7時に着く列車
「あの列車は、ここに7時に着く」。この一言は、時計の短い針が7を指すことと列車が着くことが同時に起きる、という意味だ。1905年、アルベルト・アインシュタインは論文「動いている物体の電気力学について」の最初の節「同時刻の定義」で、この例を挙げた。離れた場所の時計は、光が行きと帰りに同じ時間をかけると決めて合わせる、と定めている。
アインシュタインが出発点にしたのは2つの原理である。等速で動くどの立場でも物理の法則は同じ形になるという相対性原理と、光の速さは光源が動いていても変わらないという原理だ。そこから止まった立場と動く立場の時刻と場所を結ぶ式を導き、2つの出来事が同時かどうかは立場で変わる、と結論した。
同じ形の式は、前の年にヘンドリック・ローレンツが出していた。1904年、アムステルダムの学士院の紀要で、ローレンツは動く物体の電磁気を扱うために新しい変数を入れ、その時刻を「局所時」と呼んでいる。1905年6月5日、アンリ・ポアンカレはパリの科学アカデミーの報告で、電磁場の式を変えないこの変換を「ローレンツの名で呼ぶ」と書いた。
光の速さをそろえる式
図で納得する
地上に立つ人と、速さで走る電車に乗る人が、同じ1つの出来事を見るとしよう。地上の人はそれを場所、時刻に起きたと記録し、電車の人は電車の物差しと時計で測って、場所、時刻と記録する。ローレンツ変換は、この2つの記録を結ぶ式である。
の「′」はダッシュと読み、電車から測った値の印だ。ふだんの速さなら、電車の原点は時刻までにだけ進むので、電車の中の場所は、時刻はと考えてよい。
ところが、光の速さ m/sがどちらから見ても同じだとすると、この考えでは合わない。地上で速さの光は、電車から見るとに遅くなってしまうからだ。
では、光の速さが同じなら何が変わるのか。上下2枚の鏡の間を光が往復する「光の時計」を電車に積んでみる。電車の人には光がまっすぐ上下するだけだが、地上の人には鏡が横へ動くので、光は斜めの長い道を進んで見える。
光の速さが同じなら、長い道を進む分だけ時間がかかる。を電車の時計で測った時間、を地上の時計で測った時間とすると、三平方の定理からが成り立つ。両辺からを引いて左辺をでくくり、両辺をで割ってから、分母と分子をで割って平方根をとる。
地上の時計では、電車の時計の倍に延びて見える。このは次の形をしている。
γ(ガンマ)はローレンツ因子と呼ばれる。新幹線の時速300 kmでも、γは1より大きいだけ。ふだんの暮らしで差に気づかないのは、このためだ。ところが光の速さの60%なら1.25、99%なら7.09になる。
横軸に場所、縦軸にをとった図を時空図という。は時刻に光の速さを掛けた値で、光がその時間に進む距離にあたる。光はを進むので、時空図では横と縦が同じだけ増える45°の斜めの線になる。
つまみで電車の速さを上げると、電車の時間の軸と同時の線が、はさみを閉じるように光の線へ寄っていく。光の線を進む2つの点は光の先、中の抜けた丸は電車の原点で、光の線はいつも45°のまま、どちらの立場でも光の速さはだ。同時の線の上の3点は電車にとって同時に起きた出来事だが、地上の時間の軸へ引いた点線の高さはそろわない。
なぜ同時がずれるのか。電車の真ん中で光らせると、電車の人には光が前と後ろに同時に届く。地上の人から見ると、後ろの壁は光に向かって近づき、前の壁は逃げていくので、光は後ろに先に届くのだ。
式で確かめる
道すじは2段。電車の原点の動きと相対性原理から式の形を決め、光の速さが両方でになる条件からを求める(手順1〜11)。次に、場所の式を時刻について解き直してを出す(手順12〜21)。
γを決める
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電車の原点()は地上でを進むので、はに比例するとおき、比例の係数をとする
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電車から見ると地上はで動くので、相対性原理から同じ形の式が成り立つ
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時刻0に原点を出た光の先は、どちらから見ても速さで進む
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手順3を手順1に入れる
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手順3を手順2に入れる
手順4と手順5は、同じ1本の光を2つの立場で見た式だ。光の速さを両方でにするという条件が、の値を決める。
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手順4と手順5の左辺どうし、右辺どうしを掛ける
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両辺をで割る
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かっこを展開する
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両辺をで割る
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分母と分子をで割る
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正の平方根をとる
光の時計で出したと同じ式が、別の道から出てきた。速さが光に近づくと分母の根号の中が0に近づき、は限りなく大きくなる。
時刻の式を出す
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手順2のに手順1を入れる
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両辺をで割る
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を左辺へ移し、左右を入れかえる
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手順10の両辺の逆数をとる
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両辺にを掛ける
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手順14のに手順16を入れる
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2つのかっこを開く
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とが打ち消し合う
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両辺をで割る
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右辺をでくくる
数で確かめてみよう。ならで、光は1 μs(100万分の1秒)に300 m進む。地上で m、 μsに起きた出来事は、電車では次の場所と時刻になる。
は光が0.6 μsに進む180 m、は光が360 m進む時間の1.20 μsだ。電車では、この出来事が時刻0より前に起きたことになる。それでもは、地上で、電車でと、どちらも m²にそろう。
速さの足し算と、長生きする粒子
ローレンツ変換を使うと、速さの足し算も変わる。地上で速さで進む物を、速さの電車から見てみよう。
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物の位置を場所の式に入れる
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同じを時刻の式に入れる
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電車から見た速さはをで割った値で、とは約分で消える
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光()を入れ、分母をでくくる
光は電車から見ても速さのままで、最初に置いた原理とつじつまが合う。逆に、電車の上で前へ速さで投げた物を地上から見るときは、をにしたを使う。
で走る電車から前へで投げても、地上ではにしかならない。どれだけ足しても、光の速さを超えることはない。
時間の延びは、壊れやすい粒子の寿命にも表れる。ミュー粒子は止まっていると平均2.197 μsで壊れ、その間に光でも659 mしか進めない。ところが光の速さの99.5%で飛ぶとで、地上から見た寿命は10倍に延びる。
進む距離は、速さに平均寿命と、延びた倍率の10.0を掛けた値だ。
ポアンカレが書いたとおり、ローレンツ変換はマクスウェル方程式の形を変えない。物体のエネルギーはになり、止まっている()ときの値が質量とエネルギーの等価性のである。
電車の時刻と速さを計算する
例題 1大学速さ0.8cの電車で写す
速さの電車から、地上で m、 μsに起きた出来事を見る。とを求めよ。 m/sとする。
解説を見る
。 mなので、次のとおり。
s μsなので、次のとおり。
例題 2大学地上で同時の2つの出来事
地上の時刻に、と mで同時にランプが光った。速さの電車では、2つの時刻の差はいくらか。 m/sとする。
解説を見る
。のランプは。 mのランプは次のとおり。
電車では、前方のランプが1.5 μs早く光ったことになる。
例題 3大学宇宙船から打ち出す探査機
速さで進む宇宙船が、船から見て速さで前へ探査機を打ち出した。外から見た探査機の速さを求めよ。
解説を見る
にを入れる。
ふつうの足し算のにはならず、光の速さより遅い。
参考文献
- A. Einstein, "Zur Elektrodynamik bewegter Körper", Annalen der Physik 17 (1905), 891-921(ウィキソースの翻刻)
- H. A. Lorentz, "Electromagnetic phenomena in a system moving with any velocity smaller than that of light", Proceedings of the Royal Netherlands Academy of Arts and Sciences 6 (1904), 809-831(ウィキソースの翻刻)
- H. Poincaré, "Sur la dynamique de l'électron", Comptes rendus de l'Académie des Sciences 140 (1905), 1504-1508(英訳)
- Particle Data Group, "Leptons summary table", Review of Particle Physics(2024)(ミュー粒子の平均寿命)
- 明治大学「2026年度 シラバス 理工学部授業計画(物理学科 専門科目編)」(「相対性理論[物理]」は配当学年3年・春学期。授業計画の第6回に「4元ベクトルとローレンツ変換」)
- 新潟大学「マイナー・プログラム 物理学」(2026年度。理学部の「特殊相対論A」「特殊相対論B」の対象学年は3・4年)