差が答えになる条件
溶解度の差がそのまま結晶の量になるのは、水がちょうど100 gで、高い温度で飽和していたときだけである。水が50 gなら結晶も半分になり、溶かした量が少なければ差より減る。1粒も出ないことさえある。
溶解度の違いで物を取り出す技は、この計算よりずっと古い。1556年に出たゲオルク・アグリコラの『デ・レ・メタリカ』は、火薬の材料になる硝石のつくり方を第12巻に記している。土からしみ出させた液を釜で煮詰め、底にたまった塩を鉄のひしゃくですくう。残った濃い液を、棒を縦横に渡した桶へ移して冷ますと、3、4日でその棒に硝石が固まる。
さらにアグリコラは、できた硝石を液に溶かして煮詰め、もう一度冷ませば、塩を含まない透明な硝石になると書いた。溶かしてから結晶に戻す、今の再結晶と同じ操作である。
水100 gにそろえてから引く
溶解度は、水100 gに溶ける物質の質量の限度を表す。限度まで溶かした水溶液が飽和水溶液で、冷やして限度が下がると、溶けていられない分が結晶になる。硝石の成分である硝酸カリウムの溶解度は、大学入試センターの問題の表では20 °Cで31.6 g、60 °Cで109 gだ。
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60 °Cの水100 gに限度まで溶かす
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20 °Cの水100 gに溶ける限度を読む
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限度を超えた分を引き算で出す
この3行が成り立つ条件は2つある。水が100 gであること、60 °Cで飽和していたことだ。水の量が違うときは、溶ける限度が水の量に比例するので、溶解度を水の量に合わせて直す。
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水50 gの60 °Cの限度は半分になる
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20 °Cの限度も同じ割合で直す
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限度の差を求める
手順3の77.4 gにを掛けても、同じ38.7 gになる。
飽和していない水溶液では、引かれる数が変わる。高い温度の溶解度ではなく、実際に溶けている量から引く。
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水100 gに60 g溶けているなら60 gから引く
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30 gしか溶けていないなら限度に届かない
手順8の水溶液は、20 °Cまで冷やしても透明なままだ。つまり、どの場合にも使える形は次の式になる。
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水の量をそろえ、溶けている量から限度を引く
答えが0以下なら、結晶は出ない。よく見る「溶解度の差」は、この式の特別な場合にあたる。水溶液の濃さの計算は、質量パーセント濃度で練習できる。
冷やして出る塩、出ない塩
食塩水を冷やしても、結晶はほとんど出てこない。塩化ナトリウムの溶解度は20 °Cで35.9 g、60 °Cで37.0 gで、水100 gあたりの差は約1 gしかないからだ。硝酸カリウムの約70分の1である。文部科学省の解説も、ミョウバンは温度を下げて、食塩は水を蒸発させて結晶を取り出す実験を例に挙げている。
では、食塩はどう取り出すのか。水を減らせば、温度を変えなくても限度が下がる。水100 gを含む60 °Cの飽和食塩水から水を50 g蒸発させると、限度は18.5 gに下がり、残りの18.5 gが結晶になる。
アグリコラの釜で起きたことも、この違いで説明がつく。底にたまった塩を、温度で溶解度があまり変わらない塩化ナトリウムのような物質とみれば、煮詰めて水が減ると、まず塩が限度を超える。熱い液には硝石が多く溶けていられるが、冷ますと限度が急に下がり、硝石が結晶になる。
再結晶で純度が上がるのも同じ理由だ。硝酸カリウム50 gに塩化ナトリウム5 gが混ざった粉を、60 °Cの水100 gに全部溶かして20 °Cまで冷やす。互いの溶解度への影響を無視すると、硝酸カリウムは g出てくる。一方、塩化ナトリウムの5 gは限度の35.9 gよりずっと少ないので、水溶液に残ったままだ。
少量の不純物は、限度に届かない。
ただし、純度の代わりに量を手放すことになる。この例では硝酸カリウムの6割以上が液に残る。アグリコラも、固まらなかった液を取り分けるか煮直すよう書いた。高い純度が要る材料では、再結晶をくり返すこともある。2025年の共通テスト追試験の化学には、再結晶をくり返した結晶を加熱し、ファインセラミックスに使う高純度の酸化アルミニウムを得る工程が出てくる。
水の量と溶けている量を読む
例題の物質Xの溶解度は、計算の練習のために作った架空の値である。
| 温度 | 20 °C | 40 °C | 60 °C |
|---|---|---|---|
| 物質Xの溶解度(水100 gあたり) | 20 g | 45 g | 80 g |
例題 1基本差で求められる場合
60 °Cの水100 gに物質Xを限度まで溶かした。(1)40 °C(2)20 °Cまで冷やしたときに出てくる結晶の質量を、それぞれ求めよ。
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水が100 gで、60 °Cで飽和しているので、溶解度の差で求められる。
(1)60 °Cと40 °Cの差をとる。
(2)60 °Cと20 °Cの差をとる。
例題 2基本水が100 gでない場合
60 °Cの水250 gに物質Xを限度まで溶かし、20 °Cまで冷やした。出てくる結晶の質量を求めよ。
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水100 gのときの差は gである。水が倍なので、結晶も2.5倍になる。
例題 3入試飽和していない水溶液
60 °Cの水150 gに物質Xを90 g溶かした。(1)60 °Cのとき、あと何g溶かせるか。(2)40 °Cまで冷やすと、結晶は何g出るか。(3)20 °Cまで冷やすと、結晶は何g出るか。
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(1)水150 gの限度を出し、溶けている量を引く。
(2)水150 gの40 °Cの限度は gである。
(3)水150 gの20 °Cの限度は gである。
溶解度の差60 gを1.5倍した90 gにはならない。60 °Cで飽和していなかったからだ。
例題 4入試飽和水溶液の質量から解く
60 °Cの物質Xの飽和水溶液が360 gある。(1)この中の水と物質Xの質量を求めよ。(2)20 °Cまで冷やすと、結晶は何g出るか。(3)60 °Cのまま水を40 g蒸発させてから20 °Cまで冷やすと、結晶は合わせて何gになるか。
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(1)60 °Cの飽和水溶液は、水100 gと物質X 80 gを合わせて180 gになる。360 gはその2倍である。
(2)水200 gの20 °Cの限度は gである。
(3)水は160 gに減り、20 °Cの限度は gになる。
(2)より8 g多い。蒸発した水40 gに溶けていられた分である。
曲線を読み、操作を選ぶ
- 2024年 東京都立高等学校入学者選抜 理科 第5問 問3・問4:硝酸カリウムと塩化ナトリウムを水に加えて温度を変える実験が題材。問3は塩化ナトリウムの様子が変わらない理由を溶解度の変化から説明し、問4は溶解度曲線を読んで、溶質を全部取り出すために蒸発させる水の質量を選ぶ。出典は東京都教育委員会「令和6年度都立高等学校入学者選抜 学力検査問題及び正答表」。
- 2026年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第1問 問7:水200 gに硝酸カリウム100 gを溶かした40 °Cの水溶液を冷やし、出てくる結晶の質量を溶解度曲線から求める。水は100 gでなく、飽和もしていない。出典は大学入試センター「令和8年度 本試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎 第1問 問9:硝酸カリウムと酸化鉄(Ⅲ)とナフタレンの混合物を60 °Cの水に加え、溶解度の表を見ながら、物質を分ける操作の組合せを選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』(2017)、第2章 第2節 第1分野(2)ア(イ)㋐ 水溶液、37-38ページ
- Georgius Agricola, De Re Metallica, trans. H. C. Hoover, L. H. Hoover (1912), Book XII
- R. Cohen-Adad, J. W. Lorimer eds., "Alkali Metal and Ammonium Chlorides in Water and Heavy Water (Binary Systems)", IUPAC Solubility Data Series vol. 47 (1991), Table 2。塩化ナトリウムの質量パーセントの評価値(20 °C 26.41、60 °C 27.03)を水100 gあたりに換算した
- 大学入試センター「令和6年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学基礎」(硝酸カリウムの溶解度の表)「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学」「令和8年度 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎」
- 東京都教育委員会「令和6年度都立高等学校入学者選抜 学力検査問題 理科」