キッブルバランスの式(キログラムの定義)

Kibble balance equation

最後の講演から 3 か月後、はかりに考案者の名が付いた。

電流で重さを支える測定と、コイルを動かして電圧を測る測定を合わせると、質量がプランク定数と周波数で表せる。2019 年からの 1 kg の決め方。

年代
1975年(はかり)・2018年(定義)
習う
高3・物理・電気と磁気
レベル
入試(例題 4 問)
人物
ブライアン・キッブル、イアン・ロビンソン、ボブ・カトコスキー、ブライアン・ジョセフソン、クラウス・フォン・クリッツィング、倉本直樹
逸話

1 kg だった円柱

パリ郊外セーヴルの国際度量衡局(BIPM)に、直径も高さも約 39 mm の金属の円柱が保管されている。白金 90 %、イリジウム 10 % の合金で、国際キログラム原器と呼ばれる。2019 年 5 月 19 日まで、1 キログラムとは、この円柱の質量のことだった。1889 年の第 1 回国際度量衡総会が、この原器を今後は質量の単位とみなすと定めた。

国際キログラム原器(画像生成 AI で描いたイメージ)
国際キログラム原器1889年1889 年から 2019 年まで、その質量が 1 kg と決められていた円柱画像生成 AI で描いたイメージ

同じころに作られた 40 個ほどの複製は、多くが各国に配られた。日本の原器もその 1 つで、約 40 年おきにセーヴルへ戻って国際原器と比べられてきた。BIPM によると、1946 年の 2 回目の検査で、各国の原器の平均が国際原器から少しずつ離れていくことが分かった。1989 年から 1991 年の 3 回目の検査では、1889 年に承認された原器の組で、国際原器との差の中央値が約 25 µg(1 億分の 2.5)になっていた。

ずれたのは複製か、国際原器か。この問いには答えようがない。国際原器の質量は、定義によって、いつでもちょうど 1 kg だからである。産業技術総合研究所(産総研)は、国際原器そのものも 100 年で 50 µg ほど(1 億分の 5)変動した可能性があるとみて、その量を「およそ指紋 1 個分の質量」と例えている。

2011 年の第 24 回国際度量衡総会は、国際度量衡委員会が示した SI の改定の方針に留意する決議を採択した。プランク定数 の値をちょうどに決めてキログラムを定める方針で、値の下の桁は、改定のときまでの測定をまとめた最新の値で埋めることになっていた。2018 年 11 月 16 日、ヴェルサイユの国際会議場で開かれた第 26 回総会は、 J·s とする改定を採択した。新しい定義は、2019 年 5 月 20 日の世界計量記念日から使われている。

広い会議場に各国の代表が何列にも並んで座り、正面の壇上に長い机がある。人物は後ろ姿と遠景だけ(画像生成 AI で描いたイメージ)
2018 年 11 月 16 日、ヴェルサイユで開かれた第 26 回国際度量衡総会画像生成 AI で描いたイメージ

国際原器はいまも BIPM にある。決議の付属書では、その質量は「1 kg、相対標準不確かさ 1.0 × 10⁻⁸」とされ、これからは実験で決める量になった。130 年のあいだ誤差 0 とされた円柱に、誤差が付いた。

起源

電流天秤の悩みから生まれたはかり

いま 1 kg の実現に使われるはかりを考えたのは、イギリスの国立物理学研究所(NPL)のブライアン・キッブルである。1938 年にバークシャーで生まれ、オックスフォード大学とカナダのウィンザー大学を経て、1967 年に NPL に入った。

ブライアン・キッブルの肖像(画像生成 AI で描いたイメージ)
ブライアン・キッブル1938–2016コイルを動かすはかりを考え、質量を電気とプランク定数に結んだ画像生成 AI で描いたイメージ

キッブルは NPL で、強い磁場の中での陽子の磁気回転比を測った。NPL の追悼文によると、この値を弱い磁場での測定と合わせると、電流の単位アンペアの実現に問題があることが分かった。当時のアンペアは電流天秤で実現していた。電流を流したコイルどうしが引き合う力を量り、コイルの寸法から電流を計算する装置で、寸法を十分な精度で測るのが難しかった。

キッブルの案は、寸法を測らずに済ませる方法だった。同じコイルで、電流の力でおもりを支える測定と、コイルを動かして電圧を測る測定をすると、コイルと磁場の形で決まる同じ係数が両方に入り、組み合わせると消える。追悼文によると、キッブルはこの案を、アメリカの国立標準局(NBS・いまの NIST)から訪れていたボブ・カトコスキーに話して励まされた。この案を含む論文は、1975 年 6 月にパリで開かれた第 5 回原子質量・基礎定数国際会議の会議録に載り、1976 年に出版された。1978 年には、イアン・ロビンソン、レイ・スミスと最初の装置(マーク I)を NPL に組んだ。マーク I で得た結果は、1990 年から 2019 年まで世界で使われた電圧と抵抗の協定値を決めるのにも役立った。

実験室で、背の高い天秤の腕の片側から吊るしたコイルが、重い磁石の隙間に下りている。そばで波打つ黒髪の男がコイルを調整している(画像生成 AI で描いたイメージ)
1978 年ごろ、NPL で最初のはかり(マーク I)を組むキッブル画像生成 AI で描いたイメージ

1980 年、クラウス・フォン・クリッツィングが量子ホール効果を見つけた。1962 年にブライアン・ジョセフソンが予言したジョセフソン効果と組み合わせると、電圧と電流の積である電気の仕事率を、プランク定数と周波数で測れる(「コイルの形を消し、e を消す」の章)。キッブルのはかりは、 を測る装置になった。1990 年の論文で、キッブル・ロビンソン・ジャネット・ベリスは、マーク I の測定から を 1000 万分の 1.4 の精度で導いた。ジョセフソン効果と量子ホール効果の値が、理論どおり と で決まるとみなした計算である。同じ年に組んだ、真空の中で動く 2 台目(マーク II)は、2009 年にカナダ国立研究機構(NRC)へ渡った。NRC はこれで を 10 億分の 9.1 の精度で測った。

科学技術データ委員会(CODATA)は、2017 年 7 月 1 日までに出た 8 つの主な測定から、 J·s を求めた。4 つはキッブルバランス(NIST の 2 つ、NRC、フランスの LNE)による。残りの 4 つは、シリコンの球の中の原子を数える X 線結晶密度法による値で、産総研はこの 4 つすべてに加わり、1 つは倉本直樹らがほぼ独立に測った。CODATA の値を 9 桁で切ったものが、定義の値になった。

白い手袋をはめた両手が、鏡のように磨かれた灰色の球を持つ。球に実験室の照明と装置が映っている(画像生成 AI で描いたイメージ)
原子を数える方法で使う、質量約 1 kg・直径約 94 mm のシリコン 28 の単結晶の球画像生成 AI で描いたイメージ

キッブルは決議を見ることなく、2016 年 4 月 28 日に 77 歳で亡くなった。その 6 週間前の 3 月 17 日には、NPL で、はかりを思いついた経緯を語る講演をしている。6 月の国際度量衡委員会の単位諮問委員会(CCU)は、この講演の録音を流したあと、これからは公式の文書でワットバランスを「キッブルバランス」と呼ぶことにした。

証明

コイルの形を消し、e を消す

2 つの測定を式にして、コイルの形と磁場の強さを消す。続けて、電圧と電流を量子の効果で測り、質量を と周波数で書く。コイルの高さを 、コイルを貫く磁束を とする。

  1. 電流 の流れるコイルが、磁束の増える向きに だけ動くと、磁場から受ける力は の仕事をする。仕事を距離で割ると、鉛直の力になる。

  2. 重さを量る。質量 のおもりの重さを、この力で支える( は重力加速度)。

  3. 動かす。おもりを外して電流を切り、コイルを速さ で動かす。ファラデーの電磁誘導の法則(マクスウェル方程式の 3 本目)で、コイルの両端に電圧 が生じる。

  4. 2 と 3 に同じ が入る。放射状の磁場に置いた円形コイルなら、磁束密度 と導線の長さ の積 にあたる係数である。2 つの式から消すと

  5. 電圧はジョセフソン効果で測る。超伝導体の接合に周波数 のマイクロ波を当てると、 の整数倍のとびとびの電圧が出る。接合をたくさんつないだ素子の電圧と を比べる( は接合の数と段の番号で決まる整数、 は電気素量)。

  6. 電流は、コイルにつないだ抵抗 の両端の電圧 から求める。 もジョセフソン効果で測る。 は量子ホール効果の抵抗( の整数分の 1)と比べて、 の何分の 1 かを決める。その数を とする。

  7. 6 の 3 つの式をまとめる。

  8. 5 と 7 を掛けると、電気素量 が消える。

  9. 4 に入れて、質量を求める。

9 の右辺の ・ は数えて分かる整数、 は抵抗を比べて決まる単位のない数、・ は周波数、 と は長さと時間で測る量である。2019 年 5 月 19 日までは、国際原器から受け継いだ分銅を として載せ、9 を について解いて を測った。いまは が定義の値なので、同じ式から が決まる。

4 の と は、どちらも仕事率(ワット)の単位をもつ。ただし、重さを量るときコイルは止まっていて、動かすときは電流が流れていない。どちらの仕事率も実際には生じていないので、仮想的な仕事率と呼ばれる。2 つの量を別々の時刻に測るので、導線の抵抗で出る熱や摩擦の損失は式に入らない。ロビンソンとシュラミンガーは総説で、これが 1 億分の 1 の桁の精度を出せる理由だと説明している。1 と 3 に同じ が現れるのは、同じコイルと磁石がモーターにも発電機にもなるからで、エネルギー保存の表れである。

途中の計算

導線の力と起電力を組み合わせる

高校の物理では、電流が磁場から受ける力と、磁場を横切る導線に生じる誘導起電力を、「電流と磁界」の単元で学ぶ(高等学校学習指導要領解説 理科編)。キッブルバランスの式は、この 2 つを組み合わせたものである。磁束の微分を使わず、磁束密度 と導線の長さで追う。

  1. 磁場に垂直な長さ の導線に電流 を流すと、力がはたらく

  2. 導線の全長を とし、放射状の磁場で全体を磁場に垂直にする

  3. おもりの重さと電磁力をつり合わせる

  4. 電流を切り、同じコイルを速さ で動かす

  5. 3 の両辺を で割る

  6. 5 を 4 に代入する

  7. 両辺に を掛ける

数値で確かめる。ロビンソンとシュラミンガーの総説の表によると、NIST の 4 台目の装置(NIST-4)の は約 710 T·m である。1 kg のおもりを m/s² で支えるには、 mA が要る。多くの装置と同じ 1 mm/s でコイルを動かすと、 V になる。 mW で、 mW と一致する。1 kg の分銅で比べる仕事率は、わずか 10 mW ほどである。

応用

10 mW の仕事率と、月が引く力

装置の大きさ。 NIST によると、2015 年から本格的に動いている NIST-4 のコイルは、直径 43 cm、質量 4 kg で、約 1.4 km の導線が巻いてある。実際の測定では、おもりを載せたときと外したときで電流の向きを逆にし、2 つの電流の差で重さを支える(例題 3)。NIST-4 なら、1 回に流す電流は約 7 mA で、上の章で求めた 13.8 mA の半分になる。

を測る。 式には重力加速度 も入るので、おもりの場所の も 1 億分の 1 の桁まで要る。研究所は絶対重力計で を測り、気圧の変化や、装置の磁石そのものが引く分を補正する。総説によれば、磁石の分は 1 億分の 2 になることもあり、太陽と月による地球潮汐の補正も要る。

どれほど効くかを、万有引力の法則で見積もる。月が真上にあるとき、月が地表の物を引く加速度は、地球の中心を引く加速度より大きい。地球と一緒に動く研究所から見ると、その差の分だけ物は月の方へ引かれる。月の質量と万有引力定数の積を m³/s²、地球の半径を m、月までの距離を m とすると 物は上へ引かれるので、 はおよそ 1 億分の 11 だけ小さく見える。太陽では、同じ計算で 1 億分の 5 ほどになる。どちらも目標の 1 億分の 1 より大きく、補正しなければ 1 kg の分銅の値が 0.1 mg ほどずれる。総説によると、潮汐による の変化は地球物理学の研究で精度よく予測できるので、装置を動かすプログラムに予測の計算を組み込むなどして補正する。

原子を数える。 産総研が加わった X 線結晶密度法は、 と質量を原子の質量でつなぐ。シリコンの結晶の単位格子(1 辺 の立方体)には 8 個の原子が入るので、体積 の球の中の原子の数は である。原子と電子の質量の比は精密に分かっていて、電子の質量 は、リュードベリ定数 、微細構造定数 、光の速さ を使って と書ける。 が決まれば原子 1 個の質量が決まり、それに を掛ければ球の質量が出る。1 kg のシリコン 28 には、原子がおよそ 個ある。産総研は、レーザーを物差しにして、約 94 mm の球の直径を 2175 の向きから 0.6 nm の精度で測る。

身の回りでは。 定義が変わっても、台所のはかりや体重計の目盛りは変わらない。原器で決めていた 1 kg と同じ大きさになるよう、測定から の値を選んだからである。BIPM によると、いまは各国の実現値を比べて決めた合意値をもとに、1 kg を国際的にそろえて広めている。

例題と解説

コイルを吊るして質量を求める

例題 1基本四角いコイルで量って、動かす

巻き数 200 の四角いコイルを天秤の腕に吊るす。コイルの下の辺(長さ 5.0 cm)だけが、水平で一様な磁束密度 0.40 T の磁場の中にあり、磁場は辺に垂直である。(1) コイルに質量 20.0 g のおもりを載せたとき、つり合うのに要る電流を求めよ。(2) おもりを外し、電流を切って、コイルを鉛直に 5.0 mm/s で動かしたときの起電力を求めよ。(3) と が等しいことを確かめよ。重力加速度の大きさを 9.8 m/s² とする。

解説を見る

磁場の中にある導線の全長は m で、 T·m である。

(1) から

(2) から

(3) W、 W で、等しい。

例題 2基本磁石を知らずに質量を出す

ある装置で、おもりを載せたコイルに 10.0 mA の電流を流すとつり合った。次に、おもりを外して電流を切り、同じコイルを 1.00 mm/s で動かすと、0.500 V の電圧が生じた。磁石とコイルの形は分からない。重力加速度の大きさを 9.80 m/s² として、おもりの質量と、この装置の を求めよ。

解説を見る

を について解く。

は、動かしたときの式 から

重さの式から T·m としても同じになる。 と を別々に知らなくても、質量は出る。

例題 3入試載せたときと外したときの差で量る

天秤の反対側のおもりは、コイルの側とちょうどにはそろわない。コイルの側には、大きさの分からない一定の力 (上向きを正)が余分にかかるとする。おもりを載せると、上向きの電磁力を生む向きに mA を流してつり合った。おもりを外すと、逆向きに mA を流してつり合った(この電流を mA と書く)。動かしたときの測定は、速さ 1.00 mm/s で電圧 0.710 V だった。(1) となり、 が消えることを示せ。(2) おもりの質量を求めよ。(3) を求めよ。(4) おもりを載せてつり合わせている間にコイルで出る熱(電流の 2 乗に比例する)は、 にして同じおもりを 1 つの電流だけで支える場合のおよそ何倍か。重力加速度の大きさを 9.80 m/s² とする。

解説を見る

(1) 載せたときと外したときのつり合いの式は

辺ごとに引くと が消え、 になる。

(2) T·m である。 mA なので

(3) 外したときの式から

上向きに 2.44 N で、おもりの重さ N のほぼ半分に合わせてある。

(4) 1 つの電流で支えると mA が要る。熱の比は

で、およそ 4 分の 1 になる。おもりを外したときも mA しか流さない。コイルの温まり方が小さいので、熱による の変化も抑えられる。

例題 4難関電圧と電流を周波数で測る

動かしたときの電圧 を、接合を多数つないだジョセフソン素子の電圧と比べると、周波数 GHz、整数 で に等しかった。重さを量るときの電流 は抵抗 に流し、その両端の電圧は、 GHz、 で に等しかった。速さは mm/s、重力加速度の大きさは m/s² である。(1) を 、、 で表せ。(2) 質量 を 、、、、、、 で表せ。(3) J·s として、 を有効数字 3 桁で求めよ。

解説を見る

(1) オームの法則から

(2) に入れると、 が消える。

(3) 数値を入れる。

入試・大会での出題

東大の大問と、導体棒の仕事率

  • 2023 年 東京大学 物理 第 2 問: 質量を精密に測る装置の大問。I では、放射状の磁場の中で導線を巻いた円盤を動かしたときの電圧と、レーザー干渉計で帰還をかけて物体の重さを電磁力で支えたときの抵抗の電圧から、質量を表す。II では、量子ホール効果の抵抗 を基準に、ソレノイドの磁場を打ち消す回路で I の抵抗の値を決める。(出典: 東京大学「令和 5(2023)年度第 2 次学力試験試験問題」)
  • 2025 年 大学入学共通テスト 本試験 物理 第 4 問: 磁場の中のレールに載せた導体棒を、外力で一定の速さに保ち、抵抗とコンデンサーの回路に電流を流す。誘導起電力 を選び、外力がした仕事が、コンデンサーにたまる電荷を起電力に逆らって運ぶ仕事に等しいことから、抵抗で生じたジュール熱を求める。後半はコンデンサーをコイルに替える。(出典: 大学入試センター「令和 7 年度 本試験の問題」)
  • 2026 年 物理チャレンジ 第 2 チャレンジ 理論問題 第 2 問 問 1〜問 4: 誘導モーターを扱う大問のうち、最初の 4 問。レールの上の導体棒を一定の速さで動かしたときの起電力を、ローレンツ力とファラデーの法則の 2 通りで求める。電流 が流れているときに要る外力の仕事率と、回路で単位時間に生じるジュール熱を求める。(出典: 物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ 2026 第 2 チャレンジ 理論問題」)
図示

2 つのモードと、h までの道すじ

キッブルバランスの 2 つの測定。左は重さを量るときで、磁石の隙間(磁場は外向き)に吊るしたコイルに電流を流し、上向きの電磁力 BLI でおもりの重さ mg を支える。右はコイルを動かすときで、おもりを外して電流を切り、コイルを速さ v で動かして電圧 U = BLv を測る。
m = UI/(gv) の 4 つの量の測り方。電圧 U と電流 I はジョセフソン効果と量子ホール効果で測り、2 つを掛けると電気素量 e が消えて、プランク定数 h と周波数だけが残る。g と v はメートルと秒で測る。h を定義の値にすると、質量 m が決まる。
シミュレーション

おもりを載せ、コイルを動かす

「重さを量る」で、コイルの電流 のつまみを動かし、天秤の針を真ん中に戻す。「電流を自動で合わせる」を押すと、実際の装置のように帰還をかけて電流を合わせる。次に「コイルを動かす」に切り替えると、おもりを外したコイルが一定の速さで上下し、電圧 のグラフに平らな区間ができる。2 つの記録がそろうと、下の欄に が出る。「磁石とコイルの BL」を変えて測り直すと、要る電流と出る電圧は変わるが、求めた質量は変わらない(動きは見やすいように大きく描いてある)。

広がる学問

1 kg の定義とつながる学問

  • 物理学 2019 年の改定で、プランク定数・電気素量・ボルツマン定数・アボガドロ定数の値がちょうどに決められ、SI の 7 つの基本単位はすべて自然の定数で定まるようになった。ジョセフソン効果と量子ホール効果で測る電圧と抵抗も、1990 年からの協定値ではなく、SI の値そのものになった。
  • 工学 定義が原器から離れたので、各国の研究所は、自分のキッブルバランスや X 線結晶密度法で 1 kg を実現し、互いに比べられる。単位諮問委員会の 2016 年の議事録には、小型のキッブルバランスの開発や、NIST が教材として作ったレゴブロックの装置(精度は約 1 %)のことも出てくる。
  • 化学 X 線結晶密度法は、原子の数から質量を出す方法で、物質量とつながる。2019 年からはアボガドロ定数が mol⁻¹ と決められ、1 mol はこの数の粒子の集まりとして、質量によらずに定まる。
  • 地球科学 式の は、絶対重力計と地球潮汐の模型で決める。総説によると、装置を建てる前には建物の中の重力の分布を測り、重力計とおもりの場所の違いを補正する。

参考文献

  1. B. P. Kibble, "A Measurement of the Gyromagnetic Ratio of the Proton by the Strong Field Method", in J. H. Sanders, A. H. Wapstra (eds.), Atomic Masses and Fundamental Constants 5, Plenum, New York, 1976, 545-551.
  2. B. P. Kibble, I. A. Robinson, J. H. Belliss, "A Realization of the SI Watt by the NPL Moving-coil Balance", Metrologia 27 (1990), 173-192.
  3. I. A. Robinson, S. Schlamminger, "The watt or Kibble balance: a technique for implementing the new SI definition of the unit of mass", Metrologia 53 (2016), A46-A74; S. Schlamminger, D. Haddad, "The Kibble balance and the kilogram", Comptes Rendus Physique 20 (2019), 55-63.
  4. BIPM, 第 26 回国際度量衡総会(2018)決議 1; BIPM, "The international prototype of the kilogram (IPK)"・"History of the SI: kilogram"; BIPM, "Mass metrology"; BIPM Consultative Committee for Units, Report of the 22nd meeting (15-16 June 2016).
  5. D. B. Newell et al., "The CODATA 2017 values of h, e, k, and N_A for the revision of the SI", Metrologia 55 (2018), L13-L16.
  6. N. Kuramoto et al., "Determination of the Avogadro constant by the XRCD method using a 28Si-enriched sphere", Metrologia 54 (2017), 716-729; 産業技術総合研究所「国際度量衡総会において新定義採択」(2018 年 11 月 16 日)・倉本直樹「『キログラム』のプランク定数に基づく新たな定義を導いた計測技術」(2018 年)・同「キログラムの新しい定義 さようならキログラム原器」(国立科学博物館のトークイベント資料、2019 年).
  7. NPL, "In memory of Dr Bryan Kibble, 1938-2016" (2016); NIST, "Kilogram: The Kibble Balance"; L. S. Chao et al., "A LEGO Watt balance", American Journal of Physics 83 (2015), 913-922; 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第 1 部 第 2 章 第 3 節「物理」(3) 電気と磁気.

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