引きつける物質の内側
逆さの三角形に2を添えたを、ラプラシアンと読む。電荷の並び方から電位を決めるこの式には、フランスの数学者シメオン・ドニ・ポアソンの名が付いている。
数学史の資料集MacTutor(セント・アンドルーズ大学)によると、ポアソンが電気の問題に挑んだ背景には、パリの学士院の懸賞があった。物理部門の一員だったマリュスは重い病で、亡くなれば空席ができる。数学者たちは、ポアソンがその席に入れるよう、懸賞の題を、帯電した物体の表面で電気がどう分布するかに決めた。マリュスは1812年2月24日に亡くなり、ポアソンは3月9日に論文「導体の表面での電気の分布について」の第1部を出し、これが決め手になって物理部門に選ばれた。
翌1813年、ポアソンは、重力で物を引きつける物質の内側でポテンシャルがどう決まるかを調べ、のちに静電気の理論で使われる結果を出した。物質の外では、ポテンシャルが右辺を0としたを満たす。この式はラプラスの名で呼ばれ、ラプラスの『天体力学』にも出てくるが、ラプラスより前から知られていた。物質の内側では右辺が0でなくなり、密度に比例する。電気の式では、密度が電荷密度に、比例の係数がに替わる。
まわりの平均との差
高校の物理では、電界と電位の関係を、静電気力による位置エネルギーと結び付けて学ぶ。ポアソン方程式は、その電位を、電荷の分布から空間のすべての点で決める式で、大学の電磁気学で学ぶ。
この式の道すじ。 先に、記号の意味と「まわりの平均との差」という読み方を、図とシミュレーションでつかむ。次に、ガウスの法則から1行ずつ導き(手順1〜6)、を差の式に直して、平均との差の形になることを確かめる(手順7〜10)。
図で納得する
(ファイ)は電位で、単位はV(ボルト)。1 Cの電荷をその場所に置いたときの、静電気力による位置エネルギーにあたる。地形の高さにたとえると、正の電荷は高い所から低い所へ押し出される。
(ロー)は電荷密度で、1 m³あたりにある電荷(C/m³)を表す。(イプシロン・ゼロ)は真空の誘電率という定数で、2022年のCODATAの推奨値は F/mである。
クーロンの法則に出てくる比例定数は N·m²/C²で、90億近い大きな数になる。がとても小さい数なので、わずかな電荷でも強い力を及ぼし、電位を大きく変える。
は、その点の電位がまわりの平均からどれだけずれているかを表す。まず、1本の線に間隔で並んだ3点を考える。
電位が4、7、6と並んでいれば、まん中は両どなりの平均5より2だけ高い。線の上でのポアソン方程式は、この差が電荷密度に比例するという式になる(手順10と同じ考えで出る)。
間隔が小さいほど、この式は正確になる。電荷の無い所では右辺が0なので、どの点も両どなりの平均に等しく、電位は1本の直線になる。正の電荷がある所だけが、平均より高く盛り上がる。
どの点も「両どなりの平均+電荷の項」に置き換える計算をくり返すと、形がだんだん落ち着く。落ち着いたとき、電荷のある点では差がちょうど電荷の項になり、電荷の無い点では差が0になる。電荷を一様に広げると放物線の山に、まん中に集めると三角の山になる。
空間では、前後・左右・上下の6つの隣と比べる。間隔で6点を取り、その平均をと書くと、ポアソン方程式は次の形になる。
電荷の無い空間では、どの点の電位もまわりの平均と同じになる。だから電荷の無い所に、まわりのどこよりも高い山の頂上や、どこよりも低い谷底はできない。電位の山の頂上ができるのは、正の電荷がある所だけだ。
式で確かめる
は、とを止めてだけを動かしたときの、の変わり方(傾き)を表す(偏微分)。3つの向きの傾きを並べたものをと書く。電位の坂がどの向きに、どれだけ急に下っているかを表す量だ。は、その点から電場がどれだけ湧き出しているかを表す(発散)。
-
電荷から電場が湧き出す、ガウスの法則を書く
-
電場は電位の坂を下る向きなので、勾配にマイナスを付ける
-
2を1に代入する
-
マイナスを外に出す
-
をと書く
-
両辺にを掛ける
手順1のガウスの法則は、マクスウェル方程式の1本目である。手順5のを成分で書くと、3つの向きの2階の偏微分(傾きの変わり方)の和になる。
では、傾きの変わり方を点の値で書くとどうなるか。右側の傾きから左側の傾きを引き、で割ればよい。
-
の向きの2階の偏微分を、点の値の差で近づける
-
との向きも同じ形で書いて足し、6つの隣の値の和をとおく
-
6でくくり、をと書く
-
手順6の式に入れ、両辺にを掛ける
手順7に4、7、6とを入れると、で、傾きの図の−4と一致する。つまり、手順9の形から、は「まわりの平均−自分」に比例する量だと読める。を小さくするほど、近似の式は元の式に近づく。
帯電した板のあいだの電位
2枚の金属の板を m離して平行に置き、どちらも電位0 Vにつなぐ(接地)。あいだの空間に、電荷密度 C/m³の電荷が一様に散らばっている。電位は板に垂直な向きだけで変わるので、はの2階微分だけになる。
この式と、両端で0 Vの条件を満たす電位は、次の放物線である。微分は傾きを式で求める計算で、はに、はに変わる。2回微分すると傾きの変わり方になり、元の式の左辺と比べられる。
-
答えの形を書く(とで0になる)
-
で1回微分する
-
もう1回微分すると、元の式の右辺になる
-
まん中を入れて、いちばん高い電位を出す
-
数を入れる
シミュレーションで電荷を一様に広げたときの山が、この放物線である。両端の板は電位が0に固定され、電荷のある所はどこも、両どなりの平均より同じだけ高い。
計算機で電位を求めるときも、空間を格子に分け、各点の値を「まわりの平均+電荷の項」に置き換える計算をくり返す。緩和法とよばれるやり方で、ポアソン方程式を差で書いた形をそのまま使う。
重力にも同じ形の式がある。万有引力の法則から出る重力のポテンシャルは、を満たす。ポアソンが1813年に調べたのは、こちらの式だった。アインシュタイン方程式の比例の係数も、この式と比べて決まる。
格子と球で解く例題
真空の誘電率は F/mとする。
例題 1大学格子の点の電位
間隔 mmの格子で、ある点の6つの隣の電位が10、12、11、9、10、8 Vだった。この点の電荷密度が C/m³のとき、この点の電位を求めよ。
解説を見る
6つの隣の平均は、 Vである。平均との差は、 mとして次のとおり。
電位は平均より1.0 V高く、 Vになる。
例題 2大学電荷の無い空間の電位
電荷の無い空間で、ある点の6つの隣の電位が3、5、4、6、2、4 Vだった。(1)この点の電位を求めよ。(2)電荷の無い空間では、電位がまわりのどの点よりも高い点ができない。その理由を、ポアソン方程式を平均で書いた形から説明せよ。
解説を見る
(1)なので、電位は6つの隣の平均に等しい。
(2)の所では、どの点の電位もまわりの平均に等しい。平均は、まわりのいちばん高い値より大きくなれないので、その点の電位がまわりのどの点よりも高くなることはない。
例題 3大学一様に帯電した球の内側
半径の球の内側に、電荷密度の電荷が一様に分布している。球の中心からの距離だけで変わる電位について、はと書ける。(1)球の内側での電位がポアソン方程式を満たすことを示せ。(2)中心と表面で、電位がどれだけ違うかを求めよ。
解説を見る
(1)1回微分してを掛け、もう1回微分してで割る。
最後にで割るとになり、ポアソン方程式を満たす。
(2)中心では、表面ではなので、差は次のとおり。
参考文献
- J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Siméon Denis Poisson", MacTutor History of Mathematics Archive, University of St Andrews(2002年8月更新)
- J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Pierre-Simon Laplace", MacTutor History of Mathematics Archive, University of St Andrews(1999年1月更新)
- NIST, "CODATA Value: vacuum electric permittivity"(2022 CODATA recommended values)
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第3節「物理」3(3)ア(ア)㋑ 電界と電位、73〜74ページ