数式の読み方

Σ と ∫ の読み方

How to read the sigma and integral signs

Σ も ∫ も、もとは「和」を表す S の字だった。

Σ(シグマ)と ∫(インテグラル)の読み方と、添字・下端・上端・dx の意味。長方形の和 Σ を細かくすると面積 ∫ になる理由を、シミュレーションと原典でたどる。

公式
4 本
人物
ゴットフリート・ライプニッツ、レオンハルト・オイラー、ジョゼフ・フーリエ、オーギュスタン=ルイ・コーシー、ベルンハルト・リーマン
場面

2 つの S

統計の教科書を開くと、平均の式が と書かれている。物理の教科書では、力がする仕事が と書かれている。記号の読み方を知らなければ、どちらも声に出して読むことさえできない。

Σ はギリシャ文字の大文字のシグマで、ラテン文字の S にあたる。∫ は、昔の活字で使われた縦に長い s の形をしている。どちらも「和」を表すために選ばれた文字である。Σ は飛び飛びの数を足し、∫ は滑らかに変わる量を足す。

この記事は、2 つの記号の読み方と各部分の名前を確かめ、Σ の和を細かくしていくと ∫ になる道筋を、長方形を並べるシミュレーションで追う。最後に、記号を作った人たちが何をどこに書いたかを、原典でたどる。

考え方

Σ の読み方

は「シグマ k イコール 1 から n まで a k」と読む。英語では "the sum of a sub k from k equals 1 to n" と読むことが多い。 に 1, 2, 3, …, を順に入れた を、すべて足すという意味である。

各部分には名前がある(下の図)。 は添字で、1 ずつ増える番号を表す。Σ の下の は下端で、どこから足し始めるか。上の は上端で、どこまで足すか。右の は一般項で、 番目に足すものである。

計算の例を 3 つ挙げる。 である。上端を 100 にすると 5050 になり、1 から n までの和の公式 を使えば一度で求まる。 である。 の上端の は、「限りなく足し続けたときに近づく値」を表す。この値が であることを示したのがバーゼル問題で、100 項まで足しても 1.6350 にしかならない。

読み間違えやすい所が 3 つある。

添字の文字は何でもよい。 と は同じ和である。足し終えると は答えに残らない。このような文字をダミー変数(束縛変数)という。

を含まない項は 回足される。 であって、3 ではない。

2 乗の和と、和の 2 乗は違う。 だが、 である。

図

Σ の各部分

Σ の各部分の名前。上端 n はどこまで足すか、下端 k = 1 はどこから足すか、添字 k は 1 ずつ増える番号、一般項 a_k は k 番目に足すもの。全体は a_1 から a_n までの和である。
考え方

∫ の読み方

は「インテグラル a から b まで f x dx(ディーエックス)」と読む。英語では "the integral from a to b of f of x dx" と読む。曲線 と 軸の間の、 から までの面積を表す。 軸より下にある部分は、負の面積として数える。

各部分の名前は次のとおりである(下の図)。∫ は積分記号、 は下端、 は上端、 は被積分関数(積分される関数)、 は「 について積分する」ことを示す。 はもともと、隣り合う 2 つの のごく小さな差を表していた。そのため は、高さ ・幅 の細い長方形の面積と読める。

例を挙げる。 は、底辺 1・高さ 1 の三角形の面積である。、 である。ガウス積分 のように端が のときは、端を遠くへ延ばしていったときに近づく値と読む。 から までに限っても 1.77241 で、 の 99.998 % になる。

ここにも読み間違えやすい所がある。

を落とさない。 が無いと、どの文字について積分するのかが分からない。 と は、答えが違う。積分の変数もダミー変数で、 である。

端は の値である。 の 1 と 2 は の範囲で、 の値ではない。上と下を入れ替えると符号が変わり、 となる。

端の無い ∫ は別のものを表す。 端を書かない は不定積分といい、微分すると になる関数(原始関数)を表す。答えは数ではなく関数で、 のように定数 が付く。端のある形(定積分)と端の無い形が結びつくことを示すのが、微分積分学の基本定理である。

図

∫ の各部分

∫ の各部分の名前。上端 b と下端 a は x の範囲、被積分関数 f(x) は長方形の高さ、dx は幅と、どの変数で積分するかを示す。∫ はラテン語の summa(和)の頭文字 s を縦に伸ばした形である。
式

Σ から ∫ へ

区間 の曲線の下の面積を、長方形の和で近づける。最後の極限が、∫ の定義になる。

  1. 区間を 等分する。1 つの区間の幅は

  2. 番目の区間 から、点 を 1 つ選ぶ。右端を選ぶなら

  3. 高さ ・幅 の長方形を 本足す。この和をリーマン和という。

  4. を限りなく大きくしたとき、点の選び方によらず が 1 つの値に近づくなら、それを定積分と呼ぶ。

  5. 例として、 を で右端を選んで計算する。、 なので、1 から n までの和の公式から

  6. で 0.55、 で 0.505 になり、 で三角形の面積に一致する。

  7. なら、2 乗の和 を使う。 で 0.385 になり、極限は である。

手順 3 と 4 を並べると、Σ が ∫ に、 が に、 が に置き換わっている。∫ の式は「細い長方形の面積 を、 から まで足したもの」と読める。

図

長方形の和と面積

左は曲線の下に 5 本の長方形を並べた和 Σ f(x_k)Δx。丸い点が k 番目の区間から選んだ点 x_k で、長方形の高さは f(x_k)、幅は Δx。n を限りなく大きくすると、右の曲線の下の面積 ∫ f(x)dx になる。

シミュレーション

曲線の下に 本の長方形が並ぶ。自動で動かすと、添字 が 1 から まで進んで項を 1 本ずつ足し、止まってから長方形を 2 つずつに分けて、 と細かくしていく。グラフを横になぞると 番目の長方形が選ばれ、高さ と幅 が示され、下の文字には「シグマ k イコール 1 から n まで…」の読み方と値が出る。右(スマホでは下)の小さなグラフは差 を対数の目盛りで描いたもので、左端・右端と中点で縮み方が違う。

考え方

中点がよく当たる理由と、2 つの S

シミュレーションで 、 にすると、和は左端で 0.285、右端で 0.385、中点で 0.3325 になる。本当の値 との差は、左端が 、右端が 、中点が で、中点は 50 倍以上よく当たる。 にすると、左端と右端の差は約 0.005 と 10 分の 1 になり、中点の差は と 100 分の 1 になる。

理由は、1 本の長方形の中で曲線をほぼ直線とみると分かる。左端の高さを使うと、上り坂では長方形の右上に三角形の分だけ不足が出る。不足は 1 本につき ほどで、 本を合わせると ほどになる。 で なら で、計算した とほぼ合う。中点を使うと、真ん中より左の不足と右の余りが打ち消し合い、直線の部分の誤差が消える。残るのは曲がり具合 による分で、全体で ほどになる。 なら なので で、計算した差と一致する。 のような直線では、中点の差はどの でもちょうど 0 になる。シミュレーションで を選ぶと、差のグラフで左端と右端の線の傾きが中点の線の半分になっているのは、このためである。 を で選ぶと なので左端と右端の不足も打ち消し合い、3 本とも同じ傾きになる。そのときの左端と右端の差は、中点の差の約 2 倍で、符号が逆である。

2 つの S については、確かめたことと推測を分けておく。∫ が和(summa)の s であることは、ライプニッツ自身が 1675 年のノートに書いている(次の章)。Σ についてオイラーが書いたのは、「差を Δ で表したように、和は Σ で表す」という一文である。数学記号の歴史をまとめたカジョリは、オイラーがライプニッツの小文字 d の代わりに、対応するギリシャ文字 Δ を使ったと説明している。そう読むと、Σ と Δ の組は、ライプニッツの ∫ と d の組を、飛び飛びの値の和と差に移したものになる。ただし、オイラー自身がライプニッツにならったと書いた箇所は確かめられていない。ここは推測である。

この対応を言葉ではっきり書いたのは、1823 年のコーシーである。彼は和を と書いたうえで、∫ は「このような和ではなく、和の極限」を表すために Σ の代わりに置いた文字だと説明した。Σ は有限個を足し、∫ は極限をとる。いまの読み方は、この時点で言葉になっていた。

歴史

記号の歴史

1675 年 10 月 29 日、パリにいたライプニッツは、面積の計算のノートにこう書いた。「omn. の代わりに ∫ と書くと便利だろう。∫l は omn. l、つまり l たちの和である」。それまで彼は、図形を細い線に切り分けた総和を、ラテン語の omnia(すべての)を略した omn. で書いていた。同じノートには「これは新しい種類の計算を導く」とも書いている。11 月 11 日のノートには、 は「隣り合う 2 つの の差」だという書き込みがある。同じノートには のように ∫ のあとに の付いた量を置く形も現れるが、まだ多くの所では と書いている。

∫ が印刷されたのは 11 年後である。1686 年 6 月、ライプニッツは学術誌『アクタ・エルディトールム』に論文「隠れた幾何学と、不可分量および無限の解析について」を載せ、その 297 ページに「ふつうの計算で累乗と累乗根が逆であるように、われわれの計算では和と差、つまり ∫ と d が互いに逆である」と書いた。微分積分学の基本定理を記号で言い表した一文である。カジョリによれば、このときの活字の ∫ は下の部分が欠けていて、f に似た形だった。

「積分(integral)」という名前は、1690 年に同じ雑誌でヤコブ・ベルヌーイが初めて印刷物に使った。ライプニッツは「和の計算」という名前を好み、ヨハン・ベルヌーイとの手紙のやりとりの末、名前はベルヌーイの「積分」、記号はライプニッツの ∫ に落ち着いた。

Σ を和に使ったのは、1755 年のレオンハルト・オイラーである。『微分計算教程』の第 1 章 26 節に、「差を表すのに記号 Δ を使ったように、和は記号 Σ で表すことにする」とある。カジョリによれば、18 世紀にはラグランジュが使ったほかは、あまり広まらなかった。

∫ の下と上に端を書く の形は、フーリエが 1822 年の『熱の解析的理論』で使った。コーシーは 1823 年の講義録『無限小解析講義の要約』の第 21 講で、この書き方を「フーリエ氏が考えたもので、最も簡単」と紹介した。同じ講で彼は、連続な関数について、各区間の左端の値を使った和 を作り、区間を限りなく細かくしたときの極限を定積分と定めた。

1854 年、リーマンはゲッティンゲン大学の教授資格論文で「では、 とは何と理解すべきか」と問い直した。区間の分け方も、各区間から選ぶ点も自由にして、和がどんな選び方でも 1 つの値に近づくなら、それを積分と呼ぶ。近づかなければ、記号は意味を持たない。この論文はリーマンの没後、デデキントの手で刊行された。いま「リーマン和」「リーマン積分」と呼ぶのは、この定義である。

使いどころ

使いどころと次に読むもの

表計算の SUM は Σ である。 A1 から A100 に 1 から 100 を入れて「=SUM(A1:A100)」とすると 5050 が出る。 をそのまま計算したことになる。B1 に「=1/A1^2」と入れて B100 まで写し、「=SUM(B1:B100)」とすると 1.634984 で、バーゼル問題の和 に近づく途中の値が見える。平均を出す AVERAGE は を計算している。

積分の数値計算は Σ に戻す。 計算機は ∫ をそのまま計算できないので、細い長方形や台形の和で近づける。表計算でも、A1 から A10 に中点 0.05, 0.15, …, 0.95 を入れ、B 列に「=A1^2」、最後に「=SUM(B1:B10)*0.1」とすると 0.3325 になり、 との差は 0.001 より小さい。Python の数値計算ライブラリ NumPy には台形の和で積分する trapezoid 関数があり、説明書の例では を 0 から 1 まで 50 点で積分して 0.33340 を得ている。

物理と確率では ∫ が量の合計を表す。 速さを時間で積分すると進んだ距離、電力を時間で積分すると電力量(kWh)になる。確率では、正規分布の曲線の下の面積が確率で、全体の面積は 1 である。

機械学習の損失も Σ で書く。 予測 と答え のずれを 2 乗して平均する平均二乗誤差は で、データ 1 件ずつのずれを足している。データが連続な分布から来ると考えるときは、同じ量を ∫ で書く。

読んだあとは、次の順に進むとよい。

  1. 上の表計算を作り、中点の代わりに左端 0, 0.1, …, 0.9 を入れると 0.285 になることを確かめる。 を 100 にして、差がどれだけ縮むかも見る。
  2. 1 から n までの和とバーゼル問題で、Σ の和を 1 つの式にまとめる方法を読む。
  3. 微分積分学の基本定理で、長方形を足さずに ∫ を計算する方法を読む。ガウス積分は、その方法が使えないときの工夫である。
  4. 変数が 2 つ以上ある式の記号は、∂ と ∇ の読み方へ。
  5. 長方形の和の誤差が や で縮む話は、運動方程式を刻んで解くオイラー法とルンゲ=クッタ法の「誤差の次数」と同じ考え方である。

参考文献

  1. G. W. Leibniz, 1675 年 10 月 29 日と 11 月 11 日の手稿(C. I. Gerhardt, Die Entdeckung der höheren Analysis, Halle, 1855, pp. 125-126, 134 に翻刻)
  2. G. W. Leibniz, "De geometria recondita et analysi indivisibilium atque infinitorum", Acta Eruditorum (1686 年 6 月), 292-300.
  3. L. Euler, Institutiones calculi differentialis (St. Petersburg, 1755), 第 1 章 26 節.
  4. J. Fourier, Théorie analytique de la chaleur (Paris, 1822), 231 節(pp. 251-252).
  5. A.-L. Cauchy, Résumé des leçons données à l'École royale polytechnique sur le calcul infinitésimal (Paris, 1823), 第 21 講.
  6. B. Riemann, "Ueber die Darstellbarkeit einer Function durch eine trigonometrische Reihe", Abhandlungen der Königlichen Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen 13 (1868), 第 4 節(1854 年の教授資格論文).
  7. Florian Cajori, A History of Mathematical Notations, Vol. II (Open Court, 1929), 438, 539, 570, 620, 640 節.
  8. J. M. Child, The Early Mathematical Manuscripts of Leibniz (Open Court, 1920), pp. 91-92(1675 年 11 月 11 日の手稿の解説)
  9. Jeff Miller, "Earliest Uses of Symbols of Calculus", "Earliest Uses of Symbols of Operation", "Earliest Known Uses of Some of the Words of Mathematics (I)"(MacTutor History of Mathematics, セント・アンドルーズ大学)
  10. NumPy Documentation, "numpy.trapezoid"; Microsoft サポート「SUM 関数」

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