ポインティング・ベクトル

Poynting vector

抵抗線を温めるエネルギーは、側面から入ってくる。

電磁場が運ぶエネルギーの流れを表すベクトル。向きは電場と磁場の外積で決まり、大きさは1秒に1 m²を通るエネルギーになる。

年代
1884年(ポインティングの論文)
習う
大2・電磁気学・電磁波
レベル
大学(例題 3 問)
人物
ジョン・ヘンリー・ポインティング、オリヴァー・ヘヴィサイド
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
起源

導線の外を通るエネルギー

電気ストーブの電熱線が熱くなるとき、そのエネルギーはどこから入ってくるのだろうか。導線の中を電子が運んでくる、と考えたくなる。ところが電場と磁場から計算すると、エネルギーは導線の外の空間を通り、抵抗線の側面から入ってくる。

この見方を示したのが、バーミンガムのメイソン科学カレッジで物理学を教えていたジョン・ヘンリー・ポインティングの1884年の論文である。同じ流れを独自に見つけていたオリヴァー・ヘヴィサイドは1887年に異を唱え、導線の近くの流れはほぼ導線に沿っていて、導線へわずかに傾くだけだと書いた。マタールとウェルティの2017年の解説は、この食い違いを解く鍵を導線の表面の電荷に求めている。

途中の計算

電場と磁場から流れを作る

この計算の道すじ。 記号と単位を読み(手順1〜4)、外積の向きと抵抗線の流れを図でつかむ。次に式で、抵抗線の(手順5〜9)、電磁波の流れ(手順10〜13)、太陽光の電場(手順14〜18)を確かめ、最後にマクスウェルの方程式から全体の収支を導く(手順19〜22)。

記号と単位を読む

公式の太字はベクトル、つまり向きと大きさを持つ矢印を表す。は電場の矢印、は磁場の矢印で、左辺のを流れの矢印と呼ぶことにする。流れの矢印の大きさは、流れに直角に置いた面積1 m²を1秒に通るエネルギーで、単位はW/m²である。

電場の矢印と磁場の矢印の両方に直角に、流れの矢印が立つ。下の欄に、電場はV/m、磁場はT、真空の透磁率はN/A²、流れはW/m²という単位を示す。

は真空の透磁率という定数で、ほぼ N/A²である。直線電流の式を使うと、同じ単位をT·m/Aとも書ける。これをの単位に入れる。

  1. 3つの量の単位を並べる

  2. Tを約分する

  3. 分母の分数をひっくり返して掛ける

  4. V·AはW(ワット)なのでまとめる

1 W/m²は、1 m²の窓を1秒に1 J(ジュール)のエネルギーが通る強さにあたる。

図で納得する

式のは数の掛け算ではない。2本の矢印から3本目の矢印を作る計算で、外積と呼ぶ。ビオ・サバールの法則と同じ読み方で、からのほうへ右手の4本の指を巻くと、立てた親指の向き、つまり右ねじの進む向きが答えになる。

大きさは、2本のなす角(シータ)の倍になる。は直角三角形の対辺÷斜辺で、、である。大きさだけを細字で書くと次の形だ。

紙に垂直な矢印は、手前向きを丸に点、奥向きを丸にばつで描く。矢を前から見た先端と、後ろから見た羽根の形である。

なす角が90°のとき流れは最大で、2本を平行にすると消える。2本の矢印の順番が入れ替わるように回すと、流れは紙の手前から奥へひっくり返る。電場だけ、磁場だけの場所では、流れは0である。

抵抗線の側面で見る

電流を流す電場は、抵抗線に沿って同じ向きを向いている。表面のすぐ外でも、導線に沿う電場は中と同じ大きさだ。

一方、磁場は電流のまわりを回る。この2本の矢印を右手の決まりに当てはめると、どの場所でも流れの矢印は中心を指す。

斜線の帯が抵抗線で、右向きに電流が流れる。電圧か電流を2倍にすると、入る電力も2倍になる。矢印の長さは見やすいように大きさの平方根にしてある。

抵抗線の中で熱を出すのは、電場に押されて動く電子である。電子が受け取って熱に変えた分を、この流れが側面から補っている。エネルギーが導線の中を端から端へ運ばれて少しずつ減る、という絵とは、向きが直角に違う。

ヘヴィサイドが問題にしたのは、抵抗に届くまでの道である。多くの教科書は省くが、電池と抵抗を結ぶ導線の表面には電荷が並び、導線の間に電場を作る。この電場と磁場で、導線の間の空間に抵抗へ向かう流れができる。

導線に沿う流れは、側面へ入る流れよりはるかに大きいことがある。マタールとウェルティはその差を計算し、導線の断面を通る流れの合計が、その先で使う電力に等しいと示している。

電池と抵抗を結ぶ2本の導線の表面に、+と−の電荷が並ぶ。導線の間の空間を流れが抵抗へ向かって進み、抵抗の近くで曲がって側面から入る。

式で確かめる

長さ、半径の抵抗線に、電圧をかけて電流を流す。側面へ入る量を決めるのは導線に沿う電場だけなので、導線の間の電場はこの計算に効かない。

  1. 電場は電圧÷長さ

  2. 表面の磁場を直線電流の式で書く

  3. 流れの大きさを作り、を約分する

  4. 側面を切り開くと、横が円周で縦が長さの長方形になる

  5. 流れに面積を掛ける

つまり、側面から入る量がちょうど電力になる。作った例で、長さ1.0 m、半径0.50 mmの電熱線に100 V、5.0 Aなら、 V/m、 Tで、 W/m²となる。太陽光の1361 W/m²の約117倍の流れが、細い線の側面へ入っている。

電磁波の流れ

真空を進む電磁波では、電場と磁場は互いに直角で、進む向きにも直角である。大きさの比は光の速さで、となる。どちらもマクスウェルの方程式の波の解から出て、光の速さは真空の誘電率を使ってと書ける。

  1. なす角は90°で、

  2. を入れる

  3. をについて解く

  4. 手順11に入れてを約分する

ある瞬間に電場が上、磁場が紙の手前なら、流れは右を向く。半周期のちに電場が下、磁場が紙の奥になっても、流れはやはり右を向く。

電場と磁場は振動して向きが逆になるが、2本がそろって逆を向くので、外積の向きは変わらない。だから流れは波の進む向きにだけ進む。

太陽光の電場を出す

太陽光の強さは、地球の軌道の上で約1361 W/m²である。国際天文学連合は2015年の決議で、この値を基準の値とした。

電場は時間で変わるので、流れは平均で考える。電場の2乗を時間で平均した値の平方根を実効値といい、と書く。

  1. 手順13を時間で平均する

  2. 両辺をで割る

  3. との値を入れて分母を計算する

  4. 1361を分母で割る

  5. 平方根をとる

電場の時間変化を正弦波で描く。振幅は約1013 V/mで、実効値716 V/mはその√2分の1の高さにある。

1本の正弦波とみなすと、振幅は倍の約1013 V/mになる。太陽光はいろいろな波長が混ざった光なので、振幅は目安で、716 V/mのほうが全体を表す値である。100 Vの電圧を14 cmの間にかけた電場の強さにあたり、思いのほか強い。

では磁場はどうか。実効値は Tで、1.0 Aの直線電流から10 cm離れた点の Tに近い。

マクスウェルの方程式から

流れの式は、場所ごとのエネルギーの収支から導ける。はマクスウェルの方程式の回転で、は小さな箱から外へ出ていく量を表す発散である。は電流密度、つまり1 m²あたりの電流だ。

矢印どうしのは内積で、向きをそろえた成分の積を表す。は、場所を止めて時間での変化を見る記号である。使うのは次の2本で、上がファラデーの法則、下がアンペール・マクスウェルの法則だ。

  1. ファラデーの法則にを内積で掛ける

  2. アンペール・マクスウェルの法則にを内積で掛ける

  3. 手順19から20を引き、恒等式を使う

  4. で割り、と、の同じ形の式を使う

箱の中の場のエネルギーが減った分は、外へ流れ出る分と、電流が受け取る分に分かれる。

かっこの中は、1 m³あたりの電場と磁場のエネルギーである。手順22を読むと、箱の中で場のエネルギーが減った分は、流れの矢印で外へ出る分と、電流が受け取る分の和に等しい。抵抗線の計算は、この式の一例にあたる。

この式が直接決めるのは、閉じた箱を出入りする合計である。側面のどこを通ったかという話は、を流れとして読む見方に立っている。

応用

地球が受け取る太陽の電力

太陽光は平行に届くので、地球が受け取る量は、影の円の面積で決まる。半径 mとして計算する。

平行な太陽光を受ける地球。受け取る量は断面積πR²で決まり、表面積4πR²で割ると、1 m²あたり340 W/m²になる。

もっとも、球の表面積は断面積の4倍なので、地球全体でならすと W/m²になる。大気で反射される分を引く前の値で、気候の計算の出発点にあたる。

例題と解説

光と電線の流れを計算する

例題 1基本レーザーポインターの電場

出力1.0 mW、ビームの直径1.0 mmのレーザー光の流れの大きさを求めよ。電場の実効値も求めよ。数は作った例である。

解説を見る

ビームの断面積を出す。半径は mである。

出力を面積で割る。

太陽光と同じくらいの強さである。電場は手順15と同じ計算で出す。

例題 2大学同軸ケーブルを通る電力

内側の導線の半径、外側の導体の半径の同軸ケーブルに、電圧をかけて電流を流す。導体の抵抗は無視する。間の空間で、半径の場所の電場は、磁場はである。流れの矢印を断面全体で足すとになることを示せ。

解説を見る
同軸ケーブルの断面で、内側の半径aと外側の半径bの間に、半径rで幅drの輪をとる。流れの矢印は紙に垂直で、輪を通り抜ける。

電場と磁場は直角なので、流れの大きさは次の形になる。

半径、幅の輪の面積はである。

からまで足す。は細い輪の分を全部足す記号で、は自然対数である。となる。

流れの矢印で読むと、電力は銅の中ではなく、導体の間の空間を通って運ばれている。

例題 3大学充電中のコンデンサー

半径、間隔の円板のコンデンサーを充電している。間の電場は一様で、時間とともに増える。電場の変化は電流のように磁場を作る(変位電流)ので、円板のふちの磁場はである。側面から入る流れの合計が、電場のエネルギーの増え方に等しいことを示せ。

解説を見る

電場と磁場は直角で、流れの矢印は側面から中心へ向かう。

側面の面積を掛ける。

電場のエネルギーは、1 m³あたりで、体積はである。時間で微分すると、同じ式になる。

電荷を運ぶ導線からではなく、側面からエネルギーが入ることになる。

参考文献

  1. J. H. Poynting, "On the Transfer of Energy in the Electromagnetic Field", Philosophical Transactions of the Royal Society of London 175(1884), 343-361(書誌はCrossrefで確認)
  2. M. Matar, R. Welti, "Surface Charges and J H Poynting's Disquisitions on Energy Transfer in Electrical Circuits", European Journal of Physics 38(2017), 065201。著者の原稿は「Repositorio UCA」で読める(1887年のヘヴィサイドの批判の引用、独自の発見、表面の電荷、導線に沿う流れとの大きさの差)
  3. MIT OpenCourseWare 8.02「Summary of Class 32」(円柱の抵抗器で流れの矢印が中へ向く)
  4. E. E. Mamajekほか, "IAU 2015 Resolution B3 on Recommended Nominal Conversion Constants for Selected Solar and Planetary Properties", arXiv:1510.07674(基準の太陽放射1361 W/m²)
  5. P. J. Mohr, D. B. Newell, B. N. Taylor, E. Tiesinga, "CODATA Recommended Values of the Fundamental Physical Constants: 2022", arXiv:2409.03787
  6. 明治大学 理工学部「2026年度 シラバス」電気磁気学3(配当学年2年・第6回と第7回にポインティングベクトル)
  7. 電気通信大学「電磁気学」平成19年度シラバス(2年次・第13回に電磁波とポインティングベクトル)
  8. 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018、2021年一部改訂)、第1部 第2章 第3節「物理」3(3)ア(イ)㋓ 電磁波、76ページ(「電磁波が情報やエネルギーを運ぶことに触れる」)。ポインティング・ベクトルの語は出てこない
  9. Wikipedia "John Henry Poynting"(メイソン科学カレッジの物理学教授であったこと)

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この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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