ドレイク方程式

Drake equation

会議の議題を黒板に書いたら、それが方程式になった。

銀河系の中で、電波で連絡できる文明がいくつあるかを、7 つの数の掛け算で見積もる式。答えを出すより、何が分からないかを分けて考えるための式である。

年代
1961年
人物
フランク・ドレイク、フィリップ・モリソン、カール・セーガン、ジョン・C・リリー、メルヴィン・カルヴィン、エンリコ・フェルミ
逸話

イルカの会

1961 年 11 月、アメリカのウェストバージニア州の山あいにある国立電波天文台グリーンバンクで、小さな会議が開かれた。全米科学アカデミーのピーター・ピアマンが呼びかけ、地球の外の知的な生命からの電波を探すことを話し合う、初めての集まりだった。集まったのは 10 人である。

会議を受け入れた若い電波天文学者フランク・ドレイクは、何を話し合えばよいかを整理するため、黒板に 1 本の式を書いた。銀河系で電波を出している文明の数を見積もるのに要るものを、星が生まれる速さから、文明が続く年数まで、順に掛け合わせたものである。これが議題になり、のちにドレイク方程式と呼ばれる。

顔ぶれは多彩だった。2 年前に、宇宙人の電波を探すなら水素の出す波長 21 cm の近くがよいと論文で提案した物理学者フィリップ・モリソン。若い惑星科学者カール・セーガン。天文学者オットー・ストルーベ。電子機器の会社ヒューレット・パッカードの研究所長バーニー・オリバー。そして、イルカは人に近い知性を持ち、人と言葉を交わせるかもしれないと考えていた神経科学者ジョン・C・リリー。参加者たちは、リリーの研究にちなんで、自分たちを「イルカの会」と呼ぶことにした。

会議の最中に、参加者の 1 人で化学者のメルヴィン・カルヴィンがノーベル化学賞に決まったという知らせが届き、一同はシャンパンで祝ったと伝えられる。

ドレイクによれば、話し合いの結論は、文明の数 は文明が電波を出し続ける年数 とおおよそ同じで、銀河系には 1000 から 1 億の文明があるだろう、というものだった。 は 1000 年から 1 億年まで見当がつかず、それがそのまま答えの幅になった。

その 11 年前、1950 年の夏、ロスアラモスの昼食の席でエンリコ・フェルミが「みんなどこにいるんだ」と言ったと、同席したエドワード・テラーらの証言が残っている。宇宙に文明がたくさんあるなら、なぜ誰も来ていないのか。フェルミのパラドックスと呼ばれるこの問いは、ドレイク方程式と対になって語られてきた。

起源

1959 年、コーネル大学のジュゼッペ・コッコーニとフィリップ・モリソンは、雑誌『ネイチャー』に「星間通信の探索」を発表した。宇宙の文明が信号を送るなら、宇宙で最も多い元素である水素が出す 1420 MHz(波長 21 cm)の近くを選ぶだろう、と論じた。

同じころドレイクは、独立に同じ考えに達していた。1960 年 4 月から 7 月まで、彼はグリーンバンクの口径 26 m の電波望遠鏡を、太陽に似た 2 つの近い星、くじら座タウ星とエリダヌス座イプシロン星に向け、1 日 6 時間、21 cm の近くの電波を聞いた。ライマン・フランク・ボームのオズの国の物語に出てくる王女オズマにちなんで「オズマ計画」と名づけられたこの探索では、信号は見つからなかった。

翌年の会議で書かれた式は、物理の法則から導いたものではない。大きな問いを、見積もれそうな小さな問いの掛け算に分ける方法である。この進め方は、フェルミが授業で好んで出したと伝えられる「シカゴにピアノの調律師は何人いるか」という種類の見積もり(フェルミ推定)と同じである。

1961 年の参加者が置いた値は、星が生まれる速さ が年に 1 個、惑星を持つ星の割合 が 0.2 から 0.5、1 つの惑星系で住める惑星の数 が 1 から 5、生命が生まれる割合 と知性が育つ割合 がどちらも 1、電波を出す技術を持つ割合 が 0.1 から 0.2 だった。

その後、項目のいくつかは観測で分かるようになった。1995 年に太陽に似た星を回る惑星が初めて見つかり、2009 年に打ち上げられたケプラー宇宙望遠鏡などの観測から、ほとんどの星が惑星を持つ( はほぼ 1)ことが分かってきた。生命・知性・技術の 3 つの割合と は、今も地球の 1 例しか手がかりが無い。ドレイクは 2022 年に 92 歳で亡くなった。

証明

導出

ドレイク方程式は、2 つの考えを組み合わせて作られている。文明が生まれる速さを、条件を 1 つずつ重ねた掛け算で書くこと。そして、生まれる速さと続く長さから、ある時点にいる数を出すことである。

  1. 銀河系で 1 年に生まれる星の数を とする。そのうち惑星を持つ割合 、1 つの惑星系の中で生命が住める惑星の数 を掛けると、住める惑星が 1 年に生まれる数になる。

  2. 住める惑星で生命が生まれる割合 、生命が知性に育つ割合 、知性が宇宙へ届く電波を出す技術を持つ割合 を掛ける。各割合は、前の条件が満たされたときの条件つきの確率である。こうして、電波を出す文明が 1 年に生まれる数 が決まる。

  3. 文明はそれぞれ 年だけ電波を出し続けるとする。時刻 に電波を出しているのは、 から までに生まれた文明である。

  4. が長い間変わらないなら、積分は長さ の区間で を足すだけになる(生まれる速さ × 続く長さ = いる数)。

  5. 2 と 4 から、ドレイク方程式になる。

  6. 1961 年の値の小さいほうをすべて入れると

  7. 大きいほうをすべて入れると

  8. 掛け算は、対数をとると足し算になる。各項の不確かさが「何桁」の単位なら、答えの不確かさは桁の数の足し算で広がる。

4 の「生まれる速さ × 続く長さ = いる数」は、店の客の数や、ある病気にかかっている人の数を見積もるときにも使う一般的な関係である。この式は正しさを実験で確かめる種類のものではない。各項の値がどこまで確かかが、答えのすべてを決める。2018 年にはアンダース・サンドバーグらが、各項の不確かさを桁の幅ごと計算に入れると、銀河系に地球の文明しかいない確率がかなり大きく出る、という分析を発表した。

応用

いまの数で計算してみる。 銀河系では、星は 1 年に 1 個から 3 個ほど生まれていると見積もられている。、、 とし、分からない 3 つの割合の積を 、 万年とおくと、 になる。

どれだけ離れているか。 銀河系の円盤を半径 5 万光年、厚さ 1000 光年とみなす。80 の文明が均等に散らばると、1 つあたりの面積は約 平方光年で、となりまでの間隔はその平方根、約 1 万光年になる。間隔が円盤の厚さより大きいので、ここでは円盤を平面とみなした。電波で問いかけて返事が来るまで約 2 万年かかり、 万年の文明は、返事を聞く前に終わる。 が 1 万なら、円盤の体積 約 立方光年を 1 万で割った立方根から、間隔は約 900 光年に縮む。 が小さいと、文明は数が少ないだけでなく、互いに話す時間も持てない。

探し方を決める。 電波で探す計画は、どの周波数を、どの星を、どれだけ長く聞くかを決めなければならない。水素の 1420 MHz と、ヒドロキシ基(OH)の約 1660 MHz にはさまれた雑音の少ない帯は、オリバーにより「ウォーターホール」と名づけられ、探索の候補になった。

図示

ドレイク方程式の 7 つの項を、上から順に重ねた図。星が生まれる速さから始めて、条件を 1 つ満たすごとに数が絞られ、最後に続く年数 L を掛けて、いま電波を出している文明の数 N になる。

シミュレーション

円盤は銀河系で、点は電波を出している文明、輪はその文明が出した電波の届いた範囲(光の速さで広がる)である。つまみで各項を変えると、生まれる文明の数と、続く年数 が変わる。 が短いと、輪が小さいうちに文明が消え、ほかの文明に電波が届かない。電波が届いた相手がいる文明の数は、下の欄に出る。輪は銀河の半径の 3 割を超えると描かない。

広がる学問

  • 天文学 星の誕生の速さと、惑星を持つ星の割合は、観測で決まるようになった。系外惑星の大気から生命の手がかり(酸素やメタン)を探す観測が進んでいる。
  • 生物学 と は、生命の起源と知性の進化の問いそのものである。地球の外で生命が 1 例でも見つかれば、 の見積もりは大きく変わる。
  • 情報科学 電波の探索は膨大な信号処理の問題である。1999 年に始まった SETI@home は、世界中の家庭のパソコンの空き時間を集めて電波望遠鏡のデータを解析し、分散計算の先駆けになった。
  • 哲学 フェルミのパラドックスは、宇宙の中での人類の位置を問う。文明が自らを滅ぼしやすいなら は小さい、という議論は、技術を持つ社会の続き方への問いにもなる。

参考文献

  1. G. Cocconi, P. Morrison, "Searching for Interstellar Communications", Nature 184 (1959), 844-846.
  2. F. D. Drake, "Project Ozma", Physics Today 14(4) (1961), 40-46.
  3. Frank Drake, Dava Sobel, Is Anyone Out There? The Scientific Search for Extraterrestrial Intelligence, Delacorte Press, 1992.
  4. Eric M. Jones, "Where is everybody? An account of Fermi's question", Los Alamos National Laboratory, LA-10311-MS, 1985.
  5. A. Sandberg, E. Drexler, T. Ord, "Dissolving the Fermi Paradox", arXiv:1806.02404, 2018.

姉妹サイト

株式会社Game が運営するメディアです。