ロトカ・ヴォルテラ方程式

Lotka-Volterra equations

戦争で漁が減ると、サメが増えた。魚市場の記録が問いを生んだ。

食べる側と食べられる側の数を連立させた微分方程式。2 つの数は追いかけ合うように増減を繰り返す。漁業・害虫の駆除・景気の循環の考え方に広がった。

年代
1920年代
人物
アルフレッド・ロトカ、ヴィト・ヴォルテラ、ウンベルト・ダンコーナ、ゲオルギー・ガウゼ、リチャード・グッドウィン
逸話

アドリア海の魚市場

第一次世界大戦の間、アドリア海の漁は大きく減った。この海は、イタリアとオーストリア=ハンガリーの海軍がにらみ合う戦場だった。

イタリアの若い海洋生物学者ウンベルト・ダンコーナは、アドリア海に面した港の魚市場の記録を調べていた。どんな魚がどれだけ水揚げされたかを、年ごとに並べた統計である。そこに奇妙なことが見つかった。サメやエイなど、ほかの魚を食べる魚が水揚げに占める割合が、戦争の間に大きく上がっていたのである。

漁が減れば、食べられる側の魚が増えるはずだと考えるのが自然である。なぜ食べる側の割合が増えたのか。ダンコーナはこの問いを、ローマ大学の数学者ヴィト・ヴォルテラに持ち込んだ。ヴォルテラは、のちにダンコーナの義理の父になる人である。

ヴォルテラは、食べる魚と食べられる魚の数を 2 つの変数にし、互いの数が互いの増え方を決める連立の微分方程式を立てた。1926 年、イタリアの学士院の紀要に長い論文を、イギリスの『ネイチャー』に短い紹介を出した。答えは式の中にあった。漁がどちらの魚も同じようにとるなら、漁が減ったとき、平均で増えるのは食べる側の魚になる。

その後、アメリカの統計学者アルフレッド・ロトカが、同じ式をすでに書いていたことが分かった。ロトカは 1910 年に化学反応の揺れとして、1920 年には植物とそれを食べる動物の関係として、1925 年には著書『物理生物学の要素』で、この形の式を扱っていた。ヴォルテラもロトカの先行を認め、式は 2 人の名で呼ばれるようになった。

ヴォルテラにはもう 1 つの顔がある。1931 年、ムッソリーニの政権がすべての大学教授にファシズムへの忠誠の宣誓を求めたとき、ヴォルテラは宣誓を拒んだ 12 人ほどの教授の 1 人だった。ヴォルテラは大学の職を追われた。

起源

増える数を式で書く試みは、ロジスティック方程式のように、1 種類の生き物だけを見るところから始まった。ロトカとヴォルテラの新しさは、2 種類の数を同時に追い、一方の増え方が他方の数で決まる、という相互の関係を式にしたことにある。

ロトカはもともと物理化学者で、1910 年の論文では、反応の途中でできる物質が自分自身の生成を速める「自己触媒」の反応が、だんだん小さくなる濃度の揺れを生むことを示した。同じ形の式が、生き物の食う食われるの関係にも当てはまる。ロトカは生き物の集まりを、物質とエネルギーが流れる 1 つの系として見ようとした人で、生命保険会社で人口統計の仕事をしながら研究を続けた。

ヴォルテラの式の組み立ては次のとおりである。えさになる魚の数を 、それを食べる魚の数を とする。えさは、食べられなければ数に比例して増える()。食べる側は、えさが無ければ数に比例して死んで減る()。出会いの回数は両方の数の積 に比例すると考え、えさはその分だけ減り()、食べる側はその分だけ増える()。気体の分子がぶつかる回数を数える考え方を、生き物に持ち込んだ形である。

実験で確かめる試みは 1930 年代に始まる。ソ連のゲオルギー・ガウゼは、ゾウリムシと、それを食べる別の繊毛虫(ディディニウム)を試験管で一緒に育てた。単純な容器では、食べる側がえさを食べ尽くし、両方とも消えてしまった。えさが逃げ込める沈殿を入れると、食べる側が飢えて消え、えさだけが増えた。3 日ごとに両方を 1 匹ずつ外から足すと、増減が繰り返された。1958 年、アメリカのカール・ハファカーは、オレンジを並べた台の上で、植物を食べるダニとそれを食べるダニを育て、えさの配置を複雑にしたときに、3 回続く増減を観察した。

証明

はどれも正の定数とする。式が予言する「閉じた周期」と「ヴォルテラの原理」を導く。

  1. 両方の数が変わらない点(釣り合いの点)は、2 つの式の右辺を 0 とおいて

  2. 2 つの式を割り算して、時間を消す。

  3. 変数を分ける。

  4. 両辺を積分し、定数をまとめる。

  5. は釣り合いの点で最小になる下に凸な関数なので、 が一定の線は釣り合いの点を囲む閉じた曲線になる。数の組はその上を回り続け、同じ増減を繰り返す。周期を とする。

  6. えさの式を で割ると 。1 周期にわたって積分すると、左辺は がもとに戻るので 0 になる。

  7. 同じように食べる側の式から

  8. 漁が、どちらの魚も同じ割合 でとるとする。 は に、 は に変わり、平均は

手順 8 がヴォルテラの原理である。漁が減る( が小さくなる)と、えさの平均は減り、食べる側の平均は増える。戦争中のアドリア海で起きたことと向きが一致する。

釣り合いの点の近くの小さな揺れは、式を 1 次の近似にすると単振動になり、周期は になる。食べる側の山は、えさの山より 4 分の 1 周期ほど遅れて来る。

この式は、実際の生き物の数の細かい動きまでは表さない。えさが無限に増えられるという仮定を、えさにも上限がある形に直すと、閉じた曲線は渦を巻いて釣り合いの点に吸い込まれる。カナダのハドソン湾会社が買い取った毛皮の数に見えるカンジキウサギとオオヤマネコの約 10 年の周期は、この式の例としてよく引かれる。しかし、記録の一部ではウサギの山がネコより遅れて見え、1973 年には「ウサギがオオヤマネコを食べるのか」と題した論文が出た。ウサギの周期には、えさの植物や病気も関わっていると考えられている。

応用

数の例。 /年、、/年、 とすると、釣り合いの点は 、 で、小さな揺れの周期は 年である。ここで両方の魚を年に の割合でとると、平均は 、 になる。とる量を増やすと、えさの魚は 25 から 35 に増え、食べる魚は 10 から 8 に減る。

害虫の駆除。 ヴォルテラの原理は、害虫とその天敵の両方を殺す薬について、注意を促す。1888〜1889 年、カリフォルニアのかんきつ類の畑では、オーストラリアから入ったイセリアカイガラムシを、同じオーストラリアから運んだ天敵のベダリアテントウを放して抑え込んだ。1940 年代に殺虫剤の DDT がまかれると、テントウが減り、カイガラムシがふたたび大発生した畑が出た。カリフォルニア大学のポール・デバックが 1946〜1947 年に報告した例で、教科書でよく引かれる。両方を同じように減らすと、平均で増えるのは食べられる側だからである。

漁業の管理。 1 つの魚だけをとる量を決めても、その魚を食べる魚や、その魚が食べる魚の数が変わる。食う食われるの関係を組み込んだ資源の見積もりは、この式を出発点にしている。

図示

左: えさ(実線)と捕食者(破線)の数の時間変化。捕食者の山は、えさの山より遅れて来る。右: 横にえさ、縦に捕食者の数をとると、数の組は釣り合いの点のまわりの閉じた曲線を左回りに回り続ける。

シミュレーション

右の平面をタップするかドラッグすると、はじめの数を置ける。えさが増え、追いかけて捕食者が増え、えさが減り、捕食者が減る。数が少ないところでは点がゆっくり進み、山ではすっと回る。「漁の強さ」を上げると、釣り合いの点と平均の位置が右下へ動く。「えさにも上限」を入れると、輪は渦になって 1 点に吸い込まれる。

広がる学問

  • 生物学 生態学で、食う食われるの関係を表す式の出発点である。えさの上限や、食べる速さが頭打ちになる効果を足した式が、実際の個体数の解析に使われる。感染症の流行を表すSIR モデルも、出会いの回数を積で表す同じ考え方に立つ。
  • 経済学 1967 年、リチャード・グッドウィンは、労働者の取り分と雇用の割合が追いかけ合う景気の循環をこの形の式で表した。グッドウィンの成長循環モデルと呼ばれる。
  • 化学 ロトカの最初の動機は、自己触媒の反応で濃度が揺れることの説明だった。化学反応の振動は、ベロウソフ・ジャボチンスキー反応などで実際に観察され、反応速度論の大きな題材になった。
  • 数学 保存される量 を持つ非線形の力学系の代表例である。少し式を変えるだけで閉じた輪が渦に変わる「構造の不安定さ」も含めて、力学系の教科書の定番になっている。

参考文献

  1. Vito Volterra, "Variazioni e fluttuazioni del numero d'individui in specie animali conviventi", Memorie della R. Accademia Nazionale dei Lincei ser. 6, 2 (1926), 31-113.
  2. Vito Volterra, "Fluctuations in the Abundance of a Species considered Mathematically", Nature 118 (1926), 558-560.
  3. Alfred J. Lotka, "Analytical Note on Certain Rhythmic Relations in Organic Systems", PNAS 6 (1920), 410-415.
  4. Alfred J. Lotka, Elements of Physical Biology (Williams & Wilkins, 1925).
  5. G. F. Gause, The Struggle for Existence (Williams & Wilkins, 1934).
  6. C. B. Huffaker, "Experimental studies on predation: dispersion factors and predator-prey oscillations", Hilgardia 27 (1958), 343-383.
  7. Michael E. Gilpin, "Do Hares Eat Lynx?", The American Naturalist 107 (1973), 727-730.

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