膜ごしの3分の2気圧
水は通すが砂糖は通さない膜で砂糖水と水を仕切ると、水が砂糖水の側へ入り込み、そちらの圧力が高くなる。1901年のノーベル化学賞を受けたファントホッフは、受賞講演をこの浸透圧の測定から語り始めた。初めて測ったのは植物学者のペッファーで、1877年のこと。1%の砂糖水でも、圧力は3分の2気圧に届いた。ただ、圧力と濃度や温度との関係は見つけられず、物理学者のクラウジウスに問いを持ちかけても、規則は出てこなかったという。
ファントホッフは1887年、溶液と気体の似かたを浸透圧から論じる論文を出した。講演によると、十分に薄い溶液の浸透圧は、溶けている物質が同じ体積を気体として占めたときの圧力に等しい。同じ体積に同じ数の分子があり、温度もそろっていれば、圧力も同じ。気体のと溶液のモル濃度は、同じ形の量なのである。
溶かしてから1 Lにそろえる
水1 Lに塩化ナトリウムを1 mol溶かしても、1 mol/Lの水溶液にはならない。モル濃度の分母は、水の体積ではなく、溶かしたあとの溶液の体積だからだ。溶質が溶けると、液の体積は水だけのときと同じにはならない。
はモル濃度、は溶質の物質量(mol)、は溶液の体積(L)を表す。国際単位系(SI)の冊子の表では、この量の単位はmol/m³で、1 mol/Lは1000 mol/m³にあたる。では、0.100 mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を250 mL作るには、何gを量ればよいのか。
-
体積をmLからLに直す
-
定義の両辺にを掛ける
-
要る塩化ナトリウムの物質量を出す
-
モル質量58.5 g/molを掛けて質量にする
はかり取った1.46 gは、ビーカーで少量の水に溶かしてから、250 mLのメスフラスコに移す。ビーカーとガラス棒をすすいだ水も加え、最後に標線まで水を足して混ぜる。逆に、先に水を250 mL量ってから溶かすと、液の体積が250 mLからずれ、濃度も0.100 mol/Lにならない。
できた液を薄めるときは、水を足しても溶質の物質量が変わらないことを使う。
-
薄める前後で溶質の物質量は等しい
-
0.100 mol/Lの液10.0 mLを100 mLに薄めた濃度を出す
手順6では両辺の体積がどちらもmLなので、Lに直さなくても答えは変わらない。つまり、Lに直す必要があるのは、手順3のように物質量そのものを出すときだけだ。この区別がついていれば、mLのまま掛けて1000倍の物質量を出す間違いは起きない。
炭酸カルシウム1 gに要る塩酸
溶液どうしや溶液と固体の反応では、まずで物質量にそろえる。たとえば、化学基礎の学習指導要領解説が実験の例に挙げる、炭酸カルシウムと塩酸の反応がある。
炭酸カルシウム1.00 g(モル質量100 g/mol)は0.0100 molで、溶かすには塩化水素が2倍の0.0200 mol要る。だから2.00 mol/Lの塩酸で、要る体積は次のとおり。
mol/LにmLを掛けると、答えはmmol(ミリモル)で出る。 mmolで、0.0200 molと同じ量だ。小数点の位置で迷ったら、この読み替えが役に立つ。
中和滴定で使う標準溶液、つまり濃度が正確に分かった液も、途中の計算と同じ手順で作る。滴定の計算も、その液のから始まる。一方、濃度の表し方を変えるときの橋渡しは密度である。質量パーセント濃度との行き来は質量パーセント濃度とモル濃度の換算で、濃塩酸の例は密度の例題4で計算できる。
もう1つ、モル濃度は温度で少し変わる。温めると液がふくらみ、同じ物質量が大きな体積に広がるからだ。そのため、凝固点降下のように温度を変えて測る実験では、溶媒の質量で割る質量モル濃度(mol/kg)が使われる。
分母はいつも溶液の体積
例題 1基本水1.0 Lに溶かしたグルコース
グルコース(モル質量180 g/mol)について、次の水溶液のモル濃度を求めよ。(1)9.0 gを水に溶かして250 mLにした水溶液(2)180 gを水1.0 Lに溶かし、体積が1.1 Lになった水溶液
解説を見る
(1)物質量は molで、体積は0.250 Lである。
(2)物質量は1.0 molだが、分母は水の1.0 Lではなく、溶液の1.1 Lになる。
1.0 mol/Lにするには、180 gを溶かしてから全体を1.0 Lにそろえる。
例題 2基本薄める、混ぜる
(1)1.0 mol/Lの塩化ナトリウム水溶液から、0.050 mol/Lの水溶液を500 mL作る。もとの水溶液は何mL要るか。(2)0.20 mol/Lの塩化ナトリウム水溶液150 mLと、0.50 mol/Lの塩化ナトリウム水溶液50 mLを混ぜ、水を加えて500 mLにした。モル濃度を求めよ。
解説を見る
(1)薄める前後で物質量は等しい。
mLである。25 mLのホールピペットで量り取り、500 mLのメスフラスコに入れて標線まで水を足す。 (2)溶質の物質量を足す。体積はLに直す。
例題 3入試塩酸の量で止まる反応
炭酸カルシウム2.50 gに1.00 mol/Lの塩酸30.0 mLを加え、反応が終わるまで待った。(1)炭酸カルシウムと塩化水素のどちらが余るか。(2)発生した二酸化炭素の体積は、0 °C、 Paで何mLか。(3)残った炭酸カルシウムは何gか。炭酸カルシウムのモル質量を100 g/mol、気体1 molの体積を22.4 Lとする。
解説を見る
反応式はである。 (1)炭酸カルシウムは molある。塩化水素は次のとおり。
炭酸カルシウム0.0250 molを溶かすには塩化水素が0.0500 mol要るので、足りないのは塩化水素で、炭酸カルシウムが余る。 (2)塩化水素0.0300 molがすべて反応し、二酸化炭素はその半分の0.0150 molできる。
(3)反応した炭酸カルシウムも0.0150 molなので、残りは molで、質量は1.00 gである。
シュウ酸から塩素水まで、液を作る計算
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎 第2問 問2:シュウ酸二水和物0.630 gを溶かし、正確に100 mLにして標準溶液を作る。溶液を移す実験器具を4つの図から選び(a)、できた溶液のモル濃度を求める(b)。物質量は二水和物の式量で出す。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第1問 問4 a:モル濃度と質量モル濃度についての4つの記述から、誤りを含むものを選ぶ。温度を変えるとモル濃度が変わるか、水1 Lと1 mol/Lのショ糖水溶液1 Lで水の物質量が等しいか、などを判断する。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎 第1問 問8:硫酸0.90 molを含む濃硫酸50 mLを安全に薄めて、0.90 mol/Lの水溶液を1000 mL作る手順を選ぶ。純水に濃硫酸を少しずつ加えることと、最後に全体を1000 mLにそろえることの両方が要る。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎 第2問 問2 a:濃度 mol/Lの塩素水を5.00 L作るとき、水に溶かす塩素の体積を0 °C、 Paで求める。で物質量を出してから、気体の体積に直す。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「化学基礎」3(3)ア(ア)㋐㋑、91-92ページ
- J. H. van 't Hoff, "Osmotic Pressure and Chemical Equilibrium", Nobel Lecture(1901年12月13日)
- J. H. van 't Hoff, "Die Rolle des osmotischen Druckes in der Analogie zwischen Lösungen und Gasen", Zeitschrift für Physikalische Chemie 1 (1887), 481-508
- BIPM, The International System of Units (SI), 9th edition (2019), Table 5
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎、化学」「令和8年度 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎」