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巻き貝もホタテガイもオウムガイも、殻の形はほぼ3つの量で描ける。アメリカのカリフォルニア工科大学で博士研究員のホアン・リウ氏と、力学・材料科学のカウシク・バタチャリヤ教授が、2026年10月23日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した。3つとは、殻が広がる速さを表す拡大の割合、回転の軸の向き、そして胚のときにできる最初の殻(原殻)の縁の曲線である。
成長線はどれも同じ形
貝は殻の縁に材料を足して育つので、木の年輪のように、育った順に成長線が残る。リウ氏は、どの成長線も1つ前の成長線と同じ形をしていることに気づいた。違うのは大きさと向きだけである。論文では、ハマグリの仲間とホタテガイの仲間から1種ずつ選び、殻を写真測量で立体の形に起こした。成長線を拡大・回転・平行移動で重ね合わせると、ずれは最大でも線の長さの1.8%と0.73%だった。
殻の形を数式で表す研究には、ダーシー・トムソンが1917年に出した『On Growth and Form』や、デイヴィッド・ラウプが1966年に発表した殻の巻き方の分析がある。今回の論文は、同じ変換を何度もくり返すという見方を、連続な変換の集まり(リー群)の言葉で書き直した。
縁の動きを1行の方程式で
縁の上の点をとすると、論文の成長則は
である。は拡大の割合、は軸のまわりの回転を表し、は単位行列である。解くとで、は軸のまわりに角(ラジアン)だけ回す回転になる。
軸に垂直な平面に点を写し、複素数で表すと、角の回転はを掛けることなので、
となる。オイラーの公式のに、大きさを伸ばす実部が加わった形である。軸からの距離はで、回った角度とともに指数関数的に増える。角度が距離の対数で表せるので対数らせんと呼ばれ、動径と接線のなす角はどこでも同じになる。1周で距離は倍になる。
よく語られる「黄金らせん」は、4分の1周ごとに距離が1.618倍になる特別な場合で、、つまりのときにあたる。黄金比の記事で書いたように、オウムガイを実際に測ると、この比にはならない。論文によると、は綱ごとにまとまった値をとる。大学の発表では、腹足綱や二枚貝綱など殻を持つ5つの綱が、それぞれ狭い範囲のを占めるという。
殻は形を「見て」いない
論文はもう1つ、全体の形を決めるリー群の式が、縁の各点だけで決まる規則と同値であることを示した。成長線と成長の向きが直交する殻では、縁が伸びる速さはになる。は殻の表面に沿って測った縁の曲がり具合(測地的曲率)で、強く曲がったところほどゆっくり伸びる。外套膜が殻全体の形を監視して調整しなくても、局所の規則をくり返すだけで種ごとの形が保たれる。バタチャリヤ教授は研究を始めたころ、「軟体動物が殻全体の形を感じ取り、それに合わせてうまく足しているはずがない」と考えていたと、大学の発表で振り返っている。
大学が10月26日に出した発表によると、2人はこの仕組みをまねて、ジェットエンジンの配管のような複雑な形の部品を作ることを目指している。ただし、局所の規則を生む仕組みそのものは、まだ分かっていない。論文は、殻の材料になるナノ粒子がまっすぐな縁ほど付きやすいと考えれば説明がつく、という見通しを示すにとどめている。