圧力計の読みは代入できない
タイヤの空気圧計が200 kPaを指していても、ボイルの法則に入れる圧力は200 kPaではない。空気圧計が示すのは大気圧との差で、が一定になるのは真空を0とする絶対圧だからだ。温度と物質量が一定なら、絶対圧を2倍にすると気体の体積は半分になる。
この反比例を数字で示したのが、1662年のロバート・ボイルである。Jの字の管に閉じ込めた空気を水銀で押して記録した25行の表は、空気の長さと水銀の高さを掛けると、どの行も1,396から1,415の間に収まる。ただし、その高さには大気圧の分の29と8分の1インチが足してある。ボイルも絶対圧で計算していたのだ。J字管の実験の様子と、この関係を考えついたリチャード・タウンリーの話は、理想気体の状態方程式で読める。
積を一定に保つ
は圧力、は体積を表す。閉じ込めた気体の温度と物質量を変えないとき、次の計算が成り立つ。
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積が一定であることを式にする
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両辺をで割ると反比例の形になる
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状態1と状態2でが等しい
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について解く
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100 kPa、30 mLの気体を10 mLにする
とのグラフは直角双曲線になる。どの点でも長方形の面積が同じだからだ。ただ、曲線のままでは本当に反比例かどうか見分けにくい。そこで横軸をに変えると、原点を通る直線になる。実験の点が直線に並べば、反比例と言ってよい。定数は状態方程式のにあたり、温度が高い曲線ほど原点から遠い。
手順4をよく見ると、は比なので、体積の単位はmLでもLでも消える。もと同じ単位で出てくる。つまり両辺の単位がそろっていれば、Paに直す必要はない。
では、単位が混ざっているときはどうするのか。
| 単位 | Paに直すと |
|---|---|
| hPa | 100 Pa |
| kPa | 1,000 Pa |
| bar | 100,000 Pa |
| atm | 101,325 Pa |
| mmHg | 133.3224 Pa |
1 barと1 atmは近いが同じではなく、1.3%の差がある。一方、1 atmと760 mmHgは同じ圧力とみてよい。760に133.3224を掛けると101,325になる。
単位より深い落とし穴が、圧力計の読みである。タイヤやボンベの圧力計は大気圧を0として目盛ってあるので、足し算を1回はさむ。
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読みに大気圧を足して絶対圧にする
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読み200 kPa、大気圧100 kPaを入れる
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体積を半分にすると絶対圧は2倍になる
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大気圧を引いて読みに戻す
読みをそのまま2倍すると400 kPaになり、100 kPa足りない。
温度が動くなら式を替える
温度か物質量が変わると、ボイルの法則は使えない。そのときは次の表で式を選び直す。
| 法則 | 一定に保つ量 | 式 |
|---|---|---|
| ボイルの法則 | 温度、物質量 | |
| シャルルの法則 | 圧力、物質量 | |
| ボイル・シャルルの法則 | 物質量 | |
| 状態方程式 | なし |
下の行ほど条件が少ない。ボイルの法則は、ボイル・シャルルの法則でとおいた特別な場合である。問題文で見るのは2点でよい。温度が変わるならボイル・シャルルの法則にし、気体が出入りするなら状態方程式へ進む。どちらの式でもはケルビンで入れる。
富士山の現地気圧の平年値は638.2 hPaで、海面付近の約1,013 hPaの6割ほどしかない。だから平地で密封した菓子の袋を山頂へ運ぶと、中の気体の温度が同じなら、体積は約1.6倍まで増えようとする。もっとも、山頂の寒さで袋が冷えれば、ボイル・シャルルの法則の出番になる。
空気入れを速く押すと筒が熱くなる。これも温度が動く例で、は成り立たない。ゆっくり押すか、熱が逃げて元の温度に戻るまで待てば、ボイルの法則で計算できる。
圧力が高いと、式そのものが合わなくなる。米国立標準技術研究所(NIST)のデータで27 °Cの二酸化炭素を見ると、0.1 MPaから6.7 MPaまで圧力を67倍にしたとき、気体の体積は約150分の1まで縮む。分子どうしが引き合う力が効くためで、6.71 MPaに達すると液体に変わり始める。ボイルの法則は、薄い気体でよく成り立つ近似なのである。
注射器からボンベ、水底の泡まで
例題 1基本注射器の空気
Paの空気24 mLを注射器に閉じ込めた。温度は変わらないとして、(1)ピストンを押して8.0 mLにしたときの圧力(2)ピストンを引いて60 mLにしたときの圧力を求めよ。
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どちらもを使う。体積は比で効くので、mLのまま計算してよい。
(1)次のように計算する。
(2)同じ式で、体積の比だけが変わる。
例題 2基本単位が混ざった問題
圧力750 mmHg、体積4.0 Lの気体を、温度を変えずに圧力1.5 atmにした。体積を有効数字2桁で求めよ。1 atm = 760 mmHgとする。
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圧力の単位をmmHgにそろえる。
をについて解く。
Paに直さなくても、同じ答えが出る。
例題 3入試ボンベから取り出せる気体
容積10 Lのボンベの圧力計が15.0 MPaを指している。大気圧を0.10 MPaとし、温度は変わらないものとする。(1)ボンベの中の気体の絶対圧を求めよ。(2)この気体をすべて大気圧にしたときの体積を求めよ。(3)ボンベから大気中へ取り出せる気体の体積を、大気圧のもとでの値で求めよ。
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(1)読みに大気圧を足す。
(2)を使う。
(3)中の圧力が大気圧まで下がると気体は出なくなり、ボンベの中に10 Lが残る。
答えは、読み15.0 MPaと大気圧の比に容積を掛けた値と同じになる。読みが大気圧との差だからだ。
例題 4入試水底から上る泡
水深20 mの水底で、体積2.0 cm³の泡ができた。大気圧を Pa、水の密度を kg/m³、重力加速度の大きさを9.8 m/s²とし、水温は一様で、泡の中の気体は水に溶けないものとする。(1)水底の泡の絶対圧を求めよ。(2)水面に達したときの体積を有効数字2桁で求めよ。(3)泡を球とすると、半径は何倍になるか。
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(1)大気圧に水の重さの分を足す。
(2)水面の圧力は大気圧である。
(3)球の体積は半径の3乗に比例するので、半径は体積の比の3乗根の倍になる。
温度が動く問題、動かない問題
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第1問 問3:揮発性の液体だけを入れた容器のピストンを、温度を保ったまま引き上げる。液体が残っている間と、すべて気体になったあとで、体積と圧力の関係を表すグラフを選ぶ。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第1問 問4:500 Kの水素で、が圧力とともに1からずれるグラフが示され、1より大きくなる理由を選ぶ。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 物理 第3問 問6:熱の出入りがないシリンダーと、熱をよく伝えるシリンダーで、ピストンを同じ力で押したときの内部エネルギーの変化とピストンの動きを比べる。後者が等温変化になる。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(1)ア(ア)㋑、99-101ページ。第3節「物理」3(1)ア(オ)㋐、69ページ。第2節「物理基礎」、56ページ
- R. Boyle, "A Defence of the Doctrine Touching the Spring and Weight of the Air" (1662)。表の転載はChemTeam「Robert Boyle and His Data」
- National Institute of Standards and Technology, "NIST Guide to the SI, Appendix B.9"(圧力の換算)
- 気象庁「過去の気象データ検索 平年値 富士山」(統計期間1991〜2020年)
- National Institute of Standards and Technology, "Thermophysical Properties of Fluid Systems"(二酸化炭素の300 Kの等温線)
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学、物理」「令和8年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学」