数式の読み方

eとiの読み方と、右肩のiが回転を表すわけ

How to read e and i, and why an i in the exponent means a rotation

eのπ乗は23.14。右肩にiを添えると−1になる。

eはネイピア数で自然対数の底、iは2乗すると−1になる虚数単位。右肩の実部は大きさを、虚部は回る角を決める。e^(iπ) + 1 = 0とシュレーディンガー方程式のiを、この読み方で読む。

公式
4 本
人物
レオンハルト・オイラー、ルネ・デカルト、カール・フリードリヒ・ガウス、ウィリアム・ローワン・ハミルトン、エルヴィン・シュレーディンガー
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
場面

伸びるはずの累乗が負になる

23.14と、。を乗すると前者に、右肩にを1文字添えて乗すると後者になる。が右肩に乗ると、右肩の数は「何倍に伸ばすか」ではなく「どれだけ回るか」を表すようになるからだ。は半径1の円周上を角だけ回った点で、の半周でに着く。

は「イー」と読み、2.718…というひとつの数を指す。は「アイ」と読み、2乗するとになる数だ。2つを並べたオイラーの等式は、この半周を1行に書いたものである。

右肩の外にいるも、回転の役を担っている。何もない空間を進む電子のシュレーディンガー方程式は、熱の広がりを表す式とが1つ違うだけの形をしていて、その1文字が、しぼむはずの波を回る波に変えている。

それにしても、なぜとという文字なのか。右肩のは、どうして回転になるのだろうか。

考え方

イーとアイ、数として呼ぶ名前

文字の読みは「イー」と「アイ」だが、どちらも数として別の名前を持つ。表の下4行は、累乗を読む形に当てはめた例である1。

記号日本語英語
イー、ネイピア数、自然対数の底e, the base of the natural logarithm
アイ、虚数単位i, the imaginary unit
イーのエックス乗e to the x
イーのアイシータ乗e to the i theta
イーのアイパイ乗たす1は0e to the i pi plus one equals zero
エクスポネンシャルエックスthe exponential of x

デジタル大辞泉は「ネーピア数」の項で、を自然対数の底とし、名前は英国の数学者ネーピアに由来すると書く。「ネイピア数」の表記も添えてある。英語ではNapier's constantという別名も使われてきた。

英語で調べるときは、Euler's constantと打たないほうがよい。ミラーの資料によれば、この名前はふつう0.5772…という別の定数を指す。

「虚数単位」は、2乗してになる数のことだ。ミラーの資料によれば、英語のimaginary unitを使い始めたのは、1843年のハミルトンらしい。四元数を論じたその論文は、2乗するとになる四元数について、「大きさが1で、2乗すると負の1になるので、虚数単位と呼んでよい」と書く。「単位」には、大きさがちょうど1という意味が込められていた。

日本の高校では、を数学IIで、を数学IIIで習う。学習指導要領の解説では、用語として数学IIの「いろいろな式」に「虚数,」が、数学IIIの「微分法」に「自然対数,」が並ぶ。2つがとして出会うのは、大学1年の微分積分である。

歴史

大砲の原稿のeと、没後に刷られたi

この数をと書いた記録で最も古いのは、オイラーが1727年の終わりか1728年の初めに書いた原稿である。大砲を撃った実験を論じたラテン語の手稿で、カジョリの英訳から訳すと、次のように書かれていた2。

「対数が1になる数をeと書くことにする。それは2.7182817…で、ヴラックによれば、その対数は0.4342944…である」

最初の「対数」は自然対数で、後ろの0.4342944…は、今の記号で書けばの値だ。logとlnの読み方で見た底の揺れが、を定めた最初の1文にもう入っていたのは面白い。もっとも、最後の桁は正しくは7でなく8だ。

1731年11月25日付のゴールドバッハあての手紙でも、オイラーはを「双曲線対数が1になる数」と説明した。双曲線対数は双曲線の下の面積で測る対数で、1からまでの面積がちょうど1になる。今の「自然対数の底」という呼び名は、オイラーの定義をほぼそのまま言い直したものである。が本に載ったのは1736年の『力学』が最初で、大砲の原稿が印刷されたのは1862年になってからだった。

では、なぜなのか。これには定まった答えが無い。ミラーの資料には、指数を表すexponentialの頭文字、の次の母音、ドイツ語のEinheit(単位)といった推測が並ぶが、どれも決め手を欠く。オイラーにちなむ名だと書く教科書もあるものの、カジョリはそれを裏付ける資料を挙げていない。そもそも、最初にを使ったのはオイラー本人である。

がたどった道は、もっと長い。1637年、デカルトは『幾何学』第3巻で、の根は3つ思い描けても、実在する(réelle)のは2だけで、残りの2つは「想像上の(imaginaires)」ものにしかならないと書いた。今の書き方なら、残りの2つはとだ。

1748年の『無限解析序説』で、オイラーは虚数をのまま書き、文字はおもに無限に大きい数に使っていた。オイラーの公式の記事にあるも、この本の書き方である。

がの記号になったのは、オイラーが1777年5月5日に科学アカデミーへ出した論文からで、刊行は没後の1794年だった。

「虚数を通る以外に、これを成し遂げる道は私にはまだ見えないので、これからを文字で表す。したがって、である」

すぐ前の言葉がimaginaria(虚数)なので、をその頭文字と読むのは自然だろう。ただ、オイラーはそうとは書いていない。カジョリによれば、が次に印刷物に現れるのは、1801年に出たガウスの整数論の本である。1821年のコーシー『解析教程』のころには、はかなり定着していた。

図

等式に並ぶ5つの記号

オイラーの等式e^(iπ) + 1 = 0の各部分。eはネイピア数で自然対数の底、右肩のiは虚数単位、πは右肩では回る角で、π radは180°。半周して−1に着き、1を足すと0になる。

5つの記号のうち、右肩のだけは累乗のふつうの読み方が通じない。「を回掛ける」と読もうとしても、回は数えられないからだ。

そのものは円周率で、右肩の外では円周と直径の比を表す。を添えて右肩に乗ると、同じが「ラジアンで測ってだけ回る」、つまり180°の半回転を表す量に変わる。

考え方

右肩の横は伸び、縦は回る

右肩の数を、実部と虚部に分けてみる。指数法則は右肩が複素数でも成り立つので、

と書ける。前のは正の実数で、大きさだけを決める。後ろのは大きさが1で、決めるのは向きだけだ。

だから、右肩を横に1進めると値は倍に伸び、縦に進めると90°回る。なので、90°回すこととを掛けることは同じだ。は、1を倍に伸ばしてから90°回したになる。

右肩を縦に進めると、点は1周してもとの位置に戻る。値から右肩を逆にたどると、答えは縦におきに無数に見つかる。0でないどの数にも対数が無数にあるというオイラーの結論(オイラーの公式の起源の章)も、この性質から来ている。

一方、右肩が実数だけなら、事情はまったく違う。点は正の実軸上を行き来するだけで、右肩をどれほど動かしても負の数には届かない。がになりようがないのは、このためだ。

シミュレーション

右肩の点を動かす

左の平面にある点が右肩の、右の平面にある点がその値で、左の点を縦に動かすと右の点は原点のまわりを回り、横に動かすと伸び縮みする。右の点から2本の軸へ落ちる太い影が実部と虚部で、なら長さがとになる。「×i」は右肩の縦にを足して点を90°回し、「×e」は右肩の横に1を足して点を倍に伸ばす。底を10に替えると、でも点はに来ない。

式

底を替えると回る速さがずれる

底を10や2にしても、右肩にを付ければ点は回るが、回る速さが変わる。

  1. 底を1より大きい数とし、を使って底をに書き直す。

  2. 右肩をにすると、角の回転になる。

  3. 、を入れる。なので角は7.2338 radで、1周と54.5°にあたる。

  4. ならで、角は2.1776 rad、124.8°で止まる。

  5. で微分すると、点の速度が出る。

  6. 、なので、点の速さはである。

  7. 速さが1になる底は、1つしかない。

速さ1で回る点は、だけ進むあいだに長さの弧をたどる。半径1の円で弧の長さと角が等しくなるのは、角をラジアンで測ったときだ。つまり、底がのときだけ、右肩のがそのまま回った角になり、でちょうど半周のに着く。

単位円の上で、eのiπ乗、2のiπ乗、10のiπ乗が行き着く点。eは角πでちょうど−1に、2は角0.693πで−0.570 + 0.821iに、10は角2.303πで1周と54.5°回って0.581 + 0.814iに着く。

底10でに着かせたいなら、まで進めればよい。

を言葉にすると、「対数が1になる数」。オイラーが大砲の原稿に書いたの定義が、そのまま回転の速さを1にそろえる条件になっていたのである。

考え方

シュレーディンガー方程式の先頭に立つi

シュレーディンガー方程式は、1次元なら次の形をしている。

先頭のが虚数単位で、はプランク定数をで割った数、(プサイ)は波動関数である。∂の読み方は∂と∇の読み方にある。

このは飾りではない。として両辺をで割ると、なので次の形になる。

右辺からを除いたは、熱やインクが広がるようすを表す拡散方程式だ。

違いは、波を入れると見えてくる。で2回微分すると倍になるので、があれば()となり、波は大きさを保ったまま時間とともに回る。が無ければで、回らずにしぼんでいく。

差は大きい。波長0.63 nm、つまり m⁻¹の電子なら s⁻¹で、があれば秒で1周する3。が無いと、同じ時間に振幅は倍まで縮む。

右肩にを載せたも、この読み方なら、時間とともに時計回りに回る大きさ1の点だ。回るだけなので、この因子が掛かった波動関数のは時間がたっても変わらない。そうした定常状態の話は、シュレーディンガー方程式の記事にある。

ノート

同じ文字の別人

物理の式では、がもうひとつの量も表す。電気素量 Cで、量子ホール効果ののはこちらだ。

2人のeが、1つの式に並ぶこともある。エネルギーを熱のエネルギーと比べるボルツマン因子では、右肩の外にあるがネイピア数、右肩の中にあるが電気素量である。 V、 Kならで、値は0.021になる。

上はe^(−eV/kT)をすべて斜体で組んだ形で、2つのeが同じ形に見える。下はISO 80000-2の書き方で、ネイピア数のeを立て、電気素量のeを斜体にしている。kはボルツマン定数、Vは電圧、Tは温度。

見分ける手がかりは、字の形にもある。ハイアムによれば、数学記号の国際規格ISO 80000-2(2009年版)は、値の変わらない数学定数、、を立てた字で書くとしている。ISO 31(1992年)の規則をまとめた米国NISTの手引きも、ネイピア数は立てた字、量である電気素量と和の添字は斜体で書くとする。規格どおりに組めば、の2つのeも、の添字と虚数単位も、形で区別できる。

ただ、ハイアム自身がこの規格はあまり知られていないと書いている。このサイトの式も、この段落と図のほかは、どちらのも斜体で組んでいる。

虚数単位には、もうひとつ文字がある。工学の分野では、虚数単位をと書くことが多い。MathWorldは、電流の記号やと紛れるのを避けるためだろうとしている。

使いどころ

Pythonの答えに並ぶeとj

筆者の手元のPython 3.14でcmath.exp(1j * math.pi)を実行すると、の答えとして(-1+1.2246467991473532e-16j)が返ってきた。

この1行に、ネイピア数のeは出てこない。

e-16のeは「10の何乗を掛けるか」の印で、Pythonの言語仕様は、小数のあとに続くeかEを「10の累乗を掛ける」意味と定めている。1e3は1000.0で、ではない。jは虚数単位で、仕様にも、Pythonでは虚数単位をiでなくjと書くとある。虚部に残ったは、math.piが本当のからわずかにずれているために出た端数だ。2進数の小数がを丸めるようすは、0.1 + 0.2が0.3にならないのはなぜかに詳しい。

表計算でも、虚数単位の文字は選べる。Microsoftの説明では、Excelで複素数を作るCOMPLEX関数は虚数単位の文字にiとjのどちらも使え、省くとiになる。大文字のIやJを渡すと、#VALUE!エラーが返る。

数式を書く側に回るなら、LaTeXで\mathrm{e}と\mathrm{i}と打てば、ISOの書き方の立てた字になる。

読み終えたら、次の順に手を動かすとよい。

  1. Pythonでcmath.exp(1j * math.pi / 2)と10 ** (1j * math.pi)を打つ。iにごく近い値と、0.581 + 0.814jが返れば、右肩のと底の違いを手で確かめたことになる。
  2. 式の中でを見たら、右肩に変数を含む式を載せているか、やのように量として掛け合わされているかを見る。前者はネイピア数、後者はたいてい電気素量である。なら、和の添字か、2乗するとになる数かを、定義の文で確かめる。
  3. ネイピア数の記事でを微分しても形が変わらない理由を、オイラーの公式の記事での証明をたどる。

とは、同じに同じを載せている。違うのは右肩のだけで、その1文字が「伸ばせ」を「回れ」に読み替えさせている。

参考文献

  1. Jeff Miller, "Earliest Uses of Symbols for Constants"(The base of natural logarithms、i for the imaginary unitの項), "Earliest Known Uses of Some of the Words of Mathematics (I)"(IMAGINARY、IMAGINARY UNITの項), MacTutor History of Mathematics, セント・アンドルーズ大学. カジョリ『数学記号の歴史』第2巻の記述は、この資料による孫引き.
  2. L. Euler, "De formulis differentialibus angularibus maxime irrationalibus, quas tamen per logarithmos et arcus circulares integrare licet"(E671), Institutionum calculi integralis Vol. 4 (1794), 183-194. 書誌はEuler Archive(パシフィック大学)で確認。本文は未見で、引用は文献1による.
  3. J. Bairほか, "Interpreting the infinitesimal mathematics of Leibniz and Euler", arXiv:1605.00455 (2016), 3.1節.
  4. R. Descartes, La Géométrie (Leiden, 1637), Livre troisième. A. Hermann版(Paris, 1886)の翻刻による。Project Gutenberg, eBook #26400.
  5. W. R. Hamilton, "On a new Species of Imaginary Quantities connected with a theory of Quaternions", Proceedings of the Royal Irish Academy 2 (1844), 424-434(1843年11月13日の会合で発表). D. R. Wilkinsの翻刻(トリニティ・カレッジ・ダブリン).
  6. N. J. Higham, "Typesetting Mathematics According to the ISO Standard"(2016年1月28日). NIST, "Typefaces for Symbols in Scientific Manuscripts"(ISO 31-0〜31-13:1992にもとづく).
  7. E. W. Weisstein, "e", "i", "Imaginary Unit", Wolfram MathWorld.
  8. デジタル大辞泉「ネーピア数」「虚数単位」. コトバンクで確認.
  9. 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』数学II「いろいろな式」、数学III「微分法」の用語・記号.
  10. NIST, CODATA Values of the Fundamental Physical Constants, "elementary charge", "Boltzmann constant".
  11. Python 3 Documentation, "The Python Language Reference" 2.6.2 Floating-point literals, 2.6.3 Imaginary literals. Microsoftサポート, "COMPLEX function".

注

  1. 辞書や資料で確認できたのは、「ネーピア数」「ネイピア数」「虚数単位」の名前と、英語のthe base of the natural logarithm、the imaginary unit、exponential ofまでである。累乗の行は、累乗と指数の読み方の読み方の形に当てはめた。 ↩

  2. この章の原稿と論文の文、ゴールドバッハあての手紙の言葉、カジョリの見方、ガウスとコーシーのくだり、『力学』と1862年の刊行は、ミラーの資料による。原稿と論文の原典、カジョリ『数学記号の歴史』は開いていない。『無限解析序説』のiの使い方は、ミラーの資料と、同書の第7章を説明したBairらの論文(arXiv:1605.00455)による。デカルトとハミルトンの文は、公開されている翻刻で確認した。 ↩

  3. このは、としたときの運動エネルギー(約3.8 eV)をで割った値である。エネルギーを測る0点をずらすと、の全体に同じ速さの回転が加わり、1周の時間も変わる。観測で意味を持つのは、エネルギーの差のほうだ。 ↩

姉妹サイト

株式会社Game が運営するメディアです。