京大など、顕微鏡写真で菌の増える速さを推定 モデルハムも従来法とほぼ一致
食品に載せた膜の上で育つ菌のかたまりと、それを囲む暗い輪の画素数から、増える速さを読む式を京大と日本新薬が作った。円の半径に一定の幅を足すのが要点で、乳酸菌の比増殖速度は0.150 h⁻¹と従来法の0.157 h⁻¹に近い。
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食品をつぶさず、菌も数えず、顕微鏡写真の画素数から菌が倍に増える時間を割り出せるようになった。京都大学大学院農学研究科の小川順教授と安藤晃規助教、日本新薬の田宮央登氏と津田謙太郎氏らの研究グループが、2026年11月4日に発表した。論文はFood Microbiologyに9月26日付で載っている。
決め手は中学で習う円の面積の式だ。菌のかたまりを幅の決まった暗い輪が囲むとみなし、半径に輪の幅を足した。10 °Cの寒天で乳酸菌を育てて試すと、増える速さを表す比増殖速度は1時間あたり0.150で、従来の方法で測った0.157に近い。
ただし、店に並ぶ食品の菌をそのまま調べる方法ではない。狙った菌を膜に植えて育てる試験のためのもので、確認した菌も1種類に限られる。
1回測るたびに試料を1つ壊す
食品の日持ちを調べる植菌試験では、菌を植えた試料を保存して、菌数の変化を追う。標準のコロニーカウント法は、試料を砕いて薄め、寒天の中で育て、できた菌の集まり(コロニー)を数える。
砕いた試料は二度と測れない。測る時刻を1つ増やすたびに、試料も1つ要る。
手間の差は大きい。論文が挙げる10 °Cの例では、従来法は保存に80時間超、そのあとの培養に48時間かかる。新しい方法は同じ試料を1時間ごとに撮り続け、観察は40時間足らずで済み、培養も要らない。
どちらの方法でも、知りたい量は同じである。菌が倍々で増えている間、数は次の式に従う。
は初めの数、は経過時間で、はネイピア数と呼ばれる定数を指す。が比増殖速度で、単位のh⁻¹は「1時間あたり」と読み、大きいほど速く増える。
では、 h⁻¹の菌は何時間で倍になるのか。倍になる時間をと置き、1行ずつ変形する。
1行目は「時間後に2倍」をそのまま式にした。2行目で両辺をで割る。
3行目のは対数で、を何乗すると2になるかを表す約0.693の数である。4行目で両辺をで割れば、答えの形になる。
数を入れると、新しい方法の値では時間、従来法の値では時間だ。差は12分ほどしかない。1
暗い輪の幅を足す
観察の舞台は食品に載せたメンブレンフィルターで、穴の径が0.4 µm、厚さが10 µmの薄い膜である。この上で育つ菌のかたまりは暗い輪に囲まれ、背景からくっきり分かれる。ところが、かたまり自体の境目はぼやけて見分けられない。
そこで研究グループは、輪の外側までを1つの領域とみなしてBounded areaと名付け、その画素数を数えた。かたまりの半径を、輪の幅をとすると、円の面積の式から次の2つが書ける。はかたまりの面積、は輪まで含めた面積を表す。
写真から読めるのはだけだが、知りたいのはの増え方である。両者の増え方は同じにならない。のままを5から10へ2倍にすると、は4倍なのには2.25倍で止まる。
論文が25個のコロニーで推定したは2.95〜6.00画素だった。1画素は1.172 µmなので、3.5〜7 µmほどにあたる。
次に、の増え方を決める。細胞が同じ大きさまで育って分裂し、が一定なら、かたまりの面積は細胞数に比例する。論文はこう仮定し、初めの面積をとしてと置いた。これを円の式とつなぎ、の式に入れていく。
1行目は時刻の面積を、指数の式と円の式で書いて等号で結んだ。2行目で両辺をで割って平方根をとる。3行目はのに2行目を入れたもので、これが論文のモデル式である。
根号の中をとに分けると、見通しがよくなる。は初めの半径で、だから、同じ式は次の形になる。論文の式を当サイトが簡単にした形で、中身は変わらない。
半径は面積の半分の速さで増え、そこに一定のが足される。だからは単純な指数にならない。
直線のはずが上に反る
指数で増える量は、縦軸を10倍ごとの目盛りにすると直線に乗る。ところがは乗らず、上に反った曲線を描いた。論文はこの曲がりを、直線の当てはめではを読めない理由、つまりが要る根拠に挙げる。
どれほどの違いになるのか。論文の図に載ったあるコロニーは h⁻¹、画素で、約37時間後のが図から読んで約1.03だった。は10の何乗かを表すので、画素数は倍になる。
輪がなければだから、同じで次の値になるはずだ。
191倍のはずが、約11倍にしか見えない。
この見かけの増え方からを計算すると、を何乗すると10.7になるかを37時間で割ることになる。
0.142の半分にも届かない。倍になる時間に直すと、本当の4.9時間が10.8時間に化ける。日持ちを見積もる場面なら、見過ごせない差だろう。
初めは画素、画素で、写真に写る面積はほとんどが輪である。菌が増えてもはあまり動かない。37時間後にはが約15画素に育ち、輪の影響が薄れて、曲線の傾きが本当のに近づいていく。2
μとmは最小二乗法で選ぶ
とは、測った画素数に式がいちばん合うように選ぶ。そのとき使うのが最小二乗法で、番目の測定値と式の値の差を2乗して足し、その和が最小になる組を探す。
はについてすべて足す記号である。差をそのまま足すと正と負が打ち消し合うので、2乗してから足す。
小さな例で手を動かしてみよう。同じコロニーのを論文の図で10、20、30時間の点について読むと、およそ0.16、0.37、0.72になる。とを固定し、だけを変えてを計算すると次の表になる。
| 10時間 | 20時間 | 30時間 | ||
|---|---|---|---|---|
| 0.12 | 0.118 | 0.299 | 0.555 | 0.0340 |
| 0.142 | 0.146 | 0.384 | 0.729 | 0.00047 |
| 0.16 | 0.171 | 0.461 | 0.887 | 0.0363 |
の行をたどると、差は0.014、、で、それぞれの2乗を足すと0.00047になる。を0.02ほど動かすだけで、は70倍以上に跳ね上がる。実際の当てはめは全部の時刻の画素数を使い、との2つを同時に動かす。
当てはまりの良さは決定係数で測る。はの平均で、分母はデータ自体のばらつきにあたる。
上の3点なら、平均は0.417、分母は0.160で、となる。1に近いほど、式がデータをよく説明している。
論文が全部の点で示した代表3個のコロニーでは、は0.997、0.995、0.996だった。
25個を足すと速いほうへ寄る
コロニー25個のは0.113〜0.175 h⁻¹に散らばり、倍になる時間で言えば3.96〜6.13時間の幅があった。1つずつの速さが見えるのは、全体の数しか見ない従来法にない強みである。もっとも、従来法と比べるには群れ全体の値に直す必要がある。
論文はどのコロニーも1個の細胞から始まるとして、コロニーの細胞数をと置く。全部足したを指数の式に当てはめたときのが、群れの比増殖速度になる。はコロニーの数だ。
これは単純な平均ではない。たとえばが0.12と0.18の2個を、24時間育てたとしよう。
1行目はとを指数に入れた。2行目で足し、3行目はにを入れた形である。4行目で両辺を2で割って対数をとり、5行目で24で割る。
答えは平均の0.150より大きい。速いコロニーほど細胞が多く、全体を引っ張るからだ。
実際の25個をこの形でまとめた値が、冒頭の0.150 h⁻¹である。
3つの温度とモデルハムで照らし合わせる
検証はまず寒天の上で、10、20、30 °Cの3つの温度で進めた。2つの方法のを並べると、決定係数0.996の直線に乗った。
ただ、点は3つしかなく、は点が少ないほど高く出やすい。2つの方法の値が近いかどうかは、「同じ値」を表す斜めの線と比べたほうが見えやすい。どの点もこの線の近くにある。
本物に近い食品では、豚ひき肉などで作ったモデルハムの薄切りを25 °Cで試した。コロニー28個のは0.157〜0.430 h⁻¹と広く散らばったが、群れの値は0.319 h⁻¹で、従来法の0.322 h⁻¹とほとんど同じだった。倍になる時間は2.17時間と2.15時間で、差は1分ほどしかない。小川教授はこの手法を「非破壊かつ連続的に評価できる新たな技術」と位置づける。
膜の上の1種類の菌という条件
新しい方法が当てはまる範囲には、いくつかの条件が付く。
- 菌はロイコノストック・メセンテロイデスという乳酸菌1種類で、論文も乳酸菌全体を代表するとは限らないと断っている。実際の食品の上では、ふつう何種類もの菌が混ざる。
- かたまりが円形に広がり、輪の幅とが変わらないことが前提になる。くっついたコロニーと、が0.95以下の当てはめは解析から外した。
- 式が扱うのは倍々で増える時期である。混み合って増え方が鈍る時期は、ロジスティック方程式のような別の式で扱う範囲になる。
- 画像の方法の試料は条件ごとに1つで、その中の多数のコロニーを追った。
研究には日本新薬が資金を出し、著者のうち2人は同社社員である。使ったデータは公開されておらず、記事の曲線も論文の数値と図から描き直したものだ。研究グループは今後、菌と食品の種類を広げ、実用に向けた検討を進めるという。
倍になる時間が、本当は4.9時間なのに10.8時間に見える。そのずれを埋めたのは新しい装置ではなく、半径に足したの1文字だった。
注
出典
- 京都大学「食品を壊さずに菌の増え方を評価する新手法」(2026年11月4日)
- 京都大学「食品を壊さずに菌の増え方を評価する新手法」詳しい研究内容(PDF・2026年11月)
- H. Tamiya, K. Tsuda, A. Ando, J. Ogawa「Non-destructive and quantitative estimation of microbial growth rates on food surfaces using microscopic image analysis」Food Microbiology 142, 105317(2026年9月26日オンライン掲載)
- 同じ論文の公開版(京都大学学術情報リポジトリKURENAI)
この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。