同じ音の太鼓

Isospectral drums

形の違う2つの太鼓が、1つ残らず同じ高さの音で鳴る。

膜の太鼓が鳴らす音を高さの順に数えると、その数は面積に比例して増える(ワイルの法則)。面積と周までは音から分かるが、形の違う太鼓が同じ音の列をもつこともある。

年代
1992年
習う
大2・解析・偏微分方程式の固有値問題
レベル
大学(例題 5 問)
人物
マーク・カッツ、ヘルマン・ワイル、ヘンドリック・ローレンツ、ジョン・ミルナー、砂田利一、キャロリン・ゴードン、デヴィッド・ウェブ、スコット・ウォルパート
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
逸話

目を閉じて太鼓を聞く

離れた所で太鼓が鳴る。その音だけを聞いて、皮がどんな形に張られているかを言い当てられるだろうか。

円い太鼓と細長い太鼓なら聞き分けられそうだが、面積が同じで少しだけ形が違う2つの太鼓となると、自信はなくなる。

1966年4月、ニューヨークのロックフェラー大学にいた数学者マーク・カッツは、この問いをそのまま題にした論文を『アメリカン・マセマティカル・マンスリー』に載せた。題は「太鼓の形は聞き分けられるか(Can One Hear the Shape of a Drum?)」。

マーク・カッツの肖像(Mark Kac)
マーク・カッツ1914–1984「太鼓の形は聞き分けられるか」と問い、確率論を物理に広げた出典: Wikimedia Commons・Konrad Jacobs, Erlangen, Copyright is with MFO・CC BY-SA 2.0 de

もっとも、この言い回しはカッツ一人のものではない。1992年にこの問いへ答えた論文には、問いをこの形にしたのはベアスとカッツで、カッツ自身は問題の出どころを数学者ボホナーとしている、とある。カッツは後年のインタビューで「私は気の利いた見出しが好きでね。悪くないだろう?」と語った。論文は1968年、アメリカ数学協会が優れた解説記事に贈るショーヴネ賞を受けた。

太鼓の皮は、縁を枠に留めた膜である。打つと膜はいくつもの決まった形で揺れ、揺れ方ごとに決まった高さで鳴る。数学では、膜が揺れる形と数を組にして

を満たし、縁でとなるものを探す。条件に合うは飛び飛びにしか現れず、小さい順にと並ぶ。これが膜の固有値で、揺れの振動数はに比例する。カッツが問うたのは、この列を残らず聞けば形まで決まるか、だった。

カッツは、音から面積と周の長さが分かることを使って、円い太鼓だけは聞き分けられると論じた。同じ面積なら、周がいちばん短いのは円だけである(等周不等式)。周が音で決まるなら、円と同じ音を出す太鼓は円しかない。

それでも、形をまるごと聞き取れるかは分からないままだった。アーレントらの総説によれば、カッツは論文に「タンバリンの形は聞こえないと思う。だが間違っているかもしれないし、どちらに大金を賭ける気もない」と書いている。

薄暗い部屋で、目を閉じた人が椅子に座り、離れた所で打たれた大きな枠太鼓の音に耳を澄ます(画像生成 AI で描いたイメージ)
目を閉じて太鼓の音だけを聞く(カッツの問いを絵にしたもの)画像生成AIで描いたイメージ

答えが出たのは26年後の1992年。答えは「聞き分けられない」だった。

起源

ローレンツが残した宿題

では、音から面積が分かることは、誰がどう示したのか。話は1910年のゲッティンゲンにさかのぼる。

1910年10月の終わり、オランダの物理学者ヘンドリック・ローレンツは、ゲッティンゲンで「物理学の古い問題と新しい問題」と題した6回の講義をした。招いたのは、ゲッティンゲン科学協会に置かれたヴォルフスケール委員会である。委員会は、フェルマーの最終定理に懸けられた賞金の利子で、名のある学者を講義に呼んでいた。

4回目の講義の終わりに、ローレンツは熱放射の理論から出てくる数学の問題を、聞きに来た数学者たちに投げかけた。光を完全に跳ね返す壁で囲むと、箱の中にはオルガンのパイプが出す倍音のように、決まった振動数の電磁波が立つ。十分に高い振動数で、ある幅に入る波の数は、箱の形によらず体積だけに比例するはずだ。それを証明してほしい、という問いである。

聴衆の中に、24歳の私講師ヘルマン・ワイルがいた。ワイルはのちに論文の注で、この定理はローレンツが物理の立場からもっともらしい予想として述べたものだと書いている。

古い講義室の後ろの席から見た光景。黒板の前に講演者が小さく立ち、背広の聴衆が並んで聞いている(画像生成 AI で描いたイメージ)
1910年10月、ゲッティンゲンでのローレンツの講義。聴衆の中に24歳のワイルがいた画像生成AIで描いたイメージ

ヒルベルトは、この定理は自分が生きているうちには証明されまいと予言した、という話もある。ワイルの法則の歴史を調べたアーレントらは、カッツの論文を出典にこの話を紹介しつつ、出どころの確かでない言い伝えとして扱っている。

確かな記録もある。ワイルの短い報告「固有値の漸近分布について」は、末尾に「ゲッティンゲン、1911年2月20日」とあり、2月25日の会合でヒルベルトが科学協会に提出した。講義から4か月足らずである。報告の定理Xによれば、面積のどんな領域でも、縁で0となる固有値を小さい順に並べると

になる。

以下にある固有値の数をとし、面積をと書けば、これはと言い換えられる。高い音は、面積に比例した割合で増えていく。ワイルの法則である。

証明の出発点は正方形だった。ワイルは、任意の領域を、合同な正方形を有限個並べた領域に置き換えて考えればよいことを示し、1辺の正方形の固有値から議論を組み立てた。とは正の整数である。この固有値が定理の式を満たすことを、ワイルは「初等的な(数論的な)事実」と呼んでいる。

ヘルマン・ワイルの肖像(Hermann Weyl ETH-Bib Portr 00890)
ヘルマン・ワイル1885–1955膜の固有値の増え方を証明し、群論を量子力学に持ち込んだ出典: Wikimedia Commons・ETH Zürich・CC BY-SA 3.0

2年後の1913年、ワイルはもう1つ先の項まで予想した。

は周の長さで、マイナスの符号は縁を留めた膜にあたる。この予想は、領域にいくつか条件を付けたうえで、1980年にイヴリーとメルローズが証明した1。周の長さが音で決まること自体は、1993年にブラウンが、多角形を含む広い範囲の領域について、熱が広がる速さの式を使って示している。

音から聞こえるのは、面積と周の長さ。形そのものも、聞こえるのだろうか。

逸話

16次元から平面の太鼓へ

最初の反例は、カッツの論文より前に出ていた。1964年、ジョン・ミルナーは米国科学アカデミー紀要にわずか1ページの論文を載せ、固有値がそろって同じなのに互いに重ならない、16次元の平らなトーラスの組を示した。材料は、ヴィットが1941年に見つけていた16次元の格子2つである。

だが、16次元の図形は太鼓にならない。平面に届くまでには、さらに28年かかる。

道具を用意したのは日本の数学者、砂田利一である。1985年の論文で砂田は、有限群の中に「ほとんど共役」な部分群が2つあれば、そこから同じ固有値をもつ図形の組を作れることを示した。日本数学会の『数学通信』に寄せた文章で小谷元子は、高木貞治の類体論を幾何学に移す構想から生まれたこの方法が、今では「砂田トリプル」の名で世界に知られていると書く。

1992年7月、キャロリン・ゴードン、デヴィッド・ウェブ、スコット・ウォルパートの3人は、米国数学会の会報に「太鼓の形は聞き分けられない(One cannot hear the shape of a drum)」を載せた。カッツの題に、そのまま答える題である。3人が使ったのは、オービフォールドと呼ばれる折り返しの縁をもつ空間にまで広げた砂田の定理だった。ブーザーが1988年に作った曲面の組と、168個の元をもつ有限群を土台に、平面に収まる多角形を2つ作った。

2つの多角形は、縁を留めても、縁を自由にしても、同じ高さの音を同じ数だけもつ。縁を留める場合はディリクレ条件、縁で膜の傾きが0になる場合はノイマン条件と呼ばれる。この組をいちばん簡単な形にすると、同じ直角二等辺三角形7枚を辺で折り返しながらつないだ、2つの八角形になる。「同じ音の太鼓」の図として広く描かれるのは、この八角形の組だ。

2年後の1994年、ブーザー、ジョン・コンウェイ、ピーター・ドイル、クラウス=ディーター・ゼムラーは、群を表に出さずに同じ音を確かめる短い証明を発表した。三角形の上で揺れを移し替えるだけで、番号を追えば手でたどれる。

同じ1994年の4月には、ノースイースタン大学のスリダールとクドロリが、2つの太鼓の形をした薄い空洞を銅で作り、マイクロ波の共鳴を測った。薄い空洞に閉じ込めた電磁波は、ある振動数より下では膜と同じ式に従う。低いほうから54個の共鳴が0.2%以内の差で2つの空洞にそろい、値の重なる共鳴は1つもなかった。

実験台の上に薄い銅の板を重ねた平たい空洞が2つ置かれ、細い同軸ケーブルが測定器につながっている(画像生成 AI で描いたイメージ)
1994年、ノースイースタン大学。銅で作った2つの太鼓の形の薄い空洞で、マイクロ波の共鳴を測った画像生成AIで描いたイメージ

計算でも確かめられている。ドリスコルは1997年、2つの太鼓の固有値を低いほうから25個、12桁の精度で求めた。三角形の直角をはさむ辺を2とすると、いちばん低い音はで、2005年にはベッケとトレフェテンが別の方法でを得ている。

証明

正方形の音を格子点で数える

ワイルが出発点にした正方形なら、ワイルの法則を最後まで自分で確かめられる。1辺の正方形の固有値は、1以上の整数, を使っただ。導き方は「面積14の正方形で音を並べる」で追える。固有値と点は1対1に対応するので、音を数えることは、格子点を数えることにほかならない。

  1. 以下の音の数を、格子点の数で書く

  2. 数えた点ごとに、左下へ1辺1の正方形を割り当てる。正方形は重ならず、中の点は原点から以内にあるので、どれも半径の四分円に入る

  3. 逆に、半径の四分円に入る点は、, とした正方形に含まれる。この格子点までは未満しか離れていないので、は数えた点である

  4. 両側をで割り、とする

  5. を戻すと、面積が現れる

周の長さを含む項も、同じ格子点から出てくる。半径の円に入る格子点を、軸の上にある点も含めてすべて数えると、個。は面積とのずれである。軸の上にある個を除き、残りを4つの象限に等しく分けると

となる。で、周はなので、2番目の項はほぼに等しい。ワイルが予想したマイナスの項は、軸の上で数えなかった点の分だった。

半径を広げると、数えた点と四分円の面積との差は開いていくが、とはほとんど離れない。なら、数えた点は139個、は139.9である。

証明

三角形を3枚ずつ移し替える

では、形が違う2つの太鼓は、なぜ同じ音を出すのか。ブーザーらの証明を、太鼓2にある三角形1枚で追ってみる。三角形の番号と辺の種類は、「7枚の三角形の並べ方」の図で確かめられる。

どちらの太鼓でも、隣り合う三角形は、共有する辺について鏡に映した位置にある。辺を斜辺、破線の辺、点線の辺の3種類に分けておくと、折り返しても種類は変わらない。太鼓1の固有関数を三角形に制限し、基準にする三角形1枚へ移したものをと書く。太鼓2の三角形には、次のを置く。

  1. 縁で0になる固有関数は、縁を鏡にして向こう側へ延ばすと、鏡に映した点で符号が反転した値をとり、同じの固有関数として続く(鏡像の原理)

  2. 太鼓2の三角形1には、太鼓1から3枚を符号付きで重ねる

  3. 三角形1の斜辺は太鼓2の縁である。太鼓1では1と2が斜辺で隣り合い、7は斜辺が縁なので、斜辺を越えるとそれぞれ次のように変わる

  4. 足し合わせると、もとの符号違いになる

    太鼓2の三角形1を斜辺で折り返すと、中身は1と2が入れ替わり、7は符号だけが変わって、もとの符号違いになる。
  5. 鏡に映すと符号だけが反転する関数は、鏡の線の上で0になる。三角形1の点線の辺も太鼓2の縁で、太鼓1では1、2、7とも点線の辺が縁なので、やはり符号違いになる

  6. 三角形1の破線の辺を越えると、太鼓2の三角形2に入る。太鼓1で破線の辺を越えると, , となり、和は三角形2に置いた関数と一致する

  7. 7枚の三角形がもつ21本の辺で同じ確認をすると、は太鼓2の縁で0になり、継ぎ目でなめらかにつながる。つまり太鼓2の固有関数になる

  8. 7つの式の係数を並べた7×7の行列は逆行列をもつので、ならである。同じ移し替えは逆向きにも使えるので、どのでも固有関数の数(重複度)は2つの太鼓で等しい

7つの式を見比べると、どのもちょうど3つの式に入り、どの2つの式もちょうど1つのを共有している。7つの点と7本の線でできたファノ平面と同じ並び方で、168個の元をもつ先ほどの有限群は、この平面を保つ変換の群にあたる。

移し替えを使わずに確かめられる音もある。三角形1枚の揺れを、そのまま7枚に並べた音だ。直角をはさむ辺をとに置いた三角形で、縁で0になるいちばん低い揺れは次の式で表せる。

この揺れを7枚の三角形に、隣どうしで符号を変えながら置けば、どちらの太鼓でも固有関数になる。ならで、2つの太鼓で9番目の音にあたる。三角形で2番目に低い揺れ()からは、同じ並べ方で21番目の音ができる。

三角形1枚のいちばん低い揺れを、隣り合う三角形で符号を変えて並べる。どちらの太鼓でも、これがλ = 5π²/4の固有関数になる。
途中の計算

面積14の正方形で音を並べる

比べる相手は、2つの太鼓と同じ面積14をもつ正方形。1辺はで、縁を留めた膜が出す音を小さい順に並べ、まで数えてみる。

  1. 2つの変数の関数の積でおく

  2. 膜の式に入れて両辺をで割る

  3. 辺とで0になる解を選ぶ

  4. 2回微分して固有値を読む

  5. を代入する

  6. をの条件に直す

  7. 条件を満たす組を数える

  8. ワイルの法則の主要項を計算する

  9. 周を含む項を引く

数えた8つはで、は1.410、3.525(2つ)、5.640、7.050(2つ)、9.165(2つ)である。主要項だけでは11.14と数えすぎだが、周を含む項を引くと7.37まで近づく。

同じ面積14でも、2つの太鼓ではに音が6個しかなく、面積14の円では8個ある。周は太鼓が20.49、正方形が14.97、円が13.26。音がいちばん少ないのは、周がいちばん長い2つの太鼓だ。周を含むワイルの2番目の項を引くと、この差が出てくる。

応用

100個の音から面積と周を読む

音から面積を読み取る手順は、数字で試せる。2つの太鼓の固有値を有限要素法で低いほうから100個求め2、数えた個数に次の式を最小二乗法で当てはめる。

結果は, , 。本当は、面積が14、周がである。は角で決まる定数で、多角形の角をとするとになる。2つの太鼓は、どちらも, , , の角を2つずつもち、。面積も周も角の補正も、2つの太鼓はそろっている。

3次元の箱でも、同じ数え方が成り立つ。床が3.6 m×2.7 m、天井の高さが2.4 mの部屋を、音速343 m/sの空気を詰めた箱とみる。壁が音を完全に跳ね返すとして固有振動を数えると、100 Hz以下に7個、500 Hz以下に390個あった。3次元のワイルの法則

に体積 m³を入れると、100 Hzで2.4個、500 Hzで302.7個。音を跳ね返す壁は、膜でいえば縁を自由にした場合にあたり、ワイルの2番目の項は、壁の面積に比例するプラスの項になる。 m²としてこの項を足すと、5.7個と385.6個まで近づく。低い音ほど固有振動はまばらで、部屋の形と壁が数を大きく左右する。

例題と解説

音の列を手で数える

例題 1基本長方形の太鼓の音

縦1、横2の長方形をした太鼓(縁で)について、固有値を小さい順に4つ求めよ。

解説を見る

長方形, でも、正方形と同じように変数を分けられる。

の小さい順は、の、の、の、のである。

5番目にはとが同じで並び、重複度2の固有値になる。

例題 2基本太鼓を2倍に広げる

太鼓の形を保ったまま縦横を2倍に広げると、固有値と振動数はどう変わるか。ワイルの法則と食い違わないことも確かめよ。

解説を見る

がもとの太鼓で固有関数なら、は2倍に広げた太鼓の縁で0になり、2回微分すると倍になる。

固有値はすべて倍、振動数はに比例するので倍で、1オクターブ低くなる。2倍に広げた太鼓で数えた個数をと書くと、以下にある音は、もとの太鼓で以下にある音と同じ数になる。

つまり、面積の太鼓に当てはめたワイルの法則と一致する。

例題 3大学格子点を数えてずれを見る

1辺がの正方形ではになる。に入る音を数えてを求め、としておよびと比べよ。

解説を見る

を満たすを、ごとに数える。ならで7個、とは6個ずつ、とは5個ずつ、は3個、は1個。

一方で、面積だけで見積もった数と、周を含む項を引いて見積もった数を比べる。

面積だけで見積もると6個あまり多いが、周を含む項を引けば差は1個未満に縮む。円に入る格子点は軸の上も含めて161個、そのうち軸の上は個で、とも一致する。

例題 4大学三角形のいちばん低い音

三角形で、次のが3本の辺で0になり、を満たすことを示せ。さらに三角形の内側でとなることを示せ。

解説を見る

辺では、どちらの項も0になる。辺では。斜辺では2つの項が同じ値になり、打ち消し合う。それぞれの項はとで2回微分すると倍と倍がそろって出るので、

となる。符号は、で書き直すと分かる。

では2つのは正で、は減っていくので括弧の中も正になる。内側で符号を変えない固有関数は、いちばん低い音をもつものに限られる。ならである。

例題 5大学同じ音なら面積と周も同じ

2つの太鼓で固有値が残らず同じなら、面積と周の長さも等しいことを、1913年に予想された式が成り立つとして示せ。また、記事の2つの太鼓で面積と周がそろっていることを確かめよ。

解説を見る

列が同じなら、すべてのでである。両辺をで割り、とすると

で、。次に主要項を引いてからで割り、とすると

で、。2つの太鼓は、どちらも面積2の三角形7枚でできているので、面積は14。周は、どちらも長さ2の辺6本と、斜辺3本ぶんでできている。

図示

7枚の三角形の並べ方

2つの太鼓は、直角をはさむ辺が2の直角二等辺三角形7枚でできている。線の種類は辺の種類を表し、太い線が縁にあたる。隣り合う三角形は、共有する辺について鏡に映した位置にある。

太鼓1は、回しても裏返しても太鼓2に重ならない。ただ、斜辺と破線と点線がどうつながっているかは、三角形を3枚ずつ移し替える7つの式で、ぴたりと対応している。

シミュレーション

同じ高さで揺れる2つの膜

「2つの太鼓の揺れ」でモードの番号を選ぶと、2つの太鼓が、同じ固有値をもつ固有関数の形のまま揺れる。濃い網点は膜が持ち上がった所、薄い所は沈んだ所。模様は違っても、明滅の速さはいつも同じだ。9番目を選ぶと、三角形ごとに符号が変わる揺れが現れる。「音を数える」でλの上限を動かすと、2つの太鼓と、面積が同じ正方形と円について、音の数が階段で並ぶ。太鼓の階段は1本しか描かれない。段の位置が、2つの太鼓ですべて同じだからだ。太鼓の揺れと固有値は有限要素法で前もって計算した値で、正方形と円の音はその場で式から数えている。

広がる学問

音から形を探る分野

  • 数学 図形の性質のうち、固有値だけで決まるものを調べるのがスペクトル幾何学である。面積と周の長さと角の補正項がそうした量で、同じ固有値をもつ図形の組は、砂田の方法で数多く作られてきた。
  • 物理学 箱に閉じ込めた粒子のエネルギー準位を数えるとき、シュレーディンガー方程式は膜と同じ固有値問題になり、ワイルの法則が準位の密度を与える。そもそもワイルが証明に向かったのも、空洞に立つ電磁波の数を問う熱放射の問題がきっかけだった。
  • 音楽 円い膜では、倍音の振動数がいちばん低い音の1.593倍、2.136倍、2.295倍と並び、整数倍にならない。弦なら倍音は2倍、3倍と整数倍に並ぶ(弦の振動と音の高さ)。膜では、倍音の並び方そのものが形によって変わる。
  • 情報科学 固有値から形を復元する逆問題を、計算機で解く研究がある。網目で表した形を少しずつ変え、固有値が合うまで繰り返す方法が使われてきた。
いまの研究と事業

楕円は聞こえ、格子点のずれは縮む

  • 2022年 ヘザリとゼルディッチ(カリフォルニア大学アーバイン校、ノースウェスタン大学):離心率が十分小さい楕円は、なめらかな縁をもつ平面の領域の中で、固有値だけから形が決まる。2人はこれを示し、『Annals of Mathematics』に発表した。それまで、なめらかな領域の中で音から形が決まると分かっていたのは円だけだった。証明は、熱が広がる速さから読める面積や周などを使い、楕円と同じ音を出す領域がほぼ円だと示すところから始まる。出典はHezari, Zelditch, arXiv:1907.03882。
  • 2022年 ジャオとフォグラー(カリフォルニア大学サンディエゴ校):多角形の固有値を、低いほうから100個入れると、形を画像で返すニューラルネットワークを作った。ランダムに作った五角形で試すと、予測は高い精度で当たった。ネットワーク内部の変数は、ワイルの展開に出てくる3つの量と強く相関していた。論文は、ネットワークがワイルの展開を自ら見つけた証拠だとしている。出典はZhao, Fogler, arXiv:2203.08073。
  • 2023年 リーとヤン(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校):ガウスの円問題、つまり円に入る格子点の数と面積のずれについて、どんなでも、となることを示した。ハクスリーが得ていたを更新した値で、予想ではまで下がる。正方形の太鼓では、とワイルの2項の式とのずれが、ほぼで決まる。だから、この指数は、音の数が2項の式からどれだけ離れうるかの上限にあたる。出典はLi, Yang, arXiv:2308.14859。

参考文献

  1. M. Kac, "Can One Hear the Shape of a Drum?", The American Mathematical Monthly 73 (1966), no. 4, part 2, 1-23(書誌はCrossrefで確認。中身は3・6・11による).
  2. H. Weyl, "Ueber die asymptotische Verteilung der Eigenwerte", Nachrichten von der Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen, Mathematisch-Physikalische Klasse (1911), 110-117(ゲッティンゲン大学図書館GDZ)
  3. W. Arendt, R. Nittka, W. Peter, F. Steiner, "Weyl's Law: Spectral Properties of the Laplacian in Mathematics and Physics", in W. Arendt, W. P. Schleich (eds.), Mathematical Analysis of Evolution, Information, and Complexity, Wiley-VCH (2009), 1-71(出版社の見本の章)
  4. J. Milnor, "Eigenvalues of the Laplace operator on certain manifolds", Proceedings of the National Academy of Sciences 51 (1964), 542(書誌はCrossrefで確認).
  5. T. Sunada, "Riemannian coverings and isospectral manifolds", Annals of Mathematics 121 (1985), 169-186(書誌はCrossrefで確認)/小谷元子「砂田利一氏の平成30年度文部科学大臣表彰 科学技術賞受賞に寄せて」日本数学会『数学通信』(PDF)
  6. C. Gordon, D. L. Webb, S. Wolpert, "One cannot hear the shape of a drum", Bulletin of the American Mathematical Society 27 (1992), 134-138(arXiv:math/9207215)/"Isospectral plane domains and surfaces via Riemannian orbifolds", Inventiones Mathematicae 110 (1992), 1-22(書誌はCrossrefで確認).
  7. P. Buser, J. Conway, P. Doyle, K.-D. Semmler, "Some planar isospectral domains", International Mathematics Research Notices 1994, no. 9, 391-400(arXiv:1005.1839)
  8. S. Sridhar, A. Kudrolli, "Experiments on not 'hearing the shape' of drums", Physical Review Letters 72 (1994), 2175-2178(書誌はCrossrefで確認。数値は10のGiraud, Thasによる)/Sridhar Lab「Not Hearing the Shape of Drums」
  9. T. A. Driscoll, "Eigenmodes of isospectral drums", SIAM Review 39 (1997), 1-17(書誌はCrossrefで確認。内容はドリスコルのWebページ「Isospectral drums」と次のBetcke, Trefethenによる)/T. Betcke, L. N. Trefethen, "Reviving the method of particular solutions", SIAM Review 47 (2005), 469-491(著者の公開版)
  10. V. Ivrii, "100 years of Weyl's law", arXiv:1608.03963/O. Giraud, K. Thas, "Hearing shapes of drums: mathematical and physical aspects of isospectrality", arXiv:1101.1239
  11. MacTutor History of Mathematics「Mark Kac」「Hermann Weyl」

注

  1. イヴリーは、縁で跳ね返りながら元の点と向きに戻ってくる玉の道筋(周期的なビリヤードの軌道)が、測度0しかない場合に示した。メルローズの論文の題は「縁が凹んだ多様体に対するワイルの予想」である。 ↩

  2. 三角形1枚を枚( = 32、64、128、256)の合同な三角形に分けた有限要素法(1次要素)で解き、刻みについて、、の項を仮定して外挿した。1〜3番目の固有値はベッケとトレフェテンの値と相対差以内、9番目と21番目は厳密な値、と以内で一致した。三角形の分け方が折り返しでそろっているので、計算の上でも移し替えが成り立ち、2つの太鼓の値はどのでも以内で一致した。100個の当てはめでは、番目の固有値での個数を、段の中ほどのとした。段の上ので当てはめると、だけが大きくなる。シミュレーションの揺れの模様は、の固有関数を64×64のます目で読み取ったものである。 ↩

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この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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