221年ぶりの同じ年
2024年の5月半ばから6月にかけて、アメリカのイリノイ州では、17年ごとに地上へ出るセミと、13年ごとに出るセミが同じ年に現れた。イリノイ大学エクステンションによると、州の北半分に出るブルードXIIIと南半分に出るブルードXIXがそろうのは、221年ぶりだった。前は1803年、次は2245年である。221は13と17の最小公倍数で、互いに素な2つの周期は、積の年数に1度しか重ならない。
ブルードは、同じ年にそろって出る周期ゼミの集団のことで、ローマ数字の番号で呼ぶ。エクステンションの案内では、2つの分布が重なるのは州の中ほどのメーコン、サンガモン、リビングストン、ローガンの4郡だという。
13も17も、素数だ。
周期ゼミの周期は、なぜ13年と17年なのか。よく知られた答えは、周期が素数だと、決まった周期で現れる天敵とも、別の周期のセミとも同じ年に出る回数が少ない、というものである。ただし、これは計算と模型が支える仮説で、野外の観察で決着した説明ではない。
3つの問いが重なっている
周期ゼミは、アメリカ東部にすむMagicicada属のセミである。京都大学の2013年の発表によると、3つの種群の7種に分けられ、どの種群にも13年の種と17年の種がある。幼虫は土の中で木の根から汁を吸って13年か17年を過ごし、ある春にいっせいに地上へ出る。成虫は1か月ほどで死んでいく。
ふつうのセミは、こうはならない。ほとんどのセミの幼虫は根から吸える水の量に応じて育ち、決まった大きさに達した年に出てくるので、出る年が1匹ごとにばらける。周期ゼミでは、育ちきっていない小さな成虫が見つかることもあるのに、決まった年数がたつと出てくる。体の大きさだけでなく、年数で羽化を決めているのである。
ここには3つの問いが重なっている。なぜ幼虫の期間がこれほど長いのか。なぜ同じ場所のセミがそろって出るのか。そして、なぜその年数が素数なのか。京都大学の発表によると、1つ目には氷河期の低温に適応したという説があり、2つ目には捕食者を食べ飽きさせて逃れる説と、密度が低すぎて交配の相手が見つからない状態を避ける説がある。3つ目は、ほかの周期と交雑しにくいという説である。
素数かどうかが問題になるのは、長い周期でそろって出る虫だけだ。3つ目の答えは、1つ目と2つ目に寄りかかっている。
では、素数の周期は本当にほかの周期と重なりにくいのだろうか。
最小公倍数で重なりを数える
セミの周期を年、天敵の周期を年とし、0年目に両方が出たとする。セミが出るのはの倍数の年、天敵が出るのはの倍数の年である。
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両方が出る年は、との公倍数の年である。公倍数は最小公倍数の倍数なので、重なりは最小公倍数ごとに来る。
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年のあいだに重なる回数は、を最小公倍数で割った商の整数部分になる。
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最小公倍数と最大公約数を掛けると、2つの数の積になる。
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最小公倍数の年数のあいだに、セミは回出て、そのうち1回だけ天敵と会う。1回の発生で天敵に会う割合は、3を使うと最大公約数で書ける。
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最大公約数は1以上なので、割合はより小さくならない。になるのは、とが1のほかに公約数を持たない、つまり互いに素なときだけである。
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が素数なら、より小さいどんなとも互いに素である。
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素数でないは()と書け、小さいほうの約数はを超えない。ならは4以下なので、は2か3で割り切れる。
7により、10年から20年までの周期で、2年から9年までのどの天敵とも互いに素なのは、11、13、17、19の素数だけになる。天敵が2年から9年の8種いて、どれも0年目にそろって出たとしよう。4の割合を8種について足すと、1回の発生で出会う天敵の数の平均になる。筆者がPythonで数えると、12年なら5.18種、18年なら5.09種、15年なら3.85種だった。いちばん少ないのは素数の周期で、どれも種。
意外なのは、この物差しでは11年と19年も、13年や17年と同じ点になることだ。素数であることだけでは、13と17は選べない。
0年目にそろえたことにも意味がある。天敵の出始めを年ずらすと、重なるのはとを同時に満たす年になる。とが互いに素なら、がいくつでも、最小公倍数の年数に1度だけ重なる。互いに素でないときは、が最大公約数で割り切れれば1回の発生あたりの割合で重なり、割り切れなければ1度も重ならない。を0からまでの通りで平均すると、互いに素かどうかによらず、割合はになる。素数の周期が得をするのは、天敵が出る年をセミに合わせられるときなのである。
88の組を塗り分ける
88マスのうち空いたマスは53で、6割ほどになる。でたらめに選んだ2つの整数が互いに素である確率に近い。この値はバーゼル問題の答えから出てくる。
300年の年表
年表は1マスが1年で、20年ごとに折り返して300年を並べ、丸がセミ、小さな四角が天敵の出る年、塗りつぶした丸が重なった年である。棒グラフは周期10〜20年のセミが300年で重なる回数で、斜線が素数、たたくとその周期が年表に移る。「比べる相手」を別の周期のセミにすると、交雑の説で問題になる、ほかの周期と同じ年に出る年を数える。「相手のずらし」で出始めを動かすと、互いに素でない組はずらし方しだいで重なる回数が増えたり0になったりし、互いに素な組は最小公倍数の年数に1度のまま変わらない。
天敵と獲物に点を付ける
天敵と獲物の数の増減を式にしたのがロトカ・ヴォルテラ方程式で、出会う回数を両方の数の積に比例するとおく。2001年、チリの数理モデリングセンターのエリック・ゴレスと、ドイツのマックス・プランク分子生理学研究所のオリヴァー・シュルツ、マリオ・マルクスは、『Complexity』に別の模型を発表した。数の代わりに、「同じ年に出たかどうか」に点を付ける。
翌年に3人が『ScienceAsia』に載せた論文によると、決まりは次のとおりである。天敵の周期を、獲物の周期をとし、で、どちらも0年目にそろって出るとする。獲物は天敵のいない年に出れば、天敵と同じ年に出ればを得る。天敵は獲物と同じ年に出れば、獲物のいない年に出ればを得る。
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年のあいだに、獲物は回、天敵は回出る。両方が出る回数をとおくと、前の章の3から最大公約数になる。
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獲物の点の合計を、出た回数で割る。世代の数で割るのは、何度も出て点を稼ぐ短い周期をひいきしないためである。
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天敵も同じように数える。
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が素数でないとき、天敵はの約数のうち自身を除いて最大のものを周期に選べば、点がいちばん高い。このときで、獲物は出るたびに天敵と会う。
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獲物の周期が1年ずれると、はを割り切れないので最大公約数はより小さくなり、獲物の点はより上がる。
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が素数なら、のどの天敵ともである。天敵は周期を変えても点を上げられず、獲物も周期を変えて点を上げることはできない。
変異と選択をくり返すと、獲物の周期は素数にたどり着いたところで止まる。論文には、生き物ではありえない大きさの変異まで許して、、から始め、で止まった例が載っている。
3人は、10×10のマスに天敵と獲物を並べ、隣のマスのうち点の高い周期が広がる計算も試した。周期を2〜50年からでたらめに選んで1万通り始めると、残った獲物の周期は素数に偏り、いちばん多いのは17年だった。マスを20×20にすると、13年がいちばん多くなる。しかし3人は考察で、「この仮説の弱点は、周期ゼミに関わる周期的な天敵が、まだ見つかっていないことだ」と認めている。
ロトカ・ヴォルテラ方程式では、獲物1匹が食べられる速さはで、獲物の数によらない。大発生で天敵を満腹にさせる飽食は、この式の外にある。
氷河期から始まる説
天敵の説でよく引かれるのは、1966年に『Evolution』に載ったモンテ・ロイドとヘンリー・ダイバスの40ページの論文である。マルクスらによると、2人は、卵や成虫を襲う捕食寄生者を考えれば天敵の説は保てると指摘していた。獲物の出ない年が続けば、そうした捕食寄生者は絶えてしまうからだ。
1997年、吉村仁は『The American Naturalist』に、周期ゼミは氷河期に生まれたとする論文を書いた。吉村は2020年11月、静岡大学の子ども向けの講座でこの説を話している。受講した中学生がまとめた報告によると、祖先は日本のセミと同じように7年前後で成虫になり、毎年出ていた。氷河期に寒くなると幼虫の期間が延び、わずかに残った森で死ぬ幼虫が増えた。成虫になっても相手が見つからず、交尾できたセミの子どうしが同じ年に出るようになって、10〜20年の一定の周期で出るセミが生まれた。そのうち13年と17年が残ったのは、素数の周期がほかの周期と出る年が重なりにくく、交雑で数を減らすことが少なかったからだという。
ただ、吉村らのグループ自身も2015年の論文で、氷河のあった地域にはたくさんのセミがすむのに周期を持つのはごく一部だけだ、と説の弱点を挙げている。
2009年、吉村らは10年から20年までの11通りの周期のセミを競わせる計算を『Evolution』に発表した。周期の長いセミほど産む卵は多いが、死ぬ数の合計も多い。周期の違うセミどうしも交配し、子の周期はメンデルの遺伝で決まる。科学研究費の報告書によると、素数でない周期は速やかに消え、19年も13年と17年に押されて少しずつ消えた。論文は、素数の周期が選ばれるのは、集団が絶滅の瀬戸際にあるときだけだとしている。
同じ年、吉村らのグループはPNASで、数が一定より少なくなると絶滅するアリー効果を入れると、広い条件で素数の周期が残りやすいことを計算で示した。ロジスティック方程式では、数が少ないほど1匹あたりの増え方は大きい。アリー効果はその逆で、少なすぎると相手に出会えず、かえって減っていく。
天敵の側からの計算もある。2004年、ブラジルのカンピーナス州立大学のパウロ・カンポスらは、周期を持つ天敵の代わりに、鳥のようにいつでもいる天敵を置いた模型でも、素数の周期が現れると報告した。
では、計算の外では何が分かっているのだろうか。
裏づけのあることと、仮説のまま
2013年、ケーニグとリーブホールドは、捕食者を食べ飽きさせる説にも、ブルードどうしの交雑を避ける説にも、時期をずらして出させた小さな集団が鳥に食べ尽くされるという観察のほかは実証が無かったと書いた。そのうえで2人は、大発生のあと天敵になりうる鳥の数が変わり、次の発生のころには捕食圧が下がっているらしいことを示した。
遺伝子からも分かってきた。京都大学の曽田貞滋らは2013年、全種全ブルードのDNAを調べ、13年と17年への分化が3つの種群それぞれで別々に起きたことを示した。最も古い分化はデシム種群の約50万年前で、ほかは最終氷河期最盛期(26,500〜19,000年前)より後だった。2018年に同じグループがより多くの遺伝子で調べ直すと、分化の時期は20万〜10万年前と出た。13年と17年の種のあいだでは、かなりの遺伝子流動も起きていた。それでも2つの周期は保たれている。
交雑すると周期が崩れるという考えから見ると、悩ましい結果だ。
周期の数え方にも手がかりが出てきた。2025年、曽田らは17年ゼミの11歳から16歳の幼虫を野外で調べた。16歳の秋にはほぼ全部が、12歳でも体重の重い一部が、目の色を白から赤に変えて羽化を決めていた。4の倍数の年に臨界体重を超えていれば翌年の春に出る、という4年ゲート仮説に合う結果である。、で、2つの周期はどちらも4の倍数に1を足した数でもある。
一方、素数そのものの説明は仮説のままだ。天敵の説では肝心の周期的な天敵が見つかっておらず、交雑の説も主な支えは計算である。2022年の総説でクリス・サイモンらは、生態学の新しい研究には、素数が果たす役割を「支持するものも、疑うものもある」と書いた。
筆者の見立てでは、素数が説明するのは「重なりにくさ」までである。天敵の説なら、最小公倍数の章の終わりで見たように、天敵が出る年をセミに合わせる仕組みも要る。ゴレスらの模型では、0年目にそろえるという仮定がこれに当たる。13と17が残った理由は、幼虫が育つ年数や4年ごとの判断、長い周期ほど増える死亡といった、素数とは別の事情と組み合わせないと出てこない。2009年の計算で19年が少しずつ消えたのも、長い周期ほど死ぬ数が多いという仮定が効いているのかもしれない。
次に同じ年になる組
221年に1度というのは、決まった2つのブルードの話である。
コネチカット大学の周期ゼミの情報ページに、ブルードの表がある。番号は1902年にチャールズ・マーラットが決めたもので、IからXVIIが17年、XVIIIからXXXが13年の枠になる。30の枠のうち、セミがいるのは17年が12、13年が3つ。17年と13年の組は通りで、どの組も221年に1度同じ年になるから、平均で6年ほどに1度、どこかの13年と17年が同じ年に出る。表から数えると、2024年の次は2037年のIXとXIX、2041年のXIIIとXXIIIである。
もっとも、同じ年に出ても、同じ林に出るとは限らない。コネチカット大学は、郡ごとに塗った地図はブルードの広がりを大きく見せ、重なりがあるように見せてしまうと注意している。冒頭の4郡も、郡で区切った見方である。
シミュレーションでは、次のことも試せる。
- 天敵を6年にしたまま、セミの周期を12から13へ動かす。300年で重なる回数は25回から3回に減り、ゴレスらの手順5で獲物が周期をずらす理由が見える。
- 天敵を4年にすると、15年の棒は13年と同じ5回になる。天敵が1種だけなら、互いに素であれば素数でなくてよい。
実物を見るなら、表で次に出るのは2027年の13年のブルードXXII、2028年のXXIII、2029年の17年のブルードIである。エクステンションは、見つけた場所をアプリ「Cicada Safari」で知らせる市民科学の取り組みを紹介している。
互いに素という条件は、ゲームの乱数はどう作られているのかの線形合同法でも、周期を最大にする条件に入っている。
2245年までに、17年ごとのブルードXIIIは13回、13年ごとのブルードXIXは17回、地上に出る。2つのブルードがそれまで続いていれば、そのとき2つの暦は、またイリノイで同じ年を指す。
参考文献
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- J. Yoshimuraほか, "Selection for prime-number intervals in a numerical model of periodical cicada evolution", Evolution 63 (2009), 288-294. doi:10.1111/j.1558-5646.2008.00545.x。科学研究費助成事業 課題番号18570016の研究成果報告書
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- 静岡大学『トップガンジャーナル』第68号(2021年1月12日)「素数ゼミの謎を科学しよう」