浮かべた磁石と鉄
体重90 kgの人と45 kgの人が押し合うと、押す力が大きいのは重い人のほうだろうか。そうではない。2人が受ける力は、いつも同じ大きさで逆向きになる。高等学校学習指導要領解説も、質量の大きい物体のほうが相手に大きな力を及ぼすという考えを、生徒が経験からもちやすい誤った考えとして挙げている。
1687年、アイザック・ニュートンは『自然哲学の数学的諸原理』(プリンキピア)の運動の第3法則に、このことを書いた。アンドリュー・モットの英訳では「すべての作用には、つねに等しい反作用が対抗する。2つの物体が互いに及ぼし合う作用は、つねに等しく、逆の向きを向く」。指で石を押せば指も石に押され、馬が綱で石を引けば馬も同じだけ石の側へ引き戻される、とニュートンは例を続けた。
引き合う力でも、同じことが言えるのか。ニュートンは法則のあとの注解で、磁石と鉄を別々の器に入れて静かな水に並べて浮かべると、どちらも相手を押し進めることはなく、等しく引き合って押し合い、最後はつり合って止まると書いている。理屈も添えた。2つの間に障害物を挟んだとき、片方がもう片方より強く引かれるなら、2つと障害物をひとまとめにした全体が、限りなく速くなり続けてしまう。外から押されてもいない全体が速くなり続けるのは、慣性の法則に反する、というのである。
押し合う2台の台車で確かめる
中学3年の理科では、ローラースケートを履いた2人が押し合うと2人とも動き出すような体験から、力が互いにはたらき合うことに触れる。法則を式で書き、運動方程式と組み合わせて計算するのは、高校の物理基礎である。
この計算の道すじ。 公式の記号を読み、押し合う2台の台車で、受ける力は同じでも加速度は質量で違うことを数で確かめる(手順1〜8)。次に、机の上の本で、つり合いの2力と作用・反作用の2力を見分ける(手順9〜11)。
公式のは力で、単位はN(ニュートン)である。文字の上の矢印は、大きさのほかに向きももつ量(ベクトル)の印だ。右下のは「AがBに及ぼす」と読むので、はBが受ける力になる。
右辺のマイナスは、向きを逆にする印である。右向きを正と決めると、右向きに120 Nの力は N、その逆向きは Nと書ける。大きさは同じ120 Nで、符号が向きを表す。向きを符号で表すときは、文字の上の矢印を外してのように書く。
なめらかな床の上で、質量60 kgの台車Aと40 kgの台車Bを向かい合わせ、0.50秒のあいだ一定の120 Nで押し合わせたとする。右向きを正にとる。台車の動きは運動方程式で決まり、受けた力を質量で割った分だけ、1秒ごとに速度が変わる(運動方程式)。この1秒あたりの速度の変化を加速度といい、単位はm/s²である。
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Bが受ける力を、右向きを正として書く
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作用・反作用の法則で、Aが受ける力を出す
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Bの運動方程式に、質量40と受けた力を入れる
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両辺を40で割る
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Aの運動方程式に、質量60と受けた力を入れる
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両辺を60で割る
つまり、同じ120 Nを受けても、軽いBの加速度は重いAの1.5倍になる。質量と加速度の掛け算が、どちらも受けた力の120になるからだ。止まっていた台車の速度は、加速度に時間を掛ければ求まる。
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Bの0.50秒後の速度を、加速度×時間で出す
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Aの速度も同じように出す
Bの質量を重くしても軽くしても、押し合っている間の2本の力の矢印は同じ長さのままだ。変わるのは、押し終えたあとの速さである。Bを120 kgにすると、Aより重くなったBのほうがゆっくり離れていく。
ニュートンも第3法則の説明で、逆向きに生じる速度の変化は物体の量(今でいう質量)に反比例すると書いた。手順7と8の速度に質量を掛けて足すと、ちょうど0になる。
質量×速度は運動量とよばれ、押し合う前の0から、押し合ったあとも0のままである。物理で習う運動量保存の法則は、この性質から出てくる。2台が離れていく速さは m/sで、相対速度の引き算で求まる。
では、同じ大きさで逆向きの2力なら、いつでも作用・反作用なのだろうか。机の上に止まっている質量0.50 kgの本で確かめる。本が受ける力は、地球が本を引く重力と、机が本を押し上げる力(垂直抗力)の2つだ。重力の大きさは、質量に重力加速度9.8 m/s²を掛けて求める。
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本が受ける重力を計算する
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本は止まっているので、上向きを正として、本が受ける力の和を0とおく
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両辺にを足す
手順10で足したとは、どちらも本が受ける力である。1つの物体が受ける力の和が0になることを、力のつり合いという。とは同じ大きさで逆向きだが、作用・反作用の組ではない。
(机→本)の相手は、本が机を押し下げる力(本→机)だ。(地球→本)の相手は、本が地球を引き上げる力(本→地球)で、地球も4.9 Nで本の側へ引かれている。作用・反作用の2力は必ず別々の物体にはたらくので、1つの物体の動きを考えるときに足し合わせることはない。
では、どう見分ければよいのか。矢印の主語と相手を入れ替えてみればよい。「机が本を押す」を入れ替えると「本が机を押す」になり、これが反作用だ。「机が本を押す」と「地球が本を引く」は、相手が入れ替わっていないので組にならない。
違いは、本を乗せた机ごと上向きに2.0 m/s²で加速させると、はっきりする。本の運動方程式はなので、 Nに増え、つり合いは崩れる。それでも、本が机を押す力はと同じ5.9 Nのままだ。作用・反作用は、物体が止まっていても加速していても成り立つ。
馬が荷車を引いて進むわけ
引く力と引き返される力が同じなら、馬と荷車はなぜ前へ進めるのか。ニュートンが挙げた馬と石の例は、この問いにつながる。答えは、それぞれが受ける力を物体ごとに分けて足すと見えてくる。
質量400 kgの馬が、ロープで200 kgの荷車を引いている。地面が馬のひづめを前へ押す力を1,000 N、地面との摩擦が荷車を後ろへ引く力を400 Nとする。ロープが荷車を引く力をとおく。
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馬と荷車をひとまとめにして、外から受ける力を足す
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まとめた質量で割り、加速度を出す
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荷車だけの運動方程式を書く
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両辺に400を足す
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馬はロープから後ろへ600 Nで引かれるので、馬の運動方程式で確かめる
ロープは荷車を前へ600 Nで引き、馬を後ろへ600 Nで引く。この2力は馬と荷車をひとまとめにしたとき打ち消し合うので、手順1の式には入らなかった。だから、前へ進めるかどうかは、地面が馬を押す力と、地面が荷車を引き止める力の大小で決まる。
歩くときも同じだ。足で地面を後ろへ押すと、地面が足を前へ押し返し、その力で体が前へ進む。氷の上で歩きにくいのは、足が滑って地面を後ろへ押す力が小さくなり、押し返される力も小さくなるからだ。ところが、ロケットは押す地面が無くても進む。噴き出すガスを後ろへ押し出し、そのガスに前へ押し返されるのである(ツィオルコフスキーの公式)。
押し合い、引き合う例題
重力加速度の大きさは9.8 m/s²とする。
例題 1基本机の上のりんご
質量0.30 kgのりんごが、水平な机の上で止まっている。(1)りんごが受ける力を2つ挙げ、それぞれの大きさを有効数字2桁で求めよ。(2)(1)の2力は、作用・反作用の組か、つり合いの組か。(3)りんごが受ける重力の反作用は、何が何に及ぼす力か。
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(1)地球がりんごを引く重力と、机がりんごを押す垂直抗力である。重力は質量に9.8を掛けて求める。
りんごは止まっているので、上向きの垂直抗力も同じ2.9 Nになる。
(2)2力はどちらもりんごが受ける力なので、つり合いの組である。
(3)重力(地球がりんごを引く力)の主語と相手を入れ替えた、りんごが地球を引く力である。大きさは2.9 Nで、上向きに地球にはたらく。
例題 2基本接した2つの箱を押す
なめらかな水平の床に、質量2.0 kgの箱Aと3.0 kgの箱Bを接して並べ、Aを右向きに10 Nで押し続けた。(1)箱の加速度の大きさ(2)AがBを押す力の大きさ(3)BがAを押す力の大きさと向きを求めよ。
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(1)2つの箱は一緒に動くので、ひとまとめにする。外から受ける力は10 Nだけで、AとBが押し合う力は打ち消し合う。
(2)Bが受ける横向きの力は、AがBを押す力だけである。Bの運動方程式から求める。
(3)作用・反作用の法則から、BはAを左向きに6.0 Nで押す。Aの運動方程式で確かめると、Aが受ける力の和は Nで、と合う。
例題 3入試綱で引き合う2台の台車
なめらかな水平の床で、5.0 m離れた2台の台車に人が乗っている。人と台車を合わせた質量は、Aが50 kg、Bが75 kgである。2台を結んだ綱をAが30 Nで引き続けた。(1)2台の加速度の大きさ(2)2台が出会うまでの時間(3)出会う場所が、Aの出発点から何m先かを求めよ。綱の質量は無視し、時間は有効数字2桁で答えよ。
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(1)Aが綱を30 Nで引くと、作用・反作用によって、Aは綱からBの側へ30 Nで引き返される。質量を無視できる綱は、Bも同じ30 NでAの側へ引く。それぞれの運動方程式から加速度を出す。
(2)2台は向かい合って近づくので、近づく速さは1秒に m/sずつ増える。止まった状態から一定の加速度で動くと、秒でだけ進む。この式で、2台のあいだの5.0 mが縮み切る時刻を求める。
両辺に2を掛けるとで、 sである。
(3)Aが進む距離にを入れる。
Bは m進み、合わせて5.0 mになる。綱を引くのがAでもBでも、2台が受ける力は同じ30 Nなので、答えは変わらない。
ボトルの中の磁石を問う出題
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 物理基礎 第1問 問2:ペットボトルのふたの内側に付けた磁石と、底から糸でつないだ磁石が引き合い、下の磁石が浮いたまま止まっている。下の磁石が上の磁石から引かれる力を重力と糸の張力で表し、ボトルごとはかりに載せたときの目盛りを選ぶ。ボトルの中で及ぼし合う力が組ごとに打ち消し合うことが問われる。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第2節「物理基礎」3(1)ア(イ)㋒ 運動の法則、51ページ
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』(2017)、第2章 第2節 第1分野2(5)ア(イ)㋐ 運動の速さと向き、55ページ
- I. Newton, The Mathematical Principles of Natural Philosophy, trans. A. Motte (1846), "Axioms, or Laws of Motion"(第3法則と、法則のあとの注解)
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 物理基礎」