1、8、27、64
1968年12月12日のノーベル賞講演で、マーシャル・ニーレンバーグは1、8、27、64という数を示した。1種類から4種類までの塩基を無作為につないだRNAに、3つ並んだ塩基の組が何種類含まれるかを数えた値である。からまで、3乗の列だ。
4種類の塩基を3つ並べた組が、20種類のアミノ酸を指定する。では、この対応はどう解き明かされたのか。1954年、ジョージ・ガモフはNatureに、DNAの2本鎖にアミノ酸の結合場所があり、それぞれの場所は1つの塩基対と、2本の鎖で隣り合う塩基とで決まる、という案を出した。1961年にはニーレンバーグとハインリッヒ・マッタイが、ウラシルだけをつないだRNA(ポリU)を大腸菌の抽出液に加えると、フェニルアラニンだけがつながることを報告した。同じ年の12月には、フランシス・クリックらが遺伝学の実験から、暗号が3つ組であることを示した。
最初の報告から5年足らずで、64通りの対応はほぼ出そろった。1968年のノーベル生理学・医学賞は、ロバート・ホリー、ハー・ゴビンド・コラナ、ニーレンバーグの3人に贈られている。授賞の理由は「遺伝暗号と、タンパク質合成でのその働きの解明」。
何文字並べれば20に届くか
DNAとmRNAの塩基は4種類、タンパク質をつくるアミノ酸は20種類ある。塩基を個並べた組(コドン)1つで1種類のアミノ酸を指定するとして、がいくつ要るかを数える。どの位置の塩基も、ほかの位置と関係なく4通りから選べる。
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1個なら4通り
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2個なら、1つ目の4通りそれぞれに2つ目が4通り
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3個なら、さらに4倍になる
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64を、アミノ酸の指定と終止に分ける
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61のコドンを20種類のアミノ酸に割り振った内訳
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メチオニン、アラニン、セリンの並びを指定するmRNAを数える
ただし、手順3の不等号から言えるのは、3個あれば足りるということだけだ。数え上げで分かるのは「少なくとも3個」までだが、実際に3個ずつ区切って読むかどうかは実験で決まった。ニーレンバーグの講演によると、3つ組であることはクリックらが遺伝学の研究で示した。3つ組が重ならずに読まれることは、タバコモザイクウイルスの変異株で外殻のタンパク質を調べた研究が裏づけている。
64通りのうち、UAA、UAG、UGAの3つはどのアミノ酸も指定せず、翻訳を終わらせる。残る61通りは、1つのアミノ酸に1〜6個ずつ割り当てられている。1つしかないのはメチオニン(AUG)とトリプトファン(UGG)、6つあるのはロイシン、セリン、アルギニンだ。AUGは、翻訳を始める位置の目印(開始コドン)も兼ねる。しかも同じアミノ酸のコドンは、多くが3番目の塩基だけ違う。一方、手順6の掛け算が成り立つのは、どの位置のコドンもほかと関係なく選べるからである。
生物基礎では、遺伝子の塩基配列とタンパク質のアミノ酸配列を示した資料から、両者の対応を考える。転写と翻訳の仕組みは生物で詳しく学び、塩基の置換、挿入、欠失がアミノ酸の並びをどう変えるかも、生物の「遺伝子の変化」で扱う。
1塩基の置き換わりはどこまで響くか
1つのアミノ酸に複数のコドンがあることは、突然変異の影響を和らげる。標準の遺伝暗号表で、アミノ酸を指定する61のコドンについて、3か所のどれか1つの塩基をほかの3種類に置き換える場合を数えると、通りある。そのうち134通り(約24%)はアミノ酸を変えない。終止コドンに変わる23通りは、アミノ酸を変える側に入る。3番目の塩基に限ると、183通りのうち126通り、約69%にのぼる。ニーレンバーグも講演で、この規則的な重なりのために多くの突然変異は表に出ないと述べている。
ところが、塩基が1つ増えたり減ったりすると、影響はずっと大きい。そこから先は区切りの位置が1塩基ずれ、別のアミノ酸の並びに変わってしまう。3個がまとめて増えれば、ずれは1コドン分で収まる。区切りの長さが3であることの裏返しといってよい。
情報の量で比べたらどうか。64通りを区別する情報はビット、20通りならビットで、コドン1つは区別に要る量より1.7ビットほど多く表せる。この余裕が、重なったコドンと終止の印に回っている。
塩基の種類と並べ方を数える
例題 1基本塩基が2種類しかなかったら
ある生物の遺伝暗号が、2種類の塩基だけでできていると仮定する。20種類のアミノ酸と終止の印1つを区別するには、1つのコドンに塩基が少なくとも何個要るか。
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区別したいものは通りである。塩基を個並べた組み合わせは通りなので、となる最小のを探す。
答えは5個。4種類の塩基なら3個で足りるので、塩基の種類が少ないほどコドンは長くなる。
例題 2基本同じペプチドを指定するmRNA
メチオニン、イソロイシン、システインの順にアミノ酸を指定し、終止コドンで終わるmRNAの領域(12塩基)は何通りあるか。コドンの数は、メチオニン1つ、イソロイシン3つ、システイン2つ、終止3つとする。
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各位置のコドンは、ほかの位置と関係なく選べるので、掛け算になる。
18通りである。アミノ酸の並びが同じでも、mRNAの塩基配列は1つに決まらない。
例題 3入試終止コドンが現れない確率
4種類の塩基が同じ確率で無作為に並んだRNAを、ある位置から3塩基ずつ区切って読む。(1)1つのコドンが終止コドンである確率を求めよ。(2)100コドン続けて終止コドンが現れない確率を有効数字2桁で求めよ。、、とする。
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(1)64通りのうち3通りが終止コドンなので、である。 (2)1つのコドンが終止コドンでない確率はで、100回続く確率はその100乗になる。
なので、次のようになる。
およそ0.82%である。300塩基にわたって終止コドンのない読み枠は、でたらめな並びではめったに生じない。
例題 4入試置き換わる位置で変わる影響
ロイシンのコドンCUGで、塩基を1つだけ別の塩基に置き換える9通りを考える。置き換えたあとのコドンが指定するのは次のとおりである。1番目の置き換えではUUG(ロイシン)、AUG(メチオニン)、GUG(バリン)。2番目ではCAG(グルタミン)、CCG(プロリン)、CGG(アルギニン)。3番目ではCUU、CUC、CUA(どれもロイシン)。(1)アミノ酸が変わらない置き換えは何通りか。(2)位置による違いから分かることを述べよ。
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(1)1番目のUUGと、3番目の3通りで、合わせて4通りである。 (2)3番目の置き換えはどれもアミノ酸を変えず、2番目の置き換えはどれも変える。同じアミノ酸のコドンの多くが3番目の塩基だけ違うためで、3番目の塩基の置き換えはタンパク質に表れにくい。
コドン表で数える出題
- 2026年 日本生物学オリンピック 予選 問4:DNA、mRNA、tRNAの塩基の対応を埋めて、3つのアミノ酸の並びを読む。続いて、同じアミノ酸の並びを指定するmRNAの塩基配列が何通りあるかを、コドン表から数える。出典は日本生物学オリンピック「日本生物学オリンピック2026予選 問題」。
- 2023年 日本生物学オリンピック 予選 問20:3種の生物で比べた遺伝子の4か所のコドンの違いから、祖先から2つの種へ進む間に起きた、アミノ酸を変えない塩基の置き換え(同義置換)の数を推定する。1つのアミノ酸に複数のコドンがあることが題材になる。出典は日本生物学オリンピック「日本生物学オリンピック2023予選 問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第6節「生物基礎」3(1)ア(イ)㋑、118-120ページ。第7節「生物」3(3)ア(ア)㋐、138ページ
- M. W. Nirenberg, "The Genetic Code", Nobel Lecture (1968)
- NobelPrize.org, "The Nobel Prize in Physiology or Medicine 1968"、P. Reichard「Award ceremony speech」
- G. Gamow, "Possible Relation between Deoxyribonucleic Acid and Protein Structures", Nature 173 (1954), 318
- F. H. C. Crick, L. Barnett, S. Brenner, R. J. Watts-Tobin, "General Nature of the Genetic Code for Proteins", Nature 192 (1961), 1227-1232
- M. W. Nirenberg, J. H. Matthaei, Proceedings of the National Academy of Sciences 47 (1961), 1588-1602
- 日本生物学オリンピック「2023予選 問題」「2026予選 問題」