検算できない答え
答えを確かめられない計算の正しさを、どう測るのか。53量子ビットの量子計算機が200秒で出した答えは、スーパーコンピュータでやり直すと1万年かかるという。Googleの研究チームが用意した物差しは、線形交差エントロピーベンチマーク、略して線形XEBと呼ばれる1行の式だった。計算機が出したビット列の理想の確率を平均し、倍して1を引く。でたらめな出力なら0、理想どおりなら1になる。
ただし、有名なは、1万年かかる回路そのものの値ではない。
2019年10月23日、著者77人の論文がNatureに載った。超伝導の量子計算機Sycamoreが1つの回路から100万回の標本を約200秒で取り出し、同じ仕事は当時最先端のスーパーコンピュータで約1万年かかるという内容で、チームはこれを量子超越の実現と呼んだ。ハードウェアの主任科学者はジョン・マルティニスである。
チップには142個のトランスモン(超伝導回路で作る量子素子)が並び、54個が量子ビット、残る88個が隣どうしをつなぐ結合器になる。54個のうち1個は壊れていて、実験に使えたのは53個だった。

チップは希釈冷凍機の中で冷やして動かす。装置全体の消費電力は約26 kWと見積もられ、その大半を冷却が占める。

計算の中身に実用の意味はない。量子ビットは0と1を重ね合わせた状態を取る素子で、ゲートはその状態を回す操作にあたる。実験では、全部の量子ビットにランダムな1量子ビットゲートを掛け、隣どうしの組に2量子ビットゲートを掛ける。この1回分を1サイクルと呼び、くり返したあとで全部を読み出すと、53桁のビット列が1本出る。ただし、(約)通りのビット列は同じ確率では出ない。どれが出やすいかは回路ごとに決まり、計算機が正しく動いていれば、出てくるビット列はその偏りに従う。
ここに矛盾がある。偏りを知るには回路を古典計算で解くしかないが、解けないからこそ量子超越と呼べる。
しかも回路が深くなると、古典計算は急に苦しくなる。チームは当時世界最速のSummitの99%にあたる4,550ノードを使い、12サイクルの回路から忠実度0.5%の標本100万本を1.29時間で作った。忠実度は、出力のうち理想の計算が生き残っている割合を指す。実機の忠実度も低いので、古典側も同じ程度の標本を作れば対等になる。14サイクルでは同じ仕事に68日かかると見積もられ、16サイクルより先は、ノードのメモリ512 GBに収めようとすると足し合わせる経路が増えすぎて実行できない。実験の本番は20サイクルである。

1万年という数字は本番の回路の見積もりだが、実際に走らせた値ではない。回路を2つに分けて経路を足し合わせるシュレーディンガー・ファインマン法で1,000経路の時間を測り、100万コアの計算機で忠実度0.2%の標本100万本を作る時間に外挿した。
反論は論文が出る前に届いた。10月21日、エドウィン・ペドノーらIBMの研究者5人はarXivに論文を投稿し、Summitのディスクまで使って個の振幅をすべて蓄えれば、20サイクルの回路を約2.5日でシミュレーションできると見積もった。ただ、その計算は実行していないと、著者ら自身が断っている。1万年も2.5日も、紙の上の数字だった。
では、誰も解けない200秒の答えが正しいと、チームはなぜ言えたのか。
原子核から借りた分布
手がかりは、ランダムな回路が作る確率の形にある。2016年、Googleのセルジオ・ボイショらは、十分に深いランダム回路の出力確率が指数関数の形をした分布に近づくと論じた。ビット列の総数をとすると、確率の分布はである。
この形はポーター・トーマス分布と呼ばれる。もとをたどると、1956年にチャールズ・ポーターとロバート・トーマスが書いた論文「原子核反応の幅のゆらぎ」に行き着く。原子核の研究から名を取った分布が、63年後に超伝導チップの答え合わせを支えた。
チームは補足資料で、この偏りをレーザーのスペックルにたとえた。すりガラスを通したレーザー光は、板の上に明暗の粒を作る。ランダムな量子状態の確率も、出やすいビット列と出にくいビット列がでたらめに散らばった模様になり、誤りが入ると崩れる。だから、実機のビット列が模様の明るい所にどれだけ落ちるかを数えれば、誤りの量が分かる。

ボイショらが最初に提案したのは対数を使う交差エントロピーで、2019年の実験は対数を外した線形の形を主役にした。忠実度が0.32より小さければ、線形のほうが標本のばらつきが小さいからである。実験のデータでは、統計誤差だけを付けると線形が、対数がと、ほぼ同じ値になった。
「量子超越」の語は、カリフォルニア工科大学のジョン・プレスキルが提案した。2011年のソルベー会議の講演をもとにした2012年の論文で、量子系が古典計算機を超える仕事をする段階をこう呼び、役に立つかどうかは問わなかった。ただ、語への批判もある。本人が2019年の寄稿で挙げたのは、supremacyが白人至上主義を連想させることと、報道の過熱をあおることの2点だった。それでもadvantageを選ばなかったのは、競馬の鼻差の勝ちもadvantageと呼べるからだという。
平均が2倍になる理由
まず目盛りを読む。53量子ビットのはほどの小さな数なので、倍して、一様な確率がちょうど1になるようにそろえる。でたらめな計算機はどのビット列もの確率で出すから、出たビット列の確率の平均はで、である。
理想の計算機では、この平均がに上がる。確率の大きいビット列ほど多く出るためで、2の出どころは次の手順で追える。
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振幅を実部と虚部に分ける
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ランダムな状態の実部と虚部を正規分布とみなす
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2つの分布の積を極座標で書く
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、と置く
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本のうち確率の本数を数える
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出る割合は本数に確率を掛けたものになる
点線が確率ごとのビット列の本数、太線が実際に出る割合。確率の大きい側へ山が動き、2ⁿPの平均は1から2になる。 -
出たビット列の確率の平均を積分で書く
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部分積分を2回使う
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手順7に代入する
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XEBの式に入れる
棒の高さは6量子ビットの64通りので、大きい順に並ぶ。下の段は引かれた回数で、確率どおりに引くと左の高い棒に偏り、平均は読み出しのに近づく。この値は分布ごとに揺れ、64通りでは2の前後の1.7〜2.4ほどになる。一様に引くと回数はならされ、平均は1に近づく。
手順2は近似で、前提が2つある。1つは回路が十分に深いことだ。浅い回路では確率が一部のビット列に固まり、理想の値は1を超える。シミュレーションと同じ12量子ビットの回路を計算すると、3サイクルで約2.5、8サイクルでほぼ1に落ち着いた。もう1つは確率の和が1に固定されていることで、の平均は厳密には、理想の値はになる。で0.6、で0.9995と1に近づき、53量子ビットなら差はしかない。
誤りが混ざると値は忠実度になる
実機の出力は理想そのものではない。回路の忠実度を、理想の状態が残っている割合とし、残りの部分の出力分布をと書く。
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実機がビット列を出す確率を2つの部分に分ける
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出たビット列の理想の確率の平均を書く
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手順1を代入して分ける
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誤りで崩れた部分は理想の模様と相関しないとする
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も入れる
確率の平均は1/Dと2/Dのあいだにあり、(1 + F)/Dの点まで理想の側へ進んだ割合がFになる。 -
倍して1を引く
これがの正体である。平均がとのあいだのどこまで進んだかを読めば、忠実度が出る。
値の揺らぎも同じ計算で分かる。本で平均した値の標準偏差はで、が小さければになる。の桁を読むのに3000万本が要るのは、だからだ。
急所は手順4にある。誤りで崩れた部分が模様と相関しない、という仮定が崩れれば、値は忠実度から離れる。模様と相関する出力をわざと作れば、忠実度が低いまま値だけを上げられる。
2.24×10⁻³はどの回路の値か
20サイクルの本番の回路では、がそもそも計算できない。式に入れる数が手に入らないのだから、は出せないはずだ。
そこでチームは回路を少しだけ変えた。忠実度はゲートの数と質でほぼ決まるのに、シミュレーションの手間は回路のつながり方に大きく左右される。チップを2つに分ける境界のゲートを抜けば、誤りの量をあまり変えずに計算だけを軽くできる。境界のゲートを22個抜いたものが省略回路、全部抜いたものがパッチ回路で、どちらも実機で走らせて、得たビット列のXEBを計算した。
は、53量子ビット・20サイクルの省略回路10個の平均である。1回路あたり300万本、合わせて3000万本のビット列から求めた。100万本を200秒で取った完全な回路の値ではない。
なぜこの値で完全な回路を語れるのか。まず、計算できる規模で確認がある。完全な回路と省略回路を交互に測ると、値の比は平均1.01、標準偏差5%だった。比較は38量子ビット・14サイクルまでで、ゲートの並びも計算しやすい別の型だった。そこから先は外挿になる。
もう一つは、ゲートごとの誤りを掛け合わせた予測である。誤りが互いに独立なら、回路全体の忠実度は次の積で近似できる。
とは1量子ビットと2量子ビットのゲートの集合、は読み出す量子ビットの集合である。平均の誤り率0.16%、0.62%、3.77%を省略回路のゲート数1,113、408、53に当てはめると、次の値になる。
平均値で掛けた手計算でも、実測の2割ほど下で桁まで合う。
| 数字 | 何の数か | 得た方法 |
|---|---|---|
| 200秒 | 完全な回路から100万本を取る時間 | 実測 |
| 1万年 | 100万コアで忠実度0.2%の標本100万本を作る時間 | 1,000経路からの外挿 |
| 2.24×10⁻³ | 省略回路10個のXEBの平均 | 3000万本から計算 |
| 6σ | 値が10⁻³を上回る大きさ | 統計と系統の誤差を合わせた比 |
意外なのは、6σの相手が0ではないことだ。チームが棄却した仮説は「」である。忠実度の標本なら、100万コアの古典計算で5,000年かかるが量子計算機は1時間足らずで済む、という見積もりからこの線を引いた。統計誤差0.18と系統誤差0.10を2乗和で合わせると0.21で、が論文の言う6σになる。0と比べるならコルモゴロフ・スミルノフ検定の値がを下回り、差はさらに大きい。
200秒にも注釈が要る。チップが働いていた割合は少ないときで2%ほどで、時間の大半は制御機器との通信だった。
答え合わせは3年後に来た。2022年12月、之江実験室や清華大学などのチームは、新世代のSunwayスーパーコンピュータの107,520個のCPUを8.5日動かし、Sycamoreが完全な回路で出した300万本の振幅を厳密に計算した。結果はで、推定のと誤差の範囲で重なる。±0.058%はそのものだ。2019年には手が届かなかった直接の検算が、計算法の進歩で8.5日の仕事になった。
小さな回路で手を動かす
例題 1基本4通りの確率からXEBを出す
2量子ビットの回路の理想の確率が, , , である。
(1)実機が00, 00, 01, 00, 10の5本を出した。を求めよ。
(2)理想の計算機から無限に引いたときの値を求めよ。
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(1)出たビット列の確率の平均は次のとおり。
なので、である。
(2)平均はになる。
である。(1)の5本は、たまたま理想の値を上回った。本数が少ないと値は大きく揺れる。
例題 2基本必要な標本の数
忠実度がの計算機で、を0から5σ離して測りたい。標準偏差をとして、必要な本数と、100万本に200秒かかるときの所要時間を求めよ。
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から次の値になる。
時間は秒、約21分である。
例題 3大学ゲートを抜いたときの予測
本文の積の式で、1量子ビットゲート1,113個と読み出し53個はそのままにして、2量子ビットゲートだけを408個から430個に増やす。予測はいくらになるか。また、22個のゲートはどれだけの比を生むか。
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対数で足す。
である。比はになる。式の上では15%の差が出る。ただし補足資料によると、抜いたゲートの誤りと、その場所で待っている2量子ビットの誤りが近ければ、忠実度も近くなる。実測の比が1に近いのは、この事情によると考えられる。
例題 4大学1量子ビットのランダムな状態
ブロッホ球の上で一様にとった1量子ビットの状態で、0が出る確率は区間で一様に分布する。理想のの平均を求め、と比べよ。
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である。理想の計算機が出すビットの確率の平均はなので、について平均する。
と一致する。では、ポーター・トーマス分布の近似がずれて1に届かない。
例題 5大学標準偏差の式を出す
ポーター・トーマス分布では, である。実機の確率をとして、の分散がになることを示せ。
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平均は本文のとおりである。2次のモーメントを求める。
分散は次のとおり。
でも分散はほぼ1なので、本の平均の標準偏差はと考えてよい。
1万年が86秒になるまで
実機が出す標本は、1本ずつ互いに独立である。この条件をそろえて見積もりを実際の計算に変えたのは、中国科学院のFeng Pan、Keyang Chen、Pan Zhangの3人だった。2021年に公開し、2022年に論文誌に載った仕事で、Sycamoreと同じ53量子ビット・20サイクルの回路に512個のGPUを約15時間使い、本(約105万本)のビット列を作った。ただし、実機の標本を再現したわけではない。回路の結合を切って軽くした近似の状態から引いたもので、忠実度は切った結合の数から出した推定値である。100万本のXEBは計算資源が足りず、直接には確認していない。方法の検証には30量子ビット・14サイクルの回路を使った。
2024年にはXian-He Zhaoらの論文で、1,432個のGPUが300万本を86.4秒で作った。Sycamoreが300万本にかける時間は600秒である。ただしXEBの値は大きな確率のビット列だけを選ぶ後処理で上げたもので、同じ論文が示すシミュレーションの忠実度は0.018%にとどまる。同じ「0.2%」に見えて、XEBの値と忠実度は別の量である。
12量子ビットのチップを手元で走らせる
誤り率のつまみを動かすと点を打ち直し、のつまみを動かすと分布のグラフがそのに替わる。ポーター・トーマス分布を仮定せず、4〜12量子ビットの状態ベクトルに, , とを14サイクル掛け、誤りはゲートと読み出しごとに乱数で入れている。分布のグラフでは、誤りが増えるほどビット列の分布が実線から破線へ寄る。ごとのグラフでは、量子ビットが増えるほど●が太線の積の予測に沿って0へ下がる。
実機との違いは2つある。格子は長方形で、Sycamoreの配線そのものではない。誤りは独立なパウリ誤り(ビット反転や位相反転)だけで、1量子ビットゲート、2量子ビットゲート、読み出しの誤り率は0.16対0.62対3.77の比のまま動く。読むときの注意も2つある。が小さいと回路ごとの揺れが大きく、理想の○でも1に届かないことがある。また、●は積の予測より少し上に出る。回路の最初と終わり近くの誤りが模様を壊しきらないためで、〜12では誤り率0.62%で4〜5%、2%で2〜3割の差になった。
確率の模様を読む学問
- 物理学 ランダム行列と量子カオスを調べるとき、確率の分布がポーター・トーマスの形に近づくかを見る。ボイショらは、回路の深さがこの形に届くまでの時間を、量子もつれが系全体へ広がる時間と結びつけた。シュレーディンガー方程式の時間発展が作る状態の統計である。
- 情報科学 量子計算機が古典の計算機より本質的に速いかを問うとき、ランダム回路の標本の難しさが材料になる。ショアのアルゴリズムの答えは掛け算1回で検算できるが、ランダム回路の標本には検算の近道がない。この違いが、XEBのような統計の物差しを必要にした。
- 工学 超伝導チップの較正で、ゲート1組ごとにXEBを測り、誤り率と制御の値を合わせ込む。Sycamoreでは86組の結合のすべてで2量子ビットゲートの性能をXEBで測った。
- 数学2つの確率分布の近さを測るとき、交差エントロピーを使う。シャノンのエントロピーの仲間で、対数の底をに取ると、ポーター・トーマス分布のエントロピーは(はオイラー定数)になる。
1万年の次の数字
- 2023年Dorit Aharonovらの理論チーム: 1ゲートあたりの誤り率が一定で、確率が一部のビット列に固まらない深さの回路なら、ノイズのある標本は古典計算でも量子ビット数の多項式の時間で作れると証明した。が0へ落ちていく規模の話で、今の有限の実験を直接は否定しない。方法も実用の形ではない。(出典: AharonovほかarXiv:2211.03999、STOC 2023掲載)
- 2024年Xun Gaoらのチーム(ハーバード大学など): 2021年に公開し、2024年に論文誌に載った仕事で、回路を部分に分けて確率を計算し、値の大きいビット列を選ぶ方法を示した。Sycamoreをまねた53量子ビット・20サイクルの回路で、1個のGPUが約0.6秒でXEB を出す。Googleの値の約8%である。は誠実に動く装置でも条件を確かめて初めて使える近似で、古典の相手を想定すると保証にならない、と結論した。(出典: GaoほかarXiv:2112.01657、PRX Quantum 5, 010334掲載)
- 2024年Morvanらのチーム(Google): 1サイクルあたりの誤りの数に相転移があり、誤りが多い側ではXEBが全体の忠実度を表さなくなると示した。相転移の点の下限の目安は0.47個である。2019年の実験を同じ物差しで測ると、のから読み出しの分2.0を引き、20サイクルで割って約0.2個になり、目安を下回る。67量子ビット・32サイクルの完全な回路ではXEBを計算できず、忠実度は積の予測から0.1%台と見積もった。(出典: MorvanほかarXiv:2304.11119、Nature 634, 328掲載)
- 2025年DeCrossらのチーム(Quantinuum、JPMorganChaseなど): イオントラップのH2で56量子ビットを全結合にし、2量子ビットゲートの忠実度99.843%で標本を取った。と見積もる点は同じで、56量子ビットではXEBが計算できず別の測定で代えた。著者には東京のQuantinuum K.K.の研究者もいる。(出典: DeCrossほかarXiv:2406.02501、Physical Review X 15, 021052掲載)
- 2025年Dongxin Gaoらのチーム(中国科学技術大学など): 祖沖之3.0で83量子ビット・32サイクルの回路を走らせ、4.1億本を取って忠実度を0.025%と推定した。古典の見積もりは、スーパーコンピュータFrontierで年である。Googleも2024年12月の自社のブログで、Willowなら同じ種類の計算が5分足らず、古典なら年と発表した。どちらの年数も見積もりである。(出典: Gao DほかarXiv:2412.11924、Physical Review Letters 134, 090601掲載。Google「Meet Willow」)
2019年の回路の標本は、いまでは古典計算でも作れる。一方で、新しい回路の見積もりがいつまで保つかは、まだ分からない。Googleも2024年の発表で、2019年のあとと同じように古典側の改良が続くと見込んでいる。優位の線は動き続けていて、決着はついていない。
1万年という数字は、その日の古典計算の到達点を写したものだった。数字が動いても、限界が指摘されても、新しい機械はいまも同じ1行の式で測られている。
参考文献
- F. Arute et al., "Quantum supremacy using a programmable superconducting processor", Nature 574 (2019), 505-510.
- F. Arute et al., Supplementary information, arXiv:1910.11333 (2019). 本文の数値の多くはこの補足資料による。
- E. Pednault et al., Leveraging Secondary Storage to Simulate Deep 54-qubit Sycamore Circuits, arXiv:1910.09534 (2019).
- S. Boixo et al., "Characterizing quantum supremacy in near-term devices", Nature Physics 14 (2018), 595-600. arXiv:1608.00263.
- C. E. Porter, R. G. Thomas, "Fluctuations of Nuclear Reaction Widths", Physical Review 104 (1956), 483-491.
- J. Preskill, Quantum computing and the entanglement frontier, arXiv:1203.5813 (2012). 同じ著者のWhy I Called It 'Quantum Supremacy', Quanta Magazine (2019).
- F. Pan, K. Chen, P. Zhang, Solving the Sampling Problem of the Sycamore Quantum Circuits, Physical Review Letters 129 (2022), 090502.
- Y. Liu et al., Verifying Quantum Advantage Experiments with Multiple Amplitude Tensor Network Contraction, Physical Review Letters 132 (2024), 030601.
- X.-H. Zhao et al., Leapfrogging Sycamore: harnessing 1432 GPUs for 7× faster quantum random circuit sampling, National Science Review 12 (2025), nwae317.