微分積分学の基本定理

Fundamental theorem of calculus

先取権を裁いた王立協会の報告は、ニュートン自身が書いていた。

微分と積分は互いに逆の操作である。面積を求める問題を、微分の逆をたどる計算に変えた定理。

年代
1660〜1680年代
人物
アイザック・ニュートン、ゴットフリート・ライプニッツ、アイザック・バロー、ジェームズ・グレゴリー、オーギュスタン=ルイ・コーシー
逸話

王立協会の裁定

1712 年 3 月、ロンドンの王立協会は、微積分を最初に発明したのは誰かを調べる委員会を作った。訴えたのはハノーファーのライプニッツで、相手は王立協会の会長アイザック・ニュートンだった。

発端は、オックスフォードのジョン・キールが王立協会の雑誌『フィロソフィカル・トランザクションズ』(1708 年分の号)に載せた論文である。キールは、ライプニッツがニュートンの方法を、名前と記号を変えて発表したと書いた。ライプニッツは 1711 年に王立協会へ手紙を送り、取り消しを求めた。

委員会は古い手紙を集め、4 月 24 日に「最初の発明者はニュートンである」という報告を出した。手紙の束と報告は『コメルキウム・エピストリクム(書簡集)』として刊行された。ライプニッツ本人からは、話を聞かなかった。のちの研究で、この報告の下書きはニュートン自身が書いたことが分かっている。1715 年には同じ雑誌に、この本を紹介する無署名の長い記事が載った。これもニュートンの筆である。委員の中には、のちにテイラー展開に名を残す、若いブルック・テイラーもいた。

ニュートンが 1676 年 10 月、王立協会の書記オルデンバーグを通じてライプニッツに送った手紙には、方法の核心が暗号で書かれていた。「6accdae13eff7i3l9n4o4qrr4s8t12ux」。a が 6 個、c が 2 個、d が 1 個…と、文の文字を数えただけの並べ替えである。元の文はラテン語で「いくつかの流量を含む方程式が与えられたとき、流率を求めること。またその逆」。流率はいまの微分のことで、「その逆」がこの記事の定理である。

ライプニッツは 1716 年に亡くなり、争いは決着しないまま終わった。いまでは、2 人はそれぞれ別に発見したと考えられている。ニュートンは 1665〜66 年に、ライプニッツは 1675 年に、それぞれの方法にたどり着いた。論文として先に発表したのはライプニッツで、1684 年である。私たちが使う と の記号は、ライプニッツのものである。

起源

曲線で囲まれた面積を求める問題は、古代ギリシアからある。アルキメデスは『放物線の求積』で、放物線と弦で囲まれた部分の面積が、内側に描いた三角形の 倍であることを、小さな三角形を限りなく足し合わせて示した。曲線に接線を引く問題も、17 世紀にはフェルマーやデカルトが手がけていた。

ただ、2 つの問題は別々のものとして扱われていた。面積を求めるには、図形ごとに工夫して細かく分け、足し合わせる必要があった。

17 世紀の半ば、2 つが裏表の関係にあることに気づく人が現れる。スコットランドのジェームズ・グレゴリーは 1668 年の『幾何学の普遍的部分』で、イングランドのアイザック・バローは 1670 年の『幾何学講義』第 10 講の命題 11 で、この関係を図形の言葉で示した。バローはケンブリッジ大学の初代ルーカス教授で、1669 年にその職を若いニュートンに譲っている。

ニュートンは 1666 年 10 月の草稿で、曲線の下の面積が増える速さは、そこでの曲線の高さに等しいことを使い、面積の計算を「流率の逆」として、どの曲線にも使える方法にした。ライプニッツは 1675 年 10 月 29 日の日付のあるノートで、和を表す (ラテン語の summa の頭文字 S を縦に伸ばしたもの)を初めて使い、差を表す と組み合わせて、積分と微分が逆の操作であることを記号の計算として書いた。

この定理の厳密な証明は 19 世紀を待つ。コーシーは 1823 年の講義録で、連続な関数の積分を「細い長方形の面積の和の極限」として定め、そのうえでこの定理を証明した。リーマンは 1854 年の教授資格論文で、積分をもっと広い関数に使えるように定め直した。

証明

を区間 で連続な関数とし、 と置く。 は、 から までの曲線の下の面積である。

  1. を だけ増やしたときの面積の増え分は、幅 の細い帯の面積である。

  2. 区間 での の最小値を 、最大値を とする。帯は、高さ の長方形と高さ の長方形の間にはさまれる。

  3. 両辺を で割る( の場合。 でも同じ形になる)。

  4. は連続なので、 で も も に近づく。間にはさまれた量も同じ値に近づく。

  5. これが第 1 の主張である。次に、 となる関数 を 1 つとる。 は導関数が なので、平均値の定理から定数 に等しい。

  6. を使って、端の値の差をとる。

面積を細かく分けて足す代わりに、微分すると になる関数を 1 つ見つけ、両端の値の差をとればよい。これが第 2 の主張で、積分の計算のほとんどはこの形で行う。

逆に、微分すると になる関数が初等関数で書けないこともある。 がその例で、ガウス積分は別の工夫で値を求める。

応用

速さから距離。 位置を微分すると速さになるので、速さを積分すると進んだ距離になる。静かに落とした物の速さは m/s で、最初の 3 秒で落ちる距離は

である。飛行機や潜水艦の慣性航法装置は、加速度を 2 回積分して自分の位置を出す。

アルキメデスの答えを 1 行で。 を微分すると になるので、

である。原点と点 を結ぶ弦と放物線 の間の面積は、。内側の三角形(頂点 )の面積は で、比は になる。アルキメデスが無限に三角形を足して得た比が、端の値の差だけで出る。

限界費用から総費用。 もう 1 個作るときに増える費用を限界費用という。限界費用が 円のとき、生産を 10 個から 20 個に増やすのにかかる費用は

円である。

電気の使用量。 家の電力量計が数えるのは、使った電力(kW)を時間で積分した電力量(kWh)である。1.2 kW で動くエアコンを 3 時間使えば kWh。実際には電力は刻々と変わるので、電力のグラフの下の面積を足し続けることになる。電力量計の表示は 、その瞬間の電力は にあたる。表示の数字が増える速さを見れば、いま何 kW 使っているかが分かる。

図示

左は曲線 f の下の、a から x までの面積 F(x) と、その右の幅 h の細い帯。右は面積を x の関数として描いた F のグラフで、x での接線の傾きは左の帯の高さ f(x) に等しい。

左の帯の面積は、およそ高さ × 幅 である。だから は、幅 進むごとに ずつ増える。右のグラフで見ると、これは傾きが ということである。

シミュレーション

上の段は関数 で、斜線の面積が 、塗りつぶした帯がこれから足される分である。下の段は のグラフで、短い直線が での接線を表す。グラフをドラッグして を動かすと、帯の高さと接線の傾きが同じ数を指し続ける。 が負の所(点の面)では、 は下がる。「階段」では、 が跳ぶ所で が折れ曲がる。

広がる学問

  • 物理学 位置・速度・加速度は、微分と積分でつながっている。力を距離で積分すると仕事、電流を時間で積分すると電荷になる。運動方程式を解く計算は、この定理を何度も使う。
  • 工学 機械の制御でよく使う PID 制御の I(積分)は、目標とのずれを時間で積分した量である。ずれが小さくても長く続けば効きが強くなり、最後に残るずれを消す。
  • 経済学 限界費用を積分すると総費用になる。需要曲線の下の面積から支払った額を引くと、消費者余剰になる。
  • 医学 薬を飲んだあとの血中濃度を時間で積分した値は AUC(濃度曲線の下の面積)と呼ばれ、体が薬にさらされた量の目安になる。後発医薬品が先発品と同じように吸収されるかを確かめる試験でも、AUC を比べる。

参考文献

  1. Isaac Barrow, Lectiones Geometricae (London, 1670), Lecture X.
  2. G. W. Leibniz, "Nova methodus pro maximis et minimis", Acta Eruditorum (1684), 467-473.
  3. Commercium Epistolicum D. Johannis Collins et aliorum de analysi promota (London, 1712).
  4. A. Rupert Hall, Philosophers at War: The Quarrel between Newton and Leibniz (Cambridge University Press, 1980).
  5. Richard S. Westfall, Never at Rest: A Biography of Isaac Newton (Cambridge University Press, 1980).
  6. A.-L. Cauchy, Résumé des leçons données à l'École royale polytechnique sur le calcul infinitésimal (Paris, 1823).

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