。 を大きくすると、太陽の近くではすっと速く、遠くではゆっくり進む。網をかけた扇形は、等しい時間ごとに描く面積で、形が違っても面積は同じである。

広がる学問

  • 天文学 恒星の周りの惑星(系外惑星)の軌道の大きさや、2 つの恒星が回り合う連星の質量は、周期を測ってこの式から求める。1995 年に見つかった、ペガスス座 51 番星の惑星は周期 4.23 日で、軌道の長半径は約 0.05 au、水星よりずっと内側を回っていた。
  • 物理学 ニュートンはこの法則を手がかりに、引力が距離の 2 乗に反比例することを示した。法則は、万有引力の法則を確かめる最初の大きな証拠になった。
  • 工学 人工衛星の高さと周期の関係は、この式で決まる。高さ 400 km の国際宇宙ステーションは約 92 分、月は約 27 日で地球を回る。打ち上げる軌道の設計は、まずこの関係から始まる。
  • 音楽 ケプラーの『世界の調和』は、天体の運動と音楽の比を、観測の数値で結びつけようとした大きな試みである。惑星の旋律の考えは、のちの作曲家や音楽の理論家にも題材を与え続けている。
  • 数学 楕円の面積・半直弦・焦点の性質が、この証明の要になる。円錐曲線の研究は古代ギリシアのアポロニオスにさかのぼり、ケプラーとニュートンによって天体の運動の言葉になった。

参考文献

  1. J. Kepler, Harmonices Mundi, Linz, 1619, Book V, Chapter 3.(E. J. Aiton, A. M. Duncan, J. V. Field 訳 The Harmony of the World, American Philosophical Society, 1997)
  2. J. Kepler, Astronomia Nova, Prague, 1609.
  3. I. Newton, Philosophiae Naturalis Principia Mathematica, London, 1687, Book I, Prop. 15.
  4. アリストテレス『天体論』第 2 巻 第 9 章
  5. プラトン『国家』第 10 巻(藤沢令夫 訳、岩波文庫)
  6. A. Koestler, The Sleepwalkers, Hutchinson, 1959.
  7. GRAVITY Collaboration, "Detection of the gravitational redshift in the orbit of the star S2 near the Galactic centre massive black hole", Astronomy & Astrophysics 615 (2018), L15.

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