オイラーの多面体定理

Euler's polyhedron formula

デカルトの遺稿は、セーヌ川に沈んだと伝えられる。

穴の無い多面体では、頂点の数から辺の数を引き、面の数を足すと必ず 2 になる。形をどう変えても変わらない数で、位相幾何学の出発点になった。

年代
1750年
人物
オイラー、デカルト、ライプニッツ、ルジャンドル、コーシー、リュイリエ、フォン・シュタウト
逸話

川に沈んだ手稿

1650 年 2 月 11 日、ルネ・デカルトはスウェーデンのストックホルムで亡くなった。女王クリスティーナに招かれて北の国へ渡ってから、半年もたっていなかった。

遺された書類は、フランス大使シャニュが預かり、のちにパリに住む義弟クレルスリエに贈った。1691 年に出た伝記作家バイエの『デカルト伝』によれば、1653 年、大使の荷物は海路でルーアンまで運ばれ、そこで川船に積み替えられてパリへ向かった。ところが船はパリに着く手前、エコールの港の近くで沈んだ。デカルトの書類を入れた箱は 3 日のあいだ水の底にあり、少し離れた場所で見つかった。紙はいくつもの部屋に広げて乾かされたという。ルーアンで沈んだと書く本もあるが、バイエが書いているのは、ルーアンで積み替えた船がパリの近くで沈んだ、という経緯である。

その中に、多面体についての短いラテン語の覚え書きがあった。1676 年、パリに滞在していたライプニッツがこれを写した。デカルトの原本はその後失われ、ライプニッツの写しも長く忘れられた。1860 年ごろ、ハノーファーの王立図書館で、整理されていないライプニッツの遺稿の中から写しが見つかり、フーシェ・ド・カレイユがデカルトの未刊の著作として出版した。

覚え書きは 1630 年ごろに書かれたと考えられている。そこには、多面体のすべての頂点で「360° に足りない角」を足し合わせると、いつも 720° になる、という定理がある。立方体なら、1 つの頂点に 90° の角が 3 つ集まって 90° 足りず、頂点が 8 つで合計 720° になる。この定理から、面の角の合計を数える短い計算で が出る。ただし、デカルトは辺の数を数える形では書いていない。彼がこの公式を知っていたと言えるかどうかは、研究者の間で意見が分かれている。

公式をはっきり書いたのはオイラーである。1750 年 11 月 14 日、ベルリンからゴールドバッハに宛てた手紙で、頂点の数を 、辺を 、面を として と書いた。立体の幾何学のこれほど一般的な性質に、知る限り誰も気づいていないことに驚いている、とも書いている。同じ手紙で、まだ厳密には証明できていないことも認めた。

起源

多面体は 2000 年以上前から調べられてきた。エウクレイデスの『原論』は、第 13 巻で 5 つの正多面体の作り方を示して終わる。それでも、オイラーより前に、辺の数まで数えて頂点・面と比べた人は知られていない。オイラーは、辺(ラテン語で acies、刃)を、頂点や面と並ぶ要素として名前を付けた最初の人でもある。

オイラーは 1750 年に「立体の理論の要素」を、1751 年にその証明の論文を書いた。どちらも 1758 年にペテルブルクの科学アカデミーの紀要で出版された。証明は、頂点を 1 つずつ切り落として立体を小さくしていく方法だった。しかし、切る途中で形が凸でなくなる場合などを扱っておらず、完全ではなかった。

最初の正しい証明は、1794 年にルジャンドルが『幾何学原論』で与えた。多面体を球面に映し、球面上の多角形の面積と角の関係から導く方法である。1813 年にはコーシーが、多面体を平面に広げて数える証明を発表した。

同じころ、スイスのリュイリエは、トンネルの通った立体などでは公式が成り立たないことを示した。額縁の形の立体では になる。どんな立体なら成り立つのか。反例が出るたびに定義と証明を直していったこの歴史は、哲学者ラカトシュの『証明と論駁』(1976)の題材になった。

いまでは、穴が 個ある閉じた曲面に網を描くと、網の描き方によらず になることが知られている。この数はオイラー標数と呼ばれる。19 世紀の終わりにポアンカレはこれを高い次元の図形に広げ、位相幾何学の基本の道具にした。

証明

多面体を少し膨らませ、球面に貼り付けたと考える。頂点・辺・面は球面の上の点・曲線・領域になり、数は変わらない。ここでは 1847 年のフォン・シュタウトによる、2 本の「木」を使う証明を示す。木とは、輪を作らずにつながった線の集まりで、点が 個の木はちょうど 本の線を持つ。

  1. 辺の中から、輪を作らずにすべての頂点をつなぐものを選ぶ。これを木 とする。頂点は 個なので

  2. 選ばなかった辺の 1 本ごとに、その辺をはさむ 2 つの面を結ぶ線を、その辺だけを横切るように引く。面を点とみなしたこの網を とすると

  3. に輪は無い。もし輪があれば、球面はその輪で 2 つに分かれる。輪が横切る辺の両端は輪の内と外に分かれるので、両側に頂点がある。両側の頂点は でつながっているので、 の辺のどれかが輪を横切る。しかし の線が横切るのは 以外の辺だけである。これは矛盾なので

  4. はすべての面をつなぐ。もし 2 組に分かれていれば、その境目は辺でできた輪になる。境目の辺は に横切られていないので、どれも の辺である。 に輪は無いので、これも矛盾であり

  5. よって は、 個の面を点とする木であり

  6. 手順 2 と 5 から

  7. 整理すると

立方体なら、頂点 8 個をつなぐ木が 7 本、残りの 5 本の辺から、面 6 個をつなぐ木ができる(図示)。この証明は、トンネルのある立体では手順 3 で破れる。輪を描けば必ず 2 つに分かれる、という球面の性質が、ドーナツの表面では成り立たないからである。

応用

正多面体は 5 種類しかない。 すべての面が正 角形で、どの頂点にも 本の辺が集まるとする。辺を面の側から数えると 、頂点の側から数えると である。これを公式に入れて で割ると となり、左辺は より大きくなければならない。 でこれを満たす は ・・・・ の 5 組だけで、順に正四面体・立方体・正八面体・正十二面体・正二十面体にあたる。

サッカーボールの五角形は 12 枚。 1970 年のワールドカップで公式球になったアディダスの「テルスター」は、黒い五角形 12 枚と白い六角形 20 枚でできていて、頂点 60・辺 90・面 32 である。五角形を 枚、六角形を 枚とし、どの頂点にも面が 3 枚集まるとすると、、、 になる。公式に入れると となり、六角形が何枚でも五角形は 12 枚に決まる。

3D モデルの検査。 コンピュータグラフィックスでは、立体の表面を三角形の網で表す。穴の無い閉じた網なら が成り立つので、数が合わなければ、どこかに隙間や余分な面がある。三角形 10000 枚の閉じた網なら、辺は 15000 本、頂点は 5002 個になる。

図示

立方体の辺を平面に広げた図。太線はすべての頂点をつなぐ木(7 本)、破線は面どうしを結ぶ木(5 本)。外側の広い領域も 1 つの面として数える。2 つの木の線を合わせると、ちょうどすべての辺 12 本になる。

シミュレーション

「頂点を 1 つ切る」を押すたびに、頂点が 1 つ切り落とされ、斜線の新しい面が 1 枚増える。3 本の辺が集まる頂点なら、 は 2、 は 3、 は 1 増え、 は 2 のまま動かない。正二十面体の頂点を深さ 0.33 で全部切ると、サッカーボールの形になる。「額縁」では、いくら切っても 0 のままである。

広がる学問

  • 数学 平面に交差なく描けるグラフにも同じ式が成り立つ。ここから が出て、5 つの点を全部結んだグラフは平面に描けないことが分かる。一筆書きの定理と並び、グラフ理論と位相幾何学の出発点になった。
  • 化学 1985 年、クロトー・カール・スモーリーらは、60 個の炭素原子がサッカーボールの頂点の位置に並んだ分子 C60 を見つけ、1996 年にノーベル化学賞を受けた。五員環と六員環だけでできた炭素の籠は、大きさによらず五員環をちょうど 12 個持つ。
  • 生物学 多くのウイルスの殻は正二十面体の形に並んだたんぱく質でできていて、5 つの分子が集まる点が 12 か所ある。殻を大きくしても、増えるのは 6 つが集まる点だけである。
  • 建築 正二十面体をもとに、三角形を組み合わせて球に近い形を作るジオデシック・ドームでは、どれほど細かく分けても、5 枚の三角形が集まる点が 12 か所残る。
  • 情報科学 3D モデルや地図のデータで、網が正しく閉じているかを確かめるのに使われる。網の点・線・面の数を管理するデータ構造の検査にも、この式が組み込まれている。

参考文献

  1. Leonhard Euler, "Elementa doctrinae solidorum"(E230)、"Demonstratio nonnullarum insignium proprietatum quibus solida hedris planis inclusa sunt praedita"(E231), Novi Commentarii Academiae Scientiarum Petropolitanae 4 (1758).
  2. David S. Richeson, Euler's Gem: The Polyhedron Formula and the Birth of Topology (Princeton University Press, 2008).
  3. P. J. Federico, Descartes on Polyhedra: A Study of the De Solidorum Elementis (Springer, 1982).
  4. C. Francese, D. Richeson, "The Flaw in Euler's Proof of His Polyhedral Formula", The American Mathematical Monthly 114 (2007), 286-296.
  5. Imre Lakatos, Proofs and Refutations (Cambridge University Press, 1976)(佐々木力 訳『数学的発見の論理』共立出版、1980)
  6. H. W. Kroto, J. R. Heath, S. C. O'Brien, R. F. Curl, R. E. Smalley, "C60: Buckminsterfullerene", Nature 318 (1985), 162-163.

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