創造的破壊の成長モデル

Aghion-Howitt model of growth through creative destruction

半分は冗談だった。「これでノーベル賞が取れるかも」

経済の平均成長率は、発明の平均回数に1回の伸びの対数を掛けた値になる。発明が前の独占を追い出す創造的破壊を、経済全体のモデルにした。

年代
1992年
習う
大3以上・経済学・マクロ経済学
レベル
大学(例題 5 問)
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
逸話

「これでノーベル賞が取れるかも」

「ピーター、これでノーベル賞が取れるかもしれない」

1987年、マサチューセッツ工科大学(MIT)で助教になったばかりのフィリップ・アギオンは、隣の部屋に来ていたピーター・ハウィットにそう言ったという。38年後のインタビューで語った本人の回想で、「もちろん半分は冗談だ」と添えている。目の前の式は、成長率を発明の頻度と大きさの積で表すだけだった。アギオンは「とても間抜けに見える」と言いながら、「美しい式」だったと続ける。

今の書き方では、次の形になる。

は1年に起こる発明の平均回数、は1回の発明で伸びる分を表す。つまり成長率は「回数×1回分」で決まる。

冗談は当たった。2025年10月13日、スウェーデン王立科学アカデミーは、2人とジョエル・モキイアにノーベル経済学賞を贈ると発表した。半分がモキイアに、残りの半分が2人に渡り、2人の授賞理由は「創造的破壊による持続的な成長の理論」である。

では、掛け算1回の式のどこが賞に値したのだろうか。式の見た目には、2人が数式にした「創造的破壊」が出てこない。隠れているのはの決まり方である。研究者の数は好きに決められず、次の発明に追い出されることを見込んで、経済の中で決まる。

2人の出会いは、1つの失敗から始まる。アギオンの夢は、ハーバード大学のソサエティ・オブ・フェローズに入ることだった。助教と同じ給料で、3年間教えなくてよい研究員の席である。選考の口頭試問のあとの夕食で、隣に座ったのはロバート・ソローだった。「質問をよく分かっていなかったね」。そう言われて、アギオンは落ちたと悟ったという。行き先はMITに変わった。

木の壁の部屋に長い食卓が整えられ、ろうそくの光が食器に映る。席に人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
ハーバード大学の研究員の選考。夕食の席の様子を想像して描いた(アギオンの回想による)画像生成AIで描いたイメージ

ハウィットは、カナダのウェスタンオンタリオ大学から客員で来ていた。40歳を過ぎ、もう大きな仕事はしないだろうと思っていたと本人は語る。MITで取り組むつもりだったのは失業の理論で、成長理論は「いちばん頭から遠いもの」だった。

アギオンは部屋を訪ね、シュンペーターの考えをモデルにしないかと持ちかけた。ハウィットの回想では、黒板の前で計算が行き詰まるとアギオンは捨てて次へ行こうと言い、自分はもう少し追おうと言ったという。

窓のある小さな研究室の壁に黒板があり、チョークと黒板消しが置かれている。板書は読めない。人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
2人は黒板の前で計算を進めた(ハウィットの回想をもとに、部屋は想像で描いた)画像生成AIで描いたイメージ
フィリップ・アギオン1956–創造的破壊を成長の数式のモデルにし、2025年のノーベル経済学賞を受けた
ピーター・ハウィット1946–アギオンと創造的破壊の成長モデルを作り、2025年のノーベル経済学賞を受けた

論文にする段になって、ハウィットは成長と循環を別々の論文に分けようと提案した。返ってきた言葉を、本人は今も覚えている。「いや、全部まとめるんだ。爆弾を作るんだよ」。1992年3月に学術誌『Econometrica』に載った29ページには、成長率の式のほかに、研究が増減をくり返す循環、成長が止まる「罠」、社会全体で見た研究の過不足までが詰まっている。

起源

1942年の言葉に、式は無かった

「創造的破壊」は、ヨーゼフ・シュンペーターが1942年の著書『資本主義・社会主義・民主主義』に書いた言葉である。資本主義のエンジンを動かし続けるのは、新しい消費財、新しい生産方法、新しい市場だという。それらは経済の構造を内側から作り変え、古いものを壊して新しいものを作り続ける。「この創造的破壊の過程こそ、資本主義の本質的な事実である」。アギオンとハウィットは論文の冒頭でこの一節を引いた。

ヨーゼフ・シュンペーターの肖像(Joseph Schumpeter ekonomialaria)
ヨーゼフ・シュンペーター1883–1950発明と起業が古い構造を壊し続ける「創造的破壊」を説いた経済学者出典: Wikimedia Commons・Unknown・Public domain

ただし、シュンペーターの描いた先は暗い。同じ本で「資本主義は生き延びられるか。いや、そうは思わない」と書いている。

そして式が無かった。アギオンは、シュンペーターの名前は経済思想史で通りすがりに出る程度で、「モデルが無く、実証も無かった」と振り返る。当時の成長理論の出発点は、資本を積むだけでは成長が続かないというソローの結論だった。ポール・ローマーは研究の成果を、製品の種類が増えることとして式にしたが、新しい製品は古い製品を補うだけで、追い出さない。

2人が足したのは「進歩は得だけでなく損も生む」という一点である。モデルの中で発明した会社が取る特許は、永久に続く。ところが独占、つまり1社だけが売れる状態は、次の発明までしか続かない。前の世代の製品は、次の世代に置き換えられて売れなくなるからだ。論文が挙げる発明の例は、蒸気機関、飛行機、コンピューターである。どれも、使う側の鉱山、輸送、銀行の仕事の進め方を変えた。

石造りの機関庫の中で、大きな蒸気機関の弾み車と連結棒が鈍く光る。外には鉱山の巻き上げやぐらが見える。人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
論文が例に挙げた発明の1つ、蒸気機関。使う側の鉱山の仕事の進め方まで変えた(イメージ)画像生成AIで描いたイメージ

アカデミーの解説が2人の仕事の核心に挙げるのは、発明の争いを経済全体の釣り合いの中に入れ、激しい入れ替わりと安定した成長の両立を示した点である。シュンペーターが衰退の種を見た仕組みから、続く成長を導いたことになる。

では、「回数×1回分」は、どこから出てくるのか。

証明

回数に1回分を掛ける

この証明の道すじ。 品質の階段を対数で見ると、同じ高さの段にそろう(手順1〜5)。1年に上る段の数の平均はである(手順6〜8)。年数で割って傾きにすると、公式が出る(手順9〜11)。

式の文字を読む

モデルの経済では、いちばん新しい製品を作る1社が市場を独占し、外の研究者たちが次の発明を目指す。発明が起きると品質が倍になり、発明した会社が首位に立つ。なら、1回で品質が4%上がる。

は研究にかける人の数、は研究者1人が1年に発明する起こりやすさである1。なら1人では平均100年に1回だが、50人いれば1年に0.5回、つまり2年に1回の計算になる。

公式g = λ n ln γの読み方。λnが1年の平均回数、ln γが1回の伸びで、gは経済全体が1年に伸びる割合の平均である。λの単位は回/人/年、nは人、γは倍率なので、λnは回/年、gは1/年になる。

は自然対数の記号で、(ネイピア数)を何回掛けるとその数になるかを表す。なので、1回も掛けなければ1のままなのでである。回数は整数でなくてよく、になる。対数の法則のログの、底をにしたものだ。

数直線の上に数xとln xを並べた図。1は0、2は0.693、eは1、4は1.386、8は2.079で、γ = 1.04ならln γは約0.039である。γが1より大きいとln γは0より大きく、γ = 1ならln γ = 0で伸びない。

が1より大きければは正で、改良の無いでは、成長率も0だ。

図で納得する

品質は1回ごとに倍になる。たとえばなら1、2、4、8と上がり、段はだんだん高くなる。段がそろわないので、このままでは平均の傾きを読みにくい。

ところが対数で見ると、段の高さがそろう。2を3回掛けた8はで、一般にを回掛けた数の対数はになる。掛けるたびに、の回数が回ずつ足されるからだ。

次は段の数である。発明がいつ起こるかは分からないが、モデルでは、どの瞬間にも同じ起こりやすさで起こり、前の発明からの経過には関係しない。この起こり方をポアソン過程という。1年に平均回でも、1回も起こらない年があれば、3回起こる年もある。

年数を増やすと、回数÷年数はに近づく。1年に平均0.5回なら、発明の無い年は6割ほどに落ち着く。つまり平均が0.5回でも、多くの年は何も起こらない。

あとは掛け算である。1年に平均段上り、1段の高さがなら、1年に上る高さの平均はになる。これが階段の傾きで、公式のだ。

品質の対数を、γ = 2の階段にして10年分描いた図。不規則な時刻に5段上がり、1段は約0.693なので、10年で約3.47上がる。破線の傾きは約0.347である。

手で計算してみよう。数は作ったものである。、、なら、、で、になる。とはいえ1回で品質が2倍では大げさだ。、、にすると、次の値になる。

2年に1回、4%の改良が起これば、年に約2%伸びる。この小ささで、豊かな国の成長率に近い大きさが出てくる。

が1に近いと、はとほとんど同じになる。は、ほぼ「4%」だ。だから改良が小さいときは、公式を「回数×改良の割合」と読んでよい。

横軸γ、縦軸に実線のln γと破線のγ − 1を描いた図。γ = 1.04では0.0392と0.04でほぼ重なり、γ = 2では0.693と1まで離れる。

経済全体の生産をと書く。研究者の数が変わらない定常状態では、は品質と同じ割合で増える。が1年にずつ上がるなら、平均の線の上では同じ年数で同じ倍率になり、ネイピア数の章に出てくる、利息を細かく組み入れ続けたときの増え方と同じ式になる。

なら、2倍になるのはで約35年後になる。

縦軸の左にln y、右にyの倍率を取った図。傾き約0.0196の直線は、約35年で0.693上がり、そのときyはちょうど2倍になる。

式で確かめる

  1. 年のあいだの発明の回数をとする。1回ごとに倍になる

  2. 両辺の対数をとる

  3. 積の対数を和に分ける

  4. 累乗の対数でを前に出す

  5. を左辺へ移す

  6. 年を長さの短い区間に分ける

  7. 短い区間で発明が起こる確率を書く。短いので2回は考えない

  8. 区間の数を掛けて、の平均を出す

  9. 手順5の平均をとり、手順8のの平均を入れる

  10. 両辺をで割る

  11. 左辺は1年に伸びる平均なので、と書く

この式が言うのは平均である。毎年の伸びはで、が偶然で変わるので、実際の成長率は年ごとに違う。論文は、1年の伸びが平均からどれだけ散らばるかを表す分散も導いている。

ポアソン過程では、回数の分散が平均と同じになる。これに1回の高さを2乗して掛ければ、1年の伸びの分散が出る。分散の平方根が、ふつう「ばらつき」と呼ぶ標準偏差である。

それにしても、1つの発明で経済全体が跳ね上がるのは極端ではないか。論文の第8節は産業を個に分ける。すると発明の回数は倍、1回の段はになる。研究者の数が同じなら平均は変わらず、分散だけがになるので、産業を増やすほど階段はなめらかな線へ近づく。

会社の単位では交代が激しいのに、国全体の数字は穏やかに見える。だが2つの見え方は矛盾しない。同じ式の、が違うだけの姿である。

途中の計算

研究者はどこで止まるか

この計算の道すじ。 発明1回の価値を出し(手順1〜5)、研究者の賃金と釣り合わせ(手順6〜9)、数を入れてを解く(手順10〜15)。

発明1回の価値

首位の会社は、次の発明が来るまで毎年、売上から費用を引いた利益を得る。経済学ではこの額を(パイ)と書き、円周率とは別物である。将来の利益は今すぐ手に入る同じ額より値打ちが低いので、発明の価値は、利益を今の値打ちに直して合計した額になる。

  1. 首位にいられる年数の平均を書く。1年の回数の逆数になる

首位の会社が交代していく帯。番号1から10までの会社が不規則な長さで並び、20年で10社なので在位の平均は2年である。1年に0.5回なら1 ÷ 0.5 = 2年になる。
  1. 利子が無ければ、価値は1年の利益に在位の平均を掛けた額になる

  2. 預けたお金が1年に増える割合、利子率を入れる。を預けて得る利子は、利益から追い出される損を引いた額に等しい

  3. を左辺へ移す

  4. で割る

手順3は、銀行に預けても発明を持っても得が同じになる所で価値が決まる、という考え方だ。は、1年に追い出される起こりやすさに、失う価値を掛けた損である。

分母のが、創造的破壊そのものである。独占が消える速さが、利子と同じ働きで将来の利益を削る。年に100万円の利益でなら、追い出されないときの価値は2000万円だ。ところがになると、約182万円まで下がる。

利益100万円/年、利子率0.05で計算した発明の価値の棒。λn = 0で2000万円、λn = 0.05で1000万円、λn = 0.5で約182万円である。

賃金との釣り合い

働く人は全部で人で、研究に人が回ると、製造に残るのは人だ。研究の得が賃金より大きければ人が研究へ流れ、小さければ去る。

  1. 研究者1人の1年の賃金と、確率で手に入る発明の価値が釣り合う

利益の式には、論文のコブ=ダグラス型の例を使う。製造の人が作った製品から()の生産が生まれる形で、が小さいほど独占の力が強い。論文の式(2.8)によると、首位の会社は製品を賃金の倍の値段で売るのがいちばん得になる。

なら生産はの形で、賃金1で作る製品を2で売り、売上2のうち1が利益になる。一般に利益は賃金の総額の倍で、ならだ。

この値段が通るのは、前の世代の製品が競争相手にならない大きな改良のときである。なら、がおよそ1.41以上にあたる。改良が小さいと前の世代の製品に割り込まれ、値段に上限がかかって式が変わる2。

  1. 次の発明の利益を書く。品質が倍になると賃金も倍になる

  2. 手順5と手順7を手順6に入れる

  3. 両辺をで割る。これが論文の式(3.4)である

右辺は「研究の得の見込み÷賃金」にあたる。が増えると分子は小さくなる。製造の人手が減って賃金が上がり、次の発明の利益が減るからだ。分母は大きくなり、次の発明までの期間が縮んで独占の寿命も短くなる。論文が挙げる2つの理由である。

利益の割合を小さくしていくと、でも右辺が1に届かなくなり、研究者は0人になる。成長が始まるには、ある程度の独占の力が要るという論文の結論である。

研究者の数を解く

  1. 両辺にを掛ける

  2. 右辺のかっこを外す

  3. の項を左辺へ、を右辺へ移す

  4. 左辺をでくくる

  5. で割る

  6. 作った例の、、、、を入れる

研究者は36人で止まる。このとき発明は1年に平均0.036回、約28年に1回で、成長率は、年に約1.5%である。

では、追い出される分を消すとどうなるか。手順9の分母をだけにして同じ数を入れると、次の式になる。

両辺に0.06を掛けて0.0015で割るとで、になる。今の研究の成果は、将来の研究に消される。その見込みが、60人を36人に抑えている。

研究者の数の棒。働く人100人のうち、追い出されないと見込むと60人が研究へ流れ、追い出されると見込むと36人で止まる。どちらも作った数である。

次の研究が多いと見込むほど、今の研究は減る。この負のつながりは、今の研究が0になる極端な形も生む。研究が止まれば次の発明は来ないので、経済はそこで成長を止める。論文が「成長の無い罠」と呼ぶ状態だ。

釣り合うは、が下がるほど、、、が上がるほど増える。公式のとには、掛け算の項としての効きと、を増やす効きの2つが重なる。

多すぎるか、少なすぎるか

36人は、それぞれが自分の得だけを考えて落ち着く数である。市場に任せた数と言ってもよい。では、社会にとってちょうどよいのだろうか。

論文は、将来の生産を今の値打ちで合計した額を最大にする研究者の数を求めた。コブ=ダグラス型の例では、次の式を満たす。

手順9と見比べると、がに、がに、がに変わっている。自分の得だけを考える人が見ない損得が、この違いに入る。

市場の研究者の数と最適の数の違いの4つの理由。研究を減らす向きが、時をまたぐ波及と取り分の効果。増やす向きが、前の会社から奪う利益まで得に数えるビジネス・スティーリングと、研究者の賃金が社会の費用より安い独占の歪みである。

ビジネス・スティーリングは、法律上の盗みではなく、前の会社の利益が新しい会社へ移ることを指す。社会全体で増えるのはの分だけなのに、発明した会社はの分の利益を受け取る。反対に、発明の成果は次の発明の土台として永久に残るが、発明した会社が得をするのは追い出されるまでだ。

だから、2つの向きが打ち消し合って、市場の数はどちらにも転ぶ。論文の結論は、が大きいと少なすぎ、独占の力が強くてがあまり大きくないと多すぎる、である。

作った例で計算すると、上の、では最適が80人で、市場の36人は少なすぎる。同じ、、で、にすると、市場の93.3人は最適の89.5人より多い。

研究者の数の直線に、市場の数と最適の数の2つの丸を置いた図。α = 0.5、γ = 1.5では市場36人が最適80人より少なく、α = 0.05、γ = 1.2では市場93.3人が最適89.5人より多い。

もっとも、モデルが言えるのは「どちらもありうる」までだ。アカデミーの解説によると、経済全体では研究が少なすぎるという証拠が多い。一方で、ビジネス・スティーリングのために研究が多すぎる産業や企業もありえて、同じ解説は一律の研究補助を最適ではないと見ている。

応用

研究者は23倍、成長は増えず

アカデミーの解説によると、米国では毎年、全企業の1割を超える会社が消え、同じくらいの数が生まれる。それでも英国とスウェーデンの1人あたりの生産は、200年を均すと年1.5%ほどで安定して伸びた。

1.5%ならで約46年、つまり働いている間に所得が2倍になる速さだ。

ただ、成長率の数字だけでは、回数と1回分を分けられない。同じでも、小さな改良が多い経済と、大きな改良がまれな経済がありうる。

どちらもg = 0.02の2つの階段。左は1年に0.5回でln γ = 0.04、ばらつき約0.028。右は1年に0.1回でln γ = 0.2、ばらつき約0.063で、段が大きく平坦な時期が長い。

モデルの中では右の経済の標準偏差が左の2倍以上になるので、平均だけでなくばらつきも見れば、発明の性格に手がかりが付く。

公式をそのまま読むと、研究者を2倍にすれば成長率も2倍になる。論文も、熟練した働き手が増えれば平均成長率が上がると書いた。ところが現実の数字は違う。両辺をで割ると、研究者1人あたりの成長率が出る。

ニコラス・ブルームらは2020年の論文で、この「研究の生産性」を測った。研究の量には、研究費を大卒の賃金で割った実質の人数を使う。米国全体では1930年代から2000年代までに研究の量が23倍になり、研究の生産性は41分の1に落ちた。

研究の量と生産性の変化を、1目盛り10倍の棒で比べた図。米国全体では1930年代から研究の量が23倍、生産性は41分の1。半導体では1971年から研究の量が18倍、生産性は18分の1である。

生産性は成長率÷研究の量なので、41が23より大きいのは、成長率そのものが約1.8分の1に下がった分である。ここでの成長率は、働く人と設備の増加では説明できない生産の伸びを指す。

半導体の例はもっと分かりやすい。ムーアの法則はチップの密度が2年で2倍になるという経験則で、対数の傾きは次の値でほとんど変わらなかった。

この傾きを保つのに、研究の量は1971年から2014年までに18倍要った。つまり傾きが変わらない分、生産性はそのまま18分の1になる。

アギオンもこの批判を、理論が受けた深刻な挑戦に数える。アイデアが見つけにくくなるなら、人口が増えなければ成長は続かないという同僚の主張である。

ハウィットも1999年の論文で答えた。製品の種類が人口と同じ割合で増えれば、1製品あたりの研究者は増えない。ブルームらはこの形のモデルも認めたうえで、製品や企業の単位でも生産性が下がるデータを示した。

式のは定数と置かれているが、この測り方では、長い期間で定数のままでいてくれない。

会社の役割にも、モデルと現実の差がある。モデルでは首位の会社は研究しない。次の発明は自分の利益も消すので、得が外の会社より小さいからだ。

だが米国の1983〜2013年のデータを調べたガルシア=マシア、シェ、クレノウは、成長の多くは既存の会社から生まれ、自社製品の改良のほうが創造的破壊より大きいと推定した。競争との関係も修正された。モデルの中では独占の力が強いほど研究が増えるが、アギオンらは2005年、競争が弱すぎても強すぎても発明が減る逆U字の関係をデータで示している。

階段の見方を知ると、成長率のニュースが少し違って読める。年2%という1つの数字の裏に、回数と1回分という2つの数字が隠れているからだ。

例題と解説

階段の傾きを手で求める

例題 1基本回数と1回分を掛ける

研究者が40人、1人の起こりやすさ(回/人/年)、1回の倍率の経済を考える(作った例)。

(1)1年の発明の平均回数を求めよ。

(2)首位の会社の在位の平均を求めよ。

(3)を使い、成長率を求めよ。

解説を見る

(1)なので、1年に平均0.8回である。

(2)回数の逆数をとる。

在位の平均は1.25年である。

(3)回数に1回分を掛ける。

年に約7.6%伸びる。

例題 2入試発明の価値と賃金

毎年の利益万円、利子率、、とする。

(1)発明の価値を求めよ。

(2)釣り合う賃金を求めよ。

(3)研究者が20人になると、はいくらになるか。

解説を見る

(1)なので、分母はである。

約870万円である。

(2)に確率を掛ける。

約17.4万円である。

(3)なので、分母は0.43になる。

約465万円で、研究者が2倍になると価値は半分近くまで下がる。

例題 3難関釣り合う研究者の数

、、、、とする。

(1)論文の式(3.4)からを求めよ。

(2)を使い、を求めよ。

(3)独占が追い出されないと考えて分母をだけにすると、はいくつになるか。

解説を見る

(1)なので、手順14の式に入れる。

確かめると、である。

(2)なので、次の値になる。

(3)を解く。

である。追い出される見込みが、80人を48人に減らしている。

例題 4大学対数の平均と平均の対数

は平均のポアソン分布に従う。である。

(1)の平均を求めよ。

(2)の平均を求めよ。

(3)のとき、とで、2つの1年あたりの率を比べよ。

解説を見る

(1)で、の平均はである。

(2)に確率を掛けて足す。の級数を使う。

(3)(1)の率は、(2)の率はである。では0.0196と0.02でほぼ同じだが、では0.347と0.5まで離れる。運よく段を多く上った場合が(2)の平均を引き上げるからで、公式は(1)のほうを指す。

例題 5大学産業を分けたときの分散

ポアソン分布の分散は平均に等しい。産業が個あり、1年の発明の回数が平均のポアソン分布に従い、1回でが上がるとする。

(1)1年の伸びの平均と分散を求めよ。

(2)、、のときの標準偏差を求めよ。

解説を見る

(1)平均は回数の平均に1回分を掛ける。

分散はの分散に1回分の2乗を掛ける。

(2)標準偏差は分散の平方根である。を使う。

図示

はしごの上の交代

品質の階段を4社が順に上がる図。段を上がるごとに品質はγ倍になり、下の帯のとおり利益を得るのはそのとき首位の1社だけである。

会社2の発明は、会社1の品質の上に積まれる。土台の知識は残るのに、会社1の利益は消える。創造と破壊が同じ1段の中に入っている。

シミュレーション

階段を何本も上らせる

、、を動かすと、太い線の階段が0年から40年まで上っていく。細い線はほかの偶然で、破線が公式の傾き、実線がくり返した本の平均である。本数を1本から1000本へ増やすと、読み出しの平均は式の値に近づく。下の帯は太い線の首位の会社を番号と模様で並べたもので、を上げると細かく刻まれ、を変えても刻み方は変わらない。

広がる学問

発明の回数が届く学問

  • 経済学 企業の参入と退出、雇用の入れ替わりから経済全体の成長を説明するとき、このモデルの仕組みを土台にする。クレッテとコルトゥムの2004年のモデルは、1社が複数の製品を持つ形に広げ、会社の大きさの分布まで説明した。
  • 数学 一定の起こりやすさで起こる出来事の合計を調べるとき、確率論のポアソン過程を使う。公式はこの過程の平均で、論文によるとは、一定の傾きのまわりを偶然で上下するランダムウォークに従う。
  • 社会学 発明を担う人がどこから生まれるかを調べるとき、社会移動の研究と結びつく。米国の特許と税の記録を結びつけたベルらの研究では、所得が上位1%の家の子が発明家になる割合は、中央より下の家の子の10倍だった。アカデミーの解説によると、米国の通勤圏ごとの社会移動の指標は成長と正の関係を持つ。
いまの研究と事業

止まりかけた交代を測る

  • 2021年 アクチギットとアテシュ: 米国で企業の参入や雇用の入れ替わりが減った現象を10の事実に整理し、首位と後続のあいだの知識の広がりが細ったことが大きな原因になりうると論じた。公式で読むと、後続の会社が首位に追いつけず、が下がる筋書きにあたる。(出典: Akcigit、Ates「Ten Facts on Declining Business Dynamism and Lessons from Endogenous Growth Theory」NBER w25755)
  • 2025年 アギオン(コレージュ・ド・フランス): ノーベル週間のインタビューで、AIはアイデアの生産まで自動化し、アイデアを見つけやすくすると述べた。同時に、一部の企業が新規参入を阻めば成長を妨げかねないとも語る。公式で読めばを上げる話と、の担い手を減らす話が同時に出ている。AIの生産性への効果の見積もりはAIで生産性はどれだけ上がるかで比べられる。(出典: Philippe Aghion, Interview, NobelPrize.org)
  • 2026年 深尾京司、金榮愨、権赫旭(経済産業研究所など): 1999〜2020年の日本企業の財務データを調べ、他国と違って退出が生産性を押し下げる「負の退出効果」を報告した。半分近くは生産性の高い企業が合併で消える分で、吸収した側の労働生産性はその後上がる。モデルは低い品質の会社が消えると置くので、前提との差を測った例として読める。(出典: Fukaoほか「Sources of Productivity Growth by Firm Size and Causes of the Negative Exit Effect」RIETI 26-E-007)

公式で読めば、どれも掛け算のどの項が動いたのかという問いになる。1987年に「間抜けに見える」と言われた式は、今も問いの形を決めている。

参考文献

  1. P. Aghion, P. Howitt, "A Model of Growth Through Creative Destruction", Econometrica 60 (2) (1992), 323-351(式は3.11、第5節は339-341ページ、第8節は346-349ページ。ハーバード大学DASHの公開版); NBER Working Paper 3223(1990年1月).
  2. スウェーデン王立科学アカデミー, Press release 2025; Popular science background; Scientific background.
  3. Philippe Aghion, Interview(2025年12月6日); Peter Howitt, Interview(2025年12月6日); P. Aghion, "The Economics of Creative Destruction"(受賞講演の資料、2025年12月8日).
  4. J. A. Schumpeter, Capitalism, Socialism and Democracy (1942), p. 83(文献1の引用による); D. R. Henderson, "Joseph Alois Schumpeter", The Concise Encyclopedia of Economics.
  5. N. Bloom, C. I. Jones, J. Van Reenen, M. Webb, "Are Ideas Getting Harder to Find?", American Economic Review 110 (4) (2020), 1104-1144(著者の公開版。23倍、41分の1、18倍はNBER Working Paper 23782でも同じ); P. Howitt, "Steady Endogenous Growth with Population and R&D Inputs Growing", Journal of Political Economy 107 (4) (1999), 715-730(内容は文献2と文献5の記述による).
  6. D. Garcia-Macia, C.-T. Hsieh, P. J. Klenow, "How Destructive Is Innovation?", Econometrica 87 (5) (2019), 1507-1541(NBER版の要旨); P. Aghion, N. Bloom, R. Blundell, R. Griffith, P. Howitt, "Competition and Innovation: An Inverted-U Relationship", The Quarterly Journal of Economics 120 (2) (2005), 701-728(文献2の解説による).
  7. T. J. Klette, S. Kortum, "Innovating Firms and Aggregate Innovation", Journal of Political Economy 112 (5) (2004), 986-1018(内容は文献2の解説による); A. Bell, R. Chetty, X. Jaravel, N. Petkova, J. Van Reenen, "Who Becomes an Inventor in America?", The Quarterly Journal of Economics 134 (2) (2019), 647-713(NBER版の要旨).

注

  1. 論文の式は(式3.11)である。は研究者の数を研究の量に直す関数で、公式は論文がよく使うの場合にあたる。は、発明をまたいでも研究者の数が変わらない定常状態の値を指す。2025年12月の受賞講演でアギオンは、研究の量をと書いてと示した。1990年の作業論文のは費用が下がる倍率(0と1のあいだ)で、平均の成長率はと負の符号付きで書かれている。1992年の論文ではが1より大きい倍率に改められた。 ↩

  2. 論文の第5節によると、がより小さいと、前の世代の特許を持つ会社が安く売って割り込める。首位の会社の値段は賃金の倍までになり、式(3.4)のがこの倍率に置き換わる(式5.7)。たとえば、、、、では、式(3.4)のままなら50人、式(5.7)なら約6人になる。 ↩

タグ

この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

姉妹サイト

株式会社Game が運営するメディアです。