シドニー大、小型AIの学習は初期値を100億倍精密にしても行き先そろわず

重みの最後の1ビットを変えて学習を始めると、約48%が別の行き先に着いた。シドニー大学は、出発点の地図が穴だらけのフラクタルになるためと説明する。答えが割れた入力は約2.9%で、重み1万2036個のネットワークでの結果である。

誤差逆伝播法マンデルブロ集合ロジスティック写像ローレンツ・アトラクター

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同じデータを同じ順番で、同じ手順で学習させる。変えるのは、重み1つの最後の1ビットだけ。コンピューターが区別できるいちばん小さな差である。それでも約48%の試行で、学習の行き先が変わった。

シドニー大学物理学部のプーリン・ゴン(Pulin Gong)教授と、博士課程のアンドリュー・リー(Andrew Ly)氏が、2026年11月5日付のNature Machine Intelligenceに報告した。2人は約50万個のニューラルネットワークを学習させ、出発点(初期値)を行き先で塗り分けた地図が、どこまで拡大しても混ざり合うフラクタルになっていると説明する。

もっとも、AIの答えが予測できないという話ではない。48%が数えたのは内部の重みの行き先で、近い出発点どうしで答えが割れた入力は約2.9%だった。この数字を出したネットワークも重み1万2036個と小さく、最新の大規模モデルそのものは調べていない。

谷は歩幅で変わる

学習とは、重みという数を少しずつ動かして、誤りの大きさ(損失)を減らす作業である。誤差逆伝播法で坂の傾きを求め、次の式をくり返す。

は回目の重み、は損失で、はその傾きを表す。1歩の大きさ、つまり歩幅を決めるが学習率だ。式に乱数は入っていない。では、行き先はどこで分かれるのか。

筆者が作った小さな例で試してみよう。なら、谷はとの2つで、傾きを表す式はになる。での傾きはで、これに学習率を掛けて引くと1歩後のが出る。

歩幅が小さいと1.27、1.19と右の谷へ近づき、大きいと谷を飛び越えて、−0.77、−0.93と左の谷へ落ちる。

−2 −1 0 1 2 出発点 1.9 η = 0.1 η = 0.5 左の谷 右の谷 損失 L 重み w
筆者が作った例。実線の折れ線が学習率0.1、破線が学習率0.5の動きで、丸は1歩ごとの位置を指す。学習率0.5は1歩目で真ん中の山を越える。

のまま出発点をずらすと、行き先は帯に分かれる。で左の谷に変わり、2.148で右へ戻り、2.221で左へと、入れ替わりはの手前まで止まらない。

の近くでは1歩で差が6倍に開くので、帯の幅も約6分の1ずつ縮む。2.235と2.236は差が0.001でも、1歩後には−2.230と−2.236で、差は0.006だ。

出発点 w0 が1.5から2.236まで 出発点 w0 が2.1から2.236まで 出発点 w0 が2.215から2.236まで 1.732 2.148 2.148 2.221 2.221 2.234
学習率0.5。塗りつぶした帯から始めると左の谷へ、空いた帯から始めると右の谷へ落ちる。拡大するほど右端に同じ並びが現れ、幅は約6分の1ずつ縮む。

迷う割合を測る指数

出発点を精密に決めれば、迷いは減るのか。論文はこれをで測る。差が以内の出発点を2つ選んだとき、行き先が違う割合だ。が小さいと、次のべき乗に従う。

は比例の記号で、を不確実性指数という。を100億分の1にすると、は倍になる。

どこの値かの変わり方
0.92筆者の谷の例1約10⁻⁹倍
0.0126論文の最小模型(重み4個)0.75倍
0.000論文のVGG-12(重み1万2036個)ほぼ変わらない

同じ100億倍の精度でも、1行目と3行目では結果がまるで違う。

はフラクタルの濃さとも結びつく。1次元で、幅の箱で境目を覆うのに個要るとしよう。がボックスカウント次元である。迷う割合は箱の全長で決まるから、となる。

がほぼ0なら、境目が全体を埋めかけている。論文はこの違いを、面積が0の「やせた」フラクタルと、面積を持つ「太った」フラクタルで区別する。マンデルブロ集合の記事にある2024年の学習率の地図は、やせたほうの例として挙げられている。

のとき、を半分にするのに何桁要るのか。桁数をとして、を解く。なのでで、となる。コンピューターがふつう使う倍精度の数は10進で16桁ほどなので、届かない。

平均では近づくのに押し出される

穴だらけになる仕組みは、論文の最小模型で読める。ネットワークの中で計算する単位をニューロンと呼び、この模型には2つしかない。重みは4個、データは8点で、最初の式を学習率2.5のまま乱数なしでくり返す。行き先は主に3つで、2つのニューロンの重みがそろう面、符号だけ逆にそろう面、そして発散。そろった2つは同じ傾きを受けるので、そろったまま動く。

面の中の動きはカオスになる。ロジスティック写像やローレンツ・アトラクターと同じく、小さな差が1歩ごとに同じ割合で開く性質だ。その開き方を表すリアプノフ指数は、論文の値で0.1564。差は1歩で倍になる。をの何乗かを表す記号として、差が1に届く歩数を計算する。

一方、面から離れる向きの指数は−0.0645で、平均では1歩ごとに倍に近づく。ところが32歩ごとに区切ると、25.3%の区間で逆に離れる。128歩なら9.4%、512歩なら0.8%。

平均で近づくのに、ときどき押し出される。

カオスの軌道は押し出す場所の近くを何度も通るので、面のすぐそばのどこにでも、外へ飛ばされる出発点が混ざる。同じ行き先へ向かう出発点の集まりを吸引域といい、こうして穴だらけになったものをriddled basinと呼ぶ。カオスが読めなくするのは軌道の細部だが、これは行き先そのものを読めなくする。

地図にすると、どう見えるのか。筆者も同じ構成の模型を計算してみた。論文のデータではなく、別の乱数のデータを30通り試した。面の中がカオスで平均では面に近づく組は5つあり、次の地図はその1組で描いた。

横は面に沿う向き、縦は面から離れる向き 幅0.2 幅2×10⁻⁵ 幅2×10⁻⁹
同じ構成の模型を筆者が別の乱数のデータで計算した。塗りつぶしはそろう面へ、小さな点は符号だけ逆にそろう面へ向かい、空いた所は発散などへ向かう。真ん中を横に通る線がそろう面にあたる。下の3枚は混ざり合う点を選び(中が空いた丸)、1万倍ずつ拡大したもので、2つの面へ向かう点はどの倍率でも6〜12%を占める。

出発点の差がでも、この模型の行き先は分かれることがある。

1 10⁻⁴ 10⁻⁸ 10⁻¹² 10⁻¹⁶ 0 250 500 750 1,000 符号が逆にそろう面へ そろう面へ 2つのニューロンの重みの差 学習の回数
筆者の計算。出発点の差は10⁻¹⁰で、86回目ごろから線が離れ始める。破線は差が縮み続け、実線は1の近くに残る。

この組のは約0.09で、は差で16%、で1.3%だった。12桁精密にしても、13分の1ほどにしかならない。条件を満たした5組のは0.03〜0.12に散らばり、この組は真ん中あたりにある。論文の0.0126まで小さい組はなかった。

1 10⁻² 10⁻⁴ 10⁻⁶ 10⁻⁸ 10⁻¹⁰ 1 10⁻⁴ 10⁻⁸ 10⁻¹² 10⁻¹⁶ 論文のVGG-12 論文の最小模型 筆者の模型 筆者の谷の例 行き先が違う割合 f 出発点の差 ε(右ほど精密)
傾きが指数φにあたる。谷の例はφが約0.92で急に落ち、筆者の模型はφが約0.09、論文の2本はほぼ水平になる。論文の線は、論文の図の高さと発表された指数から筆者が描き直した。

1万2036個の重みでも

より実際に近いネットワークで確かめたのは、穴だらけの証明ではなく、それと矛盾しない目印である。代表例はVGG-12という画像認識のネットワークで、数万個を学習させるために重みを1万2036個まで細くした。手書き数字のデータMNISTで正解の札(ラベル)の半分をわざと誤らせ、学習率0.1でデータを30周する。

毎回同じ結果になるCPUでも、わずかな乱れが入るGPUでも、はに収まった。発表の「100億倍」は、この10桁の幅にあたる。行き先は、出力の手前の層(隠れ層)のどのニューロンが消えるかで数え、255×255の地図に1772通り現れた。

冒頭の約48%は、基準のネットワークを1つ決めて重みの最後の1ビットを反転したときのである。の大きさは調べる場所で変わるので、どのAIにも当てはまる確率ではない。

答えまで割れるのだろうか。ここで数字は一気に小さくなる。重みが全部0へ向かう失敗を除くと、平均正答率は97.6%でそろい、答えが割れる入力はによらず一定だった。次の表の1行目にあたる。

モデルと課題学習率答えが割れた入力
VGG-12、ラベルの半分が誤りのMNIST0.1約2.9%
VGG-12、誤りのないMNIST0.1約3.5%
同じ0.001約0.4%
BERT、映画レビューの感情の分類5×10⁻⁵約27%
同じ10⁻⁷約0.1%

目を引くのは、文章を読むモデルBERTの27%で、10桁精密にしても減らなかった。同じBERTも学習率を下げれば0.1%までそろうが、この学習率は最適より小さい。多くの設定で、成績がよい学習率の近くほど再現しにくく、学習率を下げると成績も落ちる。もっとも、ラベルに誤りのないVGG-12にこの引き換えはなかった。

リー氏は発表で、同じ医療画像で学習した2つのがん検出AIが違うふるまいを学ぶ、という仮の場面を挙げる。ゴン教授は、乱数やハードウェアの差を除いても残る点を「もっと深いもの」と呼ぶ。

論文が次の手に挙げるのは、学習率を下げることのほかに、重みの入れ替えなどで答えが変わらない性質、つまり対称性を減らす設計だ。そろう面はこの性質から生まれる。桁を増やしても届かないなら、磨く先は出発点ではなく、歩幅と設計のほうなのだろう。

注

  1. 差をからまで変えて測った傾きである。この例の境目はに近づく列なので、をさらに小さくするとは1に近づく。 ↩

出典

  1. シドニー大学「Sydney researchers uncover a hidden limit to AI predictability」(2026年11月6日)
  2. A. Ly, P. Gong「Fractal basin geometry and the limits to predictability and reproducibility in deep learning」Nature Machine Intelligence(2026年11月5日)
  3. 同じ研究の公開版 arXiv:2510.05606(第2版・2026年9月19日)

この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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