シミュレーションで見る

電子レンジで温めるとなぜむらができるのか

Why microwave ovens heat food unevenly

板チョコに並ぶ溶けた点は、庫内に立つ波の腹の跡。

庫内の電磁波は壁で跳ね返って定在波になり、腹だけが強く温まる。箱の共振の式で模様を作り、ターンテーブルがならすもの、チョコの跡から光の速さを出す落とし穴、水と2.45 GHzの関係を読む。

公式
3 本
人物
ロビン・フォード、ダイアナ・メイソン、ジョン・ガーリング、ロバート・スタウファー、シュー・ジョウ、ジュミン・タン、クリシュナムーシー・ピッチャイ、クリストファー・ベアード、ダニエル・エルトン、デイヴィッド・イサドア
場面

板チョコに並ぶ溶けた点

電子レンジのターンテーブルを外し、伏せた皿に板チョコを1枚のせて15秒温めても、チョコは端から端まで一様には溶けない。溶けた所が数cmおきに点々と並び、そのあいだは固いまま残る。庫内では2.45 GHzの電磁波が金属の壁で跳ね返って重なり、電場が強く揺れる所と、ほとんど揺れない所が交互にできるからだ。

温め直したご飯に、熱い所とぬるい所が混ざる。あのむらの大きな原因も、この揺れ方の模様にある。

板チョコの手順は、『Chem 13 News』という雑誌の2018年2月号に授業の案として載った。カナダのウォータールー大学の化学科が、化学の先生に向けて出していた雑誌である。書いたのは、テキサス州の教育サービスセンターのロビン・フォードと、ノーステキサス大学名誉教授のダイアナ・メイソン。2人は12 cm以上ある板チョコを使い、溶けた点の間隔を2倍すれば電磁波の波長になると説明した。波長に周波数を掛ければ、光の速さが出る。

同じ発想は前からあった。1997年には物理の先生向けの雑誌『The Physics Teacher』に、ロバート・スタウファーの1ページの記事が載っている。マシュマロで光の速さを求める、家でできる実験だ。

2018年4月、『Chem 13 News』に1通の投書が載った。マイクロ波加熱のコンサルタント、ジョン・ガーリングは、点の間隔が半波長になるのは何もない空間を進む波の話で、電子レンジのような閉じた共振器の中では「必ずしもそうならない」と書いた。

溶けた点の間隔は何で決まっているのだろうか。

考え方

金属の壁は弦の端と同じ

金属の壁の表面では、壁に沿う向きの電場が0になる。壁を完全な導体とみなしたときの条件で、両端を留めた弦が端で動けないのと同じ形をしている。

弦の振動では、端で跳ね返った波ともとの波が重なり、まったく動かない節と大きく揺れる腹が交互に並んだ。節から節までは半波長で、弦の長さには半波長がちょうど整数個入る。電子レンジの壁と壁のあいだにも、同じ定在波ができる。2.45 GHzの波長はマクスウェル方程式の記事で計算したとおり約12.2 cmなので、半波長は約6.1 cmになる。

温まる速さは、電場そのものではなく、その2乗で決まる。2009年にハーバード大学のデイヴィッド・イサドアらが論文に書いた式では、水のような物質が単位体積あたりに受け取る電力は次のようになる。

は角周波数、は真空の誘電率、は物質と周波数で決まる損失係数である。腹では電場が正の向きにも負の向きにも大きく振れるが、2乗すればどちらも正になる。だから熱い点は1波長のあいだに2回現れ、その間隔は半波長の約6.1 cmになる。

チョコの間隔を2倍して波長とみなす計算は、弦1本で考えたこの描像に立っている。

しかし庫内は弦ではない。横と奥行きと高さの3つの向きに壁を持つ箱である。

式

箱に入る半波長を数える

横、奥行き、高さの金属の箱を考える。箱の中で決まった模様のまま振動する電磁波の形を、モードと呼ぶ。ワシントン州立大学のシュー・ジョウとジュミン・タンらが2023年の論文で使った解き方に沿って、モードが1つだけ立っているときの熱い点の間隔を求める。

  1. 壁に沿う電場は両側の壁で0になる。電場の各成分はの向きにかの形で変わり、はの整数倍に限られる。ほかの向きも同じである。

  2. 真空の電場はマクスウェル方程式から導かれる波動方程式を満たす。

  3. 周波数で振動するモードを入れると、3つの波数を2乗して足した値が決まる。

  4. 手順1を代入してについて解くと、箱が共振する周波数になる。

  5. 温まる速さは電場の2乗で決まり、との周期はどちらもである。の向きに並ぶ熱い点の間隔は次のようになる。

  6. 手順4の両辺を2乗し、波長と、などを入れる。

  7. 左辺の2つ目と3つ目の項は0以上なので、の向きの間隔は半波長を下回らない。

等号が成り立つのは、モードがとの向きにまったく変わらないときだけである。ところが、ジョウらの論文が挙げる条件によると、箱の中に立つモードは、3つの番号、、のうち2つ以上が0でない。

1つのモードだけが立つ庫内では、壁に沿って置いたチョコの点の間隔は、いつも半波長より長い。

その間隔を2倍して周波数を掛けると、光の速さは本当の値より大きく出る。意外なのは、ずれる向きが大きいほうに決まっていることだ。

数で見ておく。横40 cm、奥行き30 cmの箱で、高さの向きに変わらないのモードを探すと、2.45 GHzにいちばん近いのはで、手順4から2.461 GHzになる。熱い点は横に cm、奥行きに cmの間隔で並ぶ。手順6の左辺はで、2.461 GHzの波長12.18 cmで作った右辺のと一致する。

横40 cm、奥行き30 cmの箱に立つ(6, 2)のモードを上から見た図。網をかけた所が熱く、点線は節。壁に沿って置いたチョコは横に6.67 cmおきに溶け、半波長の6.12 cmより長い。右は波数の直角三角形で、横の波数は斜辺の2π/λより小さいので、間隔はいつも半波長より長くなる。

もっとも、家庭の電子レンジで立つモードは1つではない。ジョウらが論文で引く例では、2450 MHzと表示された家庭用のマグネトロンが2425〜2475 MHzの電磁波を出す。この幅の中では、庫内にいくつもの定在波ができることがあるという。筆者が手順4で数えると、横40 cm、奥行き30 cm、高さ25 cmの箱では、この50 MHzの幅に番号の組が8通り入った。電場の向きが違うものを別に数えると、共振するモードは13個になる。

シミュレーション

網点で見る庫内の定在波

箱は上から見た庫内で、網点が濃いほど電場の2乗が大きい。つまみで横と奥行きを変えると、2.45 GHzに近いモードが入れ替わって模様が変わる。「チョコ(横)」と「チョコ(縦)」では板チョコが温まり、溶けた点の間隔の平均からを出し、庫内をたたくとチョコが動く。「皿」では取り出した皿に温まり方が少しずつ積もっていき、「皿を回す」を押すと皿が回る。

考え方

同じ庫内で1.08倍と2.61倍

シミュレーションは上から見た2次元の計算で、高さの向きに変わらないのモードだけを使った。共振が2.45 GHzから20 MHz離れると強さが半分になるように重みを付け、モードごとの電場の2乗を足した。マグネトロンの周波数が幅を持って揺れることを、大まかにまねた形である。食品が電磁波を乱す効果は入れていない。

最初の大きさのまま「チョコ(横)」を選ぶと、溶けた点は6つ並び、間隔の平均は6.63 cmになる。は m/sで、本当の値の1.08倍だ。チョコを縦に置き直すと点は2つしかできず、間隔は15.98 cm、光の速さは2.61倍にもなる。どちらも手順7のとおり、大きいほうへずれている。庫内の真ん中の列をたたいてチョコを移すと、そこはのモードの節に当たり、点は1つも溶けない。

箱を30 cm四方にすると、様子が変わる。横に置いたチョコの点の間隔は、8.11 cm、5.33 cm、8.11 cmと不ぞろいになった。

5.33 cmは、半波長の6.12 cmより短い。

正方形の箱ではとのモードが同じ2.498 GHzで共振し、2つの模様が重なるからだ。手順7が言えるのはモードが1つのときだけで、混ざれば間隔は短くも長くもなる。

ガーリングは投書で、実際の庫内では熱い点どうしの距離が大きくばらつくことを図で示し、測り方を変えた。溶かしたチョコチップを大きなターンテーブルに平らに広げて冷やし、回らないようにして5分ほど温める。溶けた所の中心にゼリービーンズを置いて距離を測ると、いちばん短い間隔は6 cm前後だった。同じ周波数の定在波の山どうしは半波長より近づかない、という考えから最短の間隔を選んだという。それより短い間隔は、チョコの面のすぐ上にある熱い点が溶かしたものかもしれない、とも書いている。

筆者の見立てでは、1本の板チョコで測った間隔は、その庫内に立ったモードの組み合わせを映した値で、光の速さの測定としては当たり外れが大きい。広い面で最短の間隔を拾うガーリングの方法は、半波長という下限を手がかりにする分だけ筋がよい。ただ、シミュレーションの30 cm四方の箱のように模様が混ざると、最短の間隔が半波長を下回ることもある。1本の板チョコで半波長に近い間隔が出ても、それは庫内の模様がたまたまそうなっていた、ということなのだろう。

考え方

回る皿にも動かない点

ターンテーブルの上の1点は中心からの距離を保ったまま、庫内の模様の中を1周する。1周のあいだに受け取る熱は、その円に沿って電場の2乗を平均したものになる。だから回せば、同じ円の上のむらはならされる。

ならされないのは、半径の向きのむらだ。

シミュレーションで「皿」を選び、むらを変動係数(標準偏差を平均で割った値)で測ると、最初の大きさでは止めたままの0.73が、回すと0.22まで下がる。それでも取り出した皿には同心円の縞が残る。皿の中心は回っても同じ場所にとどまるので、何周させても温まり方は変わらない。最初の大きさののモードでは節が庫内の中心を通り、皿の中心は平均の0.45倍しか温まらない。

中心が冷えるか熱くなるかは、庫内の大きさで変わる。20 cm四方の箱にすると、中心は逆に平均の2.53倍温まる。

実物の電子レンジでも、半径ごとの温まり方を測った例がある。ネブラスカ大学のクリシュナムーシー・ピッチャイは2011年の修士論文で、36の区画に分けた直径12インチ(約30 cm)の容器を19台の家庭用電子レンジに入れ、1 Lの水を2分温めて温度を比べた。要旨によると、中心からの距離と向きで温まり方を比べた結果、ターンテーブルの縁に置いたときがいちばん速く、むらも少なかった。ピッチャイは同じ要旨で、温めむらの大きな原因に庫内の定在波の模様を挙げている。縁がよかったことには、縁ほど大きな円を描いて模様の中を広く動くことが関わっているのかもしれない。

式

20 GHzの山の裾で温める

電子レンジの周波数は水分子の共振に合わせてある、という説明を聞いたことはないだろうか。これは正しくない。ウェストテキサスA&M大学の物理学者クリストファー・ベアードは解説の記事で、電子レンジの電磁波は、水が共振する周波数に合わせていないと書き、この説明を俗説と呼ぶ本の一節も引いている。

水が電磁波を吸う仕組みは、共振ではなく緩和である。イサドアらの説明では、物質の中の電気双極子が変化する電場の向きにそろおうとし、その動きのエネルギーが粘性によって周りへ熱として散る。水の分子も、この双極子を持つ。ダニエル・エルトンが2017年に過去の研究を検討した論文によると、この吸収はデバイ緩和と呼ばれ、山の頂上は約20 GHzにあって、周波数の6桁にわたる幅の広い山になっている。どんな分子の動きがこの山を生むのかについては、研究者の見方がそろっていないという。

  1. 水の比誘電率を複素数で書くと、デバイの式になる。は低い周波数での値、は分子の向きが追いつかない高い周波数での値、は緩和時間である。

  2. 比誘電率をと書き、熱に変わる分を表すを取り出すと、損失係数になる。

  3. がいちばん大きくなるのはのときで、 psなら次の周波数になる。

  4. 2.45 GHzではが小さく、山の裾に当たる。

  5. 平面波が水の中を進むとき、電力がに減るまでに進む深さは、比誘電率の実部と虚部から出せる。

手順3の19 GHzは、エルトンが挙げる山の頂上、約20 GHzとほぼ合う。英国立物理学研究所(NPL)の2012年の報告では、25 °Cの水の静的な比誘電率は78.55である。エルトンの論文が並べた25 °Cの測定では、緩和時間はおよそ8.3 ps、デバイ緩和の強さはおよそ73。これらを使って筆者が純水について計算すると、2.45 GHzでは、で、は約1.9 cmになった。損失係数がいちばん大きい19 GHz付近では、は約0.5 mmしかない。

山の頂上の周波数を使えば、電磁波は表面の0.5 mmほどで吸われて、中まで届かない。2.45 GHzは吸われ方が弱い分、1.9 cm進んでも電力の37%が残る。イサドアらの論文にも、2.45 GHzでは水がまだよく電力を吸うとある。食品の値は塩分などの成分で変わるので、ここでの数字は純水の目安である。

2.45 GHzという値そのものは、電波の決まりから来ている。国際電気通信連合(ITU)の無線通信規則の脚注5.150は、2400〜2500 MHzを、中心周波数2450 MHzの産業・科学・医療用(ISM)の帯域に指定している。この帯域の無線通信はこうした機器が出す混信を受け入れなければならない。日本の電波法施行規則でも、電子レンジの型式確認では、占有周波数帯幅に含まれる周波数が2,450 MHz±50 MHzの範囲に収まることが最初の条件になっている。アメリカの規則には915 MHz±13 MHzの枠もあり、ジョウらによると、食品を工業的に殺菌する装置では、915 MHzで1つのモードだけを立てる方式が使われている。

光子1個のエネルギーも見ておく。光のエネルギーの記事で計算したとおり、2.45 GHzの光子は約 eVで、25 °Cの分子が熱運動で持つエネルギーの目安 eVの約2,500分の1しかない。

光子1個で分子の結合が切れることはない。仮に出力が1,000 Wなら、1秒に約個の光子が出ている。電子レンジはその膨大な数の光子が作る振動する電場で、分子の向きを揺さぶっている。

使いどころ

最短の間隔で光の速さを出し直す

チョコで光の速さを測るなら、1本の板の間隔より、広い面に並んだ点のうち最短の間隔を使うほうが、半波長に近い値を拾いやすい。ガーリングの最短の間隔6 cmを使うと、 m/sになる。ジョウらが挙げた2425〜2475 MHzの幅で周波数を動かすと、この値はから m/sまで動く。

シミュレーションでも試せる。横を37 cm、奥行きを45 cmにして「チョコ(横)」を選ぶと、点の間隔は6.27 cm、17.69 cm、6.27 cmになる。平均で計算すると1.65倍だが、最短の6.27 cmを使えば1.03倍まで近づく。

フォードとメイソン自身が授業の案で選んだのは、逆の向きの計算である。光の速さを分かっている値として、間隔から周波数を出し、電子レンジの仕様の表示にある2450 MHzと比べる。1つのモードが立つ庫内なら、手順7から、出てくる周波数は本当の値より低くなる。

手順4を見ると、箱の大きさと周波数はとの形でしか入っていない。周波数を変えれば、箱を作り直さなくても模様を入れ替えられる。

これを使う研究がある。ジョウらは2023年、窒化ガリウムの半導体で作った5.8 GHzの発振器を使い、マグネトロンの約500分の1にあたる0.1 MHz未満の幅で電磁波を出した。庫内には1つのモードだけが立ち、3回くり返しても温まり方の模様は変わらなかった。ホエイたんぱく質のゲルを5770 MHzで温めたときに冷えていた所は、5840 MHzでは熱くなった。そこで5770 MHzで30秒、5840 MHzで30秒と周波数を切り替えると、むらを表す指数(小さいほど一様)は、片方の周波数だけで60秒温めたときの0.869と0.732から、0.576まで下がった。

手順2のの読み方は∂と∇の読み方に、節と腹から振動数を出す計算は弦の振動の記事にある。

15秒で溶けた点の列は、半波長のものさしというより、その庫内に立ったモードの指紋である。

参考文献

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  11. 電波法施行規則 第46条の7(e-Gov法令検索、2026年10月28日に確認)
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