0.96 Å は何を測った数か
0.96 Å と 2.8 Å。2020 年に開かれた、たんぱく質の構造予測の競技会 CASP14 で、AlphaFold2 と、次によかった方法が出した主鎖のずれの中央値である。2021 年 7 月 15 日に『ネイチャー』に載ったジョン・ジャンパーらの論文が報告した。ノーベル委員会は解説で、これにより 1 本の鎖からなるたんぱく質の構造予測が、主鎖でおよそ 1 Å の精度まで解けたとまとめている。ただし、0.96 Å を「どの原子も 1 Å 未満の誤差で当たる」と読むと少しずれる。原文では、この数に条件が 4 つ付いている。
まず、測ったのは各アミノ酸の主鎖に 1 つずつある炭素原子 Cα だけである。側鎖まで含めた全部の原子では 1.5 Å だった。次に、比べる前に予測の形を動かし、回して、実験で決めた形にいちばんよく重ねている。3 つ目に、重ねたあともずれが大きい 5% の原子を外して計算した。この値を と呼ぶ。最後に、0.96 Å は CASP14 の 87 個のドメイン(たんぱく質の中で、ひとまとまりに折りたたまれる部分)について求めた値の中央値である。
次によかった方法は、全原子では 3.5 Å だった。ジャンパーらは比べる目安として、「炭素原子の幅はおよそ 1.4 Å」と書き添えている。どう測った幅かは書かれていない。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)のデータベースでは、炭素どうしの結合の長さはベンゼンで 1.397 Å、エタンで 1.536 Å である。1.4 Å は、この結合 1 本ぶんほどの長さにあたる。
同じ論文は、学習に使ったデータより後に登録された 3144 本のたんぱく質の鎖でも測っている。ドメインに分けずに鎖全体で重ねると、中央値は 1.46 Å だった。ドメインどうしの並び方を間違えると鎖全体の値は大きくなる、とジャンパーらは注意している。0.96 Å に誤りはない。ただ、測った範囲が決まっている。

CASP14 の課題は、新型コロナウイルスの影響で予定より 1 か月ほど遅れて 2020 年 5 月後半に出始め、8 月まで順に出された。結果を話し合う会議は 11 月 30 日から 12 月 4 日までオンラインで開かれた。ノーベル委員会の一般向けの解説によれば、CASP の創設者の一人ジョン・ムルトは、最終日に会を締めくくるとき「これからどうするのか」と問いかけた。
論文の著者は 34 人で、貢献の欄には、研究を率いたのはジャンパーとデミス・ハサビスだとある。
結晶の斑点から、目隠しの予測会へ
たんぱく質の立体構造を初めて原子の並びまで描き出したのは、X 線結晶構造解析である。ケンブリッジのキャベンディッシュ研究所で、ジョン・ケンドリューは 1957 年にミオグロビンの立体の模型を分解能 6 Å で組み、1960 年にはほぼ完全な構造を得た。同じ研究所のマックス・ペルーツはヘモグロビンに取り組み、2 人は 1962 年のノーベル化学賞を分け合った。

1972 年のノーベル化学賞を受けたクリスチャン・アンフィンセンは、リボヌクレアーゼの実験から、たんぱく質の立体構造が基本的にアミノ酸の並びで決まることを確かめた。いったんほどいても、条件を戻すと同じ形に折りたたみ直す。それなら、並びから形を計算で当てられるはずである。ただし、とりうる形の数は途方もない。サイラス・レヴィンタールが指摘したこの難しさは、「アミノ酸 100 個のたんぱく質がとりうる形はおよそ 通り」という形でよく紹介される。片端から試す方法では届かない。
実験も速くはなかった。ジャンパーらは論文の冒頭で、構造を 1 つ決めるのに数か月から数年かかり、構造が分かったたんぱく質は約 10 万種類と、知られている数十億の配列のごく一部にすぎないと述べている。

1994 年、ムルトとクシシュトフ・フィデリスは、予測の方法を公平に比べる試みとして CASP を始めた。2 年ごとに、構造がまもなく決まるたんぱく質や、決まっても公開前のたんぱく質を選び、アミノ酸の並びだけを参加者に渡す。実験の側は締め切りまで結果を伏せ、独立した評価者が答え合わせをする。答えを知りようのない、目隠しの試験である。
CASP の主な物差しは、実験との一致を 100 点満点で表す GDT_TS である(式は次の章)。ノーベル委員会の解説によれば、手がかりになる既知の構造が無い難しい課題では、最もよい予測でも 2016 年の CASP12 まで 40 を下回っていた。2018 年の CASP13 で DeepMind の初代 AlphaFold が 60 近くまで上げ、2020 年の CASP14 で AlphaFold2 が 90 前後に届いた。CASP の運営は、90 を超える予測を実験と同じくらいの精度とみなす。CASP14 では、AlphaFold2 の予測が課題の約 3 分の 2 でこれを超えた。
設計の側からも、計算は形に迫っていた。デイヴィッド・ベイカーは 1990 年代の終わりに構造予測のプログラム Rosetta を作り、1998 年の CASP に初めて参加した。やがて Rosetta を逆向きに使い、望む形からアミノ酸の並びを求めるようになる。2003 年に発表した Top7 は 93 個のアミノ酸からなり、自然界のどのたんぱく質とも違う形を設計どおりにとった。CASP14 の順位表(GDT_TS の z スコアの合計)で、AlphaFold2 に次ぐ 2 位はベイカーのグループだった。2024 年 10 月 9 日、スウェーデン王立科学アカデミーは、ノーベル化学賞の半分を「計算によるたんぱく質の設計」でベイカーに、残りの半分を「たんぱく質の構造予測」でハサビスとジャンパーに贈ると発表した。
予測と実験を重ねて比べる計算は、結晶学で前から使われていた。1976 年、W・カブシュは『アクタ・クリスタログラフィカ』に 2 ページの論文を載せ、2 組のベクトルを最もよく結びつける回転の求め方を示した。どの向きに回せば、対応する点どうしの距離を 2 乗して足した値が最小になるか、という問題である。1978 年には、その解について論じる続報を出した。答えは、点の座標から作る 3 行 3 列の行列 1 つで決まる(次の章)。
重心をそろえ、回して、2 乗を平均する
予測の原子の座標を 、実験で決めた原子の座標を ()とする。RMSD(root-mean-square deviation)は、予測を回転 と平行移動 で動かしたうえで、対応する原子どうしの距離を 2 乗して平均し、平方根をとった値である。動かし方は、値がいちばん小さくなるように選ぶ。
平方根は単調に増加するので、中の 2 乗の和 を最小にすればよい。距離は三平方の定理で測る。
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を固定し、、その平均を とする。 なので、交差する項が消える。
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を含むのは第 2 項だけなので、次のとき最小になる。回した予測の重心を、実験の重心に重ねる位置である。
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重心からの位置 、 で書き直し、回転で長さが変わらないこと()を使って展開する。
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最後の和を行列のトレースで書く。( の行列)とおく。
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を特異値分解し、、、 とする。 は直交行列で、成分の絶対値は 1 以下である。
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等号は 、つまり のときに成り立つ。 なら、これが求める回転である。 なら、 は鏡に映す操作を含み、たんぱく質を裏返してしまう。そのときの最適な回転と最大値は次のとおり。
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( か )とおくと、最小の RMSD が決まる。
手順 6 の後半、行列式が負のときに が最大になることの証明は長いので省く。2019 年、ローレンスらは NIST の論文誌に、線形代数だけを使う証明を載せた。それまでの証明は、カブシュのものも、1991 年に IEEE の論文誌で同じ問題を解いた S. Umeyama のものも、ラグランジュの未定乗数法によっていた。ローレンスらは、この手順を Kabsch-Umeyama のアルゴリズムと呼んでいる。
の手順。 ジャンパーらの方法では、いま選んでいる Cα 原子(最初は全部)だけで最小二乗の重ね合わせをし、重ねたあとのずれが小さい 95% の Cα 原子を選び直す。これを 5 回くり返し、最後に選んだ原子で RMSD を計算する。ジャンパーらは、結晶構造の不具合から来る見かけの誤差に強い反面、除いた 5% に本物の予測の誤りが含まれることもある、と断っている。
GDT_TS の式。 を、重ねたときに実験の位置から Å 以内に入った Cα の割合(%)とする。CASP では、距離の区切りごとに重ね方を選び直して、入る割合がいちばん大きくなるようにする。
CASP14 の総括の論文によれば、GDT_TS の 90 はおよそ RMSD 1.5 Å に、80 はおよそ 2.5 Å にあたる(全部の残基で計算した場合)。
平面なら角度は合成で決まる
平面の模型では、回転は角度 の 1 つだけで決まり、手順 5〜6 の特異値分解は三角関数の合成に置き換わる。数学IIの加法定理と合成だけで、最適な角度と最小の RMSD が出る。重心は原点に移してあり、予測の点を 、実験の点を とする。
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予測の点を原点のまわりに 回す
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回しても長さは変わらない
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差の 2 乗を内積で展開する
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内積を と の項に分ける
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原子について足し、係数を 、 とおく
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三角関数の合成をする
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のとき和が最大になる
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最小の RMSD の 2 乗を書く
は内積の和、 は (平面のベクトルの外積)の和で、 は を満たす。手順 1 の回転の式は、三角関数の加法定理から出る。3 次元では回転の軸の向きも決めなければならず、そこで特異値分解が要る。
予測を答え合わせし、結晶を解く
GDT_TS を数える。 100 個の Cα のうち、1 Å 以内が 80 個、2 Å 以内が 95 個、4 Å 以内が 99 個、8 Å 以内が 100 個なら、
になる。ノーベル委員会は解説で、GDT は外れた点に引きずられにくく、RMSD より頑丈な物差しだと説明している。 が外れた 5% を除くのも、同じ弱点を補うためである(例題 5 で確かめる)。
予測を使って結晶を解く。 X 線結晶構造解析では、回折の斑点から電子密度を求めるのに、X 線の波の位相が要る。似た形の模型を結晶の中で動かし、測った回折に合う置き方を探して位相を見積もるのが分子置換法である。CASP14 の総括によれば、難しい課題のうち 3 つの構造が、CASP14 に提出された予測を使った分子置換法で解かれた。会のあとにランディ・リードらが調べると、試した課題のうち分子置換法に使えるほどの予測が無かったものは 2 つだけだった。

正解の側にも誤差がある。 精密化の部門の評価者ダニエル・リグデンは 7 つの課題を調べ、最もよい予測が実験と合わなかった 105 残基のうち、64 残基が結晶の中で隣の分子と接する場所の近くにあると報告した(同じ総括)。この部分の形は結晶の環境で決まっているとみられる。総括によれば、ここでは計算した構造のほうが生体内の形に近い可能性が高い。実験の誤差やアーティファクトがあるので、GDT_TS が 100 になることはまずない。
2 億を超える予測の構造。 予測の構造は、EMBL-EBI が運営するデータベース AlphaFold DB で公開されている。2021 年の最初の公開は 21 種の生物の 36 万個あまりで、2023 年 11 月に出た論文では 2 億 1400 万を超えた。計算も速い。ジャンパーらの論文によれば、256 残基のたんぱく質なら GPU(V100)1 枚で 0.6 分ほどで済む(アンサンブルを使わない場合)。
試すなら、AlphaFold DB から予測を 1 つ取り出し、同じたんぱく質の実験の構造を PDB から取り、Cα だけを並べて重ねてみるとよい。下の例題 3 の計算をそのまま 3 次元に広げたものになる。
原子のずれを手で計算する
例題 1基本RMSD と平均のずれ
重ね合わせを済ませた予測と実験で、4 個の原子について、ずれを表すベクトル(単位は Å)が 、、、 だった。
(1) RMSD を求めよ。
(2) ずれの長さの平均を求め、RMSD と比べよ。
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(1) ずれの長さの 2 乗は である。
RMSD は約 1.22 Å である。
(2) ずれの長さは である。
平均は約 1.21 Å で、RMSD のほうが少し大きい。ずれの長さを とすると、 の平均から平均の 2 乗を引いたものは の分散で、0 以上になる。したがって RMSD は平均のずれより小さくならず、等しくなるのは、ずれの長さがすべて同じときだけである。
例題 2基本まとめてずらすと標準偏差が残る
5 個の原子の予測が、実験より 軸の向きに 、、、、 Å ずれていた。ほかの向きのずれは無い。
(1) このままの RMSD を求めよ。
(2) 予測の 5 個をまとめて 軸の向きに だけ動かす。RMSD を最小にする と、そのときの RMSD を求めよ。
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(1) 2 乗は で、和は である。
約 2.12 Å である。
(2) 動かしたあとのずれは になる。2 乗の平均を の式にする。平均は である。
のとき最小で、RMSD は Å になる。 はずれの平均値、 はずれの標準偏差である。(1) の 2 乗 は、分散 と平均の 2 乗 の和になっている。重心をそろえる手順は、1 次元ではこの計算そのものである。
例題 3入試回して重ねる角度
重心を原点に移した実験の 3 原子 、、 と、予測の 3 原子 、、 がある(単位は Å)。予測を原点のまわりに角 だけ回す。
(1) 回さないとき()の RMSD を求めよ。
(2) を の形で表せ。
(3) RMSD を最小にする ()と、RMSD の最小値を求めよ。
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(1) 差 は 、、 で、長さの 2 乗は である。
(2) 内積 は 、外積 は である。
よって である。
(3) 合成すると次のようになる。
で最大値 をとる。、 なので、
RMSD の最小値は約 1.18 Å で、 のときである。予測のほうが大きく広がっているので、どう回しても 0 にはならない。
例題 4大学鏡に映した形は回しても重ならない
実験の 3 原子 、、 と、これを 軸で折り返した予測 、、 がある(単位は Å)。
(1) 回転だけで重ねたときの最小の RMSD を求めよ。
(2) の行列 の行列式と特異値 を求め、(1) で使った が に等しいことを確かめよ。
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(1) 内積は 、外積 は なので、、 である。
だから、
最小の RMSD は約 3.14 Å で、そのときの角度は を満たす約 である。
(2) 成分を計算する。、、、 である。
成分の 2 乗の和は である。、 を使う。
、 である。一方、、 なので、
となり、 が確かめられた。行列式が負なので、回転で届く最大は にとどまる。裏返しも許すと最大は になり、RMSD は になる。
例題 5大学5% を除くと何が変わるか
20 個の Cα を重ねたあとのずれが、18 個は 0.5 Å、1 個は 1.5 Å、1 個は 9.0 Å だった。
(1) 20 個すべての RMSD を求めよ。
(2) ずれの大きい 1 個を除いた 19 個(95%)の RMSD を求めよ。重ね直しによる変化は無視してよい。
(3) 重ね方を 1 つに固定したとして、GDT_TS を求めよ。
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(1) 2 乗の和は である。
(2) 9.0 Å の 1 個を除く。
(3) 1 Å 以内は 18 個で 、2 Å・4 Å・8 Å 以内は 19 個で 95 である。
外れた 1 個のせいで、RMSD は の約 3.5 倍になった。GDT_TS は 93.75 で、1 個が外れても大きくは崩れない。どの物差しで報告された数かを確かめないと、同じ予測でも評価がまったく違って見える。
重ねる前と後、外れた 5%
最初の 2 枚は 2 次元で作った例で、本物のたんぱく質の構造ではない。2 枚目のずれで GDT_TS を数えると 91.25 になる。
予測の鎖を回して重ねる
黒丸と実線が実験の構造、白丸と破線が予測で、40 個の原子を 3.8 Å おきに並べた 2 次元の模型である。「回す角度」を動かし、「重心をそろえる」を押すと、下のめもりの RMSD が縮み、三角の印(最適な重ね合わせの値)に近づく。「最適な重ね合わせ」は重心を合わせ、少し止まってから、途中の計算の まで回す。「端の 2 個が外れる」にすると RMSD は上がるが、破線の輪で囲んだ 2 個を除く はほとんど変わらない。
結晶学・設計・点の位置合わせへ
- 生物学 構造生物学では、予測の構造を X 線や電子顕微鏡の測定と組み合わせて使う。CASP14 の総括は、実験の構造にあった配列の対応づけの誤りが、予測の助けで直った例も挙げている。受賞の発表によれば、予測の構造は、抗生物質が効かなくなるしくみの理解や、プラスチックを分解する酵素の研究に使われている。
- 化学 ベイカーのたんぱく質の設計は、構造予測を逆にたどる問題である。ノーベル委員会の解説によれば、2008 年に計算で設計した酵素は、反応を速めはしたが自然の酵素に比べると遅く、実験室で進化させる操作を重ねて大きく改良された。酵素の速さはミカエリス・メンテン式の定数を測って比べる。
- 情報科学 AlphaFold2 は学習のとき、できた構造の誤差を、全体を 1 回だけ重ねる RMSD ではなく、FAPE という損失で測る。残基ごとの座標系に予測を合わせて原子の位置のずれを測り、すべての残基の座標系について、上限つきの絶対値で数える。ジャンパーらは、これで各残基から見た原子の位置が正しくなりやすく、鏡に映した形との区別もつくと説明している。中ではトランスフォーマーの注意機構を組み替えた層(Evoformer など)が働く。
- 数学 2 つの点の集まりを直交行列で最もよく重ねる問題を直交プロクラステス問題といい、行列式が 1 の回転に限る問題を、制約つきの直交プロクラステス問題という。後者の答えが、証明の手順 5〜6 の特異値分解である。ローレンスらによれば、2 本の曲線の一方を回して他方に重ね、形を比べる形状データの解析でも、この解が使われている。
- 物理学 ノーベル委員会は解説で、AlphaFold2 がよく当たるのは、原子の種類の組ごとに距離の確率分布、つまり平均力ポテンシャル(自由エネルギー面)を事実上学んだためだとみている。予測の最後には、分子の力場 Amber で原子の位置を少し動かし、結合の長さなど立体化学の不自然さを取り除く。ジャンパーらによれば、この仕上げで GDT や lDDT-Cα の値は上がらない。
参考文献
- J. Jumper, R. Evans, A. Pritzel et al., "Highly accurate protein structure prediction with AlphaFold", Nature 596 (2021), 583-589.
- A. Kryshtafovych, T. Schwede, M. Topf, K. Fidelis, J. Moult, "Critical assessment of methods of protein structure prediction (CASP), Round XIV", Proteins 89 (2021), 1607-1617.
- The Nobel Committee for Chemistry, "Scientific Background to the Nobel Prize in Chemistry 2024: Computational Protein Design and Protein Structure Prediction" (2024 年 10 月 9 日)、および NobelPrize.org の報道発表と一般向けの解説.
- W. Kabsch, "A solution for the best rotation to relate two sets of vectors", Acta Crystallographica A32 (1976), 922-923; "A discussion of the solution for the best rotation to relate two sets of vectors", Acta Crystallographica A34 (1978), 827-828.
- J. Lawrence, J. Bernal, C. Witzgall, "A Purely Algebraic Justification of the Kabsch-Umeyama Algorithm", Journal of Research of the National Institute of Standards and Technology 124 (2019).
- M. Varadi et al., "AlphaFold Protein Structure Database: massively expanding the structural coverage of protein-sequence space with high-accuracy models", Nucleic Acids Research 50 (2022), D439-D444; "AlphaFold Protein Structure Database in 2024: providing structure coverage for over 214 million protein sequences", Nucleic Acids Research 52 (2024), D368-D375.
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第 1 部 第 2 章 第 1 節「数学I」(4) データの分析.