遅れて届いた2本の論文
3ページ。1975年1月に京都大学で開かれた、理論物理学の数学的な問題を扱う国際シンポジウムで、蔵本由紀が報告集に寄せた論文の長さである。速さが少しずつ違うたくさんの振動子が引き合うと、結びつきがある強さを超えたところで急にリズムがそろい始める。そのことを、式のまま解ける形で示していた。
本人の手応えは小さかった。「いくらかの満足はあったが、それ以上のものではなかった」と、蔵本は2026年に公開した、研究を振り返る総説に書いている。会議で短く話し、報告集に短い論文を出しただけで、その後の数年、論文はほとんど気づかれないままだった。

きっかけは、出てから7年たった1本の論文である。体内時計に関心を持つ生物学の同僚が、アメリカのアーサー・ウィンフリーが1967年に書いた「生物のリズムと、結びついた振動子の集団のふるまい」を教えてくれたのである。蔵本は博士論文で、2次相転移の理論を扱っていた。
水が氷になるように、たくさんの粒がいっせいに性質を変える現象が相転移だ。ところが、休まず動き続ける振動子の群れにも、まったく別の、動きの中で起きる相転移があり得る。そう知って「衝撃を受けた」と、蔵本は2025年のインタビューで振り返っている。
ウィンフリーは、群れがそろい始める境目があると主張していた。ただ蔵本の見るところ、その議論は説得力が足りなかった。そこで元の形をできるだけ残したまま、計算で解ききれるモデルに作り変えようとした。
では、3ページは誰に届いたのか。蔵本によれば、熱心に見つけ出した最初の人は、おそらくウィンフリー本人だった。1980年に出た著書『The Geometry of Biological Time』を書くため、関係する文献を探し集めるうちに行き当たったらしい。これに励まされた蔵本は、1984年の著書『Chemical Oscillations, Waves, and Turbulence』に、モデルの細部をいくつか書き入れた。

それから半世紀がたった2025年、国際純粋・応用物理学連合で統計物理学を受け持つ委員会が蔵本に贈ったのは、ボルツマン・メダルである。授賞の言葉は、このモデルが結合振動子という研究分野を打ち立てたと述べる。日本からの受賞は、久保亮五、川崎恭治に続いて3人目である。
影響と感受性の掛け算を、差の正弦に
ウィンフリーの工夫は、規則正しく繰り返す振動子を、1周期のどこにいるかを表す角度ひとつで表したことにある。この角度が位相だ。相手から受ける作用は、相手が周りに及ぼす「影響」と、自分の「感受性」という2つの関数の掛け算で書いた。結びつきが十分に強いと群れの無視できない割合が同じ速さにそろう、というしきい値の見方も、この論文にある。しかし一般の形のままでは、解くのが難しかった。
蔵本が変えたのは、この掛け算の項だけである。手がかりは、1974年に共同研究者と、振動する化学反応のモデルから導いた式(複素ギンツブルグ・ランダウ方程式)にあった。隣どうしが拡散でつながった振動子を位相だけで書き直すと、結びつきは位相の差だけで決まる三角関数になる。ある係数が0なら余弦の項も消え、引き合いはだけが残る。
さらに蔵本は、全員が全員と同じ強さで結びつき、数は限りなく多く、速さのばらつきは山が1つの左右対称な形だと置いた。こうすると、熱平衡の相転移と同じ平均場の考えが使える。群れ全体のそろい具合を1つの複素数で表し、その数が満たすべき式を立てて解くと、結びつきの強さにしきい値が現れた。
残ったのは、境目の上と下でどちらの状態が安定に残るのか、という問いである。境目を越えれば、ばらばらの状態に代わってそろった状態が残るはずだ。蔵本もそう考えるのが自然だと思いながら、数学の裏付けを見つけられなかったという。この問いはストロガッツ、ミロロ、クロフォードらの仕事で、20世紀の終わりまでにおおむね決着した。もっとも、数学として満足のいく証明が出るまでには、さらに15年あまりかかった。証明したのは九州大学の千葉逸人で、論文の掲載は2015年である。
1990年代には、思わぬ所でも同じ式が顔を出す。ヴィーゼンフェルト、コレ、ストロガッツは、超伝導のジョセフソン接合を一列につないだ回路で、周波数のそろい方がこのモデルにつながることを示した。「とても驚き、うれしかった」と蔵本は言う。
では、引き合いが差の正弦だと、なぜ群れはそろうのだろうか。
1本の矢印に引かれる群れ
道すじ。 式の文字を読み、点が2つのときに数を入れて引き合いを計算する(手順1〜5)。個の引き合いを平均の矢印1本に置き換え(手順6〜10)、しきい値を図でつかんでから式で導く(手順11〜21)。
式の文字を読む
振り子の揺れや心臓の拍動、ロトカ・ヴォルテラ方程式が表す捕食者と被食者の増減。同じことを繰り返すものは、円周上を回る点で表せる。点は1周期で円を1周し、いまの位置を角度で表す。番目の点の位相がだ。
左辺のは、位相が1秒あたりにどれだけ変わるか、つまり点の回る速さを表す。右辺の(オメガ)は点が自分だけで回るときの速さで、固有振動数である。値は点ごとに少しずつ違う。
は結びつきの強さ、は点の数である。角度は度で測り、速さとは度/秒(1秒に何度回るか)で表す。教科書でふつう使う角度の単位は、ラジアンだ。それでも式の形は同じで、速さとの数が倍(約57倍)になるにすぎない。
残るが、相手に引かれる向きと強さを決める。(サイン)は角度を入れると−1から1までの数を返す関数で、30°なら0.5、90°なら1、−30°なら−0.5だ。相手が前にいて差が正なら正の数、後ろにいれば負の数が出る。
差が0°なら0で、同じ位置にいる相手には引かれない。差が90°のとき引き合いは最も強く、真向かいの180°では再び0になる。
2つで試す
数を入れるのは、点が2つ()の場合からだ。点1は自分だけなら90度/秒、点2は110度/秒で回り、度/秒とする。ある瞬間、点1は0°、点2は30°にいた。
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点1の式に入れる。で、和は自分()と点2の2つ。自分との差は0なのでになる
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を入れる。前にいる点2に引かれて、点1は速まる
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点2の式に入れる。点1は30°後ろにいる
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を入れる。後ろの点1に引き戻されて、点2は遅くなる
2つの速さは、どちらも100度/秒になった。だから差の30°は変わらず、2つは並んだまま回り続ける。これが、引き込みと呼ばれる現象である。
を20より下げると、点2は点1を追い越し続ける。なら、差が1周するのにかかる時間は約27秒だ。境目の20は、2つの点が自分だけで回る速さの差にあたる。
なぜ20なのか。差の動きを式にすると分かる。
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差を(ファイ)とし、一般ので点2の速さから点1の速さを引く。なので、引き合いの項は2つ合わさる
差が止まるのは、手順5の右辺が0になるときだ。は1を超えないので、止まれるのはが速さの差20度/秒以上のときに限られる。
水平線とは150°でも交わる。ただ、そこから少しずれると差は離れていくので、2つが落ち着くのは30°の側だ。を上げるほど2つは近い角度で並び、なら約14.5°になる。
N個の平均を矢印に
点が増えても、することは変わらない。(シグマ)は「を1からまで変えながら足す」という記号で、点は全員から引かれる。それをで割るので、は「1人あたりの引き合いの平均にを掛けたもの」になる。
4つの点が0°、30°、60°、90°にあり、点1が0°にいるとする。点1から見た差は0°、30°、60°、90°で、引き合いの平均は次のとおりである。
点1が0°にいるとき、は円周上の点の高さそのものになる。だから引き合いの平均は、4点の高さの平均だ。
高さと一緒に横の位置も平均すると、円の中心から1本の矢印が伸びる。矢印の長さがそろい具合、向き(プサイ)が平均の位相である。オイラーの公式のは角の点を1つの数で表す書き方で、これを使うと矢印は1行で書ける。
ただ、複素数を使わなくても中身は同じだ。矢印の先は、横がの平均、縦がの平均である。
全員がそろうと矢印は円まで届いてになり、散らばると打ち消し合って0に近づく。0°、30°、60°、90°の4点では横も縦も0.5915で、、向きは45°だ。
矢印1本に書き直す
点1の引き合いが矢印の高さと一致したのは、偶然ではない。実は、どの点でも本の引き合いを平均の矢印1本に置き換えられる。使うのは三角関数の加法定理だけである。
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加法定理で、差の正弦を開く
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について足してで割る。とはによらないので、和の外に出せる
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かっこの中に、矢印の縦と横を入れる
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加法定理を逆向きに使って、1つにまとめる
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を掛けて、元の式に戻す
つまり点は、仲間1人ずつではなく、平均の矢印1本に強さで引かれている。矢印より後ろにいれば速まり、前にいれば引き戻される。点が2つのときと同じ形だ。
図で納得する
しきい値はどこから来るのか。鍵は、点を引く矢印の長さが、引かれる点たち自身で決まることだ。たとえば何人かがそろうと矢印が伸び、全員を引く強さが増す。強まった引きがさらに仲間を集め、矢印はもっと伸びる。この輪が回り始めるかどうかを決めるのが、である。
見るのは、群れの平均速度で一緒に回る立場からだ。すると点が2つのときと同じく、平均からの速さのずれが以内の点は止まり、群れと一緒に回る。矢印の長さを仮にと置けば、止まった点たちが作る矢印の長さが計算できる。つじつまが合うのは、のときだけである。
曲線と破線の交わりが、実際に落ち着くそろい具合だ。階段は、仮のから出したを次の仮のにする計算を0.05から繰り返した跡で、交わりへ吸い寄せられていく。曲線は、速さのずれがあとで出る幅30度/秒の山に従うときのものだ。
原点の近くのは、傾きがに比例するほぼ直線だ。傾きが1を超えたとたん、0のほかにもう1つの交わりが現れる。傾きがちょうど1になる強さが蔵本の求めたしきい値で、傾きはと書ける。
は、速さのずれがどれだけの割合で現れるかを表すグラフで、はその山の高さだ。ばらつきが小さく山が高いほど、は小さくて済む。高さが半分になる所の幅を(ガンマ)とするローレンツ分布ではなので、である。
式で確かめる
微分と積分を使う、大学の内容である。は時間によらず一定、角度は矢印の向きから測り、群れの平均速度で回りながら見る。蔵本が1975年に置いた形と同じだ。
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手順10は、点ごとに次の形になる。は平均からの速さのずれである
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なら、右辺が0になる角が−90°から90°の側にある。点はそこで止まり、群れと一緒に回る
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止まった点の矢印を足す。矢印は0°を向くのでは横の位置の平均で、回り続ける点の分はばらつきの左右対称さで打ち消し合う。(インテグラル)は細かく分けて足し合わせる記号で、は速さのずれがのあたりにある点の割合である
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と置き換える。で、がからまで動くとは−90°から90°まで動く。角度はここだけラジアンで測り、90°はである
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として、両辺をで割る
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を0に近づけるとで、の積分はになる。このときのがである
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ローレンツ分布を手順15に入れる。と書く
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この積分はになる。前のを掛け、に戻す
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両辺にを掛け、を左辺へ移す
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両辺を2乗すると、両辺のが消えてになる。両辺をで割る
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について解く。だった
手順16と21は、どちらも蔵本が1975年に導いた結果である。ただし、点の数が限りなく多く、時間がたって落ち着いた状態についての話だ。
しきい値を超えた群れを数える
道すじ。 幅度/秒のローレンツ分布で、を変えながらと一緒に回る点の割合を出す(手順1〜4)。最後に、点の数が有限のときがどれだけゆれるかを見積もる(手順5〜6)。
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しきい値を出す
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の1.25倍の度/秒を入れる
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点を引く強さを出す
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速さのずれが33.5度/秒以内の点が一緒に回る。ローレンツ分布の山で−33.5から33.5までが占める面積を割合にすると、になる。はtanの値から角度をラジアンで返す関数である
| (度/秒) | 一緒に回る割合 | ||
|---|---|---|---|
| 60 | 1 | 0 | 0 |
| 66 | 1.1 | 0.30 | 0.37 |
| 75 | 1.25 | 0.45 | 0.54 |
| 90 | 1.5 | 0.58 | 0.67 |
| 120 | 2 | 0.71 | 0.78 |
| 180 | 3 | 0.82 | 0.87 |
表でいちばん目を引くのは、をわずか1割超えた66度/秒で、が0.30まで跳ね上がることだろう。平方根の形をしたグラフは、しきい値のすぐ上で傾きが限りなく急になる。
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点の数が有限だと、ばらばらに散っていても矢印は0にならない。長さ1の矢印本を勝手な向きでつなぐと、先端は平均しておよそ本ぶんの距離に届き、それをで割る
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点を400個にすると、ゆれは半分になる
100個の点で計算すると、度/秒でもは0.1ほどを中心に、上下に0.05ほどゆれ続けた。しきい値より上では、の平均が理論の曲線にほぼ乗る。
この計算と、あとの図やシミュレーションでは、速さのずれ100個をローレンツ分布の山をかたどるように並べた。ただし平均から180度/秒()より大きく外れる1割ほどの点だけは、180〜240度/秒に縮めた。縮めた点はどれも群れに加わらないのでの平均はほとんど変わらないが、しきい値より上のゆれは少し大きく出る。
発電機は90度までしか引き合えない
送電網の発電機は、網全体と同じ速さで回りながら、少しだけ前に出た角度で電気を送り出している。ヴィットハウトらは2022年、送電網の振る舞いを物理の立場から総説にまとめた。それによると、大きな網につながった1台の発電機が送る電力は、網との角度の差(デルタ)の正弦に比例する。係数が送れる電力の上限で、蔵本モデルでいえば結びつきの強さだ。
点が2つのとき、差が止まる条件は「速さの差がに等しい」だった。発電機の式も同じ形だ。たとえば送りたい電力が上限の半分なら、差は30°で落ち着く。を上げるほど差は開き、限界はのときの90°だ。総説によれば、それを超えると発電機は網とそろって回れなくなり、電力を送り続けられない。
机の上でも、似た引き込みが見られる。2002年にパンタレオーネは、自由に動く台に載せたメトロノームが、台のわずかな動きで結びつき、ふつうは同じ向きにそろって揺れることを調べた。論文はこの装置を蔵本モデルの力学による実現と呼び、授業の実験に向くと書いている。振り子と同じく、メトロノームもおもりの位置で周期が変わり、1台ごとに固有の速さが少し違う。
心臓の拍動を始める洞結節の細胞も、互いの引き込みで拍子をそろえていると考えられている。1987年にマイケルズらは、81〜225個の細胞を電気でつないだ計算で、特別な1つが全体を率いるのではなく、位相に応じた相互の作用で全員がそろう「民主的な」仕組みを支持する結果を得た。ただし細胞の一つ一つは、ホジキン・ハクスリー方程式と同じ考えのイオンの流れの式で書かれている。蔵本モデルそのものではなく、似た仕組みの例である。
ホタルも、似ているが同じではない。アセブロンらが2005年に書いた総説には、南アジアで夜、森の木にとまった無数のホタルが初めはばらばらに光り、やがて群れ全体でいっせいに光る例がある。総説によれば、そろって光るのは雄と雌の出会いを助けるためかもしれない。ところがサルファティらの2023年の論文によると、アメリカのPhotinus carolinusは1匹だけにすると光る間隔に決まった周期が無く、群れになって初めて約12秒の周期が現れる。点ごとに自分の速さがあるという蔵本モデルの前提が、このホタルには当てはまらない。

ロンドンの歩道橋が揺れた話や、ホイヘンスの振り子時計2台がそろった話は、ホタルとメトロノームはなぜそろうのかで読める。
2つと4つで手を動かす
例題 1基本前と後ろの引き合い
点1は自分だけなら100度/秒、点2は130度/秒で回る。、度/秒で、点1が0°、点2が30°にいる瞬間の、2つの回る速さを求めよ。
解説を見る
である。点1は前にいる点2に引かれる。
点2は後ろの点1に引き戻される。
速さがそろったので、2つは30°の差のまま並んで回る。
例題 2入試並んで回れる強さ
自分だけの速さがと()の2つの点を、で結ぶ。(1)2つが並んで回れるの範囲を求めよ。(2)速さの差が24度/秒、度/秒のとき、並んだときの角度の差を求めよ。
解説を見る
(1)差の速さはで、これが0になるがあればよい。は1を超えないので、次の範囲になる。
(2)で、90°より小さいほうの解をとる。
150°でも速さは0になるが、少しずれると離れていくので、その並び方は残らない。
例題 3基本4点のそろい具合
4つの点が0°、90°、90°、180°にある。そろい具合と向きを求めよ。
解説を見る
横の座標の平均と、縦の座標の平均を出す。
矢印は真上を向き、、である。0°と180°の2点は打ち消し合い、90°の2点だけが矢印を作る。
例題 4大学ローレンツ分布のしきい値
速さのばらつきが幅度/秒のローレンツ分布のとき、(1)、(2)度/秒での、(3)にするのに要るを求めよ。
解説を見る
(1)度/秒である。(2)になる。(3)をについて解く。
およそ111度/秒で、しきい値の2.8倍ほどになる。
3つの強さで撮った100個の点
結びつきの強さだけが違う3つの群れの、動き始めて40秒後の姿である。群れの矢印が上を向くように回してあり、塗りつぶした丸は速さのずれが以内の点、中が空いた丸は回り続ける点を表す。
75度/秒のは、理論の0.45よりゆれた分だけ大きい。一緒に回る点は75度/秒で56個、120度/秒で78個で、表の割合0.54と0.78にほぼ合う。
つまみを上げて、群れをそろえる
点はそれぞれ自分の速さで回り、塗りつぶした丸は群れと一緒に回る点、中が空いた丸は追い越したり遅れたりする点である。番号の付いた四角は、自分の速さが群れの平均と0、30、90度/秒違う点で、がその差を超えると群れに加わる。「Kを0から上げていく」を押すと点が初めの並びに戻ってが180度/秒まで上がり、とのグラフに残る足跡は、そろうのに時間がかかるぶん破線の理論より遅れて立ち上がる。点の数を25にすると、が60より下でもは0.2ほどでゆれ、400ではゆれが小さい。
そろう仕組みを借りる学問
- 物理学 たくさんの粒がいっせいに性質を変える相転移を、動き続ける系で調べるとき、解ける見本として使う。超伝導のジョセフソン接合やレーザーを並べた装置で、周波数がそろう条件を見積もるのにも使われる。
- 生物学 体内時計や心臓の細胞のように、たくさんの細胞がリズムをそろえる仕組みを考えるとき、位相だけで書いた振動子の群れを最初の模型にする。細胞ごとの速さのばらつきとつながりの強さを比べれば、群れがそろうかどうかの目安になる。
- 工学 送電網の発電機が同じ速さで回り続けられるかを調べるとき、慣性の項を足した2次の蔵本モデルを使う。再生可能エネルギーで発電所が分散するほど、網のつながり方がそろいやすさを左右する。
- 情報科学 ニューラルネットワークの部品を振動子に置き換え、似た情報を持つ部品どうしをそろわせる研究で、蔵本モデルの式を広げた更新の規則が使われている。
振動子のニューロンと送電網
- 2024〜2025年Takeru Miyatoら(テュービンゲン大学、アムステルダム大学): ニューラルネットワークの部品を、しきい値で反応する素子から回り続ける振動子に置き換えた「AKOrN」を提案した。各部品は自分で回る項(にあたる)を持ち、つながった部品に引かれて向きをそろえる。位相を多次元の向きに広げた形で、教師なしの物体の切り分けや推論などの課題で成績が上がったと、著者らは報告している(arXiv:2410.13821、ICLR 2025)。
- 2022年Dirk Witthautら(ユーリッヒ研究センター、ポツダム気候影響研究所ほか): 再生可能エネルギーで分散していく送電網の振る舞いを、非線形の力学からまとめた総説を出した。発電機どうしは慣性の項を足した2次の蔵本モデルで書け、線を流れる電力はで決まる。群れの一部がそろえば足りる蔵本モデルの相転移と違い、送電網では全部の発電機がそろわなければならない、と強調している(Reviews of Modern Physics 94, 015005)。
- 2026年 蔵本由紀(京都大学): 半世紀を振り返る総説で、モデルの広がりをまとめた。2つずつの引き合いを3つ以上の組の引き合いに広げる研究、慣性を足して送電網に使う研究、位相を球面の上の向きに広げて意見の動きや機械学習に使う研究である。そこから、そろい方は連続とは限らず、急に飛ぶ「爆発的な同期」がかなり起こりやすいと分かってきたと述べる(arXiv:2602.20505)。
参考文献
- Y. Kuramoto, "Self-entrainment of a population of coupled non-linear oscillators", in H. Araki (ed.), International Symposium on Mathematical Problems in Theoretical Physics, Lecture Notes in Physics 39 (Springer, 1975), 420-422. 会期(1975年1月23〜29日)と会場(京都大学)は九州大学附属図書館の蔵書目録による。
- Y. Kuramoto, "Half a century of the theory of synchronization", arXiv:2602.20505 (2026). IUPAP C3, "Boltzmann Medal 2025"(略歴、授賞の言葉、インタビュー).
- A. T. Winfree, "Biological rhythms and the behavior of populations of coupled oscillators", Journal of Theoretical Biology 16 (1967), 15-42.
- J. A. Acebrón, L. L. Bonilla, C. J. Pérez Vicente, F. Ritort, R. Spigler, "The Kuramoto model: A simple paradigm for synchronization phenomena", Reviews of Modern Physics 77 (2005), 137-185. S. H. Strogatz, "From Kuramoto to Crawford: exploring the onset of synchronization in populations of coupled oscillators", Physica D 143 (2000), 1-20.
- H. Chiba, "A proof of the Kuramoto conjecture for a bifurcation structure of the infinite-dimensional Kuramoto model", Ergodic Theory and Dynamical Systems 35 (2015), 762-834. 科学研究費助成事業「無限次元力学系の分岐理論の構築とその結合振動子系への応用」研究成果報告書(2012年度).
- K. Wiesenfeld, P. Colet, S. H. Strogatz, "Synchronization transitions in a disordered Josephson series array", Physical Review Letters 76 (1996), 404-407. 同 "Frequency locking in Josephson arrays: Connection with the Kuramoto model", Physical Review E 57 (1998), 1563-1569.
- D. Witthautほか, "Collective nonlinear dynamics and self-organization in decentralized power grids", Reviews of Modern Physics 94 (2022), 015005.
- J. Pantaleone, "Synchronization of metronomes", American Journal of Physics 70 (2002), 992-1000. D. C. Michaels, E. P. Matyas, J. Jalife, "Mechanisms of sinoatrial pacemaker synchronization: a new hypothesis", Circulation Research 61 (1987), 704-714.
- R. Sarfatiほか, "Emergent periodicity in the collective synchronous flashing of fireflies", eLife 12 (2023), e78908(2024年に編集部が実験データへの懸念を表明し、2025年に訂正).
- T. Miyato, S. Löwe, A. Geiger, M. Welling, "Artificial Kuramoto Oscillatory Neurons", ICLR 2025(arXiv:2410.13821).