論文を書かなかったシャルル
シャルルの法則を論文にしたのは、シャルルではない。圧力と物質量が一定なら気体の体積は絶対温度に比例し、は変わらない。このもとになる測定を1802年に発表したのはジョゼフ・ルイ・ゲイ=リュサックである。その論文には、酸素や窒素など5種類の気体が同じ割合でふくらむことにジャック・シャルルが15年前に気づきながら、公表しなかったと書き添えてある。水素の気球でパリの空を飛んだシャルルの話は、理想気体の状態方程式でたどれる。
比例の相手を取り違えると、計算は大きく外れる。10 °Cの空気を、圧力を変えずに20 °Cまで温めても、体積は2倍にならない。増えるのは約3.5%である。10 °Cは283 K、20 °Cは293 Kにあたるからだ。
比べる前に273を足す
は体積、はセルシウス温度(°C)、は絶対温度(K)を表す。軽いピストンがなめらかに動く容器に気体を閉じ込めると、中の圧力は外の圧力と等しいままで、温度に応じて体積だけが変わる。
このとき体積は温度の1次式で増え、1 °C上がるごとに0 °Cの体積のずつ大きくなる。
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0 °Cの体積をとして直線の式を書く
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かっこの中を通分する
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とおく
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定数を残してで割る
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2つの状態で等しいとおく
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について解く
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10 °Cの1.00 Lを20 °Cにする
手順2から手順3への一歩が、この法則の急所である。つまり体積はではなくに比例する。セルシウス温度の0 °Cは氷がとける温度の近くに置いた点で、気体の体積が0になる点ではないからだ。だからのようにのまま比を取っても意味がなく、0 °Cなら割り算すらできない。正確にはで、高校の計算では273を足す。
グラフで見ても同じことが分かる。横軸にをとると、直線は原点を通らず、−273 °Cで体積0の軸に届く。目盛りを273ずらしてに読み替えると、同じ直線が比例のグラフになる。
ただし、体積0の点は直線を延ばした先にあるだけだ。1気圧の窒素は77 K、−196 °Cで液体になり、そこから先は気体の法則の外に出る。
動く壁か、止まった壁か
問題文でまず見るのは、壁が動くかどうかである。軽いピストンや、やわらかい袋のように壁が動けば、中の圧力は外と等しいまま体積が変わり、シャルルの法則が使える。25 °Cの部屋で膨らませたポリ袋の口を閉じて5 °Cの冷蔵庫に入れると、体積は倍になる。20 °C下げても、縮むのは7%ほどである。
壁が止まっていると、話が変わる。ボンベやピストンを固定した容器では体積が動けないので、温めると圧力のほうが上がる。比例するのはとで、シャルルの法則の出番はない。
温度が動かないならボイルの法則、圧力と温度が両方動くならが一定のボイル・シャルルの法則を使う。シャルルの法則は、この式でとおいた形にあたる。
単位を選べないのは温度だけである。体積の比はLでもmLでも同じだが、温度の比は目盛りの0の位置を動かすと変わってしまう。
ピストンと直線で体積を読む
例題 1基本温めたときの体積
圧力を一定に保ったまま、27 °C、6.0 Lの気体を77 °Cにした。体積を求めよ。
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温度をケルビンに直す。27 °Cは300 K、77 °Cは350 Kである。手順6に入れる。
例題 2基本体積が2倍になる温度
圧力を一定に保ったまま、17 °Cの気体の体積を2倍にしたい。何 °Cにすればよいか。
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17 °Cは290 Kである。体積が2倍なら絶対温度も2倍になる。
セルシウス温度に戻す。
17 °Cの2倍の34 °Cではない。
例題 3入試おもりになるピストン
断面積 m²のシリンダーを鉛直に立て、質量20 kgのピストンで気体を閉じ込めた。ピストンはなめらかに動き、大気圧は Pa、重力加速度の大きさは9.8 m/s²である。27 °Cのとき、ピストンは底から30 cmの高さで静止している。(1)気体の圧力を有効数字2桁で求めよ。(2)気体を127 °Cまでゆっくり温めたときのピストンの高さを求めよ。(3)(2)の間に気体がした仕事を有効数字2桁で求めよ。
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(1)ピストンにはたらく力のつり合いから、気体の圧力は大気圧より重さの分だけ高い。
(2)ピストンの重さと大気圧は変わらないので、温めてもは一定である。断面積が同じなので、体積の比は高さの比に等しい。
(3)一定の圧力で体積が増えた分を掛ける。
例題 4入試直線を延ばして0 Kを読む
圧力が一定のとき、ある気体の体積は0 °Cで100 mL、100 °Cで136.6 mLだった。(1)体積(mL)をの式で表せ。(2)体積が0になる温度を求めよ。(3)ゲイ=リュサックは1802年の論文で、0 °Cから100 °Cまでの増加を、元の体積のと報告した。この値で同じ計算をすると、体積が0になる温度は何 °Cになるか。
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(1)1 °Cあたり0.366 mL増える。
(2)とおく。
(3)0 °Cの体積を1とすると、1 °Cあたりの増加はである。
1802年の測定でも、今の値との差は2%ほどしかない。
ピストンが動くときの熱と分子
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 物理 第3問 問5:なめらかに動くピストンの付いたシリンダーの気体に、大気圧のもとで熱量を加える。圧力が変わらないまま温度が上がるときの状態方程式と、ピストンの移動距離を選ぶ。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
- 2024年 物理チャレンジ 第1チャレンジ 理論問題 問20:シリンダーの理想気体を、圧力を一定に保ったまま圧縮する方法を選ぶ。体積を減らすぶん温度も下がるので、仕事と奪う熱の大小が問われる。出典は物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2024 第1チャレンジ 理論問題コンテスト」。
- 2020年 物理チャレンジ 第1チャレンジ 理論問題 第3問 問2:小さな穴の開いた容器の気体で、圧力を一定に保って温度を上げると、単位時間に逃げ出す分子の数がどう変わるかを選ぶ。温度を一定に保って圧力を上げた場合と組み合わせて問われる。出典は物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2020 第1チャレンジ 理論問題コンテスト」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(1)ア(ア)㋑、99-101ページ
- J. L. Gay-Lussac, "Recherches sur la dilatation des gaz et des vapeurs", Annales de chimie 43 (1802), 137-175。英訳の抜粋はLe Moyne College「The Expansion of Gases by Heat」
- Bureau International des Poids et Mesures, The International System of Units (SI), 9th edition(2019)、2.3.1節(セルシウス温度と熱力学温度の関係)
- National Institute of Standards and Technology, "Nitrogen, Phase change data"
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 物理」。物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2020」「物理チャレンジ2024」