−0.36と書かれたノート
0.36の前に、マイナスが付いていた。宇宙にある物質の量を計算した答えで、カリフォルニア大学バークレー校の研究員だったアダム・リースが、1997年の秋に実験ノートへ書きつけた。物質の量がマイナスになることはない。数字が告げていたのは、宇宙の膨張にかかっているのがブレーキではなくアクセルだ、ということだった。
手がかりは、数十億光年先の銀河で爆発したIa型超新星の暗さである。予想より2割ほど暗かった。暗いぶん遠くにあり、遠いということは、光が旅をするあいだに宇宙の膨張が速まっていたということだ。
リースがいた高赤方偏移超新星探索チーム(High-zチーム)は、膨張が重力でどれだけ遅くなっているかを測るつもりだった。物質どうしは引き合うので、膨張はしだいに遅くなるはずだと考えられていたからである。しかし計算すると、膨張は遅くなるどころか速くなっていた。

そこで、マイナスの物質の代わりに、リースはアインシュタインの宇宙項を式に入れ直した。何もない空間そのものが持つエネルギーで、重力とは逆に膨張を押し広げる。入れると観測はすっきり説明でき、宇宙のエネルギーの7割がこの形をとる計算になった。
驚くべき結果だった。こうした「発見」はたいてい単純な誤りから生まれると考えたリースは、2週間ほどかけて計算を見直したが、誤りは見つからなかった。
1998年1月、チームの中で電子メールが行き交った。宇宙項がゼロでないと本当に言い切れるのか、言い切って翌年に取り下げることにならないか、と慎重な声が続く。1月10日に結婚したばかりのリースは、新婚旅行に出る前の晩、こう書き送った。「この結果には、心でも頭でもなく、目で向き合ってほしい。私たちは観測者なのだから」。
チームは2月の電話会議で論文を進めると決め、リースは3月13日に投稿した。チームを率いたブライアン・シュミットは、のちに報道で「私自身の反応は、驚きと恐怖のあいだのどこかにある」と語っている。ソール・パールマッターが率いる別のチーム、超新星宇宙論プロジェクト(SCP)も、42個の超新星から同じ結論にたどり着き、1999年に論文を出した。
2つのチームが別々に同じ答えを出したことが、常識外れの結果が受け入れられる大きな理由になった。2011年のノーベル物理学賞は、半分がパールマッターに、残りの半分がシュミットとリースに贈られた。賞を選んだスウェーデン王立科学アカデミーは、この発見が「受賞者たち自身にとっても、まったくの驚きだった」と書いている。
加速を起こしているものは暗黒エネルギーと呼ばれるが、その正体はいまも分かっていない。
6等星から超新星の物差しへ
星の明るさを「等級」で表す習慣は、古代ギリシアにさかのぼる。日本天文学会の『天文学辞典』によると、ヒッパルコスは1000個あまりの星を記した星表で、星を明るさで6つに分けた。最も明るい星が1等、肉眼でやっと見える星が6等である。数が大きいほど暗いという逆さの目盛りは、ここから来ている。
18世紀の末にはウィリアム・ハーシェルが星の明るさと等級の関係を調べ、息子のジョン・ハーシェルは、1等星が6等星のほぼ100倍明るいことを見つけた。1856年、イギリスのノーマン・ポグソンは、この関係を等級の決まりにした。5等の差をちょうど100倍とし、1等から6等までの伝統の並びはそのまま残したのである。
では、星そのものの明るさはどう比べればよいのか。どの星も同じ距離に置いて見ればよい。その距離が10パーセク(pc)である。パーセクは天文学で使う距離の単位で、1 pcは光が3.26年かけて進む距離にあたり、10 pcは32.6光年になる。
10 pcから見たときの等級を絶対等級と呼ぶ。太陽を10 pcに置くと、目に見える光(Vバンド)で測って4.82等になる。
逆に、本当の明るさが分かっている天体なら、見かけの等級から距離が出る。そうした天体を標準光源という。遠い宇宙で使える標準光源の候補が、超新星だった。
1572年11月、ティコ・ブラーエはカシオペヤ座に現れた「新しい星」を観測し、月より遠くにあることを示した。2008年には、周りの塵に当たって4世紀あまり遅れて届いた光、いわば光のこだまを色ごとに分けたスペクトルが調べられ、この星がふつうのIa型超新星だったと分かっている。

Ia型超新星は、ふたつの星が回り合う連星の中で、白色矮星(燃え尽きた星の芯が残った小さな星)が相手からガスを受け取り、太陽の1.4倍ほどの重さに近づいたところで起こす爆発と考えられている。どれも似た明るさで輝き、1つで銀河全体ほどの光を出す。1938年には、ウォルター・バーデが超新星を距離の目安に使えると指摘していた。ただ、1つの銀河で起こるのは1000年に数回で、当時知られていた超新星は、明るさが2〜3倍以上もばらついていた。
ばらつきを減らしたのが、チリのセロ・トロロ汎米天文台にいたマーク・フィリップスである。1993年、近くのIa型超新星を調べ、明るいものほどゆっくり暗くなることを示した。暗くなる速さを測れば、本来の明るさを補正できる。
1988年、ローレンス・バークレー国立研究所のソール・パールマッターはSCPを立ち上げ、この超新星で宇宙の膨張がどれだけ減速しているかを測ろうとした。新月の直後に口径4 mの望遠鏡で何千もの銀河を撮り、約3週間後に同じ空を撮り直す。2枚を比べると、新しく光った超新星が、一度に1ダースほど見つかる。初めてまとめて見つかった半ダースほどの超新星を、1つにつき1本のシャンパンで祝ったと、パールマッターはノーベル賞の講演で振り返っている。
最初の7個は減速する宇宙を指していたが、数が少なく誤差は大きかった。宇宙項が無いとして計算すると、物質の量は、膨張がやがて止まるかどうかの境目を1として0.88と出た。
1994年の半ば、前の年にハーバード大学で博士の学位を得たブライアン・シュミットは、セロ・トロロでニコラス・サンツェフと、同じ天文台の口径4 mの望遠鏡で減速を測る計画を立てた。この望遠鏡には当時、4 m級でいちばん広い範囲を写せる2048×2048画素のCCDカメラが付いていた。9月29日に観測の提案書が出され、High-zチームが生まれる。ハーバード大学の大学院生だったリースも加わった。
High-zチームが1998年の論文で使った新しい10個の超新星は、1995年の秋と1996年の春に、このブランコ望遠鏡で見つかった。

100倍を5等に刻む
この証明の道すじ 等級の決まり(5等で100倍)を、明るさの比の式にする。光が距離の2乗で薄まることから、同じ超新星を距離に置いたときと10 pcに置いたときの明るさを比べる。2つを合わせると公式になる。
は光度距離と呼ぶ距離で、光が距離の2乗で薄まるとして、見た明るさから決める。近くの星では、ふつうの距離と同じになる。
公式のとは等級で、数が大きいほど暗い。1等と6等の差は5等で、明るさは100倍違う。5等で100倍なので、1等ごとに約2.5倍ずつ暗くなる。2.5を5回掛けると約100になる、と覚えておけばよい。
公式に出てくる(ログ10)は、「10を何回掛けるとその数になるか」を表す記号である。なので、10を3回掛けると1000なのでになる。1は10を1回も掛けていないのでである。
回数は整数とは限らない。1と10のあいだの数は0と1のあいだの値になり、、となる。つまり、は、数が10倍になるたびに1ずつ増える目盛りである。詳しい性質は対数の法則で読める。
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2つの星の等級を、、明るさを、とし、等級の差を明るさの比で書く。100倍は10倍を2回重ねたものなので、明るさが10倍になるたびに等級は5の半分の2.5ずつ小さくなる。10倍が何回あるかはで数えられる
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超新星が1秒に出す光のエネルギー(光度)をとする。光は半径の球の表面全体に広がるので、球の面積で割ると、地球に届く明るさになる
たとえば、手順1にを入れると、なのでになる。100倍明るい星は、等級が5小さい。
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同じ超新星を距離に置いたときの明るさと、10 pcに置いたときの明るさの比をとる。分母と分子にあるとは約分されて消え、をで割った形が残る
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手順1のを、をとし、手順3の比を代入する
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2乗の対数は、対数の2倍になる()。2.5と2を掛けて5にする
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分数を逆さにすると、対数は符号だけが変わる()。マイナスどうしが打ち消し合う
数を入れてみる。 pcならで、になる。10 pcより100倍遠い星は、明るさが1万分の1になり、等級では10等暗く見える。
を距離指数と呼ぶ。距離を10倍にするたびに、距離指数は5ずつ増える。1 pcで−5、10 pcで0、100 pcで5となり、『天文学辞典』の例とも合う。
図で納得する
近くの星なら、はふつうの距離と同じである。ところが数十億光年先の超新星では、光が届くまでのあいだに宇宙そのものが広がるので、考えることが1つ増える。
手がかりは赤方偏移だ。光は波で、山から山までの長さを波長といい、赤い光ほど波長が長い。宇宙が広がると、旅をする光の波長も同じ割合で伸び、色が赤い側へずれる。
光が出てから届くまでに宇宙が倍に広がっていれば、波長も倍になる(ハッブル・ルメートルの法則)。近い銀河のずれは、ドップラー効果と同じ式で遠ざかる速さに直せる。
では、同じの超新星は、どの宇宙でも同じ距離にあるのだろうか。そうではない。
なら、どの宇宙でも光は、宇宙が1.5倍に広がるあいだ旅をしてきた。ただ、1.5倍に広がるのにかかる時間が宇宙ごとに違う。
いまの膨張の速さが同じなら、昔の膨張がゆっくりだった宇宙ほど、広がるのに長くかかる。昔はゆっくりで今は速い宇宙、つまり加速している宇宙がそれにあたる。
旅の時間が長ければ、光はそのぶん長い道のりを進んできたことになる。同じの超新星が予想より遠く、暗く見えたのは、このためだった。
で比べると、光が出たのは、減速する宇宙で42億年前、一定の速さで広がる宇宙で47億年前、加速する宇宙で50億年前になる。いまの膨張の速さはハッブル定数で表し、銀河までの距離が1 Mpc(メガパーセク、100万pc=326万光年)増えるごとに、遠ざかる速さが毎秒何km増えるかを示す。値は3つとも70 km/s/Mpcにそろえ、加速する宇宙は物質3割と暗黒エネルギー7割として、当サイトで計算した。
式で確かめる
光度距離は、宇宙の膨張の式から計算できる。積分を使う、大学で習う内容である。
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手順2の両辺にを掛けてで割り、平方根をとってについて解く。こうして明るさから決めた距離が、光度距離である
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光が届いたいま、超新星があった銀河までの距離をとすると、光は半径の球面に広がっている。膨張する宇宙では、さらに光の粒1つのエネルギーがに減り、粒が届く間隔も倍に延びるので、明るさは分の1になる
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このを手順7の式に代入する。とが約分され、平方根をとると次の形になる
を出すには、光が旅をした時代ごとの膨張の速さが要る。赤方偏移のころの膨張の速さをと書き、いまの値がである。が少し増えるあいだに光が進む道のりは、そのころの膨張がゆっくりだった宇宙ほど長い。
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そこで、光の速さをで割ったものを、から光が出たまで細かく区切って足し合わせる。はこの「細かく区切って足し合わせる」を表す記号で、は0からまで動かす途中の値である
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空間が平らな(曲がっていない)宇宙では、は物質の割合と暗黒エネルギーの割合で決まる()
宇宙が今のの大きさだったころ、物質は縦・横・高さが縮んだぶん倍濃かった。暗黒エネルギーは、宇宙が広がっても薄まらない。膨張の速さの2乗がこの2つの濃さの合計に比例するので、平方根の中に2つが並ぶ。
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物質だけの宇宙(、)では積分を手で計算でき、次の式になる。、 km/s/Mpcで2,358 Mpcである
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物質も暗黒エネルギーも無い空っぽの宇宙では、膨張の速さが変わらない。空間の曲がりも入れて計算すると次の式になり、で2,677 Mpcである
物質3割と暗黒エネルギー7割の宇宙では、手順10の積分を数値で計算して2,833 Mpcになる。距離指数に直すと、減速が41.86等、一定が42.14等、加速が42.26等で、加速と減速の差は0.40等。1998年の50個と比べるシミュレーションの3本の線は、この3つの宇宙のを描いたものである。
0.25等を距離の比に直す
公式をについて解くと、等級の差を距離の比に直せる。リースらの論文は、遠い超新星が、宇宙項が無く物質の少ない宇宙(物質の割合0.2)の予想より、平均0.25等暗いとした。この「0.25等」が、計算すると論文の要旨にある「10〜15%遠い」に変わる。
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両辺を5で割る
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対数を外して、10の累乗の形に戻す(とは同じこと)
-
両辺に10 pcを掛ける
数を入れてみる。Ia型超新星の絶対等級を仮に等とし、見かけの等級が等なら、である。電卓でなので
となる。1 pcは3.26光年なので、約59億光年である。
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同じの超新星が2つあり、見かけの等級が、のとき、手順3の式どうしを割る
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10 pcを約分し、10の累乗どうしの割り算を、掛けた回数の引き算にする(と同じ)。も消える
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予想より0.25等暗かった、つまりを入れる
つまり、0.25等暗いことは、予想より12%遠いことにあたる。論文の結論にある0.25〜0.28等は12〜14%で、要旨の「10〜15%」と合う。明るさは倍になる。リースがノーベル賞の講演で語った「予想より20%暗かった」も、同じことを明るさで言ったものである。
暗さの犯人を絞る
1998年の論文の表には、超新星ごとに、明るさの補正を済ませた距離指数が載っている。の超新星SN 1996Hでは42.98等なので、途中の計算の手順3から次の値が出る。
光年に直すと約129億光年になる。ただし、光度距離は光が進んだ道のりとは違い、宇宙が広がったぶん大きく出る。
論文の距離指数は、ハッブル定数を65.2 km/s/Mpcとした目盛りで出してある。予想の値も同じ km/s/Mpcで計算すると、減速する宇宙(物質だけ)で42.52等、一定の速さの宇宙で42.86等、物質3割と暗黒エネルギー7割の宇宙で42.98等になる。測った値は加速する宇宙の予想とぴったり重なり、減速する宇宙の予想より0.46等暗い。
ただ、暗く見える理由はほかにも考えられる。手前の銀河の塵が光を吸えば、超新星は暗くなる。
ふつうの塵は青い光ほど強く吸うので、色が赤くなったぶんから補正できるが、どの色も同じだけ吸う「灰色の塵」は色を変えない。1999年、ハーバード大学のアンソニー・アギーレは、銀河のあいだに広がる灰色の塵でも観測をまねられると指摘した。
それでも、見分ける方法はあった。塵なら、遠くを見るほど通り抜ける塵が増え、暗さのずれは増え続ける。
加速なら、もっと昔の宇宙では物質の重力が勝って膨張は減速していたはずなので、ずれはほどで頭打ちになり、そこから縮んでいく。が1.3ほどを超えると、空っぽの宇宙の予想よりかえって明るく見える。
2001年、宇宙望遠鏡科学研究所に移っていたリースは、1997年に見つかった超新星SN 1997ffが、ハッブル宇宙望遠鏡の赤外線カメラの撮影の端に偶然写っていたことに気づいた。光を拾い集めると、のIa型超新星で、灰色の塵の場合の予想より約60%明るかった。明るさの比1.6を、証明の手順1の式で等級の差に直すと次のとおり。
約0.5等の差は、宇宙がかつて減速していたことを示していた。暗さの犯人は塵ではなく、膨張の歴史そのものだったことになる。ノーベル物理学賞の科学的な解説も、が1を超える超新星の観測から、昔は重力が膨張を遅らせていたことが分かったと書いている。
等級から距離と時間を出す
例題 1基本等級の差を明るさの比に直す
(1)3等星は8等星の何倍明るいか。(2)星の明るさが1000分の1になると、等級はいくつ大きくなるか。(3)1等星は4等星のおよそ何倍明るいか。1等の差は約2.512倍とする。
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(1)8 − 3 = 5等の差なので、明るさは100倍である。
(2)明るさの比を、証明の手順1の式に入れる。は10で3回割った数なので、である。
等級は7.5大きくなる。
(3)4 − 1 = 3等の差なので、2.512を3回掛ける。
およそ16倍明るい。
例題 2基本距離指数から距離を出す
ある星の見かけの等級は12.0等、絶対等級は−3.0等である。(1)この星までの距離をpcで求め、光年に直せ。1 pcは3.26光年とする。(2)同じ星が10倍遠くにあったら、見かけの等級は何等になるか。
解説を見る
(1)である。途中の計算の手順3に入れる。
1万pcで、光年、約3万3000光年である。
(2)距離が10倍になると、も10倍になり、は1増える。は5増えて20.0になるので、等である。
例題 3入試予想より何%遠いか
赤方偏移0.5の銀河にIa型超新星が見つかり、明るさの補正を済ませた最も明るいときの見かけの等級は23.0等だった。Ia型超新星の最も明るいときの絶対等級を−19.3等とする。(1)光度距離をpcで求めよ。を使ってよい。(2)物質だけで膨張が減速する宇宙なら、この赤方偏移の光度距離は pcと予想される。測ったは予想より何%遠いか。(3)明るさは予想の何倍か。
解説を見る
(1)である。
(2)予想との比をとる。
予想より約22%遠い。
(3)明るさは距離の2乗に反比例する。
予想の約0.67倍で、3分の1ほど暗い。等級では約0.4等暗い。
例題 4難関塵の減光を見落とすと
光が塵に吸われて等だけ暗くなっているとき、見かけの等級はだけ大きくなるので、距離の式はとなる。(1)等の塵を見落としてで計算すると、距離を何倍に見積もることになるか。(2)遠い超新星が暗いのは加速のせいではなく、宇宙に一様に広がる灰色の塵のせいではないか。この疑いを観測で調べるには、どんな超新星を観測すればよいか。理由とともに答えよ。
解説を見る
(1)正しい距離を、見落としたときの距離をとすると、はよりだけ大きい。途中の計算の手順5と同じように割り算をする。
約1.12倍、12%遠く見積もってしまう。
(2)赤方偏移が1を大きく超える、もっと遠い超新星を観測すればよい。塵なら、遠いほど通り抜ける塵が増えるので、暗さのずれは大きくなり続ける。加速する宇宙なら、昔は物質の重力で減速していたので、ずれはほどを境に小さくなり、が1.3ほどを超えると空っぽの宇宙の予想より明るく見える。2つの予想が分かれるところで測れば、どちらが正しいかが決まる。
例題 5大学空っぽの宇宙と物質だけの宇宙を比べる
光の速さを km/s、 km/s/Mpcとする。(1)空っぽの宇宙の光度距離を使い、の(Mpc)と距離指数を求めよ。(2)物質だけの平らな宇宙の光度距離について同じものを求めよ。(3)2つの距離指数の差は何等か。距離の比はいくらか。
解説を見る
Mpcである。1 Mpcは pcなので、Mpcで測ったを10 pcで割るとになる。なので、距離指数はで計算できる。
(1)
(2)なので、である。
(3)差は等で、距離の比はである。物質だけの宇宙なら、同じの超新星は0.28等明るく、14%近くに見えるはずだった。
共通テストで問われた等級
- 2026年 大学入学共通テスト 本試験 地学 第5問 問3:セイファート銀河の赤外線のスペクトルでは、低温の星間塵に吸収された波長10 μmの明るさが、吸収が無いときのおよそ10分の1になっている。そこから等級がいくつ大きくなるかを読み、可視光線では等級の差がその約20倍になるとして、明るさが何分の1になるかとの組み合わせを選ぶ。問題は大学入試センターの令和8年度 本試験の問題で読める。
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 地学 第5問 問5:年周視差が0.10″、見かけの等級が1.0等の橙色の恒星について、HR図(横軸に星の色、縦軸に明るさをとった図)の上の位置を選ぶ。距離(pc)は年周視差(″)の逆数なので、0.10″なら10 pcで、見かけの等級がそのまま絶対等級になる。問題と正解は大学入試センターの令和6年度 本試験の問題にある。
ブレーキからアクセルへ
物質3割と暗黒エネルギー7割の宇宙では、決まった2つの銀河が離れていく速さが、約61億年前にいちばん遅くなり、そこから速まり続けている。宇宙の始まりから数えると約73億年のところで、今の年齢約135億年の半分を少し過ぎたあたりにあたる。ノーベル物理学賞の科学的な解説も、加速が始まったのは宇宙が今のおよそ半分の年齢のころだと書く。パールマッターは講演で、最初の約70億年は減速し、最近の約70億年は加速してきたと語っている。
1998年の50個を3本の線と比べる
点は、リースらが1998年の論文の表に載せた50個のIa型超新星で、左に固まる近い34個と、右へ広がる遠い16個である。縦軸は空っぽの宇宙で予想される距離指数との差で、上ほど暗く遠い。遠い点は一定の線より上に集まり、減速の線からは大きく離れる。
暗黒エネルギーの割合を動かすと太い線が上下し、0.65〜0.7のあたりで遠い15個の平均のずれがほぼ0になる。点をたたくと、その超新星のからを出す計算が下に出る。白丸の1個(SN 1997ck)は種類の確認がとれていないもので、平均には入れていない。「距離で見る」に替えると、縦軸が光度距離(億光年)になる。
等級の目盛りが届く学問
- 天文学 星団や銀河までの距離を測るとき、標準光源の見かけの等級と絶対等級の差から距離を出す。近い星は年周視差で距離を測って絶対等級を決め、その目盛りでケフェイド変光星、さらに超新星へと、距離のはしごを1段ずつ延ばしていく。星団のHR図の縦軸を、見かけの等級から絶対等級に直すときにも距離指数が要る。
- 物理学 暗黒エネルギーの正体を探るとき、超新星のとの関係から膨張の速さの移り変わりを読み、宇宙項のように変わらないのか、時間とともに変わるのかを調べる。素粒子物理で真空のエネルギーを素朴に計算すると、測った値よりけた外れに大きな答えが出てしまい、この食い違いを説明する理論はまだ無い。
- 数学 何桁も違う量を1本の目盛りに並べるとき、対数を使う。等級は明るさの比の常用対数に−2.5を掛けたもので、音の大きさのデシベルや、水溶液の酸性度のpHと同じ仕組みの目盛りである。掛け算でつながる比を、足し算で扱える。
2.9まで延びた超新星の物差し
- 2022年Pantheon+の研究チーム(ディロン・ブラウト、ダン・スコルニック、アダム・リースら): 赤方偏移0.001から2.26までの1,550個のIa型超新星、1,701本の光度曲線を1つの解析にまとめた。超新星ごとに距離指数を求め、の予想と比べると、平らな宇宙で物質の割合はになる。ケフェイド変光星で目盛りを合わせると、は73 km/s/Mpcあまりになる。出典はBroutほか「The Pantheon+ Analysis: Cosmological Constraints」The Astrophysical Journal 938 (2022), 110・arXiv:2202.04077。
- 2023年 すばる望遠鏡HSCの戦略枠観測(HSC-SSP)の研究チーム: すばる望遠鏡の超広視野カメラHyper Suprime-Camで、北天416平方度の銀河の形を撮った。手前の物質の重力で、奥の銀河の像はわずかにゆがむ。この弱い重力レンズを3年分のデータで測ると、物質の固まり具合はで、プランク衛星の2018年の結果とは2σほどずれる。σは測定のばらつきを単位にしたずれの大きさで、2σのずれは偶然でも20回に1回ほど起こる。ゆがみの強さは、手前の物質と奥の銀河までの距離の比で決まる。その距離は、光度距離とで結ばれる角径距離である。超新星の明るさとは別の道筋で、膨張の歴史と物質の育ち方を試せる。出典はDalalほか「Hyper Suprime-Cam Year 3 Results: Cosmology from Cosmic Shear Power Spectra」Physical Review D 108 (2023), 123519・arXiv:2304.00701。
- 2024年JWSTの深宇宙探査JADESの研究チーム: ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の画像から、赤方偏移2.903の銀河に現れたSN 2023adsyを見つけ、Ia型の可能性が高いと分類した。当サイトの計算では、光が出たのは約113億年前になる。色がかなり赤く、カルシウムの吸収線から出す速さも毎秒1万9000 kmと速い変わり種だが、明るさをそろえる補正をかけた光度距離は、標準的な宇宙のモデル(ΛCDM)の予想と1σ以内で合った。から出す距離が、宇宙の初めのほうでも同じ目盛りで使えそうだという手がかりになる。研究チームは、決めるにはもっと多くの遠い超新星が要るとしている。出典はPierelほか「Discovery of an Apparent Red, High-velocity Type Ia Supernova at z = 2.9 with JWST」The Astrophysical Journal Letters 971 (2024), L32・arXiv:2406.05089。
- 2024年 ツビッキー・トランジェント・ファシリティ(ZTF)の研究チーム: 2018年3月から2020年12月までに、赤方偏移0.3未満の近いIa型超新星を3,628個見つけ、すべて分光で種類を確かめて公開した(DR2)。よく調べた近くの超新星の数を一桁増やし、赤方偏移と距離指数を並べたハッブル図で、点のばらつきは0.15等だった。当サイトの計算では、で、距離にして7%ほどのばらつきにあたる。宇宙論の値を出すのは、明るさを測る精度を上げた次の公開(DR2.5)になる。出典はRigaultほか「ZTF SN Ia DR2: Overview」arXiv:2409.04346。
- 2025年 暗黒エネルギー分光装置(DESI)の国際共同研究: 3年分、1,400万を超える銀河とクエーサーの地図から、バリオン音響振動(BAO)という物差しで距離を測った。距離と赤方偏移の関係は、同じ範囲の超新星とも合う。宇宙マイクロ波背景放射(CMB、宇宙の初めのころに出た光の名残)と合わせると、暗黒エネルギーが時間とともに変わるモデルのほうが3.1σ、超新星も加えると2.8〜4.2σよく合う。BAOで測る距離と光度距離はで結ばれ、1本の膨張の歴史で比べられる。その後の経緯は暗黒エネルギーは弱まっているのかで詳しく読める。出典はDESI Collaboration「DESI DR2 Results II: Measurements of Baryon Acoustic Oscillations and Cosmological Constraints」Physical Review D 112 (2025), 083515・arXiv:2503.14738。
1998年に50個だった点は、いまでは数千個になった。暗黒エネルギーが何なのかは、その点が描く線の、わずかな曲がりの中にまだ隠れている。
参考文献
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- S. Perlmutter et al., "Measurements of Ω and Λ from 42 High-Redshift Supernovae", The Astrophysical Journal 517 (1999), 565-586. arXiv:astro-ph/9812133
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- 日本天文学会『天文学辞典』「等級」「絶対等級」「距離指数」「光度距離」「パーセク」