AIで生産性はどれだけ上がるか(アセモグルの0.66%)

Acemoglu's estimate of AI and TFP (Hulten's theorem)

電卓で3回掛けると、AIの10年分の効果が0.66%と出る。

AIの効果を、影響を受ける作業の割合とコスト削減率の積で読むハルテンの定理の式。アセモグルは米国の10年間のTFPの伸びを0.66%以下と見積もった。

年代
2024年
習う
大3以上・経済学・マクロ経済学
レベル
大学(例題 5 問)
人物
ダロン・アセモグル、チャールズ・ハルテン、エヴセイ・ドーマー、ロバート・ソロー、モーゼス・アブラモヴィッツ、デイヴィッド・バカイー、エマニュエル・ファルヒ、フィリップ・アギオン、シモン・ビュネル
逸話

10年間で0.66%

AIが米国の生産性を10年で押し上げる幅は、多くて0.66%。マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグルは2024年5月の論文で、全要素生産性(TFP)についてそう見積もった。

年率ではない。10年間を合わせた上げ幅である。

TFPは、働く人と設備の増加では説明できない生産の伸びを表す。0.66%は、AIが無かった場合と比べた10年後の水準の差で、1年あたりでは約0.064%になる1。米国労働統計局によると、民間の非農業部門のTFPは2024年に1.5%、2025年に0.8%伸びた。AIの10年分が、最近の1年分にも届かない計算になる。

ダロン・アセモグル1967–制度と繁栄の研究で知られ、AIの生産性への効果を見積もった

なぜ、ここまで小さいのか。

2022年11月のChatGPTの公開のあと、大きな予測が相次いだ。アセモグルの論文の紹介によれば、ゴールドマン・サックスは2023年、世界のGDPが7%増え、米国の生産性の伸びが10年にわたって年1.5%高まると見込んだ。マッキンゼー・グローバル研究所は、AIとほかの自動化技術を合わせて、先進国のGDP成長率が今後10年、年に最大で1.5〜3.4ポイント上がりうるとした。「これほど大きな効果は、ありうるのか」。アセモグルは序論でそう問いかける。

答えを出す道具は、電卓で足りるほど単純だった。

はAIの影響を受ける作業がGDPに占める割合で、はその作業のコストが平均で何割下がるかを表す。は対数の差で、小さな変化なら伸び率と読んでよい。論文は割合のほうを言葉で書いて記号を振っていないので、この記事ではと書く。

米国の作業のうちAIにさらされるのは20%で、そのうち採算がとれるのは23%である。掛けると4.6%で、削減の効果が届くのは全体のごく一部の作業に限られる。

整理棚が並ぶ資料室の机で、両手が白紙のカードを2つの木の箱へ分けている。人の顔は見えない(画像生成 AI で描いたイメージ)
O*NETの作業の記述は約1万9千件。どれがAIに向くかをGPT-4に判定させた(イメージ)画像生成AIで描いたイメージ

20%の出どころからして、少し不思議な話である。エロンドゥらは2023年の研究で、職業情報のデータベースO*NETに載る19,265の作業を、人の分類と照らしながら、トランスフォーマーを使う言語モデルGPT-4に判定させた。AIの向き不向きを、AI自身が採点したことになる。

もっとも、アセモグルはこの数字を確かな予言として出したわけではない。2つの量について「正確な見積もりを出すことはできない」と書き、コンピュータービジョンの研究から借りた23%をすべてのAIに広げた手順には、脚注で「これは無害な一歩ではない」と断っている。

同じ2024年の10月14日、アセモグルはサイモン・ジョンソン、ジェームズ・ロビンソンとともにノーベル経済学賞の受賞が決まった。理由は「制度がどう形づくられ、繁栄にどう影響するかの研究」で、AIの見積もりとは別の仕事である。

ところで、論文の謝辞には、MITのソロー追悼コンファレンスの名前がある。前の年の12月21日に99歳で世を去ったロバート・ソローは、TFPという量に理論の裏付けを与えた経済学者だった。

起源

「無知の尺度」と呼ばれた残差

では、この量はどこから来たのか。生産の伸びから働く人と設備の分を引いた残りを、経済学では残差と呼ぶ。

1957年、MITのソローは論文「技術変化と集計的生産関数」で、この残差を、観測できる価格と数量だけから求める方法を示した。

は生産、は資本、は労働で、とは資本分配率と労働分配率である。文字の上の点は時間微分を表す。ノーベル財団の1987年の発表によると、ソローは、年々の成長のうち労働と資本の増加で説明できるのは小さな部分にすぎないことを示した。残差のほうが大きかったのである。

ロバート・ソローの肖像(Robert Solow by Olaf Storbeck)
ロバート・ソロー1924–2023経済成長の理論を作り、生産の伸びから技術進歩の分を取り出した出典: Wikimedia Commons・Olaf Storbeck from Düsseldorf, Deutschland・CC BY-SA 2.0

残差には、技術の進歩のほかに、測りそこねたものも入り込む。前の年の1956年、モーゼス・アブラモヴィッツは同じ種類の残差を「われわれの無知の尺度」と呼んでいた。

窓辺の木の机に、数字の表を綴じた帳簿と機械式の計算機、計算尺、鉛筆が置かれている。人はいない(画像生成 AI で描いたイメージ)
統計の時系列から残差を計算した1950年代の机(イメージ)画像生成AIで描いたイメージ

国を丸ごと測っているうちは、これでよかった。問題は産業ごとに分けたときに起きる。小麦粉の会社はパン屋に粉を売り、パン屋はそれを使ってパンを売る。GDPに入るのは最後のパンだけだが、小麦粉の会社の生産性が上がれば、全体の生産性も上がるはずである。

1961年、エヴセイ・ドーマーは、産業ごとの伸びを、その産業の総生産額を最終需要の合計で割った重みで足すことを提案した。この重みの和は1を超える。1978年、チャールズ・ハルテンは論文「中間投入を含む成長会計」で、生産可能性フロンティアの移動が、まさにこの重みで足した産業ごとの伸びに等しいことを示した。のちにバカイーとファルヒが「生産性と成長の会計の礎石」と呼ぶ、ハルテンの定理である。

チャールズ・ハルテン20世紀後半から活躍産業ごとの生産性を経済全体へ集計する定理を示した

新しい技術が来るたびに、この物差しは試されてきた。1987年、ソローは『ニューヨーク・タイムズ』の書評欄に「コンピューターの時代は、生産性の統計を除けばどこにでも見える」と書いた。2017年にはブリニョルフソンらが、AIをめぐる状況を「ソローのパラドックスの再来」と呼んでいる。

アセモグルは、定理の「産業」を「作業」に置き換えた。1つの最終財を作るには多くの作業(タスク)が要り、それぞれを資本か労働に割り振る。パスカル・レストレポとともに2018年ごろから使ってきた枠組みで、AIは、作業を資本に任せる自動化か、残った作業で人を助ける補完として入ってくる。どちらであれ作業のコストを下げるなら、全体への効果はハルテンの定理で決まる。

証明

動かした人の分は打ち消し合う

式の中身は、家計簿の計算に近い。弁当を作る費用の20%を容器代が占めるとしよう。容器が10%安くなれば、弁当の費用は2%下がる。割合に削減率を掛けるだけである。

ただ、経済全体ではもう1つ確かめることがある。コストが下がれば、企業は人や設備を作業のあいだで動かす。その動きの分を足さなくてよいのだろうか。

小さな変化なら、足さなくてよい。論文の2.4節は、包絡線定理を使う脚注1つでこの点を処理する。ここでは作業を個に分け、手で確かめる。市場は競争的で、規模に関して収穫一定とし、労働と資本の総量はいったん固定する。

  1. 最終財は作業の産出から作られ、各作業の産出は生産性と労働、資本で決まる。

  2. 労働と資本の総量は決まっている。

  3. 競争市場では、最終財で測った作業の価格は、最終財への限界的な貢献に等しい。

  4. どの作業でも、企業は労働の限界生産物の価値が賃金に、資本の限界生産物の価値がレンタル料に等しくなるまで雇う。

  5. を全微分する。

  6. を全微分する。

  7. 手順5に入れ、手順4で置き換える。

  8. 総量は固定なので、で、再配分の項が消える。

作業jから作業iへ1人を動かしても、iで増える分とjで減る分が打ち消し合う。

どの作業でも最後の1人の稼ぎは賃金に等しい。だから1人を別の作業へ動かしても、増える分と減る分が打ち消し合う。定理の要はここにある。

  1. を入れ、両辺をで割る。は、作業がGDPに占める割合である。

  2. 労働と資本が一定のままのの伸びがTFPの伸びである。作業のコスト削減率は、生産性の上昇率と読む。

  3. AIの効く作業の集合をとする。はその割合、は割合で重みをつけた平均の削減率である。

手順11が論文の式(14)にあたる。

作業や産業が中間財を売り買いしていても、同じ筋で式は通り、重みだけが変わる。の分子が総生産額になり、分母はGDPのままなので、和が1を超える。小麦粉の産業がパン屋に40を売り、パン屋が消費者に100を売る経済なら、GDPは100、重みは0.4と1で、和は1.4である。小麦粉の生産性が1%上がれば、GDPは0.4%上がる。

この等式は、どこまで信じてよいのか。が動かないとみなせる、小さな変化の範囲までである。つまり定理は、テイラー展開の1次の項にあたる。

バカイーとファルヒは、2017年のワーキングペーパー(2019年に学術誌へ掲載)でこの先を計算した。小売のウォルマートと電力は、どちらも売上が米国GDPの約4%で、定理の上では同じ重みになる。それでも電力が大きく止まれば、損失はウォルマートよりずっと大きいはずだ。2次の項まで入れると、1970年代の石油危機が世界の産出に与えた影響の見積もりは、0.23%から0.61%へほぼ3倍に増える。

作業どうしの代替の弾力性をとするCES型の生産関数なら、この曲がり方を式で書ける。割合の作業だけ生産性が倍になるとき、もとのを1とすれば、

である。ハルテンの定理のは、でのこの曲線の接線になる。

当サイトの模型でを20%に固定して描くと、破線が1次の近似、太い線がCES型の曲線になる。(コブ=ダグラス型)では2本が重なる。だと曲線は上限で頭打ちになる。速くならない作業がボトルネックになるからで、論文もを0.5前後に置く。フィリップ・アギオン、ベンジャミン・ジョーンズ、チャールズ・ジョーンズは2017年、成長を縛るのは「得意なことではなく、欠かせないのに改善が難しいことかもしれない」と書いた。

とはいえ、アセモグルのでとおいて当サイトで計算すると、でも0.64%で、1次の式の0.66%とほとんど変わらない。ずれが効いてくるのは、作業の割合と削減率がもっと大きいと読むときである。

途中の計算

0.046×0.144を組み立てる

数字の出どころを、論文の第3節の順に追う。さらされる作業の20%は、エロンドゥらの自動化の指標で、活動の50%を超える部分をAIが担えるとされた作業だけを数え、職業ごとの賃金総額で重みをつけて足したものである2。賃金の割合を、そのままGDPの割合とみなしている。

23%はスヴァンベリらの2024年の研究から来た。論文の要旨によれば、今のコストのもとで、コンピュータービジョンの作業に払われる賃金のうち自動化する価値があるのは23%にとどまる。アセモグルはこれを、10年以内に採算がとれる割合として使う。

削減率の27%は、2つの研究の平均である。ノイとチャンの実験ではChatGPTで文章作成の時間が40%減り、ブリニョルフソンらが企業で調べた研究ではカスタマーサポートが1時間に解決する件数が14%増えた。速さの伸びを、そのままコスト削減と読んでいる。プログラミングの実験(ペンら)を平均に足しても、コストが年10%下がると置いても、最後の値は0.9%ほどにとどまる。

  1. さらされる作業の割合を置く

  2. 採算がとれる割合を掛ける

  3. 2つの研究の平均をとる

  4. 労働分配率を掛ける

費用全体のうち労働が53.5%を占めるので、労働コストの27%が浮くと、費用全体では14.4%下がる。
  1. 2つの値の積をとる

  2. 難しい作業の削減率を全体のコストに直す

  3. 易しい作業の72.6%と残りに分けて足す

さらされた作業を易しい作業3.3%と難しい作業1.3%に分けると、面積は0.48%と0.05%で、足して0.53%になる。

手順7の区別は、論文の後半の主張である3。成否を測る指標がはっきりしていて、行動と結果の対応が単純なら易しい作業で、卵をゆでるのがその例にあたる。長引く咳の診断と治療は難しい作業である。実験で測られたのは易しい作業ばかりなので、難しい作業の削減率は、カスタマーサポートの14%の半分と置いた。アセモグルはこの置き方を「speculative(推測による)」と書き、0.53%を上限とみなす。

ここまではTFPの話で、GDPにはさらに資本の増加が乗る。

  1. GDPの伸びを2つに分ける

  2. 資本が生産と同じ率で増えるとする

  3. について解く

  4. 資本分配率0.43を入れる

0.53%のほうで同じ計算をすると0.93%になる。投資がもっと大きく増えるとみる別の計算では、GDPの上限は1.4〜1.56%まで上がる。ただ、増えた投資の分は消費から出る。だからアセモグルは、暮らしの豊かさを見るならTFPの数字のほうが適切だと述べる。

応用

同じ式が10倍違う答えを出す

この式のいちばんの使いどころは、予測の食い違いを項ごとに分解できることだ。

2024年6月、コレージュ・ド・フランスなどのフィリップ・アギオンと、フランス銀行などのシモン・ビュネルは、同じ式に別の数字を入れた。さらされる作業60%、採算がとれる割合50%、労働コストの削減40%、労働分配率0.57である。

積は10年分のTFPの伸びで6.8%、2人の言い方では年0.68ポイントになる。アセモグルの約10倍である。項の取り方しだいで年0.07〜1.24ポイントまで開くとも書いている。

差の大半は最初の2項で生まれる。その2つだけで6.5倍あり、残りの2項を合わせても1.6倍にすぎない。

60%は、作業ではなく人の能力の面からさらされ方を測った別の研究の値である。50%のほうは、計算コストが年22%下がると置いたときの値で、アギオンらは、23%は今のコストに固定した数字だと批判する。アセモグルのほうは、GPUの性能が倍になってもコストが半分になるとは限らないとして、この下落を基準に入れなかった。

式は同じだが、入れる数字が違う。どちらの読みが当たるかは、まだ決着していない。

ニュースで「AIで生産性が何%上がる」という数字を見たら、4つのことを確かめると見通しがよくなる。何の量か(TFP、GDP、労働生産性)、どこの話か、10年の合計か年率か、何と比べた差か。アセモグルの0.66%は、米国のTFPの、10年の合計の、AIが無い場合との差である。ゴールドマン・サックスの7%は世界のGDPなので、そのまま並べて「10倍違う」とは言えない。

割合を掛けて出す見積もりはドレイク方程式と同じ形をしていて、対数をとれば足し算になる。だから1つの項が2倍ずれれば、答えも2倍ずれる。自分の職場に当てはめるなら、例題1のように、現場で見える時間短縮に割合を掛けていけばよい。

この式に入らないものも多い。アセモグルは、AIが新しい作業を生む効果と、科学の進め方を変える効果を見積もりから外した。後者についてはたんぱく質の立体構造の予測などの成果に触れたうえで、10年のうちに大規模に起きるとは考えにくいとしている。アギオンらは逆に、アイデアの生産の自動化を含めていない分、自分たちの値も下限とみなせると書き、AIの上流で競争が足りないことによる押し下げも入っていないと断る。

普及の遅れも式の外にある。アギオンらの紹介では、米国でも欧州でも、電気の生産性の効果が現れたのは発明からおよそ30年後だった。工場が電気を使い始めても、1本の軸で機械を回す配置を改めるまでは、効果が出なかったという。

天井を走る1本の長い軸から革のベルトが何本も下り、並んだ旋盤を回している工場の内部(画像生成 AI で描いたイメージ)
天井の軸とベルトで機械を回す工場。電化の効果が出るまで約30年かかった(アギオンらの紹介)画像生成AIで描いたイメージ
例題と解説

職場の数字と定理を手で確かめる

例題 1基本自分の職場で掛け算する

ある会社では、事務の作業が賃金総額の30%を占める。そのうち25%の作業にAIを使うと、その作業の労働時間が20%減る。人件費は費用全体の60%とする。

(1)人件費は全体で何%減るか。

(2)費用全体は何%減るか。

解説を見る

(1)AIが届く作業は賃金総額のである。そこで20%減るので

人件費は1.5%減る。

(2)人件費が費用全体に占める割合を掛ける。

費用全体は0.9%減る。作業の現場で見える20%が、会社全体では20分の1ほどになる。アセモグルの計算と同じ構造である。

例題 2基本10年の合計と年率

(1)10年間の合計で水準が0.66%上がるとき、毎年同じ率で伸びるとして年率を求めよ。

(2)生産性の伸びが年0.68ポイント高い状態が10年続くと、水準は何%高くなるか。

解説を見る

(1)対数をとると足し算になる。

年率は約0.066%である。論文は約0.064%と書いており、わずかに違う。

(2)1.0068を10回掛ける。

水準は約7.0%高くなる。単純に10倍した6.8%と、ほぼ同じである。

例題 3入試GDPで7%に届くか

とし、資本は生産と同じ率で増えるとする。さらされる作業を20%、コスト削減率を14.4%に保つ。

(1)GDPの伸びが7%になるTFPの伸びを求めよ。

(2)採算がとれる割合を100%にしたとき、GDPの伸びを求めよ。

解説を見る

(1)を逆に使う。

TFPで約4.0%である。アセモグルの値の約6倍にあたる。

(2)なので、TFPはである。

GDPで約5.1%で、まだ7%に届かない。7%は世界のGDPの数字なので、ここでは大きさの目安としてだけ使っている。

例題 4大学コブ=ダグラス型で定理を確かめる

、、とする。

(1)を最大にするを求めよ。

(2)を、で表し、を求めよ。

解説を見る

(1)をで微分して0とおく。

これを解くととなる。生産性によらない。

(2)を戻す。

したがってである。は作業1の支出の割合に等しく、がどれだけ大きくても変わらない。この場合は1次の近似が厳密に成り立つ。

例題 5大学CES型とアムダールの法則

作業1の割合を、生産性を倍とする。、、、とする。

(1)最適な配分のもとでを示せ。

(2)でのを求めよ。

(3)のときのを求め、での上限を答えよ。

解説を見る

(1)から

とおくと、、である。の式の括弧の中に入れる。

足すとになる。これを乗するとである。

(2)で微分する。

でとなり、ハルテンの定理に一致する。なら、が大きいほどこの値は小さくなる。

(3)のを0に近づける。

これがアムダールの法則の形で、でとなる。なら上限は1.25倍。

図示

面積にすると見える小ささ

横をGDPに占める作業の割合、縦をコスト削減率とする箱。塗りつぶした面積が0.66%にあたる。

箱の全体を100%とすると、塗りつぶした部分はこれだけである。

アセモグルとアギオン、ビュネルが入れた4つの項の比較。積は約10倍違い、差の大半は上の2項で生まれる。
10年間の上げ幅を、TFPとGDPと生産性の伸びの段に分けて対数目盛で並べた図。PWBMはペンシルベニア大学の予算モデルで、生産性の段は年率を単純に10倍した値である。

点線は、米国のTFPが2025年の1年で伸びた0.8%である。段が違う数字どうしは、そのまま比べられない。

シミュレーション

7%まで何倍要るか

3つのつまみで掛ける数字を変えると、箱の中の面積がTFPの伸びになる。最初は箱全体から、さらされる作業、採算がとれる作業、削減率の順に絞られていく。下の目盛は対数なので、どの項を2倍にしても点は同じ距離だけ右へ動く。読み出しの「GDP換算」はTFPの値をで割ったもので、「GDP 7%」はゴールドマン・サックスの世界の数字を目安に置いたものである。アセモグルの値から1つのつまみだけで届かせようとすると、コスト削減率なら87%が要り、ほかの2つは100%にしても足りない。

広がる学問

集計、並列計算、最適化

  • 経済学 産業ごとの生産性の変化を経済全体の数字へ集計するとき、ドーマーの重みで足し合わせる。米国労働統計局のTFPも、ソローの残差を統計にしたものである。バカイーとファルヒは、重みが動く効果がボウモルのコスト病を生み、1948〜2014年の累積で米国のTFPの伸びを約20ポイント押し下げたと計算した。
  • 情報科学 並列計算でプログラムをどこまで速くできるかを見積もるとき、アムダールの法則を使う。速くできる部分の割合を、その部分の倍率をとすると、全体は倍で、をいくら上げても倍を超えない。例題5のとおり、CES型でとした形と同じである。
  • 数学 制約つきの最適化で、パラメーターを少し動かしたときの最適値の変化を求めるとき、包絡線定理を使う。選び直しの効果は1次では消え、パラメーターの直接の効果だけが残る。証明の手順8は、この定理の一例にあたる。
いまの研究と事業

見積もりから実測へ

  • 2024年 森川正之(経済産業研究所): 日本の働く人への調査で、2024年に仕事でAIを使う人は8.3%、使う人の生産性の上昇は平均5.6%と推計した。使う人の割合に、AIを使う作業の割合と効率の上昇を掛ける計算はと同じ形で、マクロの労働生産性の押し上げは0.5〜0.6%になった。数字は本人の回答によるもので、米国でもビックらが全国調査から、節約できた時間を総労働時間の1.4%、潜在的な生産性の上昇を1.1%と見積もっている。(出典: 森川「Macroeconomic Impact of Artificial Intelligence on Productivity」RIETI 24-E-084・Bickほか「The Rapid Adoption of Generative AI」NBER w32966)
  • 2025年 ペンシルベニア大学ウォートン校の予算モデルPWBM: アセモグルの式に普及の速さの項を足した。賃金の40%がさらされると読み(アセモグルのほぼ2倍)、23%を掛けてGDPの10%弱が影響を受けるとし、労働コストの削減は25%から40%へ伸びるとおく。TFPとGDPの水準は2035年に1.5%、2075年に3.7%高くなるという見積もりで、年あたりの寄与は2032年の0.2ポイントが頂点になる。(出典: Penn Wharton Budget Model「The Projected Impact of Generative AI on Future Productivity Growth」)
  • 2025年 研究機関METR: 経験を積んだオープンソース開発者16人の246件の作業をランダムに分けると、2025年前半の道具では、AIを使ってよい組の時間が19%増え、本人たちは20%減ったと感じていた。著者らは、よく知ったコードと成熟したプロジェクトという条件が影響したと認めていて、の符号が条件しだいで変わりうる例として読める。METRは2026年2月、AIなしで働きたがらない開発者が実験から抜けるので後続の実験の値は当てにならないと報告し、今は当時より速くなっている可能性が高いと書いた。(出典: Beckerほか「Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity」arXiv:2507.09089・METR「We are Changing our Developer Productivity Experiment Design」)
  • 2026年 ハムルムとヴェスターガード(シカゴ大学、コペンハーゲン大学): デンマークで利用の調査と行政記録をつなぎ、差の差法で賃金と労働時間を調べた。ChatGPTの公開から2年の時点で、2%を超える効果は認められなかった。働く人は生産性の上昇を報告しているので、作業の単位のがすぐに賃金に現れるわけではないことになる。(出典: Humlum、Vestergaard「Still Waters, Rapid Currents」NBER w33777(2025年、2026年3月改訂))

参考文献

  1. D. Acemoglu, "The simple macroeconomics of AI", Economic Policy 40 (121), 13-58(オンライン公開は2024年8月6日、号は2025年). ワーキングペーパーはNBER Working Paper 32487(2024年5月). ゴールドマン・サックスとマッキンゼーの数字は、この論文の紹介による.
  2. C. R. Hulten, "Growth Accounting with Intermediate Inputs", The Review of Economic Studies 45 (3) (1978), 511-518; E. D. Domar, "On the Measurement of Technological Change", The Economic Journal 71 (284) (1961), p. 709; C. R. Hulten, "Growth Accounting", NBER Working Paper 15341 (2009). 1961年と1978年の論文の中身と、ソローの方法、アブラモヴィッツの言葉は、この総説の説明による.
  3. R. M. Solow, "Technical Change and the Aggregate Production Function", The Review of Economics and Statistics 39 (3) (1957), p. 312; ノーベル財団1987年の発表; R. Solow, "We'd Better Watch Out", New York Times Book Review, 1987年7月12日(一文はJ. E. Triplett, Brookingsの引用による).
  4. D. R. Baqaee, E. Farhi, "The Macroeconomic Impact of Microeconomic Shocks: Beyond Hulten's Theorem", Econometrica 87 (4) (2019), 1155-1203. ワーキングペーパーはNBER Working Paper 23145(数字はこの版).
  5. P. Aghion, S. Bunel, "AI and Growth: Where Do We Stand?"(2024年6月); P. Aghion, B. F. Jones, C. I. Jones, "Artificial Intelligence and Economic Growth", NBER Working Paper 23928 (2017); E. Brynjolfsson, D. Rock, C. Syverson, "Artificial Intelligence and the Modern Productivity Paradox", NBER Working Paper 24001 (2017).
  6. T. Eloundou, S. Manning, P. Mishkin, D. Rock, "GPTs are GPTs", Science 384 (2024), 1306-1308(arXiv:2303.10130); M. Svanberg et al., "Beyond AI Exposure: Which Tasks are Cost-Effective to Automate with Computer Vision?" (2024), SSRN 4700751; S. Noy, W. Zhang, "Experimental evidence on the productivity effects of generative artificial intelligence", Science 381 (2023), 187-192; E. Brynjolfsson, D. Li, L. R. Raymond, "Generative AI at Work", The Quarterly Journal of Economics 140 (2) (2025), 889-942(NBER w31161); S. Peng et al., "The Impact of AI on Developer Productivity" (arXiv:2302.06590).
  7. G. M. Amdahl, "Validity of the single processor approach to achieving large scale computing capabilities", AFIPS Spring Joint Computer Conference (1967), p. 483; 米国労働統計局Productivity(2026年3月19日の発表); ノーベル財団2024年の発表.

注

  1. 0.66を10で割れば0.066だが、論文は「around 0.064%」と書く。ここでは論文の書き方に合わせた。 ↩

  2. 2024年4月5日の草稿は19.9%と、5月12日の草稿とNBERのワーキングペーパーは20%とと書く。積はどちらも4.6%である。労働分配率は4月の草稿が0.57、5月からが0.535で、アギオンとビュネルの0.57は前者を引き継いだ値である。 ↩

  3. 論文は0.033と0.013の形で式を書き、結果を0.0053とする。丸める前の72.6%を使うと、同じ0.0053になる。 ↩

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