ロジスティック方程式

Logistic equation

名づけの理由は書かれず、上限の予言は人口に追い越された。

増えるほど増えにくくなる、という 1 つの仮定から S 字の曲線が出る。生き物の数・漁業の管理・新しい技術の広がりを表す基本の式。

年代
1838年
人物
ピエール・フランソワ・ヴェアフルスト、アドルフ・ケトレ、トマス・マルサス、レイモンド・パール、ローウェル・リード、ゲオルギー・ガウゼ
逸話

外れた上限と名前の謎

1838 年、ベルギーの数学者ピエール・フランソワ・ヴェアフルストは、師のアドルフ・ケトレが編む雑誌に、人口の増え方についての短い覚え書きを載せた。人口は放っておけば一定の割合で増え続ける。しかし増えるほど、食べ物や土地が足りなくなり、増え方は鈍る。その鈍り方を、人口の 2 乗に比例する項で表した式である。ヴェアフルストはこの式を、フランス・ベルギー・イングランドのエセックス・ロシアの人口の記録に当てはめてみせた。

1845 年に出した続きの論文で、ヴェアフルストはこの曲線を「ロジスティック」と名づけた。なぜこの名にしたのかは、どこにも書き残していない。いまの指数関数の曲線を当時「対数的(ロガリズミック)」と呼んだのと対にした、という見方があるが、本人の説明は無い。軍事や物流の「ロジスティクス」とは語源が違う。

同じ論文でヴェアフルストは、ベルギーの人口の上限を約 660 万人、フランスを約 4000 万人と見積もった。いまのベルギーの人口は 1100 万人を超え、フランスは 6500 万人を超えている。わずかな年の記録から上限を読み取るのは、それほど難しい。

ヴェアフルストは 1849 年に亡くなり、式は忘れられた。1911 年にはアンダーソン・マッケンドリックが細菌の増え方の研究で、同じ式を見つけ直している。1920 年、アメリカのレイモンド・パールとローウェル・リードは、1790 年からの国勢調査の人口にこの曲線を当てはめ、アメリカの人口の上限を約 1 億 9700 万人と見積もった。2 人はこのとき、ヴェアフルストの仕事を知らなかったと考えられている。パールはこの曲線を人口の増え方の「法則」として広めたが、アメリカの人口は 1960 年代の後半に上限を越え、いまは 3 億 3000 万人を超えている。

予言としては外れた。それでも、この式は生態学の教科書の最初に置かれ続けている。増えるほど増えにくくなる、という考えを最も短く書いた式だからである。

起源

出発点は、1798 年のトマス・マルサスの『人口論』である。マルサスは、人口は抑えるものが無ければ等比級数的に増え、食べ物は等差級数的にしか増えない、と論じた。等比級数的に増えるとは、増える速さが今の数に比例すること、つまり で、解は指数関数 になる。

ベルギーの天文学者で統計学者のケトレは、人口が増えるにつれて増加をさまたげる力も強くなるはずだと考えていた。その指導のもとで、ヴェアフルストはさまたげる力を人口の 2 乗に比例するとおき、 と書いた。、 とおけば、いま使う形になる。

20 世紀に入ると、式は実験で確かめられ始める。1930 年代、ソ連の生物学者ゲオルギー・ガウゼは、ゾウリムシを決まった量の培養液で育て、数を毎日数えた。数ははじめ指数関数のように増え、やがて一定の値で頭打ちになった。1934 年の著書『生存競争』で、ガウゼはこの増え方がロジスティック曲線によく合うことを示し、2 種類のゾウリムシを一緒に育てる実験へ進んだ。その競争の式はロトカ・ヴォルテラ方程式の仲間である。

は「環境収容力」と呼ばれる。その環境が支えられる数の上限である。 は数が少ないときの増える速さで、「内的自然増加率」と呼ばれる。

証明

を個体の数、 を時間とする。

  1. 1 匹あたりの増える速さが、数が増えるにつれて から直線的に下がり、 で 0 になると仮定する。

  2. 変数を分ける。

  3. 左辺を部分分数に分ける。

  4. 両辺を積分する( のとき)。

  5. で として を決め、 について解く。

  6. で なので、数は に近づく。

  7. 増える速さ は の 2 次関数で、微分が 0 になる点で最大になる。

数が少ないうち()は で、ほぼ指数関数で増える。 を通るときに増え方が最も速く、曲線はそこで曲がる向きを変える(変曲点)。そのあとは、 との差が に比例して縮み、ゆっくり近づいていく。 から始めれば、 へ向かって減っていく。 は、少しずれても戻ってくる安定な釣り合いである。

ただし、実際の生き物は、いつもこの曲線に従うわけではない。繁殖に時間の遅れがあると、数は を行き過ぎて上下に揺れる。年に 1 度だけ増えるような生き物を、1 年ずつ区切った式 で表すと、 が大きいときに周期的な揺れやカオスが現れる。これは 1976 年にロバート・メイが示したロジスティック写像である。

応用

漁業の管理。 毎年とる量 を一定にすると、式は になる。資源を減らさずにとり続けられる最大の量は、増え方の最大値 である。たとえば /年、 万トンの魚なら、資源を 5 万トンに保つとき、毎年 1 万トンまでとり続けられる。これを最大持続生産量という。1954 年、ミルナー・シェーファーはこの考えをマグロ漁の管理の式にした。 が を少しでも超えると、釣り合いの点が消え、資源はやがて尽きる。

増え方の見積もり。 、、/日の生き物が上限の半分に達するまでの日数は、手順 5 の式で とおいて 日になる。そこから 900 に達するまでは、さらに 日しかかからない。半分を越えるまでは静かで、そこから一気に埋まる。

S 字の曲線。 新しい製品や技術を使う人の割合、学習の進み方、感染症の流行の初めの累計の人数など、はじめはゆっくり、途中で急に、終わりにまたゆっくり増える量は多い。ロジスティック曲線は、こうした量を表す最初の候補として使われる。

図示

左: 指数関数(破線)は増え続けるが、ロジスティック曲線は K/2 で曲がる向きを変え、K に近づいて頭打ちになる。右: 増える速さ rN(1 − N/K) は放物線で、N = K/2 で最大の rK/4 になる。毎年とる量 h の線との交わりが釣り合いの点で、右が安定、左が不安定。

シミュレーション

左のグラフで数 が S 字に増え、右の放物線の上の点が、そのときの増える速さを示す。点は のあたりをすっと通り過ぎ、 の近くでゆっくり止まる。毎年とる量 を上げると、横の線が放物線の頂点 を越えたところで交わりが消え、数は 0 に向かう。

広がる学問

  • 生物学 生態学の個体群の基本の式である。競争する種・食う種と食われる種を表す式の多くは、この式に相手の数の項を足して作られる。細菌や酵母の培養、ゾウリムシの実験で、頭打ちになる増え方が確かめられてきた。
  • 経済学 新しい技術の普及を S 字の曲線で表す研究は、1957 年にツヴィ・グリリカスがハイブリッドのトウモロコシの広がりを調べた論文が古典である。製品の普及の予測や、資源の管理の経済学に使われる。
  • 情報科学 式の解の形 はシグモイド関数と呼ばれ、確率を 0 から 1 の間に押し込む関数として、ロジスティック回帰やニューラルネットワークで使われる。
  • 数学 1 階の非線形の微分方程式で、厳密に解ける代表例である。時間を区切った形にするとカオスを生み、力学系の研究の入り口になった。数が少ないときの姿はネイピア数の指数関数そのものである。

参考文献

  1. P.-F. Verhulst, "Notice sur la loi que la population suit dans son accroissement", Correspondance mathématique et physique 10 (1838), 113-121.
  2. P.-F. Verhulst, "Recherches mathématiques sur la loi d'accroissement de la population", Nouveaux Mémoires de l'Académie Royale des Sciences et Belles-Lettres de Bruxelles 18 (1845), 1-42.
  3. Raymond Pearl, Lowell J. Reed, "On the Rate of Growth of the Population of the United States since 1790 and Its Mathematical Representation", PNAS 6 (1920), 275-288.
  4. G. F. Gause, The Struggle for Existence (Williams & Wilkins, 1934).
  5. Sharon E. Kingsland, "The Refractory Model: The Logistic Curve and the History of Population Ecology", The Quarterly Review of Biology 57 (1982), 29-52.
  6. Robert M. May, "Simple mathematical models with very complicated dynamics", Nature 261 (1976), 459-467.

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