光速に近い重いクォークへの大きな蹴りは減速側に偏る、MITらが理論で予測

ブラウン運動の釣り鐘の分布は、光速に近い重いクォークでは足りない。MITとUCSBの2人は、蹴りの分布に減速側へ長く伸びる指数の裾が付くと計算した。裾からプラズマの中身を探る案で、実験の確認はこれからである。

ブラウン運動正規分布ローレンツ変換

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光に近い速さで流体の中を飛ぶ重いクォークは、釣り鐘の形に収まらない蹴りを受けるはずだ。まれな大きな蹴りが釣り鐘の予想より起こりやすく、しかも減速する向きに偏る。そう計算したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院生ジャン・デュ・プレシ(Jean Du Plessis)氏と、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)のブルーノ・シャイヒング=ヒッチフェルト(Bruno Scheihing-Hitschfeld)氏。論文は2026年11月5日付のPhysical Review Lettersに載った。

クォークは陽子や中性子を作る粒で、グルーオンはクォークどうしをつなぐ粒である。舞台は、この2種類が飛び回るクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)。宇宙の誕生直後に数マイクロ秒だけあった1兆度ほどの流体で、今は加速器で原子核をぶつけると、原子核ほどの滴が10⁻²³秒ほどだけできる。その中を通る重いクォークの動きが、流体の中身を知る手がかりになる。

ただし、これは理論の計算で、実験で確かめた結果ではない。扱ったのは粒どうしの結合が弱いプラズマで、現実のQGPそのものでもない。

1分で7 µmずれる粒

出発点は、アインシュタインが1905年に説明したブラウン運動だ。花粉から出た細かい粒は、水の分子に四方から蹴られて、でたらめに動く。広がり方は次の2本の式で決まる。

は粒が1つの方向にずれた距離で、は多数の粒で平均した値を表す。は時間、は広がりやすさを示す拡散係数である。はボルツマン定数、は絶対温度で、が熱によるエネルギーの目安にあたる。は水の粘性係数、は粒の半径で、分母ので水の抵抗が決まる。

半径0.5 µmの粒を20 °Cの水に入れたとして、数を入れてみる。

1行目の分子はにを入れた値で、分母のは粘性係数である。2行目で割り算をし、秒を入れて掛け算し、最後に平方根をとる。1分で7 µmほどずれる計算だ。

−20 −10 10 20 0 60 120 180 240 60秒で7.2 µm 240秒で14 µm ずれ x(µm) 経過時間 t(秒)
細い線は筆者が乱数で作った6個の粒の動き。破線はずれの大きさの目安で、時間を4倍にすると2倍になる。

釣り鐘と指数の裾

小さな蹴りをたくさん足すと、1回ごとの蹴りの形によらず、合計は釣り鐘の形に近づく。中心極限定理と呼ばれる性質で、釣り鐘は正規分布の曲線を指す。

1 −4 4 −2 6 0 4 2 1 4 4回の合計 −16 −8 0 8 16 16回の合計
1回の蹴りは右か左へ1動くとした。棒の高さはその合計になる場合の数で、4回では1、4、6、4、1、16回では釣り鐘の曲線にほぼ重なる。

は山の中心、は山の幅で、はネイピア数である。の右上にのる数を肩と呼ぶ。肩に2乗があるので、中心を離れると曲線は急に下がる。

では、まれな大きな蹴りが混ざると何が変わるのか。中心を0、幅を1とすると、頂上を1としたときの高さはになる。これと、2乗のないを比べてみよう。どちらもでに等しいが、その先で差が開く。

割り算は肩の引き算になる。の形を指数の裾と呼ぶと、幅の6倍離れた所では釣り鐘の16万倍も起こりやすい。

1 10⁻² 10⁻⁴ 10⁻⁶ 10⁻⁸ 0 1 2 3 4 5 6 ここで同じ 55倍 16万倍 指数の裾 釣り鐘 山の頂上に対する高さ(1目盛りで100倍) 中心からの距離 x(幅の何倍か)
実線が釣り鐘、破線が指数の裾の高さ。縦軸は1目盛りで100倍になるので、指数の裾は直線になる。

釣り合いは1本の比で決まる

アインシュタインが示した芯は、抵抗と蹴りの関係にある。デュ・プレシ氏は、粒がいずれ周りと同じ温度になるには、この2つが「ちょうどよく釣り合わなければならない」とMITの発表で語る。

この釣り合いは、運動量の受け渡しで書くと見通しがよい。運動量は質量に速さを掛けた量で、は一定の時間にクォークが流体へ渡す進行方向の運動量を表す。正なら減速、負なら加速だ。がその起こりやすさで、速さの粒がを渡すと、エネルギーはだけ減る。

共著者のシャイヒング=ヒッチフェルト氏らは2025年、十分に重い粒なら、流体の種類や結合の強さによらず次の比が成り立つと導いた。

右辺の肩は、失うエネルギーを熱のエネルギーで割った数である。温度のそろった粒を表すボルツマン分布と同じ形で、エネルギーを失う蹴りのほうが、得る蹴りよりこの倍率だけ起こりやすい。

分布が釣り鐘だけなら、この比から何が言えるのか。を抵抗で失う運動量の平均、を蹴りで広がる分散(幅の2乗)として、釣り鐘の式で比をとる。

はの肩にのせる書き方である。1行目はとの式を割り、肩を引き算した。2行目で2乗を展開するとだけが残り、3行目で約分する。、、を入れると肩は3になり、次の図で確かめられる。

−6 −3 0 1 3 6 減速の高さ e⁻¹ ≈ 0.37 加速の高さ e⁻⁴ ≈ 0.018 中心 μ = 1 距離2 距離4 k
分散を2とした釣り鐘。eの肩の数は、中心からの距離の2乗を4で割って負にした値になる。2つの高さの比はe³、約20倍。

これが比の式に等しいなら、でなければならない。時間の間に、、と書ける。は運動量、は1秒あたりに抵抗で失う運動量の割合、は進行方向に受ける蹴りの強さで、分散もと同じく時間に比例する。入れてを消し、分母を払うと次の形になる。

論文が「アインシュタインの関係」と呼ぶ式だ。遅い粒なら質量を使ってで、も消えてとなる。つまり、抵抗が決まれば蹴りの強さも決まるのだ。

速い粒では釣り鐘が足りない

ところが粒が動いていると、この関係は厳密には成り立たない。弱結合プラズマでは、2005年のムーアとティーニーの計算で、精度を上げると破れることが知られていた。デュ・プレシ氏の言葉を借りれば「20年前から、何かが足りないと分かっていた」。

破れの大きさが式で分かっている例もある。クォークの力を表す量子色力学(QCD)に似た理論で、結合が強くても解けるN = 4超対称ヤン・ミルズ理論では、右辺を左辺で割ると、1ではなくになる。はローレンツ変換の係数で、は光速だ。

ならで、ずれは約5.7倍になる。釣り鐘で出せる肩は、必要な値の5.7分の1しかない。運動量を(熱のエネルギーを光速で割った量)を単位に測ってとすると、肩はで、必要な倍率と釣り鐘の倍率は大きく違う。

1 10 100 1,000 1万 0 2 4 6 8 10 比の式 1.3万倍 釣り鐘だけ 5.3倍 足りない分 減速と加速の起こりやすさの比 渡す運動量 k(kBT/c が単位)
速さは光速の0.95倍。結合が強いN = 4理論で知られたずれ5.7倍を入れて筆者が計算した。弱結合のQCDの値ではない。

足りない分は、どこから来るのか。

今回の答えが指数の裾である。2人はQCDを含む弱結合の理論で分布を計算し、真ん中は釣り鐘のまま、外側は指数になることを示した。を比例の記号とし、の大きさがとても大きい所をへ向かう矢印で表すと、裾は次の形をとる。

は裾の傾きを決める数で、論文はボラティリティ指数と名付けた。2本の式で比をとると、肩の引き算でが消える。

だから傾きの差がちょうどなら、がいくつでも比は成り立つ。減速側の傾きのほうが緩いので、減速側の裾が長い。抵抗の予想を超えて減速する大きな蹴りは、同じ大きさで予想より速く残す蹴りより起こりやすい、とデュ・プレシ氏は語る。

形を目で見るために、この比を厳密に満たす簡単な分布を筆者が作った。

1 0.1 0.01 10⁻³ 10⁻⁴ −10 0 10 20 30 減速の裾 傾き R 加速の裾 傾き R + v 山のまわりの 釣り鐘 起こりやすさ(頂上を1とする対数目盛り) 渡す運動量 k(正が減速)
筆者が作った模型で、論文の計算の曲線ではない。速さは光速の0.8倍、R = 0.2とした。実線は減速側で破線の釣り鐘より長く伸び、加速側では先に落ちる。

山のまわりだけを釣り鐘と見て比を計算すると、肩の傾きは0.44で、必要な0.8に届かない。それでも裾まで入れれば、比は厳密に合う。1

裾の長さが中身を語る

の値は何を教えてくれるのか。運動量をの単位で測ると、弱結合プラズマでは止まった粒で、光速に近づくととなる。結合が強いN = 4理論ではで、への効き方まで違う。はが大きいときの大きさの目安。

これらの式にを当てはめると、起こりやすさがに下がる幅は、弱結合で400、強結合で約57になる。加速側の幅はどちらも約1にとどまる。2形は同じでも、裾の長さは流体によって変わるわけだ。

デュ・プレシ氏は、大きな蹴りの頻度はプラズマのミクロな性質で決まり、中を知る新しい手段になるかもしれないと話す。論文は、抵抗と蹴りの強さにを足した3つの量で重いクォークの動きを表す案を出し、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の鉛衝突のデータが厳しい試験になるとみる。

もっとも、裾を測った実験は発表にも論文にも出てこない。計算は質量が十分大きい極限で、質量の逆数に比例する補正を除いている。現実のQGPにも同じ形があるという見通しは、結合が弱い場合と強い場合で同じ形が出たことからの推測にとどまる。デュ・プレシ氏はQGPが「気体より液体に近い」とも語るが、論文が数で示した結論ではない。

予測どおりなら、水の中で7 µmの揺れを説明した釣り鐘は、1兆度の滴でも真ん中に残る。外側は、たまにしか来ない大きな蹴りが受け持つ。

注

  1. 模型はで、はの何乗かを表す。運動量の単位はである。とで引き算すると平方根の項が消えてだけが残るので、比の式を満たす。裾の傾きは0.2と1.0になる。山の頂上はで、そこの曲がり方から分散は約12.1、となる。 ↩

  2. 論文の式はが十分大きい極限の形で、400と57は筆者がを入れた桁の目安である。論文に載った数ではない。加速側の幅はで計算した。 ↩

出典

  1. MIT News「Pinning down the structure of quark-gluon plasma, the universe’s first fluid」(2026年11月5日)
  2. J. F. Du Plessis, B. Scheihing-Hitschfeld「Heavy Quark Transport Is Non-Gaussian beyond Leading Logarithm」Physical Review Letters 137, 192302(2026年11月5日)
  3. 同じ研究の公開版 arXiv:2604.21895(2026年4月23日)
  4. K. Rajagopal, B. Scheihing-Hitschfeld, U. A. Wiedemann「Universal Equilibration Condition for Heavy Quarks」Physical Review Letters 135, 242301(2025年)の公開版 arXiv:2504.21139

この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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